倫理学〈2〉 (岩波文庫)

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著者 : 和辻哲郎
  • 岩波書店 (2007年2月16日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (554ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003811016

倫理学〈2〉 (岩波文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 『倫理学』1巻や『人間の学としての倫理学』における和辻哲郎の基本構想(「人間」は人を意味すると同時に、人と人との間柄や「世間」をも意味する、云々)にいたく感銘を受けたのだったが、この巻ではちょっと内容が凡庸になり、はぐらかされた感じもあった。
    「主として男女の、2人共同体」
    「男女の組から子が生まれた、3人共同体」
    などと、「共同体」の類型を追って行くのだが、やや常識的に過ぎると思った。その「常識」というのも「当時の日本の常識」であり、女性観・妻観などはかなり古く、いまこんなこと言ったら袋だたきに遭うだろうな、という、磯野波平的古さなのである。
    おまけに、男女の2人が互いに親密に解け合っていった結果、その共同体は「私的な」領域をかたちづくることになる。夫婦とは、そのような「私的な」領域を世間(公共性)が許容したものである。そこには外部の者は参入できないが、子どもが生まれ3人共同体となると違う。ある程度この共同体は「公共性」に開かれたものと成る。というのが、和辻の分析だ。
    まあ、わかるのだけれども、「私的」と「公共的」とが結局対立してしまうというのは、おや、という気がする。人間存在が人と人との「間柄」に基礎をおくものであってみれば、「私的」と「公共的」の区分は最初から取り払われてあるはずではないだろうか? 和辻は、自らが着想した出発点の革新的な部分を、じぶんで「常識」の中に埋没させてしまうのだろうか? という疑問をいだかざるをえない。
    この「公共性」という(唐突に現れ、あまり詳しく説明されていない)主題を展開して今後「国家」を論じていくとなると、かなり危険な予感に襲われる。

    とはいえ、経済的組織を扱った章などはとても面白かった。
    人類学についてもよく調べてある。モルガンのような前時代的な、西欧至上主義的な視点から「未開社会」を鳥瞰する古典人類学でなく、「未開社会」の中に丹念にふみいり、偏見のない精密な情報を集めたマリノフスキーを参照するあたりは慧眼である。
    「クラ」を分析し、近代西洋があみだした「経済学」の論理は人間の実体性をともなわない「逆倒」の論だと批判している(数学的な経済学が無用だと言っているわけではない)。このへんは痛快であった。

  •  なぜ、和辻哲郎なのか。どうして「倫理学」なのか。和辻が近代日本で「最も包括的な哲学体系を築き上げた」(苅部直)思想家であり、『倫理学』は「日本人としての能力の極限を示す」(金子武蔵)作品だからである。
     文庫版では4分冊(既刊2冊)となる『倫理学』は上中下3巻として出版された。上巻は1937年、中巻は42年、下巻は49年と終戦をはさんでいるが、グローバル化が進み、国家の枠組みが問われている今こそ、この書を読み直す意義があると思われるのである。
     和辻倫理学の最大の特色は、倫理学が人間学であるという点にある。デカルト以来西洋哲学の核心にあった個人主義的人間観を厳しく批判。「倫理学を『人間』の学として規定しようとする試みの第一の意義は、倫理を単に個人意識の問題とする近世の誤謬から脱却すること」(序論)だからである。
     人間とは個性と社会性という二重の性格を有し、この両者を「弁証法的に統一した存在」である。人間の存在とは人と人との「間柄」にあり、間柄は時間性と空間性によって段階的に分けられ、夫婦、家族、地縁共同体、国家と拡大する。中でも国家は最高の「人倫的組織」である。
     このように和辻倫理学は展開されていくが、哲学書にありがちな抽象論ではなく、あくまでも日常的な事実によって説明しながら論を進めているところに大きな特徴がある。
     国家主義への傾斜など和辻批判には根強いものがある。しかし、内外の学者による『甦る和辻哲郎』(ナカニシヤ出版)を読めば、和辻の作品が世界的にも先駆的なものであったこと、アジアの近代化を考える場合に有益であることにも気付かされる。
     文庫版の各巻には、熊野純彦東大助教授による渾身(こんしん)の解説が付けられている。和辻との格闘の跡が生々しいまでに感じられ、「解説」のあるべき姿を示しているように思う。
     ◇わつじ・てつろう=1889〜1960年。元東大教授。主著に『古寺巡礼』『風土』など。
    評・橋本五郎(読売新聞社特別編集委員)

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