緑の家(下) (岩波文庫)

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制作 : 木村 榮一 
  • 岩波書店 (2010年8月20日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003279625

緑の家(下) (岩波文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 下巻も本当に面白くて、あっという間に読んでしまった。本の中でも小説好きなら、すこぶる魅力的な物語ではないだろうか。

    段々と登場人物同士が繋がっていく様子は、読み手を引きずり込む力に溢れていて、複雑に入り組んだ構成、人物関係に頭がついていけるのか心配しつつも中断を許さない、物語を読む醍醐味を味わわせてくれる、傑作だと思う。

    たまたま「継母礼賛」と「緑の家」書かれた時期にだいぶ隔たりのある2作を読んだが、アプローチの方法は違っていても、人物の内面を掘り下げるのではなく、行動から心情を読み取らせる書き方が共通していた。未読作品がたくさんあるので、これから読むのが楽しみ。

  • あまりの豊饒さに圧倒されるばかりでまともなレビューは書けそうにない。
    ペルー北部のアマゾン川流域と沿岸地帯を舞台に、場所も時間も激しく往来しながら五つのストーリーが繰り広げられる。それはまるで豪華な織物かタペストリーの製作過程を見ているかのよう。無数の色の糸のきらめきに目はくらむばかりで、飛び交う杼や針の動きは速すぎて残像しか捉えられない。混乱する頭で必死に読み進めていくと、最後の最後に織り上げられた布の上にあでやかな模様が浮かび上がる。
    仕掛けられた多数の伏線が最後に一本の糸に収斂する技巧的小説はいくらもあるが、一望を拒否する空間的広がりと細部の緻密さを併せ持つこの作品世界はバルガス=リョサ独特のものかもしれない。
    ラテンアメリカ文学の良き読者ではない自分にとっては、強い覚悟で一気に行かなければとても読了できない手ごわさではあった。しかし、砂の中のピウラの町と娼館〈緑の家〉、旧世界そのままの修道院と尼僧たち、またアマゾン源流の密林と、物語が発する空気は濃密かつ強烈で、なんとしても読み進めねばならないと思わせる何かがあった。そして結末に辿り着いた時のこの脳みそを直接つかんで揺さぶられるような衝撃と、押し寄せてくる充足感。読書の愉しみここに極まれり、であった。

  • リョサと他のラテンアメリカ作家を分けるもの、それは魔術よりも現実に重きを置く彼の生真面目なリアリスト性にある。解説によれば本作はリョサの実体験がかなり反映されている様であり、彼の想像力はリアリズムをどの様な技法で描くのかに注がれている。断片化された5つの物語を読み進めながら紐解く行為は本作が描いた、密林における混沌がやがて都会化された社会に変容していくプロセスにどこか似ており、物語が進むにつれて輪郭が明確になっていく人物像は密林と都会の狭間で自己を確立させていく南米の近代化そのものの様に思えてしまうのだ。

  • 初リョサ!
    5つぐらいの小説の原稿をばらまいて急いでかき集めてそのまま一冊の本として入稿したような物語。
    時制が前後するは、地の文と会話文が入り乱れるは、ひとつの段落が長いは、と読むのが厄介…なんだけど意外とわかりやすいのは、、描写自体がシンプルで、淡々と描かれているから。映画を観ているような感じ。

    川を下る病気の日本人と老人の思い出話、インディオの少女をさらう修道院、娼館「緑の家」の主である男の半生、やんちゃな番長(!)、
    熱気と匂い、そしてハーブの音を感じる文章で、おなかいっぱい。

    読み解く面白さを感じさせられる読書体験でした。

  •  断片的な場面が積み重なって、5人くらいの主要な登場人物の人生絵巻が編み上がっていく構成になっていた。読み終わってみると、ものすごく重厚な「物語」を喰らった感覚が残る。私の乏しい知識からは、フォークナーの『アブサロム、アブサロム!』を読んだときの印象が近いと感じた。
     登場人物達は、南米の暑さの中でそれぞれに強烈な感情をもっていて、男達はそれに引っ張り回されるように生きているし、女達はそれを抑え込んで男に振り回されるように生きている。そんな人物ばかりで物語の中の熱量はすごいのに、なんだか皆が寂しい人のように思った。情動レベルの感情と、理性を含む気持ちとが、本人の中で分離してしまっているような人間が多い(盗賊のフシーアだけは情動が全てだったように見えたが)。
     とても複雑な構成で「技巧の為の技巧」になりそうなところだが、この小説は内容としても強い物語がある。大傑作。

  •  ラテンアメリカの小説。ペルーを舞台に時系列をゴチャ混ぜにした五つのストーリーが断片的に語られる。一つのストーリーの中でもしばしば、何の前触れもなしに記憶がフラッシュバックしてその場にいない人物が話し出したり、ほとんど行替えのない文章が続いたり、かなり実験的な小説になっている。
     読みにくいものの、各々の話が繋がり出してからは面白かった。むしろその読みにくさが、この本のよさだという気がする。アマゾンのジャングルの中で記憶がグチャグチャになるような感覚。実験的な小説というのは世の中に腐るほどあると思うが、それが雰囲気にマッチしているという意味では、この小説はお手本と呼べるのだろう。
     それにしてもペルー・アマゾンという場所はすさまじい。近代的な町、中世的な修道院、原始的なインディオの村。その三つが隣り合って存在し、その中でかなり露骨な搾取や思想の押し売りが起こる。しかし、その不穏さには何か得体の知れぬ魅力もある。三つの環境を行き来した女性ボニファシアの人生を思うと、そう思わざるを得ない。

  • 平行に進む5つの物語が徐々に絡まり最後に全体像がグワーっと浮び上った時、あまりの快感により脳内嬉ションした。

    5つの物語が時空を縦横無尽に行き交いながら語られ、しかも回想シーンが唐突に挿入されるので、はじめは戸惑うが慣れてくると気持ちよくなる。何故なら、その複雑な仕掛けにより、密林と砂漠といった自然や多層的な生活様式、多様な人種を内包するペルーの混沌としたさまが読み進める毎にジワジワと浮かんできて、その度に「うひぃぃたまらん~たまらん~」となるからである。もしこれが時系列に沿って5つの物語も章ごとに区分けされていたら、物語の面白さは残るけど、混沌としたさまは伝わってこなかっただろうし、「うひぃぃたまらん~」という快楽も得られなかっただろう。時空を縦横無尽に行き交う構成は一見すると出鱈目のような感じがしたが、最後までの読み終ると、実は緻密かつ完璧に計算されていたのかと思い、震えた。

    また、この小説は複数の男と女の関係が描かれている。ロマンティックさは殆ど無いが、生活感が滲み出てくるようなその関係性や人間くさい男女の言動はとても印象に残る。訳者解説によるとバルガル=リョサは「行為、行動といった外に現れてくるものに興味があり、それを描くことで人物の内面を浮かび上がらせたいと考えている」とある。この『緑の家』もまさにその考えを徹底していると思え、彼や彼女達の言動からそれに至った思考やその時の感情といった内面を推測することが読み手は求められる。内面を推測しやすく描かれている人物(主に男)もいる半面、推測が難しい人物(インディオの娘ボニファシアとか)もいる。難しいと思える人物の内面を、ページを何度も前後して読み返しながらあれこれ推測するのは(時間は掛かるが)とても楽しかった。

    唐突だが、この作品は私の小説に対する概念を変えた(広げた)といっても過言では無い。

    <余談>
    登場人物も多く話も時空を縦横無尽に行き交うので、いつものように寝転がって読み進めていたら間違いなく途中で混乱していたと思う。複雑であることは事前に知っていたので、私の場合は、シーン毎に舞台・登場人物・主な出来事をメモしながら読んだので最後まで混乱すること無く読めた。

  • 5つの物語が錯綜し、かなり読み進まないと登場人物の相関図が頭に入ってこない。ある時点から組みあがってくるパズルを見るように何となくどういうことかわかってくるが、最後まで文中に過去の会話がすっと差し込まれてくるので油断できない。
    読み終わってから霧が晴れるように物語の全貌が理解できるような小説ではない。読んでいる間もページをめくる手が止まらないってわけでもない。でも、何が何かわからなくても、その読んでいる間は面白かったと読んでいない時に思うような、そんな不思議な小説だった。

  • 上巻のレビューでも書いたように,いくつもの話が時系列を無視して並行して語られるので,なかなか読み進まなかったんだけど,下巻に入る頃からお互いの相関がだんだん見えてきて,そこからは一気.下巻は3日ほどで完読してしまった.文学の醍醐味を味わった感あり.
    途中まであるストーリーでは肩書きで呼ばれ,あるストーリーでは名前で呼ばれていた人達が,実は同一人物であることがわかってストーリー同志が繋がっていき,最後に収束していくのは「お見事」です.もう一回上巻から読み直さないとダメだな,これは.
    ガルシア=マルケスとバルガス=リョサは「南米系」というひとくくりにしていたんだけど,失礼しました.あなたたちは二人とも違った意味ですごい人達です.

  • 旧〈緑の家〉焼き討ちやボニファシアが〈緑の家〉で働くまでの来歴、フシーアとレアテギの過去、リトゥーマらの事件などが明らかになり、一見バラバラだった5つの話が40年に渡る一つの長い物語として姿を現す。

    最初はよく分からず混乱しながら読んでいたが、最後はとても面白く読めた。


    本書が読みにくい要因として、
    〈緑の家〉が新旧二種類あること、ボニファシアの名前が変わること、アキリーノという名前の人物が2人いること、〈デブ〉や〈チビ〉・軍曹といった呼び名
    などがあるが、下巻でそれぞれの関係が明らかになるので比較的読みやすくなった。

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緑の家(下) (岩波文庫)の作品紹介

"緑の家"を建てる盲目のハープ弾き、スラム街の不良たち、インディオを手下に従えて他部族の略奪を繰り返す日本人…。ペルー沿岸部の砂の町とアマゾン奥地の密林を舞台に、様々な人間たちの姿と現実を浮かび上がらせる、バルガス=リョサの代表作。

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