キリストはエボリで止まった (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003770115

作品紹介・あらすじ

反ファシズム活動の罪で政治囚として一僻村に流刑に処された作者=主人公カルロ・レーヴィ(1902‐75)が目のあたりにした、南イタリアの苛烈な現実。現代文明から隔絶した、呪術や神話が息づく寒村での生活を透徹した視線で描きだす、戦後のイタリア文学を代表する傑作。

感想・レビュー・書評

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  • (第18回)ロケ地は、今やユネスコの世界遺産 - 『エボリ』: ヴォロンテ映画館  Il Cinema Volonte'(2011年9月6日)
    http://stelvio.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/18-2667.html

    〈第217回〉舞台裏4-フランチェスコ・ロージ監督『エボリ』: ヴォロンテ映画館  Il Cinema Volonte'(2019年5月7日)
    http://stelvio.cocolog-nifty.com/blog/2019/05/post-d98931.html

    キリストはエボリで止まった - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b266371.html
    ーーーーー
    映画は観たが原作は未だ。。。

  • 1930年代、ムッソリーニが台頭しファシズムの嵐が吹き荒れるイタリア。著者のカルロ・レーヴィは医者で画家だけれど反ファシズム運動に身を投じ、逮捕されて南イタリアのルカニア地方に流刑にされる。ルカニアは現在のバジリカータ州。地図を見ると、いわゆる長靴の形をしているといわれるイタリアの、その長靴のちょうど土踏まずのあたり。つまりイタリアでもかなり最果ての貧窮した地域。エボリというのはその地域では内陸寄りの唯一の都会で、つまりそこでキリストは止まってしまった=それより先の貧しい地方にキリストは来なかった、という現地の慣用句のようなものがタイトルの意味。この場合、キリストというのはキリスト教の教えという意味ではなく(実際教会はあるし司祭もいる)「近代文明」のような意味合い。

    政治犯の流刑というのは日本でも明治時代くらいまではあったと思いますが、例えば幕末だと西郷隆盛が島流しの刑を受けていて、でもその島で現地妻と子供まで作っているので、たとえばシベリアで強制労働、みたいなのとはちょっとニュアンスが違う。本作のカルロ・レーヴィも貧しくて不便な田舎に流刑されるわけですが、村から出るには許可がいり、監視役がいるのが面倒くさい程度で、日常生活は普通に送れるし、人によってはやっぱり現地で結婚してそのまま住みついてしまったりもする。まあ元から住んでる人たちからすれば「流刑地」よばわりなんて失礼な話。貧しくとも皆ふつうに生きています。

    監視役の村長らの俗物っぷりにはうんざりさせられるけれど、村の人たちは素朴で、医者として信頼できる著者を慕って親切にしてくれる。面白いのはその当時まだ残っている民俗学的な伝承など。村人の女性の大半は「魔女」で、惚れ薬その他いろいろ調合しちゃうし、山賊の埋めた財宝の伝説やら、竜退治の伝説やら、狼男の存在やらが、見てきたことのように語られる。洗礼を受けずに死んだ子供の霊はモナキッキョと呼ばれる妖精のようなものになり悪戯ばかりしているし、キリストは来なくとも聖母はちょいちょい奇跡を起こす。人が亡くなると「涕泣儀式」が行われ(いわゆる「泣き女」)、病人はアブラカタブラの呪文を書いた護符を身に着けている。

    なんやかんやでわりと村に馴染んじゃうドン・カルロ。しかし思いがけない恩赦で、八か月でその流刑地から解放される。嬉しいんだけど、なんかちょっと寂しい、複雑な著者の気持ちがよくわかる。ファシズムに対する考察などお堅い部分もあるけれど、基本的には異郷の地の見聞記、行きて帰りし物語として面白く読めました。

  • 反ファシズムで流刑された寒村から
    国家の憂いを綴ったルポルタージュ小説

    印象深いタイトルは、農民の慰めえない劣等感や救済されない苦痛を揶揄している

    政治のリアリズムと民俗学の偶像的表現のアンバランスが、何とも作品を魅力的にしていた

  • パヴェーゼとは違い、ディープに反ファシスト運動に関わっていた作者。流刑されたイタリアの南部地区はキリストも見放した絶望の地だった。冒頭の連れてこられた様子はがが屠殺場に運送されてきたように、うちひしがれうなだれている。

    どうやって希望を見い出だしていこうか煩悶する中、医療の知識を持つため、村人からは積極的に受け入れられる。

    地形的にも行き止まりの土地で、消化不良の情念が発酵した様子がなんともねえ、味わいぶかいよ。自分がこういう何にもない場所で生まれ育ったから、情念→発酵→腐敗→乾燥、わかるわかる。

  • イタリアの小説というと色恋沙汰ばかりかと思いきや、反ファシズム、パルチザン運動に関するものも結構ある。

    著者のカルロ・レーヴィもレオーネ・ギンズブルグ(ナタリア・ギンズブルグの夫)とも近い関係にあった反ファシズムの活動家で、1935年にトリノで逮捕され、南イタリアのど田舎に流刑にされた。本書はそのときの体験をもとに書かれたものである。同時期に同じように流されたパヴェーゼも「流刑」を著している。日本でレジスタンスといっても、ビラまいて憲兵にぼこされるぐらいなもので文学の余地もないが、さすがイタリアなのである。

    面白いのは政治的な内容よりも民俗学的な視点からの観察が多く書かれていることで、山賊の伝説や魔女の呪術、洗礼を受けずに死んだ子どもの霊など、歴史家カルロ・ギンズブルグが中世のフリウリ地方で発掘したような土着の風習は、第二次大戦期でも現役なのである。

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