幽霊船 他1篇 (岩波文庫 赤 308-5)

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制作 : 坂下 昇 
  • 岩波書店 (1979年12月17日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003230855

幽霊船 他1篇 (岩波文庫 赤 308-5)の感想・レビュー・書評

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  • 19世紀アメリカの作家ハーマン・メルヴィル(1819-1891)の二作品。船員としての体験から物した大作『白鯨』などの海洋小説で知られる。彼の作品にはしばしば暗喩的に寓意を込めた象徴的な語句が散りばめられており、難解な作風とされている。生前は作家として注目を浴びることはなく、作家の死後、漸く20世紀になってから再評価されるに到った。

    □「幽霊船」(1855年)

    当時実際に起こった事件をもとにした作品。南北戦争(1861-1865)直前のアメリカ「白人」社会が抱いていた「黒人観」の一つの表れとして、歴史的価値をもつと思われる。

    □「バートルビー」(1853年)

    カフカやベケットら20世紀の不条理文学の先駆とされる作品。思想家や文学者たちの解釈百出だが、未だにその解明を拒み続ける――主人公が物語内で示しているその絶対的な否定性と同型的に。「謎」として、縁の無い「穴」として。

    business[商売・実務→事・物] と云う即物的な communication に対する徹底的な無為・不作為、そうした communication の network によって担保されている凡庸で醜悪な日常性[business as usual]という意味連関・権力細網からの断絶と逸脱。あらゆる命令に対するに拒否(I would prefer not to do...)・沈黙を以てする応答ならざる応答。その絶対的な否定性という態度が帯びる非暴力的にして対抗的な姿勢。その存在自体が――存在していることそれ自体が――「社会」をして自らに対する対抗関係に付置せずにはおかない。そういう存在、バートルビー。 

    彼にあっては、全てが否定の相の裡にある。「****である」と云う肯定的な言語的概念的規定の全てを拒否する。言語的捕捉からの逃走、権力関係が産み出される現場としての communication そのものの放棄。何者でもない、何者でもあろうとしない、否定の意思のみとしての存在、無たらんとする意思のみとしての存在。バートルビーが意味そのものを拒否する以上、そこでは言語自体が無化される、概念による範疇化という意味の暴力が無化される。「社会」は彼を如何なる topos に付置したらよいのか決定不可能となり、その不気味な unheimlich な名指し得ぬ何かによって、安寧秩序は不穏な影に脅かされる。

    バートルビーは、言語=暴力の外部に於いて、topos の喪失に於いて、自由である。「社会」に於いて何者でもない、唯在る、ということからくる、自由。言語の根源的な暴力が無化された場に於いてのみ、自由は獲得されるのか。自由と根源的非暴力の同値性。自由であることと対抗的であることの同値性。

    然し言語に外部は「無い」、という更に深甚なる【否定】が我々には突きつけられている。"それでもなお"、即物で埋め立てられた現代に於いて、無際限の否定・異化を繰り出し続けることで、その否定運動の無限遠点に実存という真の「無」を穿つ。自由の場であるところの「無」。さて、この自由の獲得は、バートルビーの如く、論理必然的に敗北するしかないだろうか。しかし、即物の集塊以外に存在余地のない現代にあって、敗北こそが自由の姿なのではないか、敗北の可能性の裡にあってこそ、自由なのではないか。それは即物のなかに在って実存たらんとする者の、豪奢な敗北だ。

    本作品中、唯一肯定的で積極的な意味を帯び得るのは、つまり唯一"希望"と呼び得るのは、この絶対的否定の、他者への"伝染性"が示唆されている点だ。

    不穏は増殖するだろう。

  • 「白鯨」読んでいないので、初めてのメルヴィル。中期のゴシックロマン2篇収録ということで、ほぼ同じ時期に光文社の古典新訳文庫から同じ組み合わせで出ていたので迷ったのたけれど、結局岩波の復刻版のこちらで。しかし私の期待していた「ゴシックロマン」とはちょっとイメージが違ったようです。

    まず「幽霊船」こちら原題は「ベニート・セレーノ」で船の船長の名前。幽霊船というと勝手に「さまよえるオランダ人」的なのを想像しちゃってたのだけど、こちら幽霊など全く出てこない実話ベースのサスペンス。ボロボロのスペイン船をみつけたアメリカ船の親切な船長が助けに赴くも、なんか様子が変だと思ったら実は・・・と、終盤でどんでん返しがある。どんでん返し自体は面白いけれど、幽霊船というタイトルと全く意味が繋がらないし、基本的にメルヴィルの文章は描写がまわりくどく、理屈っぽくて、いいから早く話進めて、結論教えて!と若干イライラ(苦笑)

    どちらかというと「バートルビー」のほうが面白かった。こちらもゴシックロマンと呼ぶのは語弊がある気がするどちらかというと不条理もの。上司に何を指図されても「僕、そうしない方がいいのですが」というバートルビーくんは、現代なら「ゆとり!」と非難されそう(苦笑)「しない」でも「したくない」でもなく「そうしないほうがいい」という返答の微妙さというか絶妙さというか、確かにこれ対処に困りますねえ。

  • 「幽霊船」「バートルビー」の2編を収録。前者は表層的には本質主義を肯定しているように読み取れるため今日読むに値しないが、後者は今もって鮮烈。いろいろな思想家・批評家による「バートルビー」論が存在するようだが(かくいう私も辺見庸『たんば色の覚書』で本作を知った)、できることならそうした情報を入れず、先入観なしに読んだ方がいい。

  • バートルビー、久しぶりに変な小説を読んだ。異邦人とはまた違った変人が出てきて、ホラーっぽくも感じられた。

  • ミニ「白鯨」な幽霊船もいいが、「バートルビー」を!
    底知れぬ深遠を覗き込む。

  • おれが読んだバートルビーは4-336-02564-9。怠惰ってのはぐずぐずとかだらだらじゃないんだ、もっとはっきりしたものなのよ、っておれは思っていて(これは深いと思って言っているんだけど)、まあそれとバートルビーは似てるかなーって。だが、ここにこめられた意味とかうんぬんするのには耐えられんな。ただ皆で「せずにすめばありがたいのですが」って言いたいだけなの。

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