コンプレックス (岩波新書 青版 808)

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 70
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004120735

作品紹介・あらすじ

「コンプレックス」という言葉は日常的に用いられるが、その意味を正確に理解している人は少ない。それは、現代なお探険の可能性に満ちている未踏の領域、われわれの内界、無意識の世界の別名である。この言葉を最初に用いたユングの心理学にもとづいて、自我、ノイローゼ、夢、男性と女性、元型など、人間の深奥を解き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • 1971年発刊の名著。ユング派に属する心理療法者・河合隼雄さんによるコンプレックスに対する解説。

    はじめにはっきり申しますが、すごい本です。中身が濃く、圧倒されもするのですが、なかなかこれだけの本には巡り合うことはありません。読みだしこそ、「怖い」と思いました。「こうなったら異常!」というトラップ的なテストが張り巡らされているような気がしてです。でも、そんな低い次元での話ではなく、もっと底の方からえぐるように未知のもの(それは人間心理のこと)を考察したものを、こちらも同じ目線でくらいつき、かみ砕いて知るべく読み進めるような読書になりました。

    序盤ではこういった例が紹介されていました。父親がよく棒きれで自分を打ったこと、父親がわけもなく自分を打った後で、急に親切にするので戸惑ったことなどを語った言語連想テストの被験者がでも、「父親が死ねばいいとなどとは、決して思ったことはない」というのです。でも、テストの結果からは憎しみや恨みを抱いていることがわかる。

    コンプレックスっていうのは、言動や行動がスムーズに行えなくなるその原因の心理複合体という意味だそうです。僕は単純に劣等感のことかと思っていたのだけれど違いました。それは数あるコンプレックスのなかの一つの種類である劣等感コンプレックスに過ぎないのでした。言語連想では、連想につまづいたり、予期せぬ深い連想が出てきたりしたとき、これを「主体性を損なっている」と見るのでした。主体性だけがあればすいすいすらすらとできることが、心理複合体によって主体性が阻害されて、時間がかかったりできなくなったりする。対人恐怖などで頭が真っ白になるなんていうのも、主体性が阻害されていることという理解になる。こういうところだけを読むと、怖くなりますよね。それにたぶん僕はこういうのをすごく抱えているので、なおそういう気持ちになります。

    本書には精神分析や心理療法の分野は広大だということを痛感させられます。というか、人間の精神面がものっすごい広くて深いからこの本もこれほどまでにびりびりとひりつくような内容になっているのでしょう。著者が語るところは氷山の一角。でも、海面下の氷山本体とでもいえるそのばかでかさを示唆する語りですから、読んでいると神経がまいってくる。

    論説本を読むことは、海面上の氷山を知りつつ、まだ見ぬ海面下にも意識を向かわせるのが一般的だと経験上思うのだけれど、その海面下のものは海面と同等か、これから成長していくだろう大きさかだったりするものが多いように思います。本書のようにもうすでにこんなに本体のばかでかい状態なものなんてなかなかないんです。本書はそこに挑む。視覚的にも聴覚的にも触覚的にも触れられない、モノ(人間の心理)の輪郭とその中身をとらえようと試みていく。そしてその読むことによる探求は、読者自身や読者の知人友人などの内部深くにまでいたり、結果として読者は、消耗のみならず打撃や刃先によるような傷までも負いかねないことになる(まあ、身構えは必要ということです、不用意でなければちゃんと読めます)。

    自我でコンプレックスを受け入れていくことで自我は強く成長していくといいます。そして、その過程であるコンプレックスと自我との「対決」は命を落としかねないほどの戦いでありとても大変なのだとあります。僕は、本書を読むことでも、それにちょっとだけ近い体験をすることになると言いたい、少なくとも僕はそういう体験をしました。また、こういう達人(著者)って漫画とかじゃなくて実際にいるんだなあ、と居住まいを正したい気持ちになりました。大げさかもしれないですが、完成された宮本武蔵の本気の果し合いを観た、みたいな凄みが本書にはあります。ほんとうに濃い本なのです。

    感情だとか、人間心理って魔物みたいなところがあります。無視したり抑えたりしていると強大になっていき、それが自我を脅かしていくことになっていく。コンプレックスが酷くなると、極めつけのひとつとして二重人格がでてくるともありました。ドッペルゲンガーなんていうものもコンプレックス由来の現象だと説明されています。

    これ、たぶん、二重人格やドッペルゲンガーじゃなくても、二面性が強い人、なにかにつけすぐに我を忘れてしまい別人格的になってしまう人も、コンプレックスが強大に育ってしまったためなのだと思えます。自分と向かいあわないと、コンプレックスはどんどん強くなるみたいです。かといって、それなりに自我が強く成長している段階じゃないと、強いコンプレックスに向かい合ってそれを克服はできない。自我が育つまで待つ手段として僕が考えるのは、自分を責めず内容だけ吟味する「さらっとした反省」の仕方がベターじゃないだろうかということ。

    とくに若い時分なんて反省という行為に感情が繋がっていて、また反省するごとにさらに後悔までをも呼び寄せてしまい、メンタルが持たなくなる人もいると思います。そういう人は、耐えうるくらいまで自我が育つまで、なんとかやり過ごすような「さらっとした反省」をやるといいのではないでしょうか。『スター・ウォーズ』に喩えれば、オビワン・ケノービのように、ジェダイが劣勢になってからは身を隠し、ルークを見守るというように、時が来るのを待つ姿勢でいるといいでしょう。でも、気を抜かずに。休息は別としてだけれど。

    と、ここまで書いてきましたが、書いてあることを要約しようにも、書かれてある中身の枝葉ですらどれにも深い意味があって、なかなか端折れる部分がわからなくなります。幹も大事だけれども、枝葉に実践的な理解が望めるところがあり、こうやってまとめるように感想を書くのは僕にはちょっと難しいです。

    最後、三点ほど、メモのように記して終わりにします。

    その1。コンプレックスを抱えた者同士では、無意識の内にそのコンプレックスを感じ合って、お互いに感情が乱れたりする。これはいっしょに住む家族間など、距離の近さが引き金になっているようです。

    その2。下に引用になりますが、「この人、ずいぶん、がんばるけれど、苦しんでいるな」というタイプの人に当てはまると思います。
    _________

    コンプレックスと同一化するとき(つまり、自我の力が弱いとき)、その人の勢は強い。それに、元型的な要素が背景において作用すると、その強さは当たるべからざる勢となって、偽の英雄ができあがる。換言すれば、これは自我の弱さのために、英雄的行為をとらされているにすぎない。(p211)
    _________

    その3。私たちはふだん、どのようにコンプレックスをまぎらしているか。他人に自分のコンプレックスを投影したり転嫁したりして、責め立てたりする。または、ノイローゼになるなど、があります。

    以上です。これまで河合隼雄さんやユング、フロイトに興味がおありで、すこし齧ったことがある方へならば、つよくお薦めしたい本でした。そうではないなあという方にもモチベーションが強めならば、ぜひに。

    はーっ、読んでよかったー。

  • 一家に一冊本。

    現代の病巣がこの本一冊で解決するんじゃないかしら。40年近くも前に書かれた本とは思えない。

    色々な壁にぶつかった時 頑張れ自我 って思うだけで 結果はどうであれ前向きになれる気がする。
    嫌な相手と対峙した時も その人の自我ではなく、コンプレックス を思うことで、少しだけ心を広く接することができると思う。

    自己実現への道がこれほど明確に示されている本に出会えたことが うれしい。

    ヘタなハウツー本を読むよりよっぽどためになる。

    みんなに薦めたろ〜〜

  • 題名に惹かれ即購入。コンプレックスは誰にでもあるもの、なきゃないで薄っぺらい人間だよってユングが言ってて、うちのコンプレックスも肯定されたようなちょっと元気になった。そうか、コンプレックスにはトラウマ的要素もあるのか。カインコンプレックス、エディプスコンプレックスはおもろかった。確かにあるかも…みんなのコンプレックス聞きたい。私は胸が小さい、音痴、浅く広い、恋愛下手いっぱいあるなぁ

  • 先日、長らく外見で悩んでいたコンプレックスの一つが解決に向かう出来事があった。その時、コンプレックスの解消がここまで心を軽くするものかと感動し、同時に、他のコンプレックスも解消していけば人生はもっと快適になるのではと考えた。
    そこで、そもそもコンプレックスって何だっけを知りたく手に取った一冊。
    コンプレックスの定義等は本書参照だが、自分の中でも抱えていた内面のコンプレックスを考えるいい機会になった。家族との関係性、結婚に対する束縛感、苦手な同僚に対する嫌悪感と言ったものがどこから来ていたのか。
    最終章の元型の話はあまり理解出来無かったが、全体通して、本を置きながら自問自答出来る良書だと思う。

  • コンプレックスとは何か?について、一歩踏み込んだ考察が書かれている本。人間誰しも持っているコンプレックスが、家族や人生、思考にどのように絡んでいるのか、どこにその源泉があるのか、、どのように解消していくのか、がよく分かると思います。
    若干、言い回しや文言が専門的なため読みにくいと感じるものもあるし、一読では頭に入ってこないところもあるけれど、それほどコンプレックスというものが複雑で多層構造を持っていることの裏返しでもある。
    コンプレックスを船・船長・交渉係にたとえてる部分は秀逸。コンプレックスの動きがよく分かりました。

  • 心理学者としてこんなにもバランス感覚の取れた人は珍しいのではないか。自身の学派、心理学自体の価値を過信することなく、冷静に、適切に、解説を書いているように思う。
    個人的には、就職活動の前に読んでおきたかった気がする。

  •  香山リカさんが、「最近、鬱病ですといって会社を休んでおいて趣味のことには元気に出掛けていく人がいる」
     と言っていたが、この本の中で、鬱だと言っていても趣味のことは楽しくできる人はいる、というようなことが書いてあった…
    ・・昔から似たような人いるようです!

  • P199
    人間がどうして生まれ、どうして死ぬかは、科学的に説明される。しかし、「私は一体どこからきてどこにゆくのか」という点について、こころの中に納得いく答えを得るためには、つまり、心の奥深く基礎付けるためには、神話を必要とする。
    私:神話イコール物語ですね。
    p183
    つまり、ユダヤ人として父権の強い家庭に育ち、父親との年齢差が非常に大であったフロイトにとっては、エディプスコンプレックスが大切であり、次男として生まれ、軽いせむしであったアドラー、しかも、精神分析学会に参加した時、フロイトは既に偉大な人として頂点にあり、その下の方につかねばならなかった彼としては、劣等感コンプレックスを重要と考えたのも無理からぬことである。エバンス「ユングとの会話」
    私:なるほどです。
    総評
    私:この本は「ユング心理学入門」を違う切り口で解説した本で、新鮮味はあまりない。河合さんの本を最初に手にする人にとっては良書と思う。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/702128

  • 『ユング心理学入門: 〈心理療法〉コレクション I (岩波現代文庫)』で紹介されてて読みたくなって。
    復習、復習。

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