幸福論(アラン) (岩波文庫 青 656-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003365625

感想・レビュー・書評

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  • 地方暮らしは楽しいこともいろいろあるとはいえ、コロナ禍もあいまって、大型書店になかなかいけなくなってしまったのは、最近の悩みのひとつ。
    そんな中で、久しぶりにちょっと大きめの書店に行くチャンスがあると、いや〜もう、テンションが爆上がり。
    買いすぎないように気をつけるけど……まあ、買っちゃいますよね。
    だって次、いつ来られるかわからないもんね。
    というわけで(?)ちょうど文庫フェアが開催されていたこともあって、いそいそと手にとってレジに向かったのが、この『アラン幸福論』。
    前から読みたかったんです。

    書名に「アラン」とだけあって、苗字も書かれてなくて、誰だろう?と思ったけれど、本名はエミール・シャルティエと言って、19世紀半ばから20世紀半ばまでを生きたフランスの哲学者、だそうです。
    本書は、彼が新聞に連載した膨大な短文(プロポ、というらしい)の中から、幸福に関するもの93編を選び、構成しなおしたもの。
    1編が1400字弱くらいなのですが、これを毎日連載して総計5000にものぼったって……エネルギーがすごすぎる!

    さてこの本、アランは哲学の高校教師でもあったからか、すごく親しみやすくて楽しく読めました。
    ここのところ、哲学や思想の古典を読みたいと思ってこつこつ挑戦しているけれど、だいたい、先の見えない山の頂上を目指して、一歩一歩進んでいく、というような読み心地なのですが、アランはもっとこちらに寄り添ってくれる感じ。
    「腎臓結石を病んでいて、かなりふさぎこんでいる友人」とか、「樵(きこり)を生業としていた手相を読むことができた砲兵」とか、登場するエピソードも身近です。

    久しぶりにほっとするなあ、と思いながら読みすすめるなかで、心に響いたのが、次の一文。

    「ほんとうを言えば、上機嫌など存在しないのだ。気分というのは、正確に言えば、いつも悪いものなのだ。だから、幸福とはすべて、意志と自己克服とによるものである。」

    たとえば、今日の夕食の献立が決まらない、といったすごい些細なことでもクヨクヨ考えがちな自分としては、読んですごく気持ちが楽になったし、同時にしばらく前に読んだ『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』を思い出しました。
    ありがとうアラン、ほんとうのことを書いてくれて。
    「幸せになりたい」と思うほど、「幸せとはなんだろう?」「幸せになるために必要なことって?」という問いに立ち返るけれど、最近はそのグルグル回りがなんだか楽しいなあ、と感じています。
    唯一、従軍に肯定的な点は賛成できなかったけれど、温かくて力強い一冊でした。

  • 読書って、どうしても生活との天秤だ。生活が充実していないのに読書ばかりを続けたから、ある時期からだんだん澱みはじめていた。それならさっさと書を捨てよ、と言われそうだが、お別れの一冊のようなものを探していた。

    アランの幸福論は、とてもピッタリの一冊だった。
    思考や想像力の沼に捕らわれた僕を、カラリと明るい風で吹き払ってくれる。

    どんな賢人の知恵も、本で読む限りは思考と想像力をもって挑まなければならない。けれど、その思考や想像力こそが、人の苦悩を水増しし、四苦八苦の泥沼に引き込んでしまう張本人でもある。仏教、特に禅などは、この泥沼を吹き払ってしまうことで苦しみの多い世界でも悠々闊歩する力を得ようとするが、それさえもやっぱり読書を通して触れようとすれば、逆効果になったりする。アランの言葉は、とても日常的で平凡な顔をしているが、しかしそれこそがこのテーマの真髄ではないか。

    不安や恐怖、悲しみや憂鬱を真剣に思い煩うより、まずは肩をすくめてほほ笑みたまえ、といったところか。

    根つめて通読する必要のない、90もの断章になっているので、日々少しずつ読もうと思う。

  • 世界的に知られたアランによるエッセイ。
    「幸福」をテーマに、2〜4ページの断章が本書には90ちかく収録されている。

    内容は平易で、哲学的な内容ではあるが非常に理解やすい。説教臭くもなく、押し付けがましくもない。
    あと、とにかく文章が美しい。
    アンドレ・モーロア(19世紀フランスの小説家)をして「これは、私の判断では、世界中でもっとも美しい本の一つである」とのことだが、確かにそう思う。その魅力を減らすことなく伝えている訳も素晴らしい。


    アランの言いたいことを自分なりに簡単にまとめてみる。

    ・「幸福」とは、自分でつくりだすものだ。ドアを開いて待っているだけでは幸福が訪れることはない。
    放任された気分は、すぐに悲しみや苛立ちに変わってしまう。

    ・「幸福」を自分の外に求める限り、いつまでもそれには辿り着かない。幸福とはつねに、今の自分の中にあるものだから、それを見出すために努力しなければならない。

    ・そもそも人は自分の「感情」をコントロールすることなどできない。みんなそれができると勘違いしているから必要以上に長く悲しみに浸ってしまう。
    例えば指先を紙で切ってしまったとき、人はそこにある種の必然性と原因を認めることができるから、痛みを受け入れる。これが悲しみになると、その原因はすべて自分の内側から出てきたものであると思うから、原因について長く考えたり悲しみに抗おうとする。
    そうではなくて、今目の前にあることに集中したり、運動したり音楽を聞いたりすることで、悲しみは和らげることができる。

    どれも自明で、普遍的なことであると思う。
    だけども、我々は往々にしてこれらのことを忘れてしまう。自分の感情は自分で管理できると考えがちだ。
    だから本書の内容を肝に銘じておかなければならない。

    そして、アランがここまで一般的なことを述べているにも関わらず、薄っぺらくも押し付けがましくもないのは、やはり文章の美しさと心地良いリズムがあるからだと思う。

    読了して終わり。ではなくて、定期的に読み返して自分の骨にしたい本だと思った。

  • アランの幸福論を2年半ぶりに読んだが良かった。

    1.情念・ネガティブ感情との向き合い方

    名馬・ブケファロスの話。
    荒馬で誰が乗ってもことごとく落馬してしまう

    マケドニアの英雄、アレクサンドロスは荒馬の手綱を握り太陽の方に向けた。
    原因は、自分の影に怯えているだけ
    恐怖や不安には必ず理由があり、それを認識する必要がある。

    情念に囚われると良くない。
    情念とは理性では抑えられない感情のこと。
    なので、考えても無駄。行動することで解消すべし。

    2.仕事
    言われたことをやるだけの仕事に従事してたらストレスフル。
    いかに能動的に仕事をするか。
    それは起業するとかだけではなく、自分の与えられている仕事の中で工夫をしたり、自らの裁量の中で変化を加えて数字を追うとかそういうユーモア、楽しむこと。

    3.幸福になる時間の過ごし方
    傍観者ではダメ。音楽を聴くとかそういう受け取り手だけでは一瞬でその幸福は消える。
    自らが主体的に何かをすることでしか継続的な幸福は得られない。

    4.自分の敵について
    自分の周りの人間関係でストレスを感じたり、ネガティブな感情が出てきたりするのは、全て自分の中で自分で勝手に行なっていることで、全ての敵は自分自身ただ1人。

    5.処世術
    礼節・礼儀が最強。
    礼節によって自らの情念を処理する。

  • 再読。初読時よりも沁みる。人生を「自分のものとする」ヒントに溢れた一冊だなと思う。
    他人のせいにしないこと、流されないこと、体を動かすこと、上機嫌でいること、礼儀正しくあること…要旨をかいつまんでしまえばどれも子供にも伝えられるような基本的なメッセージだが、共通して、自らのあり方を自らが規定するという、強く輝く意志と弛まぬ行動力が背骨として一本通っている。それが一番難しいことを、大人は皆知っている。

    自分への発破をこめて、以下引用する。

    幸福になるのは、いつだってむずかしいことなのだ。多くの出来事を乗り越えねばならない。大勢の敵と戦わねばはらない。(略)しかし力いっぱい戦ったあとでなければ負けたと言うな。(略)幸福になろうと欲しなければ、絶対幸福になれない。(略)したがって、自分の幸福を欲しなければならない。自分の幸福をつくり出さねばならない。

  • 人は暇があると憂鬱、悲観に走る。
    不安はただの情念で、腹痛と変わらず、大した事ない。
    気分に任せて生きると悲しみに囚われる。
    不幸は毒であり、害でしかない。
    幸福とは意志と自己克服によるもの。
    幸福になることは他人に対する義務である。
    よって、不幸に浸からず幸福を求めなければならない。

    恐らく、このようなことが書いてある。
    他にも名言が並んでいて、感心したり、思わず吹き出したり飽きない本であった。

    但し、感覚では掴めたけど、頭が追いついつかず、ふわふわしたまま読み進めて行ってしまった感が否めない。
    カミュの異邦人の時と同様の症状。まだ理解しきれていない。満足感だけがぼんやりと残る。

    通読するのは楽しかったが、ふと開けたページの章を1日1章読むという楽しみ方も面白そう。
    他の翻訳家ver.も挑戦したい。

    何度も読み返して落とし込みたくなる名著だった。

  •  幸せになるには、どうしたらいいのだろうか。人間の歴史はこれが全ての行動原理だったのではないか。
    その「幸せ」が時代ごとに更新されていったのだろう。しかし、1900年代頭に描かれたこの本は、そんな幸福について書かれたものだが今でも通用する立派な本である。
    なぜなら、この本は、そんな幸せを追い求める人間の思考体系に触れた本であるから。
    ネガティブ思考であればもちろんどんな事も面白いはずがない。どんなふうに思考を変えていけばよいのだろうか…。

  • 【ネガティブ感情との付き合い方】
    ・恐怖や不安には必ず原因がある。それが分からなければ怯えるしかできないから、まずはその原因を見つけよう。
    ・情念(理性では抑えきれない、想像力を掻き立てる感情)に囚われるな。落ち着け。情念を支配するために、まず行動しろ。例えば、運動会前の緊張は走り始めれば抜ける。不安の9割は実現しない。
    ・また、行動だけではなく、態度、仕草、表情によっても情念は支配できる。
    【仕事】
    ・自由に働くことは最も楽しいが、奴隷のように働くことは最も辛い。 自由に働くとは、労働者自身が、知識と経験に基づき、調整し、試行錯誤できる仕事をすることだ。
    ・他人の畑を耕すな、自分の畑を耕せ。
    【生活】
    ・幸福になるためには、「傍観者」をやめろ。聞くだけ、見るだけといった人から貰える幸福はすぐ消える。自分が人生の主役となり、幸福を作り出せ。
    【人間関係】
    ・自分の敵は自分自身のみだ。
    判断を誤ったり、無駄な心配をしたり、絶望したり、気持ちが沈むような言葉をかけるのは、全て自分。
    ・人に同情することや哀れむことは絶対にやってはならない。なぜなら、それは互いに情念を強め合うことに他ならないからだ。例えば病状に臥した友には、同情するのではなく、明るい希望を与えたり友情を見せるべきだ。
    ・1番大切なことは、「自分自身が幸せでいること」だ。泳げない人は溺れている人を救えないように、幸せでない人は他人を幸せにできない。幸せになることは、誓うべき義務だ。
    【処世術】
    ・「礼節」と「礼儀」は最強である。
    これらは、ゴマをするという意味ではなく、自然と身についた物腰、ゆとり、余裕のことである。
    これは、ビジネスにおいては守りだけではなく、攻めの構えにもなる。そして何度も言うが、これらは情念を支配することに繋がる。

  • どうしても
    無人島に1冊しか本を持っていけないなら
    この本を持っていきます。
    高校時代に初めて読んでから
    何度も何度も読み直しては読み直すたびに
    新しい発見や気付きがあります。

  • 本作は93のプロポと呼ばれる短い文章で出来ている。
    1つのプロポはそこまで長くないので、寝る前に少し本が読みたい時に丁度よい。
    自分は不幸だとやたらと嘆いてしまうような気分の時にこの本を読むと、無駄に凝り固まった考えを優しくほぐしてくれるような本だと思う。
    何度も繰り返し読んでいるほどお気に入りの一冊。

著者プロフィール

1868-1951。本名Emile Auguste Chartier。ノルマンディーに生れ、ミシュレのリセ時代に哲学者J・ラニョーの講義を通して、スピノザ、プラトン、デカルト、カント、ヘーゲル等を学ぶ。エコール・ノルマル卒業後、ルーアン、アンリ4世校などのリセで65歳まで教育に携る。ルーアン時代に「ラ・デペーシュ・ド・ルーアン」紙に「日曜日のプロポ」を書きはじめたのが、彼のプロポ(語録)形式の初めである。アランの人と著書については、アンドレ・モーロワの『アラン』(佐貫健訳、みすず書房、1964)に詳しい。邦訳されたものとして、『定義集』(森有正訳、1988)、『デカルト』(桑原武夫・野田又夫訳、1971)『プロポ』1・2(山崎庸一郎訳、2000、2003)『アラン 芸術について』(山崎庸一郎編訳、2004)『小さな哲学史』(橋本由美子訳、2008、いずれもみすず書房)などがある。

「2019年 『定義集 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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