地獄 (岩波文庫 赤 561-1)

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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (353ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003256114

感想・レビュー・書評

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  • 無神論的実存主義の世界観で贈る覗き見文学の傑作。
    コリンウィルソンが『アウトサイダー』で取り上げていた作品。いざ読んでみると、まさに人間と人間がこの世に生まれ生活し、愛や理想を持って凛々しく生きていくことのその内実に、冷徹な分析力で奥深く踏み込んでいる。
    特段何が起きるということではないが、見えすぎる、聞こえすぎるがゆえのどうしようもなさが小説全体に充満してるから、落ち込んでるとき、体調悪いときに読んだらいいかも。

  • 覗きといっても、実際に読むとかなり窮屈な体勢で覗いていることにまず捧腹だし、覗き穴もけっこう大きい。こんな環境では滑稽綺譚しか生まれないのではないかと思うのだが、そこは作者の力量、闇、闇、闇で繰り広げられる様々な人間の苦悩やら生死、性愛が語られるのだが、必ずそこに一筋の光が差し込むのだ。人は光を見いだす。抽象的な概念ではなく、物理的に光が差し込むように書かれている素晴らしさに感動する。

  • 越してきた下宿(ホテル)の隣の空き部屋を覗くことができる隙間を発見した主人公(30歳・男性・就活中)が、すっかり「盗み見」にはまってしまう話・・・と要約すると身も蓋もない感じがしますが、そうやって覗いたさまざまな他人の人生のワンシーンから、主人公が人生の真理を学んでいく・・・といえば少しは聞こえが良いかしら(苦笑)。岩波のリクエスト復刊で旧漢字満載なので、それだけで小難しい本だろうと思っていたら、内容が内容だけにエロティックな場面も多くて逆にちょっとびっくり。

    主人公が覗く光景は、最初のうちは恋人からの手紙をこっそり読む女中、一人ストリップ(?)を繰り広げる若い女、まだ幼い恋人未満の少年少女の接吻、など、その場限りの比較的微笑ましい(?)光景なのですが、メインになる最大の二つのエピソードのひとつは、不倫中のカップルの逢引、もうひとつは死にかけている老人とその養女だった若い妻の二組。

    不倫中のカップルは、愛とは何かについて哲学的な問答を繰り広げ、死にかけている老人は最初の妻の墓を暴いた話を懺悔し、医者たちは生命について論議し、僧侶は神を信じない老人を罵倒し、下宿の主人は老人の死体の傍から金を盗む。同じ部屋を血の海にして赤ん坊が生まれ、残された若い妻は元の婚約者と愛し合い、それらの光景をただずっと執りつかれたように主人公は見続ける・・・うん、それはある意味「地獄」でしょう。と妙に納得。

    とかくエロ目的になりがちな覗き趣味ですが、主人公はあくまでそうではないと主張。確かに、芝居の観客のように、本人ですら客観的に見ることはない他人の人生の一部を我が物のように生きてしまった主人公は、最後には覗きをする体力もないほど疲弊してしまい、部屋を出て行きます。愛とは、死とは、神とは・・・結局彼がたどりついた「真理」は、タイトルが象徴するように生きることは「地獄」だということなのか。なかなか哲学的な1冊でした。

  • 岩波文庫の春の一括重版で購入。
    壁の穴から隣室の様子を覗き見る……と言うと、乱歩の『屋根裏の散歩者』を思い出すが、こちらの主人公は基本的に見ているだけ。
    隣室に取り憑かれて行き、見ずにはいられなくなる様子は非常にスリリング。主人公の眼前で繰り広げられる人間模様も面白い。

  • 2012.6.20
    読んでも読んでもなぜか半分にも到達しません!

    2012.6.14
    絶版で図書館で借りて読んでます。
    まだ1/5くらいだけど、既に欲しいぞ!
    旧漢字遣いがまたいい。

  • 皆川博子さんの倒立する塔の殺人という本に出てきたので、読んでみました。

    旧字体で書かれているので、慣れないうちは違和感を感じますが、
    慣れてしまうと結構普通に読めます。

    内容は、とても良かったです。
    私はまだ学生なので、深いところまでは理解しきれていないと思いますが、それでも充分に満足できました。
    なんか、絶望的(?)な感じとか、いろいろ、楽しい、という本とは違いますが、すごく、いろんな事について改めて考えたくなる本です。

    読んでよかった、と心から思えるような本でした。

  • 『倒立する塔の殺人』に出てきたので読んだ。自分の乏しい頭には難解すぎてよくわからなかった…。出産シーンや老人の過去の告白、臨終のシーンはとても印象に残った。

  • パリの旅館に投宿した主人公。ふと気付くと部屋の上部に穴が空いている。そこから隣室の覗き見を始めたが・・・

    隣室には、不倫の恋人、詩人、従兄妹同士ながらも愛し合う二人、科学者、妊婦、死の間際の病人、僧侶・・・多くの人が入れ替わり宿泊し、そこで繰り広げられる情景を眺めることで主人公はある人間の真理に気付いていく。

    「我思う、故に我あり」。デカルトの著名な言葉だ。この世界で人が唯一つ真実だと疑いなく言い切れるのは、真実とは何かを思考する自分自身のみだけで、外界は全て自分の認識を通して観る幻覚かもしれない。
    そう思うと人間とは究極的には永遠に孤独である。

    愛も、詩も、科学も、宗教も、人の心を真に救うことはできない。
    どのような結びつきを求めても、人は孤独である。

    だが主人公は最後にこう言う。
    「われわれのまわりには、どちらを向いても、ただひとつの言葉しかないと思う。それはわれわれの孤独をなぐさめるとともに、悦びの虚しさをあばく、あの広大な言葉、すなわち無だ。だが、ぼくは、それがわれわれの虚しさや不幸を意味するものではなく、かえってわれわれの能力の成就や神たるべき資質を意味すると信ずる。なぜなら、いっさいはわれわれのうちにあるのだから。」

    この世は地獄か、それとも。

  • コリン・ウィルソンが「アウトサイダー」の中で触れているので読みたい。

  • 旧字

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