罪と罰〈下〉 (岩波文庫)

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制作 : 江川 卓 
  • 岩波書店 (2000年2月16日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (431ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003261378

罪と罰〈下〉 (岩波文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 最終巻は中巻以上にクライマックスの連続である。ソーニャに罪を告白するラスコーリニコフ。どこまでも彼について行くと決意するソーニャ。ポルフィーリイとの最後の対決。思想と道徳と信仰と愛憎、さまざまな思いの間で激しく揺れ動きながら、ついにラスコーリニコフは自ら警察に赴き自白する。ここで本編は終了となる。

    エピローグでは、シベリアで服役する彼の様子が描かれる。相変わらず自分の殻に閉じこもって思索に耽る彼は、囚人仲間からも嫌われて孤立している。自分を追ってシベリアに来てくれたソーニャにまで八つ当たりする始末である。しかし、次第に彼の中でソーニャの存在が大きくなっていき、いつしか彼女の面会を心待ちにしている自分に気づく。そしてある日、自分にも理解できない衝動に駆られて、彼は突然ソーニャの前にひざまずいて泣き崩れる。今度こそ愛によって自分の前にひざまずいた彼に、ソーニャもまた深い愛を覚え、互いにかけがえのない存在であることを確信する。そうして二人が残り7年の懲役をともに乗り切ろうと決心したところで、この大作は幕を閉じる。

    陰鬱なタイトルからは予想できない美しいエンディングである。主人公の魂の復活を予感させる荘厳さは、いっそ神話的といっていいくらいだ。無神論者の私でさえ感動するくらいだから、キリスト教圏の人はこの「聖女の勝利」を前に、きっと私には想像できないほど熱狂的な法悦を感じるのだろう。

    しかし実は、この結末は未解決の重大な問題を含んでいる。ラスコーリニコフは確かに愛に目覚めはしたが、殺人については結局すこしも反省することなく終わってしまっているのだ。彼が自分を責めるのは、初心を貫けず自首してしまったという点だけで、例の凡人・非凡人論については「どこが悪かったんだ?」と本気で自問を繰り返し、最終的には「おれの良心は安らかだ」という結論に達している。それに対する論理的な反駁は、作中ではついに提示されないままだ。

    それだけではない。これは本編のエピソードだが、ラスコーリニコフに自首を勧める時のポルフィーリイの言葉がこれまた奇妙である。「ああいう一歩を踏みだした以上、心をまげないことです。それこそ正義ですよ」。これでは反省を促すどころか、逆に「きみはその路線で行け」と発破をかけているようなものだ。殺人犯に対して、司直がそんなことを言って良いのだろうか。

    まるで作者は、一方ではソーニャの言葉を借りて「神の摂理に従え」と説きながら、一方ではポルフィーリイの言葉を借りて「その意気やよし」と是認しているようにみえる。この矛盾をどう解釈すればいいのだろう。結局ドストエフスキーは何を言いたかったのか。必然的に疑問はその一点に集約される。

    その疑問に答えるためには学ばなければならないことが多すぎて、私の手には負えそうにない。ただ、訳者による解説本『謎とき「罪と罰」』に、ヒントになりそうな話が少しだけ述べられているので、興味があったら参照してみると良いと思う。

    ひとつだけ言えるのは、「生活」がキーワードらしいということだ。ともすれば思索に熱中するあまり蝋の翼で天空に飛び立っていきかねないラスコーリニコフを、ソーニャの愛と肉体によって地上に繋ぎとめておくことができれば、つまり「思弁」と「生活」の融合を果たすことができれば、ラスコーリニコフの思想も現実感覚に根ざした生産的なものに変わるかもしれない。身体に根ざした生活を回復すること、それが彼に与えられた課題であり、それが成就された時、彼は復活するだけでなく進化をも遂げることになるのかもしれない。

    長くなってしまったが、難しい話を抜きにしても物語として楽しめるのが、この作品の長所である。「面白かったー」で済ませるもよし、哲学書を紐解いて深読みするもよし。この作品には、どんなスタンスも許容してくれる懐の深さがあるように思う。「難しそう」という理由で敬遠している人がいたら、とりあえず手にとって読んでみることをお薦めする。

  • ようやく上、中、下巻を読了。
    殺人を犯したラスコーリニコフが自首し、シベリア監獄へ…。
    下巻になってからは徐々にスピードが上がり、一気に読み終えた。登場人物の名前が頭に入ってきた事もあるが、特に、ラスコーリニコフとスヴィドリガイロフとのやり取りがあり、終盤におけるスヴィドリガイロフの拳銃自殺等が陰鬱ながらドラマティックに描写されている。

    ドストエフスキーが芥川龍之介等、多くの作家に多大な影響を与えた事自体は何となく理解出来たような気がする。ただ、上巻からもう一回読み返すとより解るのだろうけど今の時点ではその元気はない。

  • 読了日:2017/10/28

  • 1990.10.13 読了

  • 後半のスピード感はすごい。登場人物の性格の複雑さといい、展開の予測できなさといい、意外と普通に読んでも楽しめるレベルではないか。初めてドストエフスキーで完読できた。

  • 西欧近代社会における人間性の喪失と回復の物語。

    ラスコリニコフは「罪」人ではあるが、「悪」人としては描かれていない。彼が殺人に至った動機は、欲や怨恨のようなわかりやすいものでもなく、実は論文の形で発表した思想でもない。不幸な偶然も重なり「魔が差した」という表現が合う気がする。

    市民革命の結果として広がった「自由」と「平等」の思想。人間は何でもできる自由を持ち、権利は平等に与えられている...
    現実には何事かを成し遂げられるのは一握りの英雄で、凡夫はかつかつ生きていくのが精いっぱい、持てる者と持たざる者の差はそのままに、借金の取り立てだけが平等に降りかかって来る。
    英雄と凡夫を分ける「あちら側」と「こちら側」の境界は平等に開放されており、意思の力があれば個人は「あちら側」に行くことができる...

    結果として自分が凡夫であることを思い知らされたラスコリニコフは、知らず知らずのうちにドゥーニャのため、そしてソーニャのために「罰」を受け入れ、人間としての生を取り戻す。

    ラストシーンは簡潔な描写だが、美しさに心が震えた。

    大仰な愛情表現は一行も出てこないが、「愛の物語」だと思う。

  • いよいよ完結の『罪と罰』
    自らの罪と向き合い翻弄するラスコーニコフの絶望的だが、希望のある終末へと向かっていく。はっきり言ってしっかりと読み込めているとは思えない。ただなんというか、意識の大きなうねりに身をゆだねていくうちに、様々な感情のぶつかり、葛藤を感じ、その波にのまれていった読書体験。最後ラスコーニコフのソーニャへの態度に何か救いを感じた。人間としてまっとうに生きるというのが正しい言い方ではないのかもしれないが、それでもやはり神のもとに生きる一人の人間としての生を取り戻すところは、一人の人間の再生の物語とも感じた。
    さていよいよそろそろカラ兄かな。

  • 読み終わってしまった。ごっつい小説だった。こんな物語を紡ぎだしたドストエフスキーすげー。読もうと思う人は是非読むべし。

  • 100年以上前に書かれたとは思えない文章、ストーリー。
    夢中になって読めた。

  • 中心的な目的さえいいものなら、個々の悪行は許されるのではないかという理論。
    世の中は凡人と特別な人間とに分類され、歴史上の多くの天才たちが個々の悪行には見向きもしないで、人を殺しても何の躊躇もなく踏み越えていったことに夢中になり、自分も特別な人間なのではないかと考え、行動してしてしまった殺人。
    しかし、結局は躊躇なく踏み越えることができず、特別な人間ではなかったことに悩み続けることとなるラスコーリニコフ。

    さすがに自分が特別な人間であるのかを確かめるために人を殺すのは理解できないけれども…
    特別な才能を持っていると信じていたものが、実際にはただの凡人であったことに気づいた時の失望感は理解できます。
    自分は特別な人間であってほしいという願望や、自負心を程度の差こそあれ誰もが持っているでしょうし、何らかの形で自分の力を証明してみたくなるものだと思います。

    そんなラスコーリニコフだが、エピローグでソーニャへの愛に気づき、「思弁の代わりに生活が登場した」ことがせめてもの救いでした。

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罪と罰〈下〉 (岩波文庫)の作品紹介

ルージンの卑劣な工作により窮地に立たされたソーニャを弁護したラスコーリニコフは、その後ついに彼女に罪の告白を…。贖罪をうながすソーニャに、彼はつぶやく。「もしかすると、ぼくはまだ人間で、しらみではないのかもしれない…」(全三冊完結)。

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