自由への大いなる歩み

  • 岩波書店
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004150039

感想・レビュー・書評

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  • マーティン・ルーサー・キングの1958年の本。1955~1956年のモントゴメリーのバスボイコット運動を中心とした著作。

    この運動については、キングに関する本でよく説明されているので、なんとなくわかった気になっているのだが、やはり当事者がボイコット終了後あまり時間をおかずに書いてある本はいろいろ伝わってくるものが違う。

    キングはやはり言葉の力が強くて、彼の思想や信念を知るには、演説集が良いと思うのだが、この本は等身大なキングがいる気がする。

    訳文の主語が「ぼく」とされているせいもあるかもしれないが、一人の博士課程を修了したばかりの牧師が、たまたまの成り行きで、バス・ボイコット運動の指導者、スポークスマンになって、運動をやっていくなかで、悩み、苦しみ、恐怖に教わりつつ、前に進んでいくなかで、リーダーとして成長していく過程が伝わってくる。

    演説集では、ボイコット初日(12月5日)の歴史的な集会でのキングの演説は見事なもので、わたしは運動の最初から非暴力という方法論でやるということが明確であることから、これはもともとのキングの考えと思っていたのだが、この本によると演説を考える時間がほとんどなく、原稿なしで話したものであったようである。直前まで、運動を激励することとそれが暴力的なものにならないように、キリストの愛と繋がったものであるように悩んでいたという。

    印象的なのは、キング一人のリーダーシップだけでなく、正しく自己組織化的にいろいろなプロジェクトが立ち上がり、運動が組織化されていくプロセスである。

    そして、1年間、淡々と運動を続けているだけではなくて、その運動を潰すべく、さまざまな暴力が使われ、また政治もいろいろな手をうってくる。そうしたなかで、なすすべもなく負けそうになるなかでも、人々が団結して活動を続けていく姿は感動的としかいえない。

    この本では、当事者が語る運動の経緯が中心なのだが、同時に、思想的な背景についても説明がなされており、キングのなかでの非暴力思想の理解がどう発展したかがわかって、興味深い。

    あと、訳者は、マルクス系の人のようで、キリスト教的な世界観には批判的なようで、運動を評価しつつ、少し皮肉なコメントもあとがきには書いてある。この訳本が出版されたのは、1959年。まだ、公民権運動がこの後どうなるのかがわからない時点で、さらにはソ連の崩壊もまったく想定の範囲外だったわけで、その後、訳者はどう思っただろうか?もっとも、BLM運動などをみると、またどう思うのだろうか?

    なんかそんなことを考えてしまった。

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