アフリカ騎兵 (岩波文庫 赤 546-4)

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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003254646

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  • 本書の舞台はタイトルどおりアフリカ。
    永遠と続く物悲しい寂寞の単調さをもつ砂漠にやっと現れたセネガルの白い古い街に駐屯するフランス人兵士がいた。

    彼には、フランスのセヴェンヌという森に囲まれた村に年老いた両親と許婚がいる。
    母からの手紙は彼の郷愁を強く誘うものの数年をアフリカの土地で暮らした主人公にもさまざまな事情ができていた。

    パリ帰りのスタイリッシュな混血の女の恋人になり、舞い上がっていたのも束の間、彼女にとって彼はひとつのアイテム的な存在でしかなく、もうひとり情人がいた。
    失恋した彼は、その恋人だった女の下女の黒人の少女を愛人にする。

    この少女はファトゥー・ゲイという名で、一言でいえばまだ子どもである。だが、コケティッシュな面も持ち合わせていて、主人公のジャンは彼女から離れられない。

    母からの息子の帰国を切望する手紙が何度も届く。それでも彼はアフリカに留まる。

    遠い祖国フランスの故郷の景色を尚も遠く感じさせるのが、ロティが執拗に描くアフリカの原風景と民族的要素の強い描写なのだ。
    楽師が叩くタムタムの音が聞こえ、熱せられた砂をより強く太陽は焼き、耐え難い暑気とそよとも吹かぬ風。

    どうしろというのだ。どうして帰らない。駱駝の長い列は北に進みとうに見えなくなったというのに・・・

    ついに許婚は他の男と結婚することになる。
    ジャンもファトゥー・ゲイと別れる。この黒人女を囲ったことで、故郷に送るお金も彼女に使われ、兵士としての昇進も諦めなければならなかった。

    しかし、そののち、ジャンは、ファトゥー・ゲイと再会し、彼女が彼の息子を生んだことを知り、三人は一緒の短い時間を過ごす。

    ジャンは、戦死した。ファトゥー・ゲイは彼の遺体を捜し、遺体のそばで自分が抱いていたふたりの息子を殺し、自分も命を絶つ。

    実際、ロティがセネガルを訪れたのは24歳の時だったという。その際、人妻と恋をし、子どもも生まれたようだが悲恋に終る。
    トルコでアジヤデのモデルになるハキジェを知るのは二年後の26歳。
    29歳で『アジヤデ』を出版。二年後の31歳で『アフリカ騎兵』を出版している。

    『アジヤデ』とは違い、『アフリカ騎兵』は、ロティの実体験をそのまま書いているのではない。

    『アジヤデ』と『アフリカ騎兵』を比べると『アフリカ騎兵』の方が好きだ。圧倒的なスケールで迫ってくるアフリカの自然とファトゥー・ゲイの小悪魔的な魅力と愛。
    アフリカの魔力に憑りつかれたようにアフリカで命を散らす白人の青年とその遠景にみえるフランスの老いた両親。

    レーモン・ルーセルはピエール・ロティの讃美者であった。
    彼の『アフリカの印象』がなんらかの影響を受けているのは岡谷さんの言及するとおりであろう。

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著者プロフィール

ピエール・ロチ

本名ジュリアン・ヴィヨー(Julien Viaud)。フランス大西洋岸の港町ロシュフォールで生まれ、幼少の頃から海と瞑想を愛した。海軍士官として世界各地を周遊して、その風物を繊細な筆致で描出し、また異国女性との交渉を自叙伝風に、告白的に語った。『アジヤデ』『ロチの結婚』『氷島の漁夫』『お菊さん』などの小説のほか、『モロッコにて』『北京最後の日』『アンコール詣で』など、多くの旅の印象記を書いたが、それらは情熱的な官能の奥底に、〈滅びゆくもの〉への独特の哀感をただよわせて、自然主義文学の退潮する世紀末の文壇に異国情緒の鮮烈な新風を送った。

「2020年 『日本秋景 ピエール・ロチの日本印象記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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