ポリアーキー (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (407ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003402917

作品紹介・あらすじ

ダール(1915‐2014)は、理念としての「民主主義」と区別して、実際に存在する比較的民主化された体制を「ポリアーキー」と呼んだ。「参加」と「自由化」を指標とし、ポリアーキーの成立や変容を左右する政治的条件を分析する。現実を測り異なる政治体制に比較の道を開いた、民主主義理論史上画期をなす著作。

感想・レビュー・書評

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  • 政治とは少数のエリートによる支配。支配エリートは入れ替わるが、少数のエリートが支配する構図は変わらない。ヴィルフレド・パレートPareto『一般社会学論』1920

    大衆(人民)の熱狂によりデモクラシーが破壊され、ナチズムが生まれた。「大衆(人民)によるデモクラシー」(e.g., ルソー)に期待なんてできない。公共の利益とされるものも大衆の情緒的な反応の結果かもしれない。▼デモクラシーは、選挙で選ばれたエリートたちが予算の分配、規制、所得の再分配をめぐって競争する制度。エリートたちが人民の票を得ようと選挙で競争し、選挙で選ばれたエリートが政治決定をする制度。政治的な意見は選好、有権者は消費者、選挙は市場競争。▼人民による自己統治は非現実的。平均的な人民は長時間の込み入った議論に耐えられない、合理的な思考もできない、判断力もない(cf. ガセット、ウォーラス)。人民のしごとは代表者を選ぶこと。人民は代表者を選んだあとは、代表者(エリート)に政治を任せるべきで、代表者を過度に束縛すべきでない。▼デモクラシーは制度なので、資本主義や社会主義とは切り離して考えるべき。ヨーゼフ・シュンペーターSchumpeter『資本主義・社会主義・民主主義』1942

    党派心の強い少数の人は行動が過激になりやすい。多くの無関心層がいた方が過激な行動に対するクッションになる。バーナード・ベレンソンBerelson『』1952

    少数の人間(巨大企業の富豪・政府高官・将軍)が権力を握り、重要な政策決定を行っている。血縁などで団結している。権力は一部に集中している(cf. ダール: 権力はさまざまな集団に分散している)。議会は一部の権力者たちからの圧力に屈している。また中産階級や地域社会は自律性を失っている。ライト・ミルズMills『パワーエリート』1956 ※アメリカ人。左派の社会学者。

    大衆は政治に無関心でもいい。政治情報を得て分析するには大きなコスト(時間・労力・機会)が必要。なのに1票を入れても、大量の投票用紙の山に消えるのみ。だったら、政治的に無知でいる方が合理的だ。▼選挙において、保守・中道・進歩政党が争っている。保守政党への支持強く、進歩政党が支持が弱い場合、進歩政党の支持者は保守政党が政権を取るのが嫌なので、中道政党に支持を変えて中道政党に勝ってもらおうとする。中道の人が多い社会では、保守政党も革新政党も中道の人の票を得ようとして政策を中道に寄せようとするため、政党政治は中道辺りで安定する。一方、保守と革新の両極端に分かれている社会では、保守政党も革新政党も政策を両極端に持っていくため、政党政治は分極化して不安定化する。アンソニー・ダウンズDowns『民主主義の経済理論』1957

    権力はエリート層が独占しているのではなく、さまざまな利益集団の間で共有されている。個人が複数の利益集団に重複して所属することも多い。政治は利益集団間の妥協によって合意を形成。市民は利益集団を通じてエリートに影響を与えることができる。ロバート・ダールDahl『統治するのはだれか』1961

    政策決定権は選挙で選ばれた公職者に与えられる。公職者は公正で自由な選挙で任命され、平和的に排除される。代議制。エリート間の競争や選挙が、現実をある程度デモクラシーの理念に近づける。ロバート・ダールDahl『現代政治分析』1963

    有権者は投票を通じて要求と支持をインプットする。政府は決定と行為をアウトプットし、それが有権者にフィードバックされる。有権者はアウトプットに基づいて次の投票で要求と支持を決める。政治システム。デイヴィッド・イーストンEaston『政治生活の体系分析』1965

    20世紀半ばから西欧で支配的になった民主主義モデルは、いろいろな視点や価値観を認め、政治過程においてエリートが自分の視点・価値観を競争させて、政治的資源の需給バランスを均衡させるもの。CBマクファーソン

    投票に行くか否かを決める要因。投票者の利得 R(Reward) = P(Probability)*B(Benefit) - C(Cost) + D(Duty投票への義務感)。Bは投票者が最も好む候補者が選挙に勝ったときに得られる利得から最も好まない候補者が選挙に勝ったときの利得の差。Pは自分が投票結果に影響を与えられるという主観的な予測。Riker & Ordeshook『投票の算法』1968

    行政機関と利益集団が癒着し、議会の外の非公式な交渉によって政策が決められている。利益集団は公式の法手続きを無視し、民主的に決定された意思を巧妙にねじまげ、政府が確固たる基本方針の遂行することを妨げている。議会は政府の具体的行動の指針を示す法をつくり、政府はそれを忠実に実施すべきだ。セオドア・ロウィLowi『自由主義の危機』1969

    大衆に政治的な議論をする力はない。世論調査の分析結果、米ではエリートと一般人で政治についての考えが質的に異なり、橋渡しは不可能。大半のアメリカ人は民主的な討論についていけない。リベラリズムや保守など抽象的な概念を理解している人は3%未満。一般のアメリカ人の態度は、リベラル傾向と保守傾向がごちゃ混ぜになった状態。公共の政策に対して一貫した見解をもたない。フィリップ・コンヴァースConverse1960

    アメリカ人が大統領を選ぶときにどの程度高度な抽象的な判断をしているか。概念化の水準。イデオロギー(最高位)→集団利益→時勢→なんとなく(最低位)。教育水準が高い人ほど、抽象度の高い判断をする。アンガス・キャンベルCampbell et al.『The American Voter』 1960

    「デモクラシー」という理想状態に限りなく近い現実の政治体制ポリアーキー(複数の支配)。市民は自分たちの要求を形成・表現する機会があり、要求は平等に取り扱われる。▼ポリアーキー達成度へのプラス要因。社会が客観的に平等。主観的にも相対的な剥奪感が低い。外国の権力の支配が弱い。相手への信頼・妥協が必要だという信念。ロバート・ダール『ポリアーキー』1971

    60年代になると、アメリカ人はイデオロギー的に一貫した投票をするようになった。Nie et al.『The Changing American Voter』1976

    有権者の知識に関する調査は教科書的な知識「何を知らないか」を測定するもので、教科書外の「何を知っているか」は測定できていない。Popkin, 1991; Gbraber, 1994

  • 地震の利益の剥奪を相対化して薄める方法。
    ー自分、もしくは自分の所属集団の過去と比べる。
    ー近しい人・コミュニティと比較する

    イギリスの中産階級:自分自身の利益が向上しているかどうかにかかわらず、他の階級の人々が豊かになることを苦痛に思う傾向。

    もし主要な問題解決という政府に対する要求が何年もの間、満たされないとすれば、忠誠は幻滅そして軽蔑に変わって行くだろう。とりわけ問題が人口のかなりの部分に対する広範かつ厳しい価値剥奪ー急激なインフレ、厳しい貧困、激しい差別、教育施設の悲しむべき不足ーに関わっているときにはその可能性は高い。

    下位文化の多元性の激しい体系はときに不幸な選択に迫られる。
    ー少数派の相互保障は与えるが、主要問題解決の要求に対し、国民の忠誠を十分引き留めておけるだけの対応ができないポリアーキー
    ーもし必要ならば、一つかそれ以上の下位文化の成員を圧迫することによってこれらの問題に応じようとする抑圧体制。またその下位文化が地域的なものであれば
    ー別々の国に分裂(これのみがポリアーキーを維持できる)

    ポリアーキーの代価は国の分裂、国家統一の代価は抑圧体制

    状況がいかなるものであれ、競争体制における統治の効率という問題分析をするためには政治制度の問題を分析しなくてはならない。

    分裂数が多すぎると逆に抑圧体制に転ぶ可能性が高い。
    信念と知識の関係性。

    政治的対立はより高い協調的秩序の一要素、その秩序によって制約を受ける。

    信念変遷の理由などについて特に自分の考えている理論(カオス理論の政治理論的解釈)と近いところを感じた。信念と現実に対する矛盾の蓄積が矛盾のダムを満タンにすると不信んしか残らなくなる、もしくは革命が起こり新しい信念を受容する、可能性がある、と。

    しかしながら彼が取り扱っている事例は広い意味での国際政治の話が多く、自分にはなかなか実感がしづらかったので事例についてはもっと身近な例を取り扱おうかな、と思った。事例の採集の基準決定はなかなか難しそうなのだが、どこからか自分のテーマにフィットするものを一つ見つけ出してそこから比較事例を探っていくことにしよう。

    革命、分裂、はある程度自然な現象であり、政党政治はそれを可能にする自然な制度であるとの記述が見られた。

    再読:中産階級の人は富裕層ではなく、労働者階級の急速な上昇に怒りを抱いている。

  • 民主主義という語は理念としての概念と、実際の国家体制の状態をさす概念と、両方が混然と濫用されているので、著者ダールは実際の国家体制の状態をさす語として「ポリアーキー」という語を活用する。とりあえずの反対概念は「抑圧国家」である。
    線分の両端に「ポリアーキー」「抑圧国家」があって、その線分上のどこか中途半端な位置に、現実の諸国家があるという設定。
    ダールがポリアーキー(民主化)の程度をしめす尺度として持ってきたのは実に明快で、「公的異議申し立ての体系に参加する資格を与えられた人々の、全人口のなかに占める比率」である。
    本書は民主主義イデオロギーをふりかざす啓蒙の書ではなく、あくまでも学問的に、「民主化」の度合いを測る客観的尺度を探っていこうというものだ。なかなか読み応えもあって、良書だったと思う。
    それはさておき、この本では第二次大戦後に米国のお膳立てんよって一挙に民主主義国家となった例として日本が挙げられているが、今思うと、それはやっぱり、アメリカ様にお膳立てしてもらったから形だけは民主主義国家になったというに過ぎないのではないか。アメリカ様に追随はするけどもう崇拝はしない気分になった現在、安倍政権によって着々と民主主義は破壊されている。
    本書の結論部に、国家が民主化するにあたって影響のある項目が表にまとめられているが、現在の日本を想定してこれを見た限り、残念ながら日本は「抑圧国家」の方に大きく振れているようだ。

  • 著者:ロバート・A.ダール (1915―2014)
    翻訳:高畠通敏, 前田脩

    内容紹介:
    “ダールは、理念としての「民主主義」と区別して、実際に存在する比較的民主化された体制を「ポリアーキー」と呼んだ。「参加」と「自由化」を指標とし、ポリアーキーの成立や変容を左右する政治的条件を分析する。現実を測り異なる政治体制に比較の道を開いた、民主主義理論史上画期をなす著作。(解説=宇野重規)”

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