- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003313343
作品紹介・あらすじ
下巻には近世史(宋-清)と最近世史(中華民国-中華人民共和国)を収める。宋では貴族が没落して庶民階級が興隆し、君主独裁制が確立した。著者は宋に発生した文化は頗る優秀なもので西洋文化にひけをとらず、東洋の近世文化は欧州の近世文化に影響を与えたと結論づける。また、歴史学は単なる事実の集積ではなく、論理の体系であるべきだと主張する。巻末には自著解説と自跋、年表、索引などを付す。
感想・レビュー・書評
-
「独裁者は辺境で生まれる」「名君の下で好景気になるのではなく、偶然に好景気が続いた結果として名君と呼ばれる」などなど宮崎氏の指摘は面白い。
文句なく名著である。
私は文庫化前の岩波全書で読んでいるが、ところどころ「ふりがな」してほしい言葉があるのが難。もしかしたら、文庫版では表記が改善されているかもしれない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
下巻では宋王朝による天下統一から、元、明、清を経て中共の成立まで、宮崎の時代区分論にしたがえば、近世から最近世までを扱う。この間、まず漢民族の宋朝が北方民族と対抗しながら、独自の歴史を展開するが、時の経過とともに老化現象が起こり、遼、金、蒙古という北方勢力との競争に敗れ、元朝の支配時代を迎える。次の明、清二王朝は多分にこの繰り返しだと宮崎は言う。即ち明は宋の繰り返しであり、清は元の繰り返しである。そして、宋に続く三王朝は近世の王朝という点で、宋の繰り返しという面がある。したがって、中国近世史の特徴を最も典型的に示すのが宋代であり、本巻の白眉もその叙述にあると言ってよい。
宋代の特徴として宮崎があげるのは、政治においては強力な君主独裁権の確立、経済においては貨幣経済の隆盛と好景気、文化においては儒教解釈を刷新した宋学や新興知識階級による古文復興運動など言わば中国版ルネッサンスだ。しかもいずれもヨーロッパに数百年先行したということが特筆に値する。見ようによっては中華思想丸出しの中国文明中心史観とも受け取られかねないし、実際一部の保守派知識人(例えば西尾幹二氏)にはそうした反発もある。
しかし、本書を丹念に読めば、宮崎の中国に対する極めてドライな批判精神が随所に現れている。ヨーロッパの近世絶対主義国家は近代国民国家のプロトタイプと言えるが、これと宮崎が宋王朝に見出した「近世」は明らかに異質なものだ。宮崎は言う。「宋代の政治機構は、軍人というものは革命を起こしたがるもの、文官というものは汚職をしたがるもの、という基本認識の上に立って、その弊害を防止することに重点が置かれている。こういう制度の下では、軍人も政治家も、抜群の功績を挙げることは望むべくもない。」軍の団結を分断するために指揮系統を分割して天子に直属せしめたり、地方政府に実質的な決裁権を一切与えず、重要事項の決断は天子一人の権利であるというような事態は、中央集権を確立したと言っても、封建的分権性をくぐり抜け、しかも規模において遥かにコンパクトな近世ヨーロッパ諸国では考えられない。
中国との類似性を見出せるとすればロシアであり、その「帝国」的体質である。宮崎がこのことに気づかなかったはずはない。宋代はあくまで中国の「近世」であって、それがヨーロッパ近世の先がけであると単純に宮崎が考えていたわけではない。惜しむらくはヨーロッパとの共通性の指摘の陰に隠れて、異質性があまり強調されなかったことだ。 -
歴史観について「全歴史過程を通じて有効な歴史理論とならねばならぬことである。さもなければその人の歴史に対する態度は一貫性を欠くことになる。」と著者が述べるように、この書には、著者の「景気史観」が一貫して流れている。その中で、宋を画期として多くのページを割いている。著者が意図した通り「読み易い」内容であり面白く読めるものとなっている。下巻は宋から鄧小平復活の頃まで。隅々まで滋味深い内容。
-
上下巻通読。ひとつポイントは「中国」と「異民族」との線引きが色濃いところ。けど中国史において、隋唐、元、清といった世界帝国は異民族が興したもので、両者は不可分でもある。昨今はユーラシア大陸の主役たる遊牧民族の活躍がクローズアップされつつあるが、本書は碩学による華夷思想が混じってなくもない従来の史観として、その対極かのようだった。(中国という言葉は、特定の民族や話し言葉でなく、文明とか文化の緩やかな総称として用いられている筈ではあるが、中国人という言葉が出ると、何をもってという疑問があり、時代の制約を感じる)ただし語り口は筋が通っていてわかり易く、唐太宗や清康熙ですら「たまたま良い時代だった」と過大評価しないところなどは、かえって信を置けた。歯に絹を着せないからこそ、著者の見解に興味を持てるところがある。宋の先進性を説くところなどは読みどころ。その分なのか逆にモンゴルへは辛口。交通量を文明そのものと見たり、宋元と明清は繰り返しという俯瞰、その時期の景気の良し悪しを重視するなど、古いながらもあちこちに新しい発見があり、読む価値ある本なのは確か。