やし酒飲み (岩波文庫)

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003280119

作品紹介・あらすじ

「わたしは、十になった子供の頃から、やし酒飲みだった」-。やし酒を飲むことしか能のない男が、死んだ自分専属のやし酒造りの名人を呼び戻すため「死者の町」へと旅に出る。旅路で出会う、頭ガイ骨だけの紳士、幻の人質、親指から生まれ出た強力の子…。神話的想像力が豊かに息づく、アフリカ文学の最高傑作。作者自身による略歴(管啓次郎訳)を付す。

感想・レビュー・書評

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  • じぇじぇ!ジュジュマン(精霊?魔法使い?神?)の話であった。

    初めて「アフリカ文学」を読む。しかも内容は、現代感覚を微量に取り入れただけのように思える殆どアフリカ神話の世界。最初は読み進めるのが苦痛だった。初めての方は、訳者による解説から読んだ方がいいと思う。(あらすじは表紙写真を参照して下さい)

    しかし、驚くほどに日本神話に似ている。主人公は「神」なのだが、非常に人間的なのである。娘を怪物から助けて妻にする。その子どもが怪物になり殺されそうになるのも似ている。

    生まれたばかりの赤ン坊が怪物になるのは、一度ではない。それを殺すの父である主人公なのだが、まるきり倫理的苦痛を感じていないのである。

    森林は、万能ではない神である男にとって危険極まりない処だった。それは、アフリカの自然の厳しさでもあるのだろう。

    突然の不幸と生と死の往来、そして突然解決出来る未来。それは不思議ではあるのだけど、やはり何処か普遍性のある人間の人生なのかもしれない。
    2013年6月7日読了

    • 淳水堂さん
      kuma0504さん
      >じぇじぇ!ジュジュマン(精霊?魔法使い?神?)の話であった。
      これ、私も思いました(笑・笑)

      妖怪?が出て...
      kuma0504さん
      >じぇじぇ!ジュジュマン(精霊?魔法使い?神?)の話であった。
      これ、私も思いました(笑・笑)

      妖怪?が出てきたり、捕まっちゃったりするけれど、それが実に自然で当たり前。
      神話と自然と人間の生活が、当たり前のように入り混じったお話でしたね。
      2020/09/04
    • kuma0504さん
      古代日本では、精霊と神は同等だったと私は思っています。ただ弥生時代になって、ひとり強力な神を味方につけた。その継承儀式の舞台が古墳だったと思...
      古代日本では、精霊と神は同等だったと私は思っています。ただ弥生時代になって、ひとり強力な神を味方につけた。その継承儀式の舞台が古墳だったと思っています。縄文時代には、魔法使いもたくさんいただろうに。アフリカはそんな古代の世界が現代と地続きで小説化出来る!新鮮でした。
      2020/09/05
  • 「毎日大量のやし酒を飲んで暮らす。やし酒のみと呼ばれた男の話」やし酒を造ってくれる人が死んでしまい。
    生き返らせる?呼び戻すために
    冒険をする話

    「ブルース・ブラザーズ」で昔の恋人からバズーカ砲を受けたのにさらっと交わす感じ。何が起きても起きなくても当然のように話が進む。

    主人公が、やおよろずの神様で
    何がどこまで出来るのかがわからない。
    「それ出来るなら、なんでも出来るやろ」と思いきや出来ないこともあるのが妙で本人がそれを恥じてるのも面白い。

    ほぼ全編場面の描写なので、神様なら声に出して会話してないんじゃないか?とか「神様」というのは呼び名で全てなんからかの比喩なのではないか?など、話は短いけど楽しみ方が多い。独特なリズム。

    だんだんやし酒を飲んで
    酔ってそのまま見た夢?
    と思うようになり
    様々なことがぐるんぐるんと起こり、動じずに淡々と展開してく
    子供が考えたような話にも似てるけど
    神話でもある。
    なんか
    「アドベンチャー・タイム」っぽい。
    「えっいいの?」とか「あれ?ここらへん書いてて楽しくなってない?」とか
    スローテンポのラップのように刻んでくるのが心地よい。

    あえて解説はまだ読まない。
    想像して楽しむ。

  • 「わたしは十になった子供の頃からやし酒飲みだった。私の生活はやし酒を飲む以外には何もすることのない毎日でした」

    死んだやし酒作りを死者の町に呼び戻しに行く主人公の奇妙な旅。体の部分を他者から借りて完璧な紳士を装う骸骨、赤い魚と鳥に怯える赤い村の住人達、旅人を癒す白い木の中の誠実な母。だが主人公もジュジュ(まじないみたいなもの?)を扱う「この世のことはなんでもできる神々の”父"」なんだから負けてはいない。大食いの怪物に飲み込まれようと、首まで埋められふんずけられても、やし酒への情熱で、二歩下がって二歩半前進くらいのスピードでしっかり進んでいる。

    英語で書かれたアフリカ文学。原典はカタコトで文法も破格らしい。
    それが日本語訳するとどうにも言葉のパワーが薄れるのが残念。
    言葉が弱いとアフリカに根ざす音楽の存在や、死生観や自然への畏れもあまり感じられない。

    とりあえず読みながら頭の中の画像では、ドラムや銅鑼に合わせた木彫り人形の劇や影絵のようなものを思い浮かべてみた。

  • 10歳の頃からやし酒を飲むしか能がない男には、父が雇った専属のやし酒作り職人がいたのだが、ある日やしの木から落っこちて死んでしまう。途方に暮れた男は「死んだ人はすぐには天国へ行かず、この世のどこかに住んでいる」という古老の言葉を思い出し、死んだやし酒作りを探す旅へと出発する。


    1ページ目から文体の酩酊感がすごい。「神である彼の家に、人間が、わたしのように気軽に入ってはならないのだが、わたし自身も神でありジュジュマンだったので、この点は問題なかった」とかいう一文が、主人公が神である説明一切なく急に出てくるので困惑するが、読むほうもアルコールを入れるとだんだんチューニングが合ってくる(笑)。
    飲んだくれの語り手はどこも勇敢なところがないけれど、予言能力を持つ娘を娶ることになったり、訪れた村の人びとが全滅するなか自分たちだけ生き残り、あるいは生き返るような、古来の英雄譚を思わせる道程を辿る。魔物に追いかけられ、それを魔法で退治しながら新しい村に入り、その村のしきたりによる洗礼を受ける、というパターンの繰り返しはRPGゲーム的でもある。
    ディネセンの『アフリカの日々』と続けて読んだら、池澤夏樹個人編集の河出世界文学全集と同じ組み合わせだった。

  • 2019.9月後半 読了
    死ぬ権利を手放すには惜しい特権として扱うところが印象的。

  • ナイジェリアのチュツオーラによる神話的物語。

    主人公の「わたし」は、大金持ちの父のもとに生まれた。弟たちはみな働き者だったのに、「わたし」は、小さい頃から「やし酒」を飲むより能のない、とんでもない総領息子だった。
    普通なら「ばかもーん!」と怒られそうなところだが、なんと父は「わたし」のためにやし酒造りの名人を雇ってくれ、あまつさえ56万本のやしの木がはえた広いやし園までくれた。
    やし酒造りは毎朝150タルのやし酒を採取し、夕方にさらに75タル造ってくれる。これでめでたく「わたし」は毎日毎日、大勢の友だちとともに、文字通り浴びるほどやし酒を呑んで暮らせることになったのだ。
    しかし、幸せな日々は永遠には続かない。15年目、父が死ぬ。そしてその6ヶ月後、今度はやし酒造りが死んでしまった。
    翌日からはやし酒がない。しあわせな気分は去ってしまった。あんなにいた友だちも去ってしまった。必死に他のやし酒造りを探すけれど、「わたし」の要求を満たすだけの量を造れる名人は見つからない。
    「死んだ人はすぐには天国に行かず、この世のどこかにいるものだ」という古老の話を思い出した「私」は、死んだやし酒造りを見つけようと旅に出る。

    ・・・冒頭から突っ込みどころ満載なのだが、これはこの物語のほんの序の口である。
    とにもかくにも、やし酒なしではいられない「わたし」は、やし酒造りの居場所を尋ね歩く。情報を得る引き替えに、「死神」と渡り合ったり、ぱっと見は「完全な紳士」だが実は「頭ガイ骨」だけの男から娘を救い出したり、「死者の町」を目指したりする。

    いろいろあるけど、「わたし」は何だかんだと切り抜ける。何たって、この「わたし」、「この世のことはなんでもできる『やおよろず』の神の<父>」と呼ばれているのだ。
    ・・・ちょっと待て、なんでもできるなら、やし酒造りをすぐ見つけるとか、自分でやし酒をたんまり入手するとかできんのか(・・;)!?

    キツネにつままれたような気分になりつつも、何だかやし酒飲みの冒険の顛末が気になって先へ先へと読まされてしまう。
    「わたし」が出会う「生物」たちはときに奇怪で途方もなく、迷い込む森は暗く深く、何が出てくるか得体が知れない。
    予想のつかない冒険が「だ・である」と「です・ます」の混じる文体で綴られる。著者は短い期間で習得した英語でこの物語を書いている。おそらくはどこかたどたどしさの残る文章を、訳者がこのように置き換えたというところだろう。
    母語のヨルバ語の伝承が混じり、一種独特の、おどろおどろしいが魅力的な世界を創り出している。

    本編に加え、チュツオーラの自身が自らの人生を語った小文(「私の人生と活動」)、それに、訳者(土屋哲「チュツオーラとアフリカ神話の世界」)とドイツ語でも創作を行う日本人小説家(多和田葉子「異質な言語の面白さ」)による解説がつく。

    不条理とか、洋の東西の神話との比較など、なるほど文学論的にもいろいろ議論がありそうな作品だが、一般読者としては、まずは物語世界に放り込まれる感覚を楽しみたいところだ。

    それでやし酒造りは見つかるのかって・・・?
    うーん、見つかることは見つかるんだけど、それからまたいろいろあってねぇ(--;)。
    驚きの結末はぜひ、ご自身で。

  • 読み終わった後の第一声が「これ面白ーい!」でした(笑)。作者のチュツオーラは、アフリカはナイジェリアの作家だそうです。マジックリアリズムというよりは、民話的というか神話的というか、童話的でもあるけれど、口伝えの伝承みたいな不整合さに独特の面白さがあり、作者にとって母国語ではない英語で書かれたことに関係あるのかもしれないけど、その「拙さ」が逆に変な味になっちゃってる感じ。

    主人公は10歳の頃から「やし酒飲み」で、そのやし酒を作ってくれていた「やし酒造り」が死んでしまい、今までのように思う存分やし酒が飲めなくなったことから、死んだ「やし酒造り」を探す旅に出ます。その旅の途中で出会う変な生き物たち(死人だったり精霊みたいなものだったり怪物だったり様々)がとにかくユニークで、まるでボッシュやブリューゲルの絵に出てくるキテレツな生き物みたいな外見ですが、良い精霊もいれば悪い精霊もいて、どれも個性的。

    個人的にお気に入りだったのは、主人公が奥さんと出会うきっかけになる「完全な紳士」の化け物。見た目は非常に美しい紳士なのだけど、実は体のパーツが全部借り物で、それを一つづつ返していくと、最終的には骸骨になっちゃうっていう・・・。想像すると怖いけど面白い。そういう様々な変な怪物や精霊たちに、主人公は「ジュジュ」というものを使って対抗します。「ジュジュ」について何の説明もなかったけど、まあざっくり「呪術」的なものと解して間違いないかと(語感も似てるし・笑)。

    死者を追って死者の国に旅立つ物語というのは、日本ならイザナギイザナミの神話、ギリシャならオルフェウスあたりが有名どころですが、恋愛が絡んでいない分、この「やし酒飲み」は、死者との関係が割り切れてる印象です。追いかけて探し当てても、死者と生者は一緒には暮らせないし、死者には死者のルールがある。お国柄でしょうが、その独特の死生観も、他に類を見なくて新鮮でした。

    • yamaitsuさん
      「アフリカ文学」というジャンルがあるのかさえ、正直よくわからないですよね(笑)。専門の翻訳者(アフリカ語のできる人)というのもそんなに多くは...
      「アフリカ文学」というジャンルがあるのかさえ、正直よくわからないですよね(笑)。専門の翻訳者(アフリカ語のできる人)というのもそんなに多くはいないでしょうし。
      せめてこの作者の他の作品だけでも、もっと読めるようになると嬉しいのになあ。
      2012/12/14
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「正直よくわからないですよね(笑)」
      チュツオーラが異色過ぎるのでしょうか?ノーベル文学賞を受賞したナディン・ゴーディマーやJ・M・クッツェ...
      「正直よくわからないですよね(笑)」
      チュツオーラが異色過ぎるのでしょうか?ノーベル文学賞を受賞したナディン・ゴーディマーやJ・M・クッツェーを忘れてました。あと知人に教えられたのはターハル・ベン=ジェルーン(紹介して呉れたのは岡真理の信奉者)に、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ。でも少な過ぎですよね。。。
      2013/01/07
    • yamaitsuさん
      うわあ、全然知らない作家さんばかりです(汗)。基本文庫派なので、手軽に読める作家は、なかなかいらっしゃらなさそうですねえ。
      でもチュツオー...
      うわあ、全然知らない作家さんばかりです(汗)。基本文庫派なので、手軽に読める作家は、なかなかいらっしゃらなさそうですねえ。
      でもチュツオーラはとても面白かったので、これを機に教えていただいた他の作家も探して読んでみます!
      2013/01/08
  • 一度読みたいと思ってたアフリカ文学の傑作
    タイトルも冒頭部分も惹きつけられる
    1920年生まれのナイジェリアの作家
    原作は個性的な彼独特の英語で書かれてるらしい
    著者の略歴、訳者の詳細な解説、多和田葉子のあとがきなど充実している
    ただのアフリカ的神話風な物語ではない
    強い魅力に満ちた傑作

  • 20世紀に書かれた作品ながら神話の雰囲気を持つ、非常に独特な作品。何よりとても面白い。

    淡々と事の次第をつづる文章と登場する生き物や環境の設定の突飛さが魅力的で、全体をおおうちぐはぐさ、アンバランスさが絶妙。突飛さをことさらに押し出すことはせず、その突飛さがその世界のリアルであるかのように平然と描写する。
    ストーリーはシンプルで面白い。読むものを引き込む仕掛けとリズムのようなものが徹底されている印象を受ける。

    この物語はまさに神話だ。死神の由来やドラム、ソング、ダンスの最後などにあるように、物語の展開、結末がこの世界の成り立ちに関わっている。
    主人公がときどき自分が神であることを忘れたりするのがうっかりしていてかわいらしい。妻は次第に予言という能力で神性を帯びて物語の魅力に貢献する。

    指輪物語との共通点を感じる。あちらも創造した神話の話であるし、森の危険と森に住む様々な異形の生き物たちがいて、ときおり助けてくれるものや平安の地に癒されながら旅が続く。

    旅路で出会う異形の者たちは他部族の示唆だろうか。姿形、仕草や習慣は違っても人間らしい生き物たちがよく出てくる。物語の最後にも関わってくるが、ありがたがって群がったり、怖がって締め出したりとあまりに都合よくふるまう人間というものがよく描かれている。

    死者を探しに行く旅なのだが、空へ行くでもなく地下に行くでもなく地続きを歩いて死者を探すという世界観が面白い。ナイジェリアとザンビアでは全く違うが、そういえばザンビアにも森から死者の霊が来るニャウ・ヨレンバというのがあった。

    訳者のあとがきが少々退屈だった。書かれた時代が古いというのもあるだろうが、引用している研究者の意見も含めてかなり強引で、作品鑑賞の枠を超えて新説や知見をひけらしているように見える。この作品の魅力はあとがきに書かれているほかにずっと語るべきことがある気がするのだ。なによりたびたび出てくる"アフリカ"は主語が大きすぎる。一方で続く多和田葉子の巻末の文章は等身大の目線で作品を味わっていてよい。

    この作品の原語はどうやら"下手"な英語と受け取られるらしい。この作品の魅力は異質なものを並べてつむいでいくそのリズムであって、不純物を取り除いた結晶ではない。まさにこの物語の魅力が原語での響きにも現れているのだろう。英語版を読みたくなる。

  • 奇想天外!現代における神話!って感じの話。
    神話なので主人公が何考えてるかいまいちわからない…神話なので…。

    ですます調とだである調の混ざる文体なので、翻訳文学読みづら!と思っていたけれど、それは原文の調子を再現しようとした結果らしい。なるほど考えられてて面白い。

    語られてる内容は神代の話でも、たとえや描写が現代なのが面白い。フットボールスタジアムのような広い開けたところで踊るドラム・ダンス・ソングとか(うる覚え)
    主人公が不死になる経緯が面白い。白い木の中に入るときに、我々夫婦は死を売り、恐怖を月○○ドルの貸賃で貸した。白い木の中から出た時に、我々は恐怖を返してもらったが、死はもう売ってしまったので、返してもらえなかった、っていうの。
    不死は、多くの神話の中で、英雄たちがこれを求めて冒険したり彷徨ったりするものなのに、こんな軽いノリで手に入れちゃうんだ?!っていう。

    あと、実はガイコツである完璧な紳士に出会ったシーンも好き。私は彼を見たときに、神様が私を彼のように完璧に作ってくれなかったことが悲しくて泣き喚いた、っていうの。その表現の仕方好き。

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著者プロフィール

1920年、ナイジェリア生まれ。ヨルバ族出身。『やし酒飲み』はアフリカ最初の本格小説と激賞された。他の著書に『ブッシュ・オブ・ゴースツ』がある。1997年、没。

「2010年 『アフリカの日々/やし酒飲み』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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