- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003226230
感想・レビュー・書評
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スペイン内戦を表した文学の一つ。この本を読んで、バルセロナに行きたいと思い、スペイン語を勉強した。ガウディという名のホテルに泊まり、ガウディの立て始めた教会を見学した。マドリッドと、バスクとバルセロナに行ってみて、仕事をしてみないとわからないことは多いなと思った。
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スペイン内乱に労働者党の一員として参加した著者の従軍記録。
およそ二十世紀の戦争とは思えない牧歌的なやり取りが、却って戦場の内情を明らかにしているよう。
例えば砲弾でなく、放送の応酬の際、こちら側にバター付きのパンがあると言うだけで相手を投降させたり、質の悪い砲弾が爆発せず、毎日敵味方の間を往復していたりと、変に平和的なやり取りが為されていたりする。
むしろ、著者が頸部に銃弾を受け、その治療で病院や銃後の都市にいる時の方が、各陣営の戦闘はより先鋭的だったように思える。
また、最前線ではほとんど党派性が意味を成していなかったのに、戦闘とは程遠い都市部では、報道や政府がプロパガンダを執拗に行い、著者の属する党は非合法となってしまっていた。
党の他の人員が続々と逮捕される中、著者がスペインを脱出する時の記録も、ひやひやさせられる。
従軍記者として戦地を客観的に取材したのでなく、兵士として、時に相手を殺しもした主観的な記述なので、補遺で当時の報道と並べた時、その報道の虚飾がずっと空々しく感じられた。偏向報道というのは、もうマスコミの宿痾のようなものなんだな、と。
同じく補遺で、日本は満州で好き放題に振る舞ったと書かれてるけれど、そんな事実はないはず。それは、『紫禁城の黄昏』に詳しい。 -
平易な翻訳で文章自体は読みやすかったけど、諸勢力の乱立する中で、ろくに対立構造を説明することもなく略称や総称が飛び交うものだから、話の展開にほとんどついていけなかった。いかに現場がめちゃくちゃだったか、というその混乱を、総体として受け止めることしかできないみたいな。おそらく「リアルタイムの読者なら理解してるはずの、当然の前提」がたくさんあるんだろうな、という印象を受けた。
作家オーウェルの代表作として知られる「1984年」「動物農場」にはこういう難解さや要求の高さはないから、これはもうリアルタイムの記録、速報性の文章としてのやむをえない限界性なのかもと思う。そして、その意味ではせっかく博識で文章も巧みな訳者に恵まれたのだから、もっともっと踏み込んだ訳注を豊富に付けた本にしたらよかったんじゃないのかな…とも思う。
ただ訳者あとがきを見ると、訳者もまた博識すぎるのか、飛び交う略称や総称ゆえに何言ってるのかわからないあとがきを書いてしまっているので、それも無理なのかもしれない。(笑)
ちょっと惜しい本だなー。紛れもなく当時の現地からの肉声が刻まれているというのに、このままだと研究者御用達の本というハコに入ってしまいそうな感じだ。 -
あるところで、「あなたはどんな本を読んでいるのですか」と聞かれた。多読・乱読派の自分にとっては難しい質問で、ハッキリと答えられないで時間が過ぎてしまった。
その質問への一つの答えがコレ。
1936年、内戦中のスペインに取材に来た筆者。そして、「到着するやほとんどその場で民兵組織に入隊してしまった。当時のあの雰囲気では、それしか考えられないように思われたからである。」。
実際、オーウェルは、「ファシスト」と闘う民兵の一員として名誉の負傷までする。徹底した現場主義。世界の底から世界を見る姿勢。そして、世界の底で得たものが『動物農場』や『1984年』につながるのである。
こんなふうに生きてみたいものだ。 -
「キャパの十字架」でスペイン内戦に興味を持ったため読んでみた。ただ、俯瞰的な視点で内戦の経緯と進行、関係した諸勢力の状況などを知ることは本書では難しかった。
見どころは、一兵士の視点から書かれた惨めで退屈な塹壕戦の様子と、その後のバルセロナ動乱で迫害されかけた筆者の緊迫感ある数日間の描写あたりか。
本書を読んだ後にネットで当時の社会状況を調べてみて、第二次大戦前夜のファシズムに対する危機感、資本主義と共産主義の対立、コミュニストやアナーキストといった概念の違いなどの理解が深まった気がする。
読み応えは十分あるのだが、他人に勧めるには人を選ぶという点で星3つの評価。 -
第111回「イベリコ豚食べ比べ&ビブリオバトル」で紹介された本です。チャンプ本。
2024.2.17 -
戦争と革命が同時進行していた (どちらも帰結は悲惨なものだが) スペインでオーウェルは何を見たか。
イベリア半島とその民主主義がファシストとコミュニストに脅かされ、英国のジャーナリズムが反動に揺れていたとき、オーウェルは醒めた目で人間と向き合っていた。銃をとって立ち上がった労働者たちに「人間らしさ」を見出していた。
ファシストとの対峙、共産党による粛清という状況にありながら、スペイン的というのか、なかなか間の抜けた出来事が多く面白い。それがかえって戦場の描写を現実的なものにしている (マドリードなどは状況が異なるだろうが) 。
塹壕戦の最大の敵は敵や敵の弾丸ではなく寒さだという。撃った弾丸も飛んでくる弾丸も大体照準がうわずってなかなか当たらないらしい。
オーウェルが社会民主主義的な傾向を持ち、ソ連的共産主義に反感を持っていたのは知っていたが、アナルコ・サンディカリズムに共感を示していたのは興味深かった。バルセロナ動乱のときのセクト間抗争をしっかり理解するのは難しい。
訳者が優れている。オーウェルが何に魅せられてスペインの地で戦ったか。財と身体を投げ打つ奇特な行いは何のためであったか。訳者あとがきでようやく得心がいった。第1章の一番最初の文に立ち返るあとがきの締め括りが美しい。
訳文も非常に読みやすい。 -
うーむ
私に背景知識がほとんどないから分からない
セクト間の細かなところまで書いてあるのだが
ここが分からないとな -
著者が36歳のとき、1937年12月おわりから1938年7月はじめまでの
およそ半年をスペイン内戦にアナキスト系組織POUMの民兵として
参加したときのドキュメンタリー。
執筆時の状況を踏まえた大局的な考察などといったものは省かれ、
在西当時の、1937-38の冬のアラゴン前線での塹壕での日々や
1938年5月の動乱の渦中のバルセロナや
6月以降のスペイン脱出行で著者が体験したことを描いています。
著者の身の回りのことしか描かれていませんが、
そのぶん、一人のインテリイギリス人が体験したことが
臨場感たっぷりに感じられます。
アナキスト系の思想である、
労働者は善であり彼らのことは彼ら自身に任せればよい、
というものの見方や考え方が前面に現れています。
それゆえに、戦争のプロである職業軍人を相手にした内戦は
アナキストでは勝てないだろうなということも感じられました。
スペイン内戦が終結する前に書かれた作品のため、
フランコが内戦に勝利しその後の激動する国際情勢を乗り切り国を保った、
という内戦後の歴史を知る現在では「負け犬の遠吠え」のような哀しさを感じます。 -
オーウェルはやっぱり好き,どれもはずれない