一外交官の見た明治維新〈下〉 (岩波文庫 青 425-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003342527

作品紹介・あらすじ

1862(文久2)年江戸在勤の通訳を拝命してから、1869(明治2)年一時帰国するまでの日本での体験・見聞を綴ったイギリスの外交官サトウの回想録。日本の事情に通じていたサトウは、相次ぐ事件のエピソードにからめて、当時の日本の風物、人情、習慣などを生き生きと描き出す。わが国近代史上に活躍した外国人の記録の中でも出色の1冊。

感想・レビュー・書評

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  • 再読。下巻では慶応3年、長崎で起こった英国水兵殺害事件(イカルス号事件)の犯人捜しでサトウもあちこち通訳に駆り出される。当初、犯人として疑われたのは海援隊士だったので、英国側は土佐藩に犯人を差し出すよう要求、モメにもめる(実は犯人は筑前藩士で、土佐藩はとんだとばっちり)

    そうこうしているうちに大政奉還、王政復古、そしてついに戊辰戦争へ。そうしている間にも相変わらず攘夷浪人による外国人襲撃事件は続き、サトウはその対応にも追われつつ、勝海舟や各藩の要人とも面会。長州の伊藤、土佐の後藤象二郎とはずっと仲良し、後半になると、大久保、木戸といった大物との面談も増え、ついに明治天皇とも謁見。

    20才で日本へやってきて26才までの6年半の任期を終え、英国へ帰国するところで本書は終了。サトウはその後も何度か日本に赴任し、日本についての本をびっくりするくらい沢山、英国で出版している。以下上巻に続き、人物評やエピソードなど抜粋。


    【後藤象二郎】後藤は、それまでに会った日本人の中で最も物わかりのよい人物の一人であったので、大いにハリー卿の気に入った。そして、私の見るところでは、ただ西郷だけが人物の点で一枚後藤にまさっていたと思う。(61)

    【山内容堂】容堂は身の丈高く、すこし痘痕顔で、歯がわるく、早口でしゃべる癖があった。彼は、確かにからだの具合が悪いようだったが、これは全く大酒のせいだったと思う。容堂の意見から判断すると、彼は偏見にとらわれず、その政治的見解も決して保守的なものではなかった。しかし、薩摩や長州と共にあくまで変革の方向に進んでゆく用意があったかと言うと、それはどうも疑わしかった。(66)

    【桂小五郎】その日、夕飯のとき、私は有名な木戸準一郎、別名桂小五郎に初めて会った。木戸は、一八六四年以来の私の知友伊藤俊輔と一緒に領事館へたずねてきたのである。桂は、軍事的、政治的に最大の勇気と決意を心底に蔵していた人物だが、その態度はあくまで温和で、物柔らかであった。(67)

    【松平容保・松平定敬】会津は年のころ三十二歳ぐらい、中背でやせており、かぎ鼻の、色の浅黒い人物だった。桑名は一見二十四歳ぐらい、あばた顔の、からだの小さい、醜い青年だった。(106)

    【徳川慶喜】ついに、上様は疲労を覚えたと言って、会見を切り上げた。この五月には、気位も高く態度も立派だったのに、こんなにも変わり果てたかと思うと、同情の念を禁じ得なかった。眼前の慶喜は、やせ、疲れて、音声も哀調をおびていた。(108)

    【陸奥宗光】同日、陸奥陽之助という紀州生まれの若い土佐藩士が会いに来たので、私はこの男を相手に外国公使の天皇政府承認に関する問題を論じた。(中略)陸奥は、自分は後藤の使者として来たものではないから、単に個人としての意見を述べるに過ぎないと言った。(114)

    【大山巌・伊地知正治】私が江戸で知った薩摩の人大山弥助が、私たちの護衛隊の指揮を命ぜられたと言って、自己紹介にやってきた。(中略)大山は四時に伊知地(※原文ママ)正治という醜い、不格好な老人をつれて戻って来たが、この伊知地は薩摩の大将株の一人であるらしかった。伊知地は、くどくどしく挨拶の文句をのべてから、まるで舞踏病患者のようにびくつきながら、木場の秘書が言った通りの言いわけをならべた。(147-148)

    【大久保利通】その晩、私は薩摩の家老で内国事務係、参与の一人である大久保一蔵をたずねた。前年私は大久保と進物のやり取りをしたが、まだ一度も顔を合わせていなかったので、面識を得たかったのである。二人は単に儀礼的な挨拶にとどまらず、興味ある談話をかわした。(156)

    【岩倉具視】次に岩倉を訪問したが、彼は、皇居の西側の公卿門から入って、ちょうど門の向かいに当たる所に仮宅をもっていた。きびしい顔つきの、老けて見える人物だったが、言葉に腹蔵がなかった。(181)

    【明治天皇】多分化粧しておられたのだろうが、色が白かった。口の格好はよくなく、医者のいう突顎であったが、大体から見て顔の輪郭はととのっていた。眉毛はそられて、その1インチ上の方に描き眉がしてあった。衣裳は、うしろへたれた長い黒色のゆるやかな肩衣に、マントのような白い長枹、それに紫色のゆるやかな長袴であった。(199)

    【毛利敬親】来賓の大部分は知識のある人々なので、態度もよかったが、長州侯は大きい赤ん坊のようにふるまって、私を隣席へすわらせようとしてきかず、またシャンペン酒をからだに悪いほど痛飲した。ところで、日本の諸侯はばかだが、わざわざ馬鹿になるように教育されてきたのだから、責めるのは無理だという気がした。(200)

  • 楽しいか?面白いか?と言われたら…
    幕末・維新が好きな人には是非一読下さい。かな
    英傑の英雄としての伝記が読みたい人は退屈。
    高杉晋作、坂本龍馬、西郷隆盛、木戸孝允は名前が出てくる位…それが如何に凄い事かと改めて思う

  • 日本の歴史上、おそらく最も大きな変革が行われた時代の有り様を、まさにリアルタイムで経験した記録は、外国人という立場から幕府側、官軍側のどちらにも片寄らない関わりとなっていて、まさに歴史の得難い証言と言えるものであろう。

  • 下巻からきな臭くなってくる

  • 明治新政府樹立に向けた動きの中で、諸外国の関与のあり方に違いが見えて面白い。特に英仏の見通しの水準の違いはどこから生まれているのか。当時の貿易額や外国人居留地人口からいっても英は単独で三分の一を占めていた訳だが、それ以上に外交官の質の差が大きかったのではないか。

  • 本書の著者は文久2年(1862)に通訳として来日したイギリス人外交官である。幕府との外交折衝や薩摩・長州藩士との密談など、国内の権力闘争劇とは異なる、グローバルな幕末・維新が描かれている。
    英語が好きな人は原著もお薦め。

    大阪府立大学図書館OPACへ↓
    https://opac.osakafu-u.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=2000034907

  • この下巻では、仕事しながら日本各地へ行って見聞したり、戊辰戦争などの後遺症など書かれています。

  • 原書名:A Diplomat in Japan

    日本の役人との社交、新潟、佐渡の金山、七尾訪問
    陸路、七尾から大坂へ
    大坂と徳島
    土佐と長崎
    将軍政治の没落
    内乱の勃発(一八六八年)
    伏見の戦争
    備前事件
    初めての京都訪問
    腹切、京都における天皇謁見の交渉
    堺におけるフランス水兵虐殺
    京都、天皇に謁見
    江戸帰着、および大坂における公使の新信任状奉呈
    雑多な事件、水戸の政争
    若松の占領と天皇の江戸行幸
    榎本、脱走した徳川の軍艦をもって蝦夷を攻略
    一八六九年、江戸において天皇に謁見
    東京における最後の滞在、故国へ出発

    著者:アーネスト・サトウ(Satow, Ernest Mason, 1843-1929、イングランド・ロンドン、外交官)
    訳者:坂田精一(1903-1988)

  • 1862年に通訳としてイギリスから日本に来たアーネスト・サトウの第一回目日本滞在の回顧録。薩長との関係、幕府との関係、他国の外交官たちのと関係など、幕末の事情が生々しく語られている。明治維新・戊辰戦争の最中の明治2年に一旦イギリスに帰るまでが描かれている。

  • リアル。最高。現代人の感覚だと当時の外国人の感想が一番しっくりくるのではないか。

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著者プロフィール

(Ernest Mason Satow)
一八四三~一九二九。イギリス出身の外交官。ロンドンのユニバーシティ・カレッジ卒業後、イギリス公使館で通訳生として雇用される。一八六二年に来日し、一八六六年に英字新聞『ジャパン・タイムズ』に、三回に分けて『英国策論』を発表した。

「2023年 『増補新版 現代語訳 墨夷応接録・英国策論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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