ポオ評論集 (岩波文庫 赤 306-5)

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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003230657

作品紹介・あらすじ

短篇小説の名手、詩人としても知られるポオ(1809‐49)だが、彼は理論家・批評家としての顔も持っていた。その明確な方法意識を示す「詩作の哲学」「詩の原理」等の著名な詩論、クーパー、ホーソーン、ロングフェロー、ディケンズ等を論じた同時代評を収録。ポオならではの筆法で書かれた9篇から成るアンソロジー。

感想・レビュー・書評

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  • 10位

    書評は売れない。
    読まれない。
    そもそも本にすらならない。

    三重苦です。

    でもその作者が
    エドガー・アラン・ポー様だったら
    (おっと、ここではポオか)
    日本でもアンソロジーが編まれ、
    岩波文庫にも収まるというわけです。

    批評の対象はディケンズ、ホーソーン、クーパー!
    当時の同時代文学だったんですね。
    特にフェニオア・クーパー『ワイアンドット』
    の書評には感服しました。

    大ベテランが書いたそこそこ面白い娯楽小説って
    なかなか上手く扱えないものなんですが、
    ポーは(いやポオは)まず話の構造を
    「大要は似たようなものである」と決めつけ
    あらすじをすべて書く。
    登場人物を一人一人紹介して
    これはよく描けている、これは今一つ、と講評する。
    あそこのユーモアは見事だったとほめ、
    彼らを殺すことはなかった、と真剣に怒る。
    さらに、ここからがすごいのだけど、
    不正確な描写や文法上の誤りを
    細かく添削してゆく。

    「"Filled with legends"よりも"abound with legends"のほうがよかろう。というのは、歴史が伝承で「いっぱい[Filled]」なら、それは伝承であって歴史ではないことになる。最初のセンテンスには"of"が不愉快なほどの頻度で出てくる。第二センテンスの冒頭の"those"は文法的には直前の名詞"scenes"しか指示しようがないが、どうやら"legends"を指しているようだ」

    悪文を指摘する書評家はよくいるけど、
    添削までする人はそうそういない。
    この人はすごい。
    すごいのですが、うんざりもする。
    「某氏への手紙」でのワーズワースへの悪口は
    あまりにも下品で、ちょっと引いてしまいました。
    ポーって(いやポオって)
    ちょっと小谷野敦さんっぽいところがあるなあ。
    人を攻撃するとき、もう少し柔らかく言えばいいのに、
    と助言したくなるところが。
    なんにつけても過剰な人ですね。

    そんなポーですが(じゃなかったポオですが)
    ホーソーン『トワイス・トールド・テールズ』
    の書評ではおとなしく素直にほめている。
    (普段も“素直にけなしていた”のだろうけど)
    メルヴィルもホーソーンを敬愛していましたよね。
    ホーソーンってずいぶん人望があったんだなあ。

    さて、本書は書評だけではありません。

    「詩の原理」は自分の試論を述べてから
    好きな詩を朗読する講演録。

    「試作の哲学」はあの高名な詩
    「大鴉」のうちあけ話。
    あの詩は、まず"Nevermore"という一語
    ――日夏耿之助は「またとなけめ」と訳した――
    を各連の結びで繰り返すことを決め、
    そこから構成を立てていったのだという。

    八木敏雄さんの翻訳は簡潔で明確。
    訳注も解説も行き届いている。
    「某氏への手紙」の底本をめぐるあれこれは
    書誌学ミステリのようでワクワクします。

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