- Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004202646
感想・レビュー・書評
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四谷怪談解説書。
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四谷怪談・お岩さんといえば、怪談の代名詞といってもよいほどだろう。さまざまな脚色がされ、読み物や舞台・映画等になってきた。大筋としては、妻を疎ましく思うようになった美男の夫が、他の娘に惚れられたのを幸い、妻と離縁をしようとする。妻は毒を盛られ、怖ろしい容貌に変わり、強い恨みを抱いて命を落とす。死霊となった妻は、夫と、新妻となった娘、その係累をとり殺す、といったところだろう。
歌舞伎の四谷怪談は、四世鶴屋南北(1755-1829)作の『東海道四谷怪談』(初演:文政8(1825)年)である。
以前から見てみたいなぁと思っていたところ、この7月に歌舞伎座で上演されると聞いた。だが残念だが遠方のこともあって、行くのはちょっと難しそう。
では原作でも読んでみようかと思ったのだが、いきなり原作もきつかろうというわけで、まずは予習を。
猥雑で爛熟した化政期の文化の中で、南北が何を考え、どのような意図を持ってストーリーを練り、そしてなぜそれが人々に受けたのか。その構造を解き明かしていこうという1冊である。
初演時、この作品は忠臣蔵と抱き合わせで上演された。ストーリー自体も、忠臣蔵外伝といった風で、主要登場人物も、塩冶判官か高師直か、いずれかに関わりがある。だが典型的な義士は登場しない。ご用金に手を付けた小悪党であったり、義士であっても色好みで俗っぽいところがあったり。清廉潔白なるもののいわば「ネガ」のような人物たちである。
そして起こるのはといえば陰惨な事件だ。
表の忠臣蔵が胸の空く義の世界だとすれば、こちらは陰惨な私欲の世界である。
そのいずれもが強烈でくっきりした描写で提示される。清廉なるものの様式美と相対する汚辱にまみれた悪の様式美だ。
忠臣蔵と切り離して考えた場合も、物語の中では陰と陽が交錯する。回り舞台の上で、片や、祝言の相談がまとまり、こなた、醜女が死にかけている。
その激しい落差は見ているものに揺さぶりを掛け、目を惹きつけて離さない。からくり小屋を覗くような、目を覆いつつも隙間からつい薄目を開けて見てしまうような、危うい世界である。
それは作中の戸板ががらりと回るように、聖と俗、本音と建て前、義と私欲、婚礼と葬礼を一瞬のうちに取り替えてみせるイリュージョンなのである。 -
『ぼくらの頭脳の鍛え方』
文庫&新書百冊(佐藤優選)176
文学の力・物語の力