迷宮としての世界(下)――マニエリスム美術 (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003357521

作品紹介・あらすじ

古典主義もマニエリスムも神を明るみにだそうとする。マニエリスムは神を、力、働き、意志として描き、寓意、象徴、抽象図形等が現われる。古典主義は神を本質において描き、マニエリスムは実存において描く。マニエリスムの諸相を詳述。

感想・レビュー・書評

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  •  下巻では、ルドルフ二世やフロイトなどその時代の象徴であった人物に触れたり、アルチンボルドやレオナルドを深掘りしたり、一角獣やヘルマフロディトゥスがなにを象徴しているかについて詳細に語ったり、と、あちこちに話が飛んでいく。男女が抱き合うことは、対立するものが対立するままにともに存在すること。古典主義とマニエリスムも、相手の存在ゆえに存在する。その二つを無理に結合しようとするのではなく、板挟みの状態のまま、間を歩んでいくことが最後に推奨される。シェイクスピアやレンブラントのように。

  • 美術史のなかでルネサンスとバロックのあいだにある過渡期を指す時代区分の名前だった「マニエリスム」。ホッケはその様式を一回性のものではなく、古代から繰り返しあらわれる「ヨーロッパの常数」として定義し直し、20世紀前半のアートシーンを結びつけようとした。マニエリスム芸術の評価を変えた一冊。


    澁澤・種村のネタ元のひとつ、やっっっと読めた………!何度もチャレンジして挫折してきたけど、少しずつ美術史関連の本を読んできた今だからこそ理解できる内容だったと思う。
    読み通して意外だったのは、予想以上に本がでた当時の同時代ムーブメントだったシュルレアリスムを語るためにマニエリスムを援用する内容だったこと。ホッケはベルギー生まれだがドイツを拠点に活動し、原書は戦後の54年に刊行されているのだが、ホッケはなかで「原子力時代」への危機感を語り、ヨーロッパ精神とは元々「多元主義」なのだと、世界の分裂をつなぎとめようとしたルドルフ2世へのシンパシーをあらわにしている。この辺の熱い筆致が魅力なのと同時に「いささかヤクザ」(由良君美)と言われる所以なのだろう。
    ホッケのマニエリスム論の概略は「既存世界を形作っていた秩序が崩壊し、目に見えるものが信じられなくなったとき、直観的・幻想的な芸術がよりイデア的な〈真実〉味のあるものとして求められる=常数としてのマニエリスム」と理解した。1520~1650年代(狭義のマニエリスム期)は、それまでのキリスト教会が唱えてきた世界観が変容を迫られた。1880~1950年代は、アフガン戦争を皮切りに西洋が大戦へなだれこんでいった時代だった。ホッケはそれまで過度に人工的で遊戯的な退廃趣味としか思われていなかったマニエリスムの背景に、時代の現実に対する切実さを見いだし、己の時代と重ね合わせようとした。
    「世界は迷宮であり、解き方を知る者だけが真実に辿り着く」と言うマニエリスムの世界観は密教的で、陰謀論的ではある。そこに現代に通じる危うさがあるからこそ、本書は今後も読み継がれていくんじゃないかと思う。
    今回初めて知った作品では、16世紀のキュビストと呼ばれているルーカ・カンビアーソが面白かった。デッサン人形のように単純化した人体を描いている。ボッロミーニのサン・カルロ・アッレ・クワトロ・フォンターネ聖堂のドームのデザインもモダン。20世紀の芸術家ではクレリチびいきなのが嬉しかったな。私も好き。

  • 美術

  • 何にでもマニエリスムを牽強付会する困った本だなと思っていたが、高山宏氏の解説を読んで、マニエリスムを拡大解釈というか、欧州の文化基底の一つと数える本だと理解すべきだと知る。アンチボルドの絵より先に国芳のを知った身としてはマニエリスムは基底になりうるのかなと思わないでもない。とりあえず、睡魔に襲われつつ読んだので、ろくに頭に入ってない故、後日再読せねば。。

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。
    通常の配架場所は、1階文庫本コーナー 請求記号701.2/H81/2

  • 古典様式とマニエリスム/古典様式はマニエリスムから新しい緊張を体験し、マニエリスムは古典様式から、よりするどい輪郭、より明快な「フォルム」を体験することになろう。
    古典様式とマニエリスムにおける<原身振り>
    =構造-形象、男性的-女性的、ロゴス-秘密、自然-「イデア」、自然的-技巧的、難攻不落-支離滅裂、昇華-暴露、平衡-不安定、一体性-分裂、綜合-分解、硬化-解体、性格-個性、アニムス-アニマ、形態-歪曲、威厳-自由、秩序-反抗、円-楕円、慣習-人工性、神学-魔術、教養学-神秘学、明るみ-秘匿、etc.

  • 【自分のための読書メモ】

     下巻でおもしろいのは、4章「ルドルフ二世時代のプラーハ」。この時代、この都市、この皇帝は、『薔薇十字の覚醒』にも登場してくる。
     そして最終章。
     「マニエリスムなき古典様式は、擬古典主義に堕し、古典様式なきマニエリスムは衒奇性に堕す。」という有名なフレーズ。その前段の「磁気の法則」のたとえによって、理解できる。

    マニエリスム=知的末法思想

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著者プロフィール

(Gustav René Hocke)
1908年ブリュッセルでドイツ系の父とフランス系の母のもとに生れる。ベルリン大学在籍中にE. R. クルツィウスの著作に触発されてボン大学に移る。長期のパリ留学を経て1934年に師の審査のもとで哲学博士の学位を得る。同年ケルン新聞に入社。最初のイタリア旅行後イタリアと大ギリシア文化の研究に没頭する。1940年ケルン新聞ローマ特派員。戦争による中断後1949年戦後初のドイツ通信員としてローマを再訪し精力的なジャーナリズム活動を続ける傍ら包括的なマニエリスム研究に従事。その後は今日の世界における人間の地位に関して、文学と芸術の間の関係を主な研究テーマとした。1985年7月14日死去。1950年来ドイツ言語文学アカデミー会員、1969年イタリア共和国地中海アカデミーの、1970年ローマのテーヴェレ・アカデミーの会員。1978年ウィーン芸術大学から教授の称号を贈られ、またヴィエンナーレ国際美術批評賞を受賞したほか各国政府から数々の顕彰を受けている。主な著書は、著者のライフワークであり本書をも含めてマニエリスム研究の三部作をなす、『迷宮としての世界』(1957)、『文学におけるマニエリスム』(1959)が知られている。

「2014年 『ヨーロッパの日記 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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