ガリア戦記 (岩波文庫 青407-1)

  • 岩波書店
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感想 : 78
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003340714

作品紹介・あらすじ

カエサル(前102頃‐前44)の率いるローマ軍のガリア(今のフランス)遠征の記録。現地から彼が送る戦闘の記録はローマ全市を熱狂のるつぼに化したという。7年にわたる激闘を描いたこの書物こそ、文筆家カエサルの名を不朽にし、モンテーニュをして「最も明晰な、最も雄弁な、最も真摯な歴史家」と賞讃せしめたものである。

感想・レビュー・書評

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  • 働き盛り、脂がノリに乗っているキレッキレのローマ執政官・カエサルによる言わずと知れた一大戦記。
    とにかく闘争に次ぐ闘争、アドレナリンがバチ漏れダダ漏れ水芸セント・へレンズ大噴火状態。
    めっちゃくちゃ面白かった!面白すぎて細かくメモを取りながら読んでいたら丸々一週間かかっておりました。

    筆マメな人物だったんでしょうか。紀元前58年から52年までの7年間に及びガリア各地部族の動向や戦闘の経過が実にまざまざと記述されており、尚且つ登場人物のキャラクターまでがしっかり描き分けられていて全く飽きが来ない。
    唐突に初出の人名が出てきたり、呼び方が箇所によって違ったり混乱する部分もちょいちょい見られるが、そこはメモでカバー。どうしてもわからない箇所は巻末の〈地名人名索引〉や補註を活用すれば解決できます。
    似たような人名が多いし〜ヌスとか〜ウスとかどんだけ出てくるのよって感じだけど慣れさえすれば問題無し。むしろ難関は部族名、そして地名・都市名だと思うけど、それも頻出する単語は嫌でも馴染んでくるし世界史好きならばともかく騙されたと思って一度読んでみてもらいたい。

    以下、個人的ポイントを箇条書き…
    ・カエサルがスーパーヒーロー。味方のピンチに颯爽と駆けつけ縦横に軍略を巡らし敵を撃破していく爽快感。
    ・副将のティトゥス・ラビエーヌスもかっこいい。何でもこなすスーパーサブ。良将。
    ・エブロネース族のアンビオリクスは相当なクズ。後味も悪い。
    ・「すぐ怒る野蛮な乱暴な人」(p57)と評されるゲルマーニー人の王・アリオウィストゥスは強者の風格だけど散々な目に遭う。
    ・ヘタレ過ぎて名前が残ってしまったローマの偵察兵「コンシディウス」(p47)。
    ・「ゲルマーニー人は〜(中略)〜いちばん長く童貞を守っていたものが絶讃される。その童貞を守ることによって身長ものび体力や神経が強くなるものと思っている。」(p232、233)そうなのか。
    ・「クローディウス」(p251)あなたはどちら様でしょうか…何度読み返しても名が見当たらず検索に時間を取られましたが索引に解説あり、あっさり解決。

    かなり唐突にスンッと終わるので拍子抜けするかもしれないが、読了感は満足のひとこと。続編の『内乱記』も手に入れたい。


    84刷
    2024.1.11

  • 紀元前58年から紀元前52年(紀元前51年にも戦役は続いたが)までの7年間に行われたカエサルのガリア平定の記録。名文家で知られるカエサルの筆によると一般的にいわれている第一巻から第七巻までが収められている。

    一文一文が簡潔で、複雑な戦況や諸部族との駆け引きを、竹を割ったように分かりやすく記述していく。まるで文体そのものが、混沌とした状況のガリアにローマ支配下による秩序をもたらしていったカエサルの業績さながらであると感じた。

    また、それ以上に印象に残ったのが、客観的な視点だった。終始「カエサルは、」と第三人称で書かれるスタイルが取られており、自らの戦記という最も主観的かつドラマチックに書かれてもおかしくない文章を、第三人称で書き切っている。

    この点に、当事者として局面に深く関わりながら冷静な視点を失わない、カエサルの透徹した状況把握、判断能力がにじみ出ているように感じた。「人は見たいようにものを見る」と言ったカエサル自身は、そのことを意識的に避けてきたからこそ、この7年にわたる戦役で、様々な部族間の駆け引きやローマ軍の危機を乗り越えることができたのだろう。

    全体を通じて感じたのは、ローマ軍は局地戦や一部の会戦で敗れることはあっても、全体的には事前の周到な準備、機動的で連携した作戦行動、そして作戦目的の一貫性の面でガリアやゲルマニアの諸部族を凌駕しており、それによってこの戦役全体に勝利を収めることができたのではないかということだ。

    ガリアやゲルマニアの諸部族は、次々とローマに対して抵抗を試みるが、一時的な武勇や合従連衡によって優位に立つことはあっても、一貫した連携行動や城塞構築などの軍事行動といった点では、ローマ軍には及ばなかった。

    また、諸部族を支配下に収めながら属州統治という「帝国システム」を広げていき、支配下の諸部族にとっても安定と繁栄が約束される体制を目指したローマに対し、ガリアやゲルマニアの諸部族は、そのような統治システムではなく、部族間の力の均衡や上下関係による合従連衡に過ぎなかったように感じる。

    このような点を通して、この長い戦役をローマがほぼ主導権と主体性を持ちながら進めていくことができた背景が、伝わってきた。

    カエサルの合理的で透徹した視点を持つ統治者としての力量と、一方で、敵の部族の領袖を懐柔し、戦場で部下を督励する人間味のあふれる姿の両方を味わうことができ、非常に感銘を受けた。

  • 人は見えるものより見えないことに思い悩む。

  • カエサルの世界的に有名な戦記。戦いばかりの内容であるが、史実から当時の時代をかいまみることができ、貴重。

    九州大学:すず

  • 塩野七生を読んでいないと、かなり理解が難しかったように思う。添付の民族の地図を拡大コピーして、照らし合わせて読んだ。かなりあっさりとした文体。塩野七生であんなに盛り上がった”アレシアの戦い”もあっさりと書かれていた。一貫して思ったのは、カエサルは指揮官としての意識を強く持っていて、部下への指示も、また部下の行動に対する評価も、指揮官の目線で客観的に行っていること。なによりも、客観的事実に基づいて何事も判断していて、私情が一切、出ていないところがすばらしい。また、途中、カエサルが、ガリア人やゲルマニア人の文化や生活習慣、さらに生息している動物について説明しているのが、とても興味深い。
    岩波の近山訳の方が、国原訳よりも、カエサル像がはっきりしているように思う。また、本の作りとしても、読み始めるにあたっての時代背景や地図が一番最初にあり、段落毎に注解もあって読みやすかった。

  • どんなものかと思ったけど、戦争の背景に当時の風俗からとても詳しく書いてありとても面白かったです。
    但し、部族名が大量に出てくるのと、地名や川の場所など地理的背景が分かり辛いのが難点です。
    添付の地図は分かり辛いので、地図を印刷して書き込みながら読み進める必要がありました。

  • くっそおもしろい。カエサルのガリア遠征をただ延々と描いてるだけなのに、下手な戦争ものの小説や映画よりはるかにおもしろい。
    やっぱり戦争は兵站と土木技術なんだな。いかに物資を前線に運び、いかに陣地を形成するか。勇猛果敢な武人、軍師の奇策、なんてのは、戦争の上っ面のそのまた上澄みみたいなもんなんだよね。

  • カエサルが自身の有利に書いていたり、ゲルマーニー人への偏見っぽい描写とかもあるけど、総体的に読み物としてのレベルが非常に高いことにまず驚かされる。最後のウェルキンゲトリクスの描写にあたっては、彼の指揮官としての素質が十分に描かれているし、それを敵としてカエサルが非常に警戒していたことも分かる。古典やローマが好きな人なら絶対に読むべき。

  • 多少の誇張はもちろんあるだろうが当時の戦況やカエサルの思考を垣間見れただけで価値があった。本のはじめの方に各部族や国の地図があるので、それを見ながら話を追っていくと戦況の進み具合などが俯瞰できて良いかと思う。

  • 【内容】
    古代ローマ共和政末期の紀元前50年代、フランス方面での戦争を報告。
    執筆者は執政官経験後の属州提督であり、当該戦争においてローマ軍を指揮した人です。
    訳者による解説と幾らかの簡略地図、索引が付いているので本書単体での理解は可能でしょう。

    【類別】
    戦記。

    【着目】
    まず簡潔的に分かりやすい文体が目立ちますが、読み進めるにつれて凝らされた技巧を感じるかもしれません。技巧とはつまり、(1)三人称視点での記述を為すことによってあたかも内容全てが客観事実であるかのように思わせること(2)物語的な記述で脚色を意識させないこと(3)「敵」「味方」という表現で全体を統一することにより読者を無意識のうちに「味方」側へ引きこみ「味方」意識を強めること、以上3点の能弁です。
    また、部族や地名等の固有名詞の多さも目を引きます。
    したがって雄弁に関心を寄せる人へお薦めしたい著作ではあるものの、総合的な読みやすさは保証できません。

    【備考】
    このレビューは第75刷に拠っています。
    本書には、原典における第8巻(異なる筆者による戦後処理記述)は収録されていません。
    余談として、このレビューは以前に希望聴取されて贈られていたものを繙読したのちに書かれました。

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