- Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003340639
作品紹介・あらすじ
自らの存亡をかけて激突するアテナイとスパルタ。この戦いは、相手を根絶やしにせずには止まない、相いれない二つの文化の争いであった。
感想・レビュー・書評
-
あ、これ、未完(?)だったんだ。高校世界史で最終結果は知ってるんだけど。この作品には詳細で多くの地図および詳細な註解があるのに併せて文章も物語調ではなく事実を粛々と細かく書き連ねていく方式であることもありそれほど苦もなく読み進められた。さらにどちらかの側に立って描いていくのではなく、中立的に情報を多彩に提供しているので安心感というか信頼感を持ってじっくり味わうことができた。
ーーーーー
ペロポネーソス戦争は、古代ギリシア世界始まって以来の大規模な戦争であった。その渦中にあったトゥーキュディデースは、動乱の全過程を克明に記録する。ペロポネーソス戦争の経過を克明に追うことによって、トゥーキュディデースは、この古代ギリシア世界をゆさぶる激動の意味をつきとめようとした。自らの存亡をかけて激突するアテナイとスパルタ。この戦いは、相手を根絶やしにせずには止まない、相いれない二つの文化の争いであった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ペロポネソス戦争を記したトゥーキュディデースの戦史、岩波文庫版の第3巻。本書では、アテーナイのシケリア(シチリア島)遠征と、アテーナイの政争、そしてアテーナイ攻防戦が描かれる。
あまりにも無謀、そして欲望に駆られたアテーナイのシケリア遠征(シチリア島はラケダイモーンのあるペロポネソス半島よりも、四国よりも大きいのだ)。そもそもの戦略の甘さと現地における戦術の迂闊さからシケリア遠征軍は全滅してしまう。
シケリア遠征で大打撃を被ったアテーナイに対し、ラケダイモーンは攻勢を仕掛けていく。数々のポリスを自陣営に取り込む工作が飛び交い、果てはギリシャへの侵攻を食い止めたはずのペルシャとの同盟まで飛び出す。
そんな中で、アテーナイは政治不全に陥り、貴族政への回帰が図られ、遠征軍との間で内戦に陥りかける。民主制とは何らかの道徳/律する何かがなければどこまでも暴走してしまうものであることがよくわかる。
そもそもの争いの背景には、民主制と貴族政の対立だけでなく、イオニア系とドーリス系の民族対立まで孕んでいることがあらわになる。
そして、前巻がラケダイモーンの勇将ブラーシダースに象徴される文字通り戦記物の色合いが強いとするならば、本書は奸雄アルキビアデースに引っ掻き回される政争と陰謀の巻といえる。
戦史はペロポネソス戦争の全てを記しておらず、残りはクセノフォーンのギリシア史に続くが、著者の筆は徹頭徹尾冷静な目で事実の記述から個々の心情までをも洗い出そうとする。
正直、戦史は文章の密度が濃く、読みやすい本ではない。それでも、ペロポネソス戦争をトーキュディデースの冷徹な文章を通じて読むことは、文学的、歴史学的、政治史的観点から、大きな学びであろうと思う。