脂肪のかたまり (岩波文庫)

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制作 : Guy De Maupassant  高山 鉄男 
  • 岩波書店 (2004年3月16日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (111ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003255018

脂肪のかたまり (岩波文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 「きゃあー!」

    このフレーズに接して立ち昇る淑女諸姉の密かな悲鳴が聞こえてきそうだ。
    えっ!男性も?(笑)

    しかし、安心(?)召されたい。ここでいう「脂肪のかたまり」とはむしろ好意的な愛称であり、決して何かを指摘するものではない。なので胸(いや、腹?)に手を当てなくても大丈夫・・・。(笑)

    ・・・どんな好意じゃ!(笑)



    19世紀フランスの作家ギー・ド・モーパッサンの短編小説。
    普仏戦争を舞台に、プロシア軍に占領された町を逃げ出すのにたまたま大型乗合馬車に乗り合わせた面々を通して、上流階層(?)といわれる人間たちの醜い利己性、偽善性、欺瞞性を見事に曝したモーパッサンの佳作。アイロニーに満ちた物語構造だが、短編ならではの簡潔でわかりやすく小気味のよい展開が十分に活かされている。
    ここで描かれる「いけにえ」を供出する構図は、人間社会における集団心理と利己精神そのものだが、馬車に乗り合わせたのが、修道女2人組、伯爵夫妻、工場主夫妻、ぶどう酒販売店夫妻、共和主義者の男性、そして美人だがかなり豊満な娼婦ブール・ド・シェイフ(脂肪のかたまり)という面々で、一番の社会的弱者のブール・ド・シェイフが最も純真として描かれる反面、下の階層から順番に偽善性が高くなっていくという皮肉な描写がなかなか巧みである。自らを犠牲にして公共性に尽くせ!とは、必ず「上流階級」の人間から「下流階級」の人間に発せられる一方通行の言葉であるが、権力や宗教や社会性の仮面を身にまとい、自らを安全な位置としつつ、臆面もなく繰り出されるこのような醜い人間性を、モーパッサンは見事に描き切ったといえよう。
    愛嬌たっぷりなはずのブール・ド・シェイフが、共和主義者の歌う「ラ・マルセイエーズ」とともに涙に暮れるラストは、対比を大いに強調し読者に本編の皮肉を一層印象付ける情感溢れた名場面だ。
    おそらくオリジナル作品にもあったと思われる挿絵も見ていてなかなか面白い。

  • フランス語は語彙の少なく言語なので、フランスの小説にはやたら回りくどい修飾語が長々とまとわりついてる様なものが多い。
    本書は原作がいいのか翻訳がいいのかわからないが、簡潔な文章ですっきりとまとまっている。ストーリーにも無駄がない。
    人物描写も心の動きも秀逸。

  • まるで密室劇のような濃密な空間の中で、驚くほど心理の変転を描き、人間の善意や悪意、差別意識を露わにしている。設定のやり方も秀逸。敗戦後の占領下という大状況を創出して、なおその中に馬車に乗り会う人間たちという小状況を創る。さらに乗客は当時の社会階層のそれぞれを代表した性格造詣を付会して、社会の箱庭を見事に創りだしている。
    まるでダムの水位が徐々に下がり見えなかったものが現れてくるように、人間の身勝手さや傲慢さを明らかにしている。
    傑作。

  • この短さで、ストーリーの組み立てから掘り下げ、人物設定、など、構成がきちんと完成しているのがすごい。

    人間のエゴイズムとは?と改めて考えさせられる。
    倫理的・社会的制約がないと、人はどこまでエゴイストになれるのか。
    自分達が助かりたいために、一人の人間に自己犠牲を賛美しつつ行為を促し、自分は無作為でいる。
    そして、その行為をした後に、その人間を、道徳観の欠けた人非人扱いをする。
    あからさまかもしれない。
    フィクションではある。
    だが、人間の本質をついているのかもしれないと思うに充分な、深い小説たと思う。

  • 脂肪の塊なる娼婦を追い込む、決定打を放ったのは、尼僧の言葉。尼僧の言葉に追い詰められるその前に、娼婦が教会へ祈りをささげに出かけている、その皮肉が哀切。

  •  普仏戦争のさなか、さまざまな理由からルアンからトートを経由してル・アーヴルへ行く馬車。乗り合わせたのは、伯爵の夫妻、商人の夫妻、いかさま師の夫妻、共和主義者、修道女、そして娼婦の「ブール・ド・シュイフ(脂肪のかたまり)」。

     この物語に登場する人たちはブール・ド・シュイフを除いてみな偽善に満ちていて、自分勝手で、自分本位。まさに人間の気持ち悪い一面が描かれている。

     はじめは娼婦を卑しいものとしてみていたものの、空腹の危機を彼女に救われた途端に彼女に優しくなり、彼女の愛国心ある勇敢な発言を称賛したりする。トートに到着し、ドイツ人士官が彼女の身体を要求したときも、はじめは一致団結して士官を罵る。けれど、そこから徐々に一行(ブール・ド・シュイフを除いた一行、以下この意味)は彼女のせいで旅が進まないことに不満を募らせ、ふたたび彼女を侮蔑しはじめる。しまいには、「娼婦のくせに、なんだってドイツ人士官だけかたくなに拒むんだ」というようなことを言い出して、彼女が自分を犠牲にするように仕向けることを楽しむありさま。人ってほんとうに嫌なものだと思ってしまうところ。
     そして、一行のために自分を犠牲にした彼女(そして旅のはじめに一行を助けた彼女)が空腹で困っているというのに誰一人として助けようとさえしない。彼女はこの悪党どもを恨みながら泣くことしかできなかった。

     娼婦という身分をもつ彼女は、社会から疎外された存在。けれど、彼女は社会たる彼らの都合によって仲間に認められ、使い捨てられ、再び排除されたりする。そこには伯爵夫妻が最上位に位置する階層があって、最下層である娼婦には誰も手助けをしない。この話にあらわれる馬車が社会の縮図だとしたら、社会全体は排除される人にとって絶望に満ちた世界そのもの。

     彼女に好意があったであろう共和主義者も、一行の陰謀を「諸君のやったことは、卑劣千万なことですぞ!」といったり、ラストでは彼女に同情してか、ラ・マルセイエーズを歌い続けるけれども、実際の行動はなにもしていない。それに、修道女が彼女に手助けをしなかったのはなぜだろう。それが自らの「目的」ではなかったからかもしれない(修道女は”目的は手段を正当化する”と考えているらしいから・・・目的のためには娼婦を見捨てることも神は許すと思っているのでしょう!)。

    お喋りがすぎました。人の醜さ、考えさせられることもたくさんあって面白いです。もちろん、腹を抱えるような面白さではありませんが。

  • 偶然、一緒になった人々が短時間で仲良くなり、その中のひとりが起こした揉め事によってこれまた短時間でその和が壊れ、普段は取り繕われている表面があっさりと崩れ落ちていく。100年以上も昔に書かれた作品なのに色あせないリアリティがあるのはこの物語が人間の本性を見事に抉り出しているからでしょう。今の時代でも、まわりにいくらでも転がっている世界です。それこそ学校、会社、ご近所付き合い、SNSを代表としたインターネットによる交流、どこにでも。他人に絶望している方なら問題ありませんが、そうでない方が読む際にはご注意を。

  • 困難に陥った人の醜さたるや

  • 読みやすく面白かった。人間のイヤな部分というのかな。イヤな側面をうまく描けている。対比が効果的かな。今にも通じる内容だったと思う。

  • そもそも、ブール・ド・シュイフ嬢を自分になぞらえるタイプの人しか、この本を手に取ったりはしないんじゃないかしら?
    そしてあの夫人は彼女、あの修道女はあの人、あの伯爵はあいつ、と思いだすのですよ。思いだしたあの人たちはきっとこの本を手に取ったりはしないまま生きていき、よしんば読んだとしても面白いと思うことなく、もっとすれば自身が卑劣であることをすっかり棚に上げて、「ブール・ド・シュイフ嬢はまるで私だわ」などと記したり涙を浮かべたりするのですよ。

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脂肪のかたまり (岩波文庫)の作品紹介

30歳のモーパッサンが彗星のように文壇に躍り出た記念すべき短篇小説。普仏戦争を背景に、ブルジョワや貴族や修道女や革命家といった連中と1人の娼婦とを対置し、人間のもつ醜いエゴイズムを痛烈に暴いた。人間社会の縮図を見事に描き切ったこの作品は、師フローベールからも絶賛され、その後の作家活動を決定づけた。新訳。

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