幕末百話 増補 (岩波文庫 青 469-1)

著者 :
  • 岩波書店
3.71
  • (12)
  • (18)
  • (27)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 291
感想 : 21
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (329ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003346914

作品紹介・あらすじ

明治も半ば過ぎ、篠田鉱造(1871‐1965)は幕末の古老の話の採集を思い立つ。廃刀から丸腰、ちょん髷から散切、士族の商法、殿様の栄耀、お国入りの騒ぎ、辻斬りの有様、安政の大地震…幕末維新を目の当たりにした人々の話は、想像もつかない面白いことずくめだった。激変期の日本社会を庶民が語る実話集。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 再読。戊辰戦争後60年の昭和3年前後に明治維新回顧ブームがあったようで、『戊辰物語』もそうだったけれどこちらも古老への聞き書き集。報知新聞の記者だった篠田鉱造が明治35年から連載したものを昭和4年に1冊にまとめて出版されたもの。タイトル通り100人分の談話が収録されている。

    おなじみ彰義隊の話、薩摩藩邸焼き討ち、桜田門外の変目撃談、歌舞伎役者の話(沢村田之助)の他、お茶壺道中、その松茸バージョン、大名の大奥やお姫様の話などから、横暴な旗本や与力のパワハラまがいのエピソード(被害者だけでなく加害者側の懺悔も)その他さまざまな職業の人のちょっとした思い出話で、歴史的に貴重な証言であると同時に、いろんな人の人生を垣間見る面白さがある。

    幕府のお役人の腐敗ぶりはこういう談話の節々にも顕れていて、こりゃ滅びるわ、とつくづく思うも、では今現在私の生きている社会がこれより素晴らしいかというとそうでもないような気もするので、昔は酷かったが今は良いとも思えないし、ただただ昔が良かったと絶賛することもない、つまり人間って変わらないんだな。政治の腐敗もそうだし、刃傷沙汰もやっぱり多い。

    銭湯で将軍の悪口を言っただけで逮捕されて拷問されて一人は死刑になった話など、怖すぎてどこの独裁国家かディストピアかと思った。将軍様が旅行すると、宿場ごとに先回りしてダッシュで専用トイレを設置する係がいて、さらに将軍様の出した○○は、そのまま保管して持ち帰るという話にも驚愕。

    番外編的に収録されている「今戸の寮」は、幕末の頃には金持ちの別荘地だった今戸の三谷家というお金持ちに、明治5年から奉公することになった、おまささんという女性の回想話。寮というのは今でいう別荘の意味らしい。三谷家は政府の御用商人のような感じか。山県有朋や木戸孝允も泊まったそうで、とくに陸軍卿時代の山県はご贔屓だったらしい。おまささんがこっそり山県専用の布団で寝てみるエピソードなど微笑ましい(※別に好きだったわけではなくお金持ちの使う贅沢な布団で寝てみたかっただけ)

    82話めで最後に談話者の言う「実にあの頃の事々物々は夢です。今日から見ますとお話になりません。けれども夢としては、面白い夢を見たと思っていますンで。(219頁)」という言葉がとてもいい。いつか自分も昭和や平成時代のことをそんな風に思うのだろうか。

  • 歴史を知る事はいかに難しいことか。幕末を生きた市井の人々の話を100聴いても、見えるのはほんの一部の人のその目線からの景色と個人の出来事の集まりだ。でも何がかつてそこにあった出来事と人間たちの姿を伝えてくれるかわからない。ただただそれを何らかの形でも残そうとしてくれた人達に感謝するのみ。

  • 百話の方は生き生きとした描写を、今戸の寮の方は、一転しみじみとした場景を綴る。却って日本語が新鮮に感じられるのはどういうわけか。

  • 関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB00224341

  • 後題:武田鶯塘、解説:尾崎秀樹

  • 幕末の雰囲気が色々な当時の話から伝わってくる。意外と刃傷沙汰の事件が一般庶民の近くでもあったんだなというのが、よく分かった。結構どうしようもない木っ端役人の話などリアリティがあって面白い本です。
    話の内容はとても面白いが、時代が近いであろう福翁自伝よりは読みづらい印象があった。

  • 新書文庫

  • 面白いのだけど、全部は読みきれなかった。

  • だいぶ以前に読んだが、傑作だと思う。明治時代に、江戸末期をいきた老爺の昔話を聞き取って書かれた作品。当時の雰囲気が鮮やかに伝わってくるとともに、筆者の昔を大切にする気持ちも伝わってくるようだ。姉妹編ともいうべき明治百話も面白い。

  • 昭和初期、幕末明治を回顧する風潮が高まったようだ。約60年後、幕末維新が”歴史”になろうとしていたからだ。
    ”歴史”になろうとするときに、それを体験している人々の話を集め、”歴史”を記録する。人間の知恵なのかもしれない。
    本著に取り上げられている諸話は、史実を追う、というものではなく、意識して庶民の、つまり歴史の裏側にスポットを当てたものである。
    その意味では、歴史書として時代の意義、繋がりを知ろうとして読むと期待外れになる。

    (引用)
    ・(コレラが流行った際の噂)「浦賀へ来た黒船が置いて行った魔法で、異人が海岸へ来て何か洗ったが、その時のあぶくと言ったら、真っ白なのが一杯、あれが魚の腹へ入って江戸の人やなんかの口へ入ったんで、その白いのが魔法のタネなんです」と詳しく話しましたが、今から考えると馬鹿々々しい。石鹸なんです。

    ・(生麦事件に際して)異人の談判に対して、「いやそれは幕府の関するところではない。薩藩の仕業じゃ。京都禁裏に係る事だ」と、逃げを張った。これがそもそも幕府の権力が薄くなる根本で、自ら箔を剥がしたも同様じゃ。遂に幕府がこの逃げを張ったため、異人に将軍の上にまた天皇があることが知れた。

全21件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

ジャーナリスト。新聞記者。取材能力を駆使して、故老から貴重な話を聞き出し、『幕末百話』『明治百話』『幕末明治女百話』などにまとめた。

「2016年 『銀座百話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

篠田鉱造の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×