かもめ (岩波文庫) (岩波文庫 赤 622-1)

  • 岩波書店
3.61
  • (17)
  • (39)
  • (38)
  • (10)
  • (0)
本棚登録 : 355
感想 : 53
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003262214

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 話しとしては、登場人物たちの報われない恋愛模様がもどかしいですね。誰もが満たされない鬱屈した悩みを抱えている。チェーホフは、これは喜劇だと言っていたらしいですが、この恋愛模様が巧みに描かれていることが、話し的には悲劇なのに喜劇的要素を与えています。登場人物は、自己中な人たちばかりだし…ただ、タイトルの『かもめ』の女性の強さには関心しました。まるで悲劇と言われる行動を起こす男性と対称的な、前向きなところがとても印象的でした。

    ところで、この演劇、第二幕の後半がいいですね。チェーホフの作家論が、登場人物である作家のセリフを借りて語られているところ。ただし、チェーホフは自分を卑下しすぎてる気はしましたけどね。

  • 私はかもめ
    トレープレフが撃ち落としたかもめ、トレープレフ自身は、「やがてぼくもこんなふうに自分を撃ち殺すんだ」と言い、ニーナは「このかもめだってそう、何か意味がありそうだけれど、ごめんなさい、私には分からない……。私、単純すぎて、あなたのことが理解できない」と言う。トリゴーリンが着想を得た、「ある湖の岸に、あなたのような若い娘が子供のころから暮らしている。かもめのように湖が好きで、仕合わせで、かもめのように自由だった。ところが、そこにたまたま男がやってきて、彼女を見そめ、退屈まぎれにその娘を破滅させる。このかもめのように」という話はそのままニーナの現実となり、トリゴーリンはこのかもめを剥製にするよう依頼しながらそのことすらすっかり忘れている。それはトリゴーリンがニーナを破滅させておきながらニーナのことを忘れ果てていることと重なるし、ニーナはトレープレフを理解しないまま、自分を愛してくれるトレープレフではなくトリゴーリンを愛し続け、トレープレフは自分の言ったように自分を撃ち殺す。ニーナもトレープレフもかもめ。
    作家として成功するトレープレフもトリゴーリンも、女優であるニーナも、自分がやりたいことの夢を追いながら、その職業にある自分や自分の才能に自信が持てないまま。マーシャはトレープレフを愛しながら愛される夢を諦め、自分を愛してくれるメドベジェンコと妥協して結婚する。夢を追う者にも夢を諦めて現実に生きる者にも絶望は存在する。自信があるようなアルカージナも、息子トレープレフを理解できず、息子は自殺する。アルカージナの兄ソーリンは長生きがしたいと繰り返し言うが、周りは60歳を過ぎて生にこだわる彼を半ば軽蔑し、その病気の治療もなおざりにしているように見える。
    思うようにならない生への絶望感と、それでも生きようとする者と、すれ違う愛と、暗い現実が暗く描かれていて好き。

  • 四幕の戯曲で、さほど厚くない本だが、少しずつ読み進める。一人一人の台詞は短いし、次々登場するので、最初は「えっと、コイツ誰だっけ?」登場人物のページを何度も見直す。

    様々の恋が織りなす人生模様とカバーの裏にあるが、誰もが自分勝手だと思う。
    一番違和感を感じたのは、アルカージナかな。息子を愛しているというけれど、無理解だし、女優なので衣装にお金がかかると、息子にはろくに服を買い与えない。
    登場人物の誰にも感情移入が出来ないけれど、不思議な感触がある。
    そして終幕。正直、息を飲んだ。

    生の舞台を観たくなった。

    「私はカモメ」って女性宇宙飛行士、テレシコワの科白と思っていたけど、元ネタがあったんだ。

  • 研ナオコさんの唄う「かもめはかもめ」(中島みゆきさん作詞作曲)は、このチェーホフの戯曲が何処かにあって生まれたのだろうか。
    唄を知っていたせいか、読んだ感想に歌のイメージが被る。ドールンが感じるトレープレフの作品の印象と、かもめと、ニーナの背景に、日本海のようなブルーグレーの印象が残る。ウルフの「波」に似た、ひんやりした、透明な、美しき侘しさ。

  • 戯曲である。津村の読み直し世界文学の1冊。こうした脚本を読むよりも演劇を見た方がいいが、古いので上演されなくなったのかもしれない。野田秀樹の早口ですすんでいく現代劇よりもこうした古典劇を何回も上演した方がいいのではないか。

  • ただただ侘しい。

  • チェーホフ四大戯曲のひとつ。
    1896年刊行、同年初演。

    だが、以下の2点が強い印象を刻む。この2点で、よしとしたい。
    一つは、登場人物トリゴーリンの作家論
    もう一つは、かもめのエピソードである。

    1.第二幕、作家であるトリゴーリンは、創作の苦労や 心労を訥々と語る。これが興味深い。この内容は恐らくチェーホフ自身の経験と心情に違いなくリアリティがあり、すこぶる面白い。
    「私の作家稼業は苦しみの連続でした。」なんて一節もある。
    「他人様に差し上げる蜜のために、私は自分の大切な花から花粉を集めている…」という言葉も。
    ちょっと太宰みたいな感じもあり面白い。

    この場面の台詞には、トルストイやツルゲーネフには及ばない、と批評されて滅入る、みたいな吐露もある。
    実際、チェーホフ自身、ドストエフスキー、トルストイの後に生きる作家として、ロシア文学を背負うことを期待された面があるらしく、その責任を感じていたらしい。そういう重圧や悩ましさが滲んでいるようだ。
    作家トリゴーリンの長白。この部分だけひろい読み再読したい気がしている。

    2.かもめという呑気な語感と裏腹に。かもめが託されるエピソードはちょっとグロテスクであり、その後悲惨なものになってゆく。
    邸の庭先。女優をめざすニーナがいる。そこにトレープレフが現れ、猟銃で撃ち落としたかもめの死骸をどさりと置く。(トレープレフの意図はわからない。)
    かもめの死骸とニーナを目にした作家トリゴーリンは、短編創作のモチーフが浮かんだと言い、メモを取る。曰く、
    ある湖の岸に暮らす若い娘。かもめのように自由だった。ところが、そこに現れた男が、彼女を見初め、退屈まぎれにその娘を破滅させる。このかもめのように。

    そして、作家による上のイメージは、その後、予言のようになる。ニーナは、舞台女優になるが成功せず、落ちぶれてゆく。零落したニーナは、わたしはかもめ(あのとき撃ち落とされたかもめと同じだ)、と語る。
    なんとも哀れなニーナである。

    かもめのエピソードはニーナの救われない人生の象徴であるのみならず、トレープレフ(コースチャ)の破滅的な人生にも連なる。それゆえに尚更印象的である。
    「かもめ」の登場人物の多くは互いに横恋慕していて、報われない恋を抱いて思い悩む。そうした恋模様の群像が本作のテーマだとされる。
    だが、私は、夢破れしニーナと、トレープレフの破滅が強く印象に残った。
    作家トリゴーリンは、創作の苦しみを吐露する。だが、才能に恵まれなかったトレープレフとニーナもまた悲惨で地獄の苦しみを味わう。その対比も織り込まれている。
    本作は「四大戯曲」のなかで最も悲哀でダークなものを感じている。

  • 登場人物がみな生き生きとしている。そしてそれぞれの物語がある。

    ニーナに注目すると悲劇にも喜劇にも読めて不思議な味わい。

  • 内容はよく分かりませんでしたが、劇中の雰囲気は好きです。

  • “かもめのように湖が好きで、仕合わせで、かもめのように自由だった。ところが、そこにたまたま男がやってきて、彼女を見そめ、退屈まぎれにその娘を破滅させる”

    これは、戯曲『かもめ』の登場人物である小説家の言葉。その小説家は、チェーホフ自身のようだ。なぜなら、それがこの戯曲のテーマであり、ここで作品の手の内を明かしているならだ。

    トレープレフとニーナという若い男女は、互いに惹かれていた。
    ところが、片方の愛が先に冷めてしまう。
    他に好きな人ができたからだ。

    世界中、どこにでもある話だ。

    ふたりは距離的にも離ればなれになる。そして、二年後、ふたりは再会する。
    ふたりの最後の会話の場面は、手に汗握った。そして、嗚呼、結末が...

    もしあなたに忘れられない人がいるのなら、胸に響くものがある作品だろう。

    なお、ボリス・アクーニンという現代ロシア作家が、『かもめ』の続編をwebで公開している。
    http://www.akunin.ru/knigi/prochee/chaika/

    p170
    悲劇とは主人公を光源としてながめられた世界、つまりただひとつの視点によって成り立つ世界だ。まわりの人間から解放されない主人公と、彼を取りまく俗物たちの対立-悲劇は、その主人公の世界が孤立すれば孤立するだげ、その光彩を発揮する。

    p179
    世界を見る視線はひとつではない、世界は複数の視線、視点でもって成り立っている

全53件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

一八六〇年、ロシア生まれ。モスクワ大学医学部を卒業し医師となる。一九〇四年、療養中のドイツで死去するまで、四四年の短い生涯に、数多くの名作を残す。若い頃、ユーモア短篇「ユモレスカ」を多く手がけた。代表作に、戯曲『かもめ』、『三人姉妹』、『ワーニャ伯父さん』、『桜の園』、小説『退屈な話』『六号病棟』『かわいい女』『犬を連れた奥さん』、ノンフィクション『サハリン島』など。

「2022年 『狩場の悲劇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

チェーホフの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×