変身・断食芸人 (岩波文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784003243817

作品紹介・あらすじ

ある朝目ざめると青年ザムザは自分が1匹のばかでかい毒虫に変っていることに気づいた。以下、虫けらに変身したザムザの生活過程がきわめて即物的に描かれる。カフカ(1883‐1924)は異様な設定をもつこの物語で、自己疎外に苦しむ現代の人間の孤独な姿を形象化したといえよう。20世紀の実存主義文学の先がけとなった作品である。

感想・レビュー・書評

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  • 自分が朝起きたら虫になってて散々な目に遭う物語思いつくのわけわかんないしすごすぎる

  • 変身:Die Verwandlung(1915年、独)。
    百年も前に書かれた小説なのに、21世紀にも違和感なく通用する、どうしようもない閉塞感。毒虫に変身してから家族に散々な仕打ちを受けるグレゴールの心情にも、長男がいきなり理解不能の存在になってしまった悲劇に混乱する家族の心情にも、「あー、わかる」と思うことしきりだった。

    いろんな解釈の成り立つ寓話だと思う。私が連想したのは、家族を支えるためにブラック企業で激務に耐えてきた若者が、燃え尽きてひきこもりになったとか、労災で要介護状態になったとかいうシチュエーションだった。最初はそれなりに献身的に彼の世話をしていた家族が、次第に生活に疲れ果てて、「これ以上、<これ> のせいで人生を滅茶苦茶にされるのはイヤ!」という結論に達する過程も、実にリアルだ。実際、家族介護に疲れて肉親を手にかけるに至る心理的過程は、こんな感じなのかもしれない。

    世話を放棄されたグレゴールが、抗議するでもなく、誰を恨むでもなく、ただ自分はいなくなった方がいいと確信して、誰にも看取られることなく衰弱死する結末にも、現代人に通じる底知れぬ孤独を感じた。一方、家族の死を悼む以上に「やっと解放された」という安堵を覚えるのも、介護に疲れきった人々の本音だろう。そんなシビアな物語を、時に喜劇的エピソードを交えながら、全体としては悲劇的終末に向かって描写してゆくドライな筆致に感銘を受けた。

    物語のラストでは、グレゴールの家族は新生活に向けての希望を抱いて終わる。しかし、家族や会社のために粉骨砕身したはずのグレゴールは、ダストシュートに放り込まれておしまい。現代の企業戦士に通じる悲哀を代弁しているようで、やりきれない気持ちになった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      忘れてた、今日からEテレの「100分 de 名著 」は、カフカの変身だった、、、
      「現代の企業戦士に通じる悲哀を」
      第二次大戦前の、息苦しさ...
      忘れてた、今日からEテレの「100分 de 名著 」は、カフカの変身だった、、、
      「現代の企業戦士に通じる悲哀を」
      第二次大戦前の、息苦しさと同じような重苦しさを若い人は感じているのかも知れません。大人が何とかしなきゃダメなんでしょうけど、自分のコトで手が一杯。。。がんばろ!
      2012/05/02
    • 佐藤史緒さん
      「100分 de 名著」なんて番組あるんですね。知らなかったです。
      凄く見たいけど、ちびっ子がいるから見れない…残念。
      そうですねぇ、若...
      「100分 de 名著」なんて番組あるんですね。知らなかったです。
      凄く見たいけど、ちびっ子がいるから見れない…残念。
      そうですねぇ、若者につけをまわすんじゃなくて、中堅以上の大人が何とかしなきゃダメなんでしょうが、私も自分のコトで手一杯です。でも一人ひとりが自分のことをきちっとやっていれば、全体としてはそんなに破滅的なことにはならないはず。…と信じて、自分の役割を粛々と遂行するよう私もがんばります!
      2012/05/03
  • カフカの代表作『変身』と、短編『断食芸人』が収録されている。

    『変身』は、言うまでもなく、多くの人に読まれている作品だ。それは、世の中に出回っている訳書の多さからもうなづける。私の場合、初読は、新潮文庫版の高橋義孝訳のものだった。それと比べると、一文一文が長すぎて、読みにくいように思われた。これは、原文に忠実に訳したためだそうである。じっさい訳語自体は、現代的でとても精錬されている。一気に読みきるタイプの方には、こちらの方がオススメかもしれない。

    『断食芸人』は、その名のとおり、断食を生業とする芸人の話だ。断食をするだけの簡単なお仕事です、と言うわけにはいかないようだ。

    カフカの作品は不条理だといわれる。同時に、現代的であるともいわれる。くだけた表現にするならば、不気味で、つるつるした感じ、といったところだろうか。『変身』や『断食芸人』では、登場人物たちの会話や考え方が噛み合っていない。すこしづつズレている。ディスコミュニケーションである。現実は、「話せばわかる」ものではないのだ。こういった、つるつる感が、えも言われぬ後味の悪さをかもし出している。

  • 不条理文学というのを初めて読んでみました。
    どちらもすごく面白かった。

    毒虫:
    起きたらばかでかい毒虫になってるの、普通はなんで!?ってなりそうなところですが、主人公は特に疑問も無しに受け入れてるの面白い。
    家族も主人公が毒虫になったことを受け入れていてすごい(笑)
    私なら主人公が毒虫に食べられたのかなと思って退治してしまいそう。
    家族のために働いてきたのに、変身して毒虫になってから、気を遣われ、どんどん扱いが酷くなっていくの可哀想すぎる...でも、毒虫と共に住む家族の立場になると、仕方の無い扱いだよなあとも思います。

    断食芸人:
    かなり短かったけど面白い。
    断食芸人ってほんとにいたっけ?ってぐらいリアルな設定!流行が去って、人権的にどうなんだ?と世間的に痛い目で見られて人気が無くなるところもリアルだ。皮肉の効いたオチも最高です。

  •  朝、目覚めてみるとゴキブリみたいな虫になっていた、ザムザ家の長男グレゴールとその家族の物語『変身』と、「断食をする」ことを芸として見せる『断食芸人』の物語2編。
     今更ながら初めて読んだドイツ文学。『変身』は分厚い本かと思ったら、ものすごい短い物語で、気軽に読むことができる。『断食芸人』はさらに短く、トイレで全部読んでしまった。気軽に読み出すことはできるが、『変身』のところは、虫になったザムザがかわいそう、とか思ってしまい、読み進めると悲しくなってくる。特に、虫の姿になったグレゴールを見た母親が必死に後ずさりして逃げる場面の、p.35の「『母さん、母さん』とグレゴールは低い声で言いながら、母親の方を見上げた。」なんかはほんとにかわいそう、このままかわいそうな虐待話みたいなのが続いたらどうしよう、とか思った。そしたら、そういう展開にもならないところがこの物語の不思議なところで、さらに物語の最後に至ってはさわやかな気持ちにさえなってしまった。放送大学の『世界の名作を読む』という教科書で解説されていたが、この物語は、ザムザの変身ではなくて家族の変化の物語、我々の世界でもよくある物語(pp.122-3)というところで、ハッとさせられて、「名作」と言われる理由が少し分かる気がする。
     『断食芸人』は、「生きる」ための目標が「生きる」ことと反することをする(=断食をする)ことである、という矛盾を抱えている点が興味深い。断食芸人の最期の描写が、かえって、ものすごい「生き様」=「死に様」を描いているような感じもする。(11/01/18)

  • 人生の充実って言うものの大半はきっと自己満足が占めるとは思うんだけど、それにしたって他人から全く認められないんじゃちょっとさみしいよねってかんじのおはなしふたつ。

    人のために頑張り続けたにも関わらず感謝も憐れみも受けなかった人生と、真意とは別の勝手な好奇な目を向けられそしてついに理解されることの無かった人生。どちらもその最後が厳かで気高くて素敵でした。これに絵がついたら絵本かも知れない

  • よく最初の文が引用されるのもあって、その一文に惹かれて手に取った。
    読み終えて毒虫、についての考察もいくつか拝見したのだが、いつか見たその中の「毒虫になった=使い物にならなくなった」という解釈があったのがとても興味深い。
    朝起きたら、自分が使い物にならない。害にしかならない毒虫になっていた。
    それを踏まえたラストは、救いがなく生々しさを強く感じた。

  • 不条理な事態に見舞われている主人公と、その他。この「その他」の者たちは「主人公」をあくまで異物として嘲笑い、恐怖し、排除する。「主人公」は何もできない。
    収録作2篇はこれらの過程が即物的に描写され、その為に不条理が際立つ。だから怖くて、気持ち悪い。しかしながら坦々とした筆致故にグズグズ滞ること無く読める。カフカというジャンルの文学だ。

  • ひさびさに読んだ。
    「変身」
    一家の生計を担う長男が再起不能で働けなくなって、妹や両親が元気になり、しまいに彼を見捨てるお話。タイトルから想像する、いわゆる、新しい自分に脱皮していくような物語を予想して若い頃、初読みして衝撃を受けた。いま、読み返しても、いたたまれない気持ちになる。

    「断食芸人」
    人間はただ生きていくために食べるのではないことを考えさせられる。上手い食べ物にはありつけなかったが、旨い食べ物にはなれた男。

  • 長い一文によって、過剰なまでに克明に、細部も漏らさず綴られる言葉は秀逸だった。異常な状況が、どこまでも冷静に理知的に語られる。
    本人の意志とは無関係に、それまでの自分とは違うものに変わってしまったら……。グレゴールはそれまで一家の大黒柱として家族を支えてきたのに、そのおかげで家族は働かずに楽な生活ができていたのに、状況は変わり、結局グレゴールなど始めから存在していなかったかのように終幕する。グレゴールの人生とは一体何だったのか?
    本当の意味で人々が理解し合うことなど無いし、愛情というものも幻想にすぎない。グレゴールの人生に、その頑張りに、意味など無かったし、人間一人が突然いなくなっても、不都合など起こり得ない。たとえ誰かがいなくなっても、人は昨日と同じ今日を生きていくし、明日もまだ生きている。グレゴールのことなど忘れて。それが人間というものの本質なのだ。
    『断食芸人』においても、主人公は誰にも理解されないままに、この世を去る。そしてきっとこの先、誰も彼のことを思い出さないだろう。ある日彼は生まれ、この世界に馴染めないままに断食芸人として生き、そしてひっそりと死んでいった。ただそれだけのこと。人間とは、ただそれだけのことなのだ。

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著者プロフィール

ツイッターやインスタグラムで恋に悩む女性にむけて優しく背中を押す言葉を投稿している。著書に『だから、そばにいて』(ワニブックス)、『好きでいて』(セブン&アイ出版)、『何度も諦めようと思ったけど、やっぱり好きなんだ』(KADOKAWA)などがある。ツイッター @kafuka_monchi インスタグラム @kafuka022

「2020年 『だから、そばにいて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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