死都ブリュージュ (岩波文庫 赤 578-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (191ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003257814

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  • <amazonからの転記>大学の授業で何年か前に読みました。
    象徴的な意味で、死ぬことなしには永遠という行為が得にくいこと、
    永遠であり続けるには、死に続けるしかないということが感じられます。
    死に続けるとは、時間を止めることなのか。
    無彩色のまち、黒い塔、鳴り響く教会の鐘、死したキリストを賛美する祭り。
    動いているはずのお話の中のまちが、時間を止めるように描かれているのは、
    まちを穏やかに死に続けさせるためなのかと思われます。
    そして死に続けるまちは、ずっとユーグのものとなる。

  • 若くて美しい妻と死別した男やもめのユーグが主人公。ユーグは暗くて静かな世界に身を置きたくて陰鬱な雰囲気漂う古都ブリュージュで暮らしているが、ある日死んだ妻と瓜二つのジャーヌと出会う。

    ユーグは敬虔なキリスト教信者でありながら、ジャーヌのなかに死んだ妻の面影を求めて関係を持ってしまうが、死んだ妻を求めているだけであると言い訳し続ける。

    しかしながら派手なジャーヌとおとなしかった妻とではやはり違っていて、ユーグはその差異に悩まされ始める。悩みながらも、ジャーヌ自身を愛していることにも気付き始め、今度は信仰に反していることとの二重苦に落ちていく。さらに身持ちの悪いジャーヌに夢中になる様子を街の人々に嘲笑われ、長く共に暮らしていた家政婦も出て行ってしまう。

    ジャーヌはユーグのことを愛しておらず、ユーグの遺産目当てに家を物色していて死んだ妻の肖像画や遺体から切り取って大切に保管していた髪の毛を取り上げてユーグをからかっていたところ、ユーグははずみでジャーヌを殺めてしまう。
    ユーグは疲れ果てて椅子に座り、教会の鐘の音が部屋にこだましているところで物語は終わる。

    ユーグの精神世界の描写が最高だった。このどん底感をしっかり書き落とすのはどれほど労力がかかったことか。ユーグとジャーヌのすれ違い、エゴの塊感もたまらなかった。
    ユーグ、家政婦、ブリュージュの住民たちに一切の宗教信仰がなくて、ただ単にユーグがジャーヌを好きになったという設定だったら全然違ったかもしれない。それでいいのかは別として信仰とはなんだろうなあと考えてしまう話でもあった。(この話は宗教なしでは語れないしそこが面白いのだが、だからこそその大前提が違ったらどうなるんだろうなあと考えたという感じ。)

    過去に栄えた寂しい都ブリュージュの様子もとても魅力的だった。鐘の音や教会が物語に重みを与えていてとてもよかった

  • ベルギー、ブリュージュ、フランドル……、私にとっては霧に包まれたような不思議な響きだ。ローデンバック(永井荷風によればロオダンバック)という名も(彼の同輩は、メーテルリンク、それともメーテルランク?)。歴史的・文化的にも複雑だから、と説明することもできるけれど、まずもって私には、この『死都ブリュージュ』のイメージが鮮明だから、かもしれない。"BRUGES-LA-MORTE" を『死都ブリュージュ』とするのは間違いだ、と、森茉莉が熱弁をふるっているけれど、私には、これでいい。この物語の主人公は(本書解説にもあるように)ブリュージュという「灰色の都」だから。そのためにも、30葉余の写真が「書割」として必要だったのだから。宿命とか、(本人たちもあずかり知らぬ)深い血のつながりによる恋の物語、どうしてこのように心をとらえて放さないのだろう、私は幾度、この本を開いては溜息とともに閉じただろう。「解説」によれば、荷風は、ロオダンバックとレニエを愛したとのこと、宜なるかな。同じく荷風先生による、掘割の都としての、ヴェネツィア、ブリュージュ、そして島原…、ああ、なるほど。

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