- Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003751299
作品紹介・あらすじ
著者最大の長篇かつ最も劇的な迫力に富む代表作。1951年度のゴンクール賞に選ばれたが、グラックは受賞を拒否、大きな話題を呼んだ。「この小説は、その最後の章まで、けっして火ぶたの切られない一つの海戦に向かってカノンを進行する」-宿命を主題に、言葉の喚起機能を極限まで駆使し、予感と不安とを暗示的に表現して見せた。
感想・レビュー・書評
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架空の土地を舞台に破滅に向かう物語が絵画的な静かさで語られる。
自身も詩人である安藤元雄の翻訳も読みごたえあり。
(院生アルバイトスタッフ)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
戦争が膠着状態に陥って300年、敵国との前線にある砦に赴任した主人公・・・という導入の設定に、ブッツァーティ『タタール人の砂漠』を思い出しましたが(訳者あとがきによると作品発表当時から類似は指摘されていたらしい)、結末、テーマはある意味真逆。「何も起こらない」ことが主題だった『タタール人~』と違って、シルトの岸辺では「ついに何かが起こってしまった」そしてそれは個人の力ではどうしようもないのだという宿命論あるいは絶望を描きだしています。
「擬人化」というと語弊があるだろうけれど、小説の真の主役ともいうべき架空の国「オルセンナ」は、都市(国家)でありながらまるで人格を持っているかのような印象。その見えない大きな力にすべての登場人物が操られている感じ。一見、主人公アルドーをふりまわし、そそのかし、自らの行動に自覚的かつ能動的に見えるヴァネッサでさえ、結局はオルセンナの望むままに動かされていたかのような。最後の章でアルドーと対面した老元首が言うように、彼(彼女)がいなければ別の誰かがその役割を担っていただけ、ということなのでしょう。
架空の都市、無人島、廃墟、怪しげな異端の寺院等、細部のモチーフは『アルゴール~』と同じくゴシックで退廃的。そして端正な文章と独特の表現の美しさ。暴走する若き軍人によって歴史が動く・・・という外郭だけなら極めて男性的で無骨な題材のはずなのに、全体から受ける印象はなんとも幻想的でした。 -
ファルゲスタンとオルセンナは長い間冷戦状態にあった。両国の国境沿いの地であるシルトに派遣された監察将校アルドーは、現状を打破しようと悩み、動くが…。
これほどまでに地の文で比喩をてんこ盛りにした小説は読んだことがない。延々と長い修飾語句を並べているが、それでいて、比喩の中には読んでみるとたしかに比喩通りの情景を想起させるようなものもあり、巧みな文章表現になっている。ただ、たまにその地の文の比喩表現の長さがわかりづらいし、長いので苦痛になることもある。
長い長い、プロローグといったところか。重厚というか、壮大な感。 -
原著は1951年刊。ヴェネツィアを思わせる落日の共和国オルセンナの滅びゆく宿命の物語。優雅で洗練された文体と、格調高いダイナミズムが素晴らしい。
処女作『アルゴールの城にて』に比べると文章の技巧性が抑えられ、より流麗になったところに筋立てのスケールと重みが加わる。読み手は前半にはグラック一流のきらびやかな書体に酔いしれ、後半になると一気に動き出す物語に押し流されていく。
何より驚かされるのは主題の批判精神。作家は現実の歴史になぞらえて読まれることを嫌ったというが、老いて盲いてゆくオルセンナの描写は今日の世界ないし日本にそのまま当てはめられるようで背筋が凍った。作家が意図して書かなくとも、表現を研ぎ澄ましていった末にこれほどの普遍性に達したということか。
朽ちていく町マレンマや首都オルセンナの虚飾と崩壊、シルト沿岸の城塞や廃墟など、あらゆる地がそれぞれ異なる色調で幻想的に描かれる。その作品世界は壮麗でありながら嫋やかで、しかも鋭い切っ先を併せ持つ。類まれな美しさはまさに作家の代表作だと読み終えて強く感じた。 -
東大京大教授が薦めるリスト100選抜
No.88 -
『アルゴールの城にて』に続くグラックの文庫化第2弾。
ある1人の士官が辺境の沿岸に赴任するところから話は始まる……と、なると、同じく岩波文庫から出ている『タタール人の砂漠』を連想するが、解説でも言及されている通り、読んでみると印象はまったく違う(「タタール人の砂漠」も面白かった)。
『シルトの岸辺』は執拗に比喩を重ねる文体がより重厚でゴシック的だった。