みずうみ 他四篇 (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (142ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003242414

感想・レビュー・書評

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  • ドイツの作家シュトルムの短編集ですね。
    シュトルム(1817ー88)は法務の仕事を携わり州知事の職にも着いた事がある傍ら、若いときから文学や音楽にふかい愛情を寄せ、三十歳の頃には抒情詩人として名を知られるようになった作家です。
    収録は5篇
      みずうみ
      マルテと彼女の時計
      広間にて
      林檎の熟するとき
      遅咲きの薔薇
    いずれも、作家の初期の作品です。
    とくに「みずうみ」は、作家も深く愛し『ドイツ文学の真珠』と明言する珠玉の短編集です。
    実は、茨木のり子の「みずうみ」から、ふと思い出して読み直しました。美しい若き日の純粋な愛の物語で、かおり高い詩編が盛り込まれています。
    翻訳の関泰祐さんは「話し上手な人の話のように、美しくまとまっていて印象的であり、言葉には音楽的な響きがあって、その余韻が大きな魅力となっている。」と言われています。
    翻訳もそこを注視されていて読みやすく、美しい文章で綴られています。
    ドイツを代表する詩人の作品を味わえるのは、珠玉のひとときでした。

  • Immensee(1849年、独)。
    ドイツの作家テオドール・シュトルム(1817-88)の代表作。シュトルムの本業は法律家で、弁護士や判事として長期にわたって活躍し、一時は知事も務めた。その一方、作家としても早くから頭角をあらわし、30歳のころにはすでに抒情詩人として名を知られていた。表題作『みずうみ』は彼にとって三作目の小説であり、シュトルムの文名を一躍高めた出世作である。

    ある老学者の回想という形で物語ははじまる。10歳の少年ラインハルトと、幼なじみの少女エリーザベトは、たがいに淡い恋心を抱いていた。成長して若者となったラインハルトが、高等教育を受けるために都会へ行き、故郷のエリーザベトと離れたあとも、ふたりの思いは変わらないかにみえた。ところがある日、ラインハルトのもとへ故郷の母から手紙が届く。それは、エリーザベトとラインハルトの旧友エーリッヒが婚約したことを知らせる手紙だった…。

    修羅場必至の不穏な展開かと思いきや、『みずうみ』では驚くほど何も起きない。破滅的な悲劇がないかわりに、奇跡の逆転劇もない。その後、ラインハルトは人妻になったエリーザベトと再会するが、ふたりは互いをなじることも、横入りした友人を恨むこともせず、たがいの思いが実を結ばずに過ぎ去ってゆくのを、ただ静かに見送る。

    作者の関心は人間関係よりも、それが生まれるもとになった風物の方に注がれているようにもみえる。生い茂る森、イチゴ摘み、エーリカの花、紺碧の湖、舞い上がる雲雀(ひばり)、夜鶯(ナイチンゲール)のさえずり、等々…。北ドイツにある作者の故郷がモデルといわれる自然の描写は、登場人物の心理状態に関係なく、あくまで清く美しい。むしろ、自然が人間を律しているかのように、結ばれ損なった若いふたりは徹頭徹尾プラトニックで、それがかえって初恋の切なさと儚さを際立たせている。

    「僕は以前この花と親しかったことがあるんだ。――もう遠い昔のことだがね」

    過去と現在の媒介をつとめる、夜の湖上の白い睡蓮が印象的だ。随所に挿入された、明治の近代詩を思わせる訳詩の妙も、あわせて楽しみたい。

    • nejidonさん
      佐藤史緒さん、こんにちは(^^♪
      カテゴリーからこのレビューを見つけて、思わずポチを押してしまいました。
      たまらなく懐かしいです。
      こ...
      佐藤史緒さん、こんにちは(^^♪
      カテゴリーからこのレビューを見つけて、思わずポチを押してしまいました。
      たまらなく懐かしいです。
      こういった作品はいつまでも心のどこかに残りますね。
      これでもかと言うほど人間の深部をえぐる作品はみんな忘れてしまうのに。
      それともこれは私だけかな?
      ふふ、失礼しました。
      2019/11/15
    • 佐藤史緒さん
      nejidonさん、いらっしゃいませ♪
      「みずうみ」は淡々としてますが、なぜか印象に残る小説ですよね。
      私もどちらかというと人間ドラマよ...
      nejidonさん、いらっしゃいませ♪
      「みずうみ」は淡々としてますが、なぜか印象に残る小説ですよね。
      私もどちらかというと人間ドラマより、全体の雰囲気で読んでいくタイプです。人間ドラマはですね、私病院勤めなもので、リアルワールドの方が良くも悪くも濃いわ…としみじみ思うのです。だから私の本棚には現代日本文学が少なめなのですね。
      ともあれコメントありがとうございます(*´∀`*)
      2019/11/15
  • みずうみ
    老人の述懐であることを忘れるくらい、幼い頃の描写が瑞々しくて、胸を打つ。

    冷静に考えるとと、2年間音信不通で切ない思いをさせ、別の人と結婚するのを止めなかったのに、ほとぼりが冷めた頃急に現れるなんて酷すぎる。

    ヴェローニカ
    結末が知りたい!

    大学時代
    誰が悪いわけでもないけど残酷

  • 「みずうみ」
    美しく静謐な自然にあふれた情景の中で実らなかった幼馴染の恋に、いつの間にかきゅっと胸の奥を掴まれていた。
    追憶の中の少女を追いかける老人。
    彼女は本当は、あのそっと手に手を置いた瞬間、思うところがあったのではないか。
    許されないからこそ潔癖に身を引きあった若者たちの姿がいじらしい。

    「マルテと彼女の時計」
     姉妹が嫁に行き、両親は先立ち、彼女だけが家に残った。まるで過去に取り残されたかのように家の中に閉じこもる彼女の時の流れは、亡父が買ってきた置時計の気まぐれさが象徴している。

    「広間にて」
     「みずうみ」の純粋な若い愛の形も好きだったが、今まさに人生を終えようとする老女の若き日の暖かな夫への情愛が綴られ、その心を受け止める孫夫婦たち家族の姿も、しっとりと、しかしながら胸に迫る愛を感じた。
     この作者と訳者は春夏の庭の描写が特にも本当に美しい。目の前に情景が浮かび上がるだけではなく、日差し降り注ぐ柔らかな情景を静止画ではなく動画で見せてくれる。元の描写もたいそう美しかったのだろうが、訳されたものも本当に美しい日本語。これを感じられることがうれしい。

    「林檎の熟するとき」
     今風に言って日本語的にこの作品を台無しにしてしまいそうだが、つまるところこの話は「リア充爆発しろ」という話(笑)
     柔らかく懇切丁寧に愛情を持って綴られてはいるけれど、隣の家の庭に林檎を盗みに来た少年が、たまたま夜中の逢引の場に居合わせてしまい、金で追い払われようともわざと「林檎泥棒!」と叫んで密会現場をさらすという、なんとも機知の富んだ、くすっと笑ってしまう話。
     序盤の窓から月明かりに時計の文字盤をかざして時を待ちわびる少女の描写が秀逸。月明かりと夜闇、白いカーテンと白いネッカチーフ。この静寂を象徴するかのような色の取り合わせの描写がまた美しい。

    「遅咲きの薔薇」
     齢四十にして、初めて妻に恋情を覚えた男の切ない話。
     顔形から入るのではなく、彼はまず若き日の彼女の心に惚れ、彼女の顔形の美が時に浸食されはじめて初めて、彼女の持つ外面的な美をも追い求めはじめる。
     妻の少女時代の肖像画が二度と戻らない時の象徴であるように、手に入らないからこそ、忍びながらも悔しさがにじむ。
     これもまた庭や自然情景の美しさが秀逸。
     しかしながら、この本に収録された全編を通して、書き手の、ひいては主人公たちの身の回りの人々への情愛が、穏やかにしかし力強く受け継がれているのを強く感じ、読むだけで情景描写の美しさに心を現れ、強い愛に心を救われる思いがした。
     昭和27年に改訳とのこと。
     なんて美しい日本語。なんて整った日本語。
     もっとも日本語の味わい深い時代は過去に過ぎ去ってしまったのかもしれない。
     そしておそらく、これを書いた時の作者の年齢と近いことが共感を呼ぶのかもしれない。
     時代が変わっても、年代ごとに感じる思いはある程度同じラインをたどるのかもしれない。

  • 「美しき誘い」が今月岩波文庫で重版されるのを知って再読。この短編集では、やはり「みずうみ」が秀逸。あとがきでも触れられているが、抒情性が豊かで、全体に漂う雰囲気がとても詩的なところがよいのだろう。加えて、自然描写の細やかさと、木々や風に人物の心情を託して、内面を多く語りすぎないところにも惹かれているんだなあ、と今回気がついた。別離のシーンは読むたびにグッとくるし、ああやっぱり好きだ。

    昔読んだ本に「アンゲーリカ」も載っていて、こちらも好きな話だったのだが、この本には載っていないので、今度探してみよう。

  • 青春である。忘れさられる恋人たち。都会の暮らしに色を染められてゆく青年。希望があるのか享楽なのか、故郷の恋人は、少し悲しい思いをする。まあそれもいいだろう。

  • みずうみ(岩波文庫)
    著作者:シュトルム
    発行者:岩波書店
    タイムライン
    http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
    情緒的な文章がノスタルジックな感じさせる代表作。

  • ラインハルトくん・・そこはもう少し頑張ろうよって思う隙もなく話が終わってしまったのですが、恋愛事情が大体こんなものだと思うと私は落ち込んでしまうのでした・・。

    文体が非常に綺麗で読みやすい。お話も全て綺麗めなので、心が静かに洗われる気がする。

  • 「みずうみ」だけを読んだ。ラインハルトとエリーザベトの切ない青春の恋のお話。時期ごとに区切れ区切れになってるところや、自然の描写が美しいところ、またラインハルトからエリーザベトへの感情が詳しく書かれていないところがいっそう物語の雰囲気を清らかなものにしていた。中学の時に読んでいたら確実にハマっていたと思う!

  • オリジナルは1849年の作品。

    20年ぶりに読んだ。
    新版の岩波文庫の読みやすいこと。
    以前に読んだのは、間違いなく古い活字が細かく組まれたバージョンだった。
    くっきりした活字もありがたいし、この薄さもありがたい。

    (当時も今も、氷室冴子「クララ白書」のなかで、女子中学生たちが宝塚的に演じる劇中劇として登場する「みずうみ」の逸話が好きで、この作品を手に取った。クララ白書に登場していたと思う、「みずうみ」のある会話が読みたかったのだけど、どうにも見当たらない。新訳ではないのに謎だ。近々別の訳者のもので確認してみるつもり。)

    当時は、なぜタイトルが平仮名なのか?
    ラインハルトって名前なら、主人公は金髪碧眼で自信満々の美青年なのか、と要らんことを考えていたのを覚えている。
    今見ると萩尾望都タッチで情景が浮かんでしまう。

    散文だけど、韻文を読んでいるような抒情詩物語。
    過ぎゆく過去を懐かしむような美しい小品がいくつも編まれている。
    シューベルトの歌曲でも聴きながら読むといいかもしれない。

    なかでも新しく編まれたという「マルテと彼女の時計」と「広間にて」が気に入った。

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