ドナウ河紀行: 東欧・中欧の歴史と文化 (岩波新書 新赤版 189)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004301899

作品紹介・あらすじ

ドイツの黒森に発し、黒海に注ぐドナウ。東欧・中欧8か国を流れるこの約2900キロの大河の両岸には、多彩な文化に彩られた独特の「ドナウ世界」が広がっている。古代ローマの植民やハプスブルク家の時代から冷戦期を経て現在に至るまでの歴史を織り込みながら、多様な民族や宗教を軸に今も揺れ動くこの地域へやさしく案内する。

感想・レビュー・書評

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  • 大昔に買ったまま放置していたので、今回読んでみました。ドナウ川を源流から河口まで、各国の歴史などを順に見ていきます。出版された時期がゴルビーの休暇中にクーデターが起きてからソ連が消滅するまでというピンポイントなので懐かしいと思う部分もあります。チェコスロバキアやユーゴスラビア、ソ連は出版後に国が分裂してますからね。とはいえ、歴史的な話や民族に関する話は今でも十分使えますし、勉強になります。

  •  ドイツの黒い森からオーストリア、チェコスロヴァキア、ハンガリー、ユーゴスラヴィア、ブルガリア、ルーマニア、ソ連、そして黒海へと抜けていくドナウ川を辿りながら、中欧、東欧と呼ばれる地域の歴史を紐解いていくという本。初版が91年9月で、「執筆中にユーゴスラヴィアで内戦がはじまった」(p.217)とあるが、これはスロヴェニアとクロアチアのことだろうか。そしてソ連がなくなるのは91年12月、チェコスロヴァキアが分離するのが92年、最後セルビアとモンテネグロが分かれるのが2006年のことらしいから、まさに激動の時代の国際情勢を肌で感じることが出来る。「考えてみると、ドナウの上流は、満ち足りた幸せな世界であった。そこには豊かな文化の遺産があり、詩と文学と音楽の世界があった。だがやがてそのような世界は、非運の過去が現代に陰を落とす対立と抗争の世界へと変わった。われわれは、ドナウを下るにつれて、ますます生身の現代の近づき、最後にその渦中に入ったような気がする。」(pp.215-6)という記述に最後の章まで読んでいった時に出会い、まさにその通りで、しっくり来た。
     で、まずは面白かった部分のメモ。まずドイツ。ドナウの「源流争い」というのがあって、源流の1つとされるのはなんと宮殿の庭らしい。人工の池の底から水が湧いているという、ここから恐ろしく長い大河の始まる場所としては何とも意外な感じだった。フェルステンベルク・シュロッス、と言うらしい。でもそれよりも、フルトヴァンゲン、というところが源流っぽいらしく、碑が立っているらしい。興味もあるし、行ってみたいけど、やっぱり感慨深いのかなあ。そして「ライン・マイン・ドナウ運河」(p.16)で、北海と黒海を結ぶことになる運河の話があるが、これもこの本の書かれた後、92年に完成したらしい。日本で言えば平安時代の終わりに作られた「全長三五〇メートル、一五のアーチからなる石の橋」(p.19)があるレーゲンスブルクにも行ってみたい。
     チェコスロヴァキアという国もあまり知らなかったけど、「旧東欧のドナウ諸国の中では、比較的安定した道を歩んできた。(略)豊富な工業資源と、高度な技術水準に支えられたその経済力は、独立後の社会的安定に大いに寄与した。(略)ひとりチェコスロヴァキアは、ナチスの武力侵略までは、西欧型民主主義を守りとおしたのである。」(p.91)という、他の東欧諸国とは違う「西側と太刀打ちできるだけの実力が残されているように」(p.92)思える国なのだそうだ。おれもプラハは行ったことあるけど、チェコとスロヴァキアに分かれてしまった今では、もはやドナウ川はチェコを通っていないんじゃ?という感じで、今、スロヴァキア単体だとどんな感じなんだろう、と思った。「エコロジー戦争」(pp.93-102)の話は興味深いが、結局このダム計画の話はどうなっているんだろうか。あと「ボヘミアの美しい森林は酸性雨に侵され、いたるところにボタ山がぶざまな姿をさらしている」(p.102)とあって、おれが小学生の時は酸性雨、というのはメジャーな環境問題だったけど、今はどんな感じなのだろうか。続いて、ハンガリー。これはヴィシェグラードにある「ドナウ曲がり」が有名で、ここは行った!そして山に登ってドナウ川の曲がっているところを写真に収めたので、読んでいて面白かった。「この『ドナウ曲がり』には、ハンガリーの歴史が凝縮されているといってもいい。」(p.107)そうだから、これは旅行に行く前に読むべき本だった。そして「日本でいえば奈良か京都」(p.109)にあたるエステルゴムにも行き、教会の土産物屋で買ったハリネズミの爪楊枝さしは今でも食卓にあるが、ここの聖堂を建てたイシュトヴァーン一世は「ハンガリーが生き延びるためには、キリスト教に改宗し、ヨーロッパ文明社会の一員となるよりほかに道のない」(同)という状態で、「エステルゴムで洗礼を受け、ローマ法王から王冠を受け、キリスト教を国教とした」(同)人物。たぶん旅行した時にはガイドブックで読んだと思うんだけど、本当に忘れてしまっている。ブダペストを超えると、「『ブスタ』と呼ばれる広大な草原」(p.132)が出てくるが、このページで紹介されている「ホルトバージュ・ブスタ」とか、「チコージュ(馬飼い)の妙法」とか、ものすごい苦労して個人で行ったところなので、読むだけで感慨深い思いがした。ハンガリー、もう一回行きたいなあ。次にユーゴスラヴィア。「ユーゴスラヴィアには、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字がある。それでも国は一つ。」(p.150)とはうまく言ったものだなあと思うけど、そんな感心している場合ではない複雑な事情があり、地域別に様相が違うということくらいは分かったけど、ちゃんと勉強しないと難しい歴史や情勢があることも分かる。そして、ブルガリア。この国は行ったのだけど、行ってもあまりこれという印象のないまま終わってしまった。「伝統的に農業に強いブルガリアは、新鮮な野菜や果物を、大型の冷凍トラックでヨーロッパ各国に供給する。"ブルガル"とは"鋤を持つ人"を意味するというが、ブルガリア人の素朴で誠実な性格は、昔から定評のあるところだ」(p.177)ということだそうだ。でも農業国であることと、もう一つは「今日ロシア語で使うあの文字ーキリル文字ーは、実はブルガリアからもたらされた」(p.179)というのは、そういえばこの布教用の文字を作った僧の兄弟の絵を、ソフィアの国立歴史博物館で見た気がする。そして、ルーマニア。ここはブカレストと、トランシルヴァニアに行ったが、ルーマニアは「スラブの海にあるラテンの島」(pp.196-7)と呼ばれるほどローマ文化圏になっているが、トランシルヴァニアには異質で、「問題をはらむ地域」(p.197)となっているらしい。ブカレストとブラショフ(トランシルヴァニア)だけの比較では、都市と地方、というくらいの違いで、あんまりそんな感じが分からなかったけど、トランシルヴァニアはドイツ文化が入っている。というのも言われてみれば、そうかなあ、という感じ。最後にソ連。「坦々たるヨーロッパ・ロシアにつづく大地」(p.209)、「どこまでいっても大地が果てしなくつづく」(p.210)、「荒漠たる大地の彼方に地平線が横たわっている。その地平線をめざして進むと、さらに新しい地平線が現れる。なんの遮蔽物もない大地は、敵からの攻撃に無防備である。彼らは不安にかられてさらに先へ進む。こうして最後に険しい山や海にぶつかるまで、彼らの膨張はたえまなくつづく」(同)という描写が印象的。こういうところに一度行ってみたい。そして、この「広漠たる空間を意味するロシア語独特の表現」(p.209)として「プロストール」という言葉があるらしい。確かに、日本ではそういう様相を表す言葉が生まれようがない。そして「ロシア人の膨張欲の根源が"プロストール"」(p.210)ということで、何となく空間の膨張欲、というのはアメリカの西部開拓みたいなイメージがあるのだけど、それとは違うのだろうか。フロンティア、みたいな。もちろんアメリカはアパラチア山脈とかあるからロシアほど広大ではないにせよ。
     ということで、おれの個人旅行も思い出すことになって、面白い本だった。紀行と言っても歴史の話だから、旅行本では全然ないけれど、それでもドナウ川を下る、という旅を一度してみたい。それから、この著者はこのあと『ライン川』とか、他の中欧、東欧関係の本も書いているらしいので、それも読んでみたいと思った。(20/01/10)

  • ドナウ河がかつては東欧・ソ連を結ぶ動脈網だった。冷戦の終了に伴い、ドナウは身近な存在になり、プラハ、ブダペストなどの魅力的な街が開放された。鉄のカーテン崩壊の歴史の直後に書かれたこの本は時流に合っていただろう。ドナウは美しく青いものではなく、ウィーンでは泥で茶色。また普墺戦争で敗北後に国民に慰めと勇気を与えるための有名な曲の歌詞は実はハンガリーの詩人ベックもの!!。むしろハンガリーにドナウ連邦の提唱者が多く、オーストリア以上にドナウへの拘りが強かったようだ。ウィーンそして中欧・バルカンの各都市がなぜエキゾチックな西洋の街として現在の姿に発展してきたのか、トルコとの戦いの歴史から詳しい。キリル文字がブルガリア語からスタートし、スラブ世界に広がっていったとの説明に新発見だった。

  • ドナウ河の源流(ドイツ)から終点の黒海までの「ドナウ河世界」の歴史と文化を解説した良書。まるで、ドナウ河下りをしているような感じでとても楽しく読むことができた。
    ただ、初版が1991年なので、その当時の政治状況を色濃く反映したものとなっている。それ故に、その後の大激変をうけた第二版が是非とも読みたいものである。

  • 「紀行」と銘打つとおりの内容、この地に旅行に行きたいなと思わせてくれる意味で良い本と思う。
    しかし学術の良質な普及本であることが発刊の主目的だったであろう岩波新書に収録されるべき本であるのか、正直言って相当に疑問。
    この手の作品があると、青本などと比べて赤本の質はかなり落ちているなどという評価に対して確かに反駁できないかもしれない。
    繰り返しだが、岩波新書である必要性を感じないだけで、普通の紀行文として面白い。

  • ドナウ河流域の歴史について簡単に述べているものである。
    最後の国がまだ「ソ連」というところに歴史を感じた。

  • [ 内容 ]
    ドイツの黒森に発し、黒海に注ぐドナウ。
    東欧・中欧8か国を流れるこの約2900キロの大河の両岸には、多彩な文化に彩られた独特の「ドナウ世界」が広がっている。
    古代ローマの植民やハプスブルク家の時代から冷戦期を経て現在に至るまでの歴史を織り込みながら、多様な民族や宗教を軸に今も揺れ動くこの地域へやさしく案内する。

    [ 目次 ]
    1 シュヴァルツヴァルトの森から(ドイツ)
    2 甦る“ドナウ帝国”(オーストリア)
    3 ゲルマンからスラブへ(チェコスロヴァキア)
    4 ルーツはアジア系民族(ハンガリー)
    5 “欧州の火薬庫”は、いま(ユーゴスラヴィア)
    6 バルカンの深奥(ブルガリア)
    7 スラブ海のラテン島(ルーマニア)
    8 “赤きドナウ”の終焉(ソ連)

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 『中欧の崩壊』と同じ著者によるエッセー。1991年初版。ドナウの源流から、流域の中欧各国の風景や、文化、歴史をたどる。中欧に関心がある人には、ぜひおすすめしたい本。中欧へ旅してみたくなる。どのページもたのしく、おもしろいが、特に私は、ハンガリーのブダペストを紹介する「ドナウの女王」という節がよかった。

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著者プロフィール

1927~2015年。名古屋市生まれ。欧州問題研究家。東京大学法学部卒業後、NHK入局。NHKベオグラード、ボン支局長、解説委員。著書に『図説ヨーロッパの王朝』など多数。

「2018年 『図説 ハプスブルク帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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