脂肪のかたまり (岩波文庫 赤 550-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (111ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003255018

感想・レビュー・書評

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  • 芥川がどっかでモーパッサンを引用していたことを思い出して、ゼミ合宿の鈍行の車中で読了。

    それなりの立場と富をもつ人間のエゴイズムというのは極めてぬけぬけと人を陥れる。

    うーん、でもそんなに印象には残らないかも。さくっと読めるのはとてもありがたい。

  • 人間の醜悪なエゴを描き出したモーパッサンのデビュー作と聞いて読み出したけれども、上流階級の卑劣な意識ってのがちっとも変化していないことに驚いてしまった。
    人間とはかくも進化しないものかと嘆くのとともに、気高く生きていくことの難しさを改めて感じ取った短編でした。

  • 『脂肪の塊』といふ表記に慣れ親しんだ人が多いだらうと思ひますが、岩波文庫の新しい翻訳では『脂肪のかたまり』とひらがな表記になつてゐます。理由は知りませんが。
    その脂肪のかたまりといふのは、この小説の登場人物である一人の娼婦のあだ名です。
    フランス語で「ブール・ド・シェイフ」と呼ぶのを直訳したものですね。それにしてもあんまりなあだ名です。

    その「ブール・ド・シェイフ」は乗合馬車で、6名のブルジョワジーと乗り合せます。皆俗物といふか、とにかくいやらしい人物として描かれてゐます。「娼婦」と乗り合せるなんて、何と汚らはしいことでせう、などと彼女に対する侮蔑を隠しません。
    馬車は予定よりも大幅に遅れ、食事をする予定の土地までなかなか到着しません。皆が空腹で苦しんでゐる時にブール・ド・シェイフは、持参の食物を皆に与へて、刹那的な感謝を受けるのですが...

    モーパッサンのブルジョワ嫌ひが実にストレートに表現されてゐますね。しかしブール・ド・シェイフのお陰で救はれたブルジョワどもが、最後に彼女に見せる仕打ちには腹が立ちます。彼女が屈辱に耐へられずすすり泣くラストシーンは、読後も心に残ります。夢に出てきさうな...
    この救ひのなさを皆様にも味はつていただきたいと存じます。では。

    http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-57.html

  • 日本も実質、自衛隊に支配されている。反乱も反逆も起こさない人々はただの脂肪のかたまりでしかない。

  • 30歳のモーパッサンが彗星のように文壇に躍り出た記念すべき短篇小説。普仏戦争を背景に、ブルジョワや貴族や修道女や革命家といった連中と1人の娼婦とを対置し、人間のもつ醜いエゴイズムを痛烈に暴いた。人間社会の縮図を見事に描き切ったこの作品は、師フローベールからも絶賛され、その後の作家活動を決定づけた。新訳。


    人ってこわいな。

  • あーもう人間って汚い!不潔!って思う読後感。「誰かのために」なんて思うからこんな目に合う! 愛国心がテーマなのかなと思ったんだけど、主人公のむっくりした娼婦の痛々しい(これは、かわいそうっていう意味と普通に痛いっていう意味を含む)心情にひたすら脳内でフォーカスしてしまう。多数派にいる、あの馬車の中の人たちは強い立場であることに安心しきって、人を傷つけることで自分が傷つかないことに対して何とも思わない。だから読んでいて嫌だった。

  • 30/91

  • 岩波文庫で手軽な作品が読みたいなと思って手に取った、モーパッサンによる100ページに満たない短編。挿絵入りなので、海外文学に慣れていない方でも読みやすいかもしれません。

    普仏戦争を背景に人間の醜いエゴイズムを描く一篇だが、それ以上にモーパッサンが描きたかったのは「戦争の愚かさ」なのだろうなと感じた。

    人間の愚かな部分を暴くことで、その状況を生む戦争の愚かさを描く。「兵隊なんて誰のためにもならないものですよ。哀れな国民の税金で養われているくせに、覚えることといったら、人の殺し方だけですもの。」という台詞に思いが凝縮されているようでした。

    戦争によって痛めつけられた雰囲気が、よく出ていたと思いました。現在のフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」を奏でる口笛が意味深に響いてくる…。その感覚も印象に残っています。

  • 舞台は普仏戦争後のフランス。敗戦し占領された町から逃げ出すために、乗合馬車で脱走を目指す10人の登場人物。富裕層の夫婦が3組、修道院2人、革命家1人、娼婦1人。目的地に着くまで二つの危機があった。一つ目の危機では、道中で皆が空腹に襲われる。しかし、娼婦が持っていた食料を皆に分け与えることでこの危機を乗り越える。二つ目の危機では、途中の町でドイツ人将校の命令により足止めを食らわされてしまう。将校の要求は、娼婦と寝ることだった。他の乗客たちは嫌がる娼婦を自分の意思で将校の元へ向かるために、その行為が歴史的・宗教的・倫理的に正しいことだと説得する。作戦は成功する。次の日の馬車では、皆が娼婦のことを汚いものを見るように冷淡な扱いをする。一つ目の危機で娼婦から食料をもらっておきながら、逆の対場となったときには誰も娼婦に食料を与えようとしなかった。娼婦は悔しさのあまり泣き崩れる。

  •  岩波文庫の書架からはじめてこの本のタイトルを見つけたとき、
    「え、何、『脂肪のかたまり』?すっごいデブな奴がいじめられるかいじめるかする話?」
    とか勝手に考えちゃいましたが、全然違いましたね。

    「脂肪のかたまり」とは、とある娼婦のあだ名。
    丸々と太った魅力的な体つきからの命名で、この本では「ブール・ド・シュイフ」と訳されてます。
    普仏戦争で敗戦、占領された街から、合乗馬車でル・アーブルへと向かう人々。
    馬車の中でブール・ド・シュイフは、乗り合わせていた富裕階級のご夫人方から嫌悪の目を向けられますが、
    皆が空腹に苦しんでいたとき、自分の昼食を分け与えたことで一旦は打ち解けます。
    しかし旅の途中の宿で、ブール・ド・シュイフは敵国の士官に肉体を求められるのですが、彼女は愛国心からこれを断固拒否。
    ならば彼女が身を委ねない限りはと、一行は宿で足止めを食らってしまいます。
    一行は「娼婦の分際で選り好みをする」彼女に、士官の相手をせざるを得なくなるよう仕向け…
    という、人間のエゴを描き出したいたって真面目な短編です。いい意味で裏切られたね!

    しかし、本当にもっといい訳し方はなかったものか、このタイトル…
    まさか娼婦の名前だとは誰も思うまいよ!
    「羊脂玉」とかどーすか?白くて透明な、最高級の翡翠。

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