定常型社会: 新しい「豊かさ」の構想 (岩波新書 新赤版 733)

著者 :
  • 岩波書店
3.62
  • (17)
  • (22)
  • (47)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 355
感想 : 27
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004307334

作品紹介・あらすじ

経済不況に加え、将来不安から閉塞感をぬぐえない日本社会。理念と政策全般にわたる全体的構想の手掛かりは何か。進行する少子高齢化のなかで、社会保障改革はどうあるべきか。資源・環境制約を見据えて、持続可能な福祉社会のあり方を論じながら、「成長」にかわる価値の追求から展望される可能性を提示する、問題提起の書。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ★本書のメッセージ
    「成長」に代わり「定常」であることを新しい豊かさとよう

    ★読んだきっかけ
    戸田氏の『働く理由』に引用されていたため。今後の社会において、どういった働き方をしたいのか考えたく、読んでみた。2001年に書かれた内容であるが、現在にも十分通ずる内容。そう思うと、今の政府の在り方・価値観は全く転換するに至ってないのだと分かる

    ★本の概要・感想
    人口が減少し、GDPも伸びていかない社会で、どのような国・政策の在り方がよいかを考える。社会保障や政策の知識が無いとスムーズに理解するのは難しい。
    ムリに成長を志しても苦しいだけだろうなぁ。

    ★本の面白かった点、学びになった点
    *「成長」という概念の位置づけ自体が、実は経済学の理論パラダイムの中では必ずしも重要視されていなかった、ということ
    ・経済成長に価値があるとされたのは、失業問題との関連である
    ・実物経済で需給が均衡しても労働市場が均衡するとは限らず、そのため政府が追加投資を行って実物経済を高い水準に引き上げる必要があった
    →労働市場が改善されていないのであれば、経済成長には本来の意義はかなり弱まる

    *定常型社会とは変化のない、退屈な社会ということではない
    ・量的な変化は志向しないが、質の変化は継続しておこるものとなっている

    *もともとヨーロッパにおいては、大きな政府を志向する社民系も、小さな政府を志向する保守系も「経済成長を志向する」という観点では共通に意識していたこと
    ・経済成長をより効率的に達成する手段として、自由放任なのか、ケインズ的積極的財政政策を取るのか、といった違いなのである

    *不断の経済成長は「人間の需要は制限なく拡大する」ことを前提に考えられていたため、現在はその仮定にムリが出てきている

    *本質的な現代の先進国の課題3つ
    ・外的な課題ー資源が有限であること
    ・内的な課題ー人間の欲望、消費需要が無限に拡大しないこと
    ・分配の課題ー富の総量を増やしても、きちんと、貧富の差が埋まるようには分配されないこと

    *定常型社会の3つの意味とその条件/根拠
    ・第一の意味「マテリアルな消費が一定となる社会」
    →脱物質化← 情報化や「環境効率性」の追及を通じて
    ・第二の意味「経済の量的拡大を基本的な価値ないし目標としない社会」
    (=脱量的拡大)←「時間の消費」を通じて
    ・第三の意味「<変化しないもの>にも価値を置くことができる社会」
    ←「根源的な時間の発見」を通じて、行われるものとなっている

    ●本のイマイチな点、気になった点
    ・そんなに簡単な本ではない。社会保証やサステナビリティ、マクロ経済学の知見がベースに無いと理解できない
    →勉強し直して、また今度よもう

    ●学んだことをどうアクションに生かすか
    ・社会保障の政策についてもう一度考えたいと思った際、もう一回読みたい
    ・やっぱり、いまだに物質的な成長、量的成長だけをひたすらに志向するのはナンセンスっすよね

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/61764

  • 内容:
    「(経済)成長」・「物質的な富の拡大」という目標が機能しなくなった現代において、「定常型社会」という新しいコンセプトを提示する

    MEMO:
    ・定常型社会
    ① マテリアルな(物質・エネルギーの)消費が一定となる社会
    ② (経済の)量的拡大を基本的な価値・目的としない社会
    ③ <変化しないもの>に価値をおける社会

    ・情報の消費から、時間の消費。
    ・ひいては、経済とは離れて、時間自体を楽しむこと。

    ・福祉政策が需要の増加(経済の拡大)に寄与する点をあらためて認識できて面白かった;

  • [第1刷]2001年6月20日

  • 2021.72
    ・ゼロ成長社会。
    ・人と環境、人と人の問題に収束する。
    ・自然とつながることで長い時間軸を取り戻す。

  • 2004/04/30読

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784004307334

  • はっきり言って僕にこの本をしっかり読むだけの社会的知識はなかった。でも、このタイトルにひかれてとりあえず読み始めた。小泉首相は「構造改革、構造改革、改革なくして成長はない」などと言っている(2001年9月現在)。しかし、本当に成長する必要はあるのだろうか。もう十分成長したのではないか。これからは、NPOなどをはじめとして、あまり余分な利益を追求しない社会が求められるのではないだろうか。利潤を追い求めたことで私たちには環境問題というツケが回ってきた。すでにそのことに気付いている人は多くいるはずだ。なのに、なぜ、我が国の首相はいまだ同じことを繰り返そうというのか。アメリカはなぜ、環境を無視して自分たちの利益を求めるのか。私たちの必要なのは、もはや物質的豊かさではない。精神的な豊かさが必要だ。それは言い換えると、時間的な豊かさと言えるかも知れない。朝早く出勤して、終電で自宅に帰り(帰れるだけまし?)、家には寝に帰るだけというお父さん、それがあなたにとっての幸せですか?子どもと接する時間が全く持てなくて幸せと言えますか?「ほっとけ、幸せは人によって違う。」と、おっしゃる方もいるかも知れません。それはそうでしょう。それでもやはり、社会は違う方向に向かっていると思われます。時間的なゆとりが必要です。特に30代、40代の親は子供と接する時間をたっぷり持ちたいものです(もっとも働き盛りではあるのだけど)。そのためにも、日本で成功するかどうか分かりませんが、「ワークシェアリング」などの発想で、働く時間を減らすべきです。収入はいくぶん減るでしょう。でも、きっと心のゆとりは増えると思います。案外お金をかけなくても、幸せな気分は味わえるものです。また身近な地域社会で「相互扶助」的な活動が行われるようになると、お金のためではなく、自分の得意な分野で他人に何かをしてあげ、その分で他人から何かしてもらうこともできるようになるでしょう。地域通貨というシステムがその仲介になるかも知れません。少し時代をさかのぼれば、そういう世の中もあったのでしょう。いまから電気のない社会にもどすことはできません。でも、気持ちの持ち方を少し変え、社会のシステムを大きく変えると、ずいぶんとたくさんの人が幸せを感じられるようになると思うのですが、どうでしょう。経済や社会保障について自信のある方、あるいは将来勉強しようという方は本書を一度読んでみて下さい。そしていろんな意見を聞かせて下さい。待ってます。

  • 今年、パラダイムの転換を予感させる、「ポスト資本主義」という本を出した著者の、2001年の著作。同じ岩波新書から出ている。
    十数年前の本作でも、成長一辺倒で突き進んできた「資本主義」が、人口動態からの需要の限界や、地球環境の限界から、成長が頭打ちしており、今後「定常化」せざるを得ないという主張がなされ、最近作と同じものであった。以前より、分かる人には分かっているものであり、現実や社会の大勢の感覚が、ようやく追い付いてきたのだと思う。
    最近作では、拡大・成長と、成熟・定常を繰り返す歴史のサイクルを受けて、この次にくるのが、定常ではなく、技術的特異点(シンギュラリティ)が来るといった議論も紹介している。いわゆる、ポスト・ヒューマン的な断絶が来る想定で、著者は否定しているのだが、さすがにこちらにはまだその手の議論はなかった。
    最近作になかった点で、参考になった点としては、「機会の平等と潜在的自由」の議論があった。
    公平にするということは、一方で自由の侵害であるとし、公平や平等と自由を対立するものとする考えがある。しかし、機会の平等が保証されていなければ、それは個人の(潜在的な)自由の浸食を意味し、実は、自由と平等は重なり合う概念であると指摘している。こうした認識に基づいて、社会保障制度の見直しなどが必要であると指摘していた。
    今後も、もちろん科学・技術的な発展もあるだろうし、当然、そうしたものから得られる豊かさも期待できる。しかし、現代が向き合っているのは、成長か定常かといったレベルを超えて、社会制度を成り立たせるわたしたちの価値観や認識の変革であると感じた。

  • 問題意識を持つ大切さを思い出させてくれた書。

    このまま「成長」信仰でいいのか?より根源的な豊かさがあるのではないか?理想論でなく、時代の趨勢として、そのような問いに答えていく針路が見えた。

    ・介護に加えて、相続の社会化。
    ・障害者福祉も、事後的な保障ではなく、機会の平等のための支援策と考える。
    ・人件費を高くし、エネルギー費用を低く抑えるため、自然資源を使いすぎ、人間の労働力を十分使わないのが、現在の税制や社会保険料。
    ・地域が再び前面に出ている。1.高齢化=生産人口の減少:高齢者と子どもは土着性が高い。2.雇用の流動化と形態の変化。3.情報化
    ・エコマネー=地域通貨。交換・決済機能は持つが金融=信用創造機能は持たない。
    ・21世紀後半に向けて、世界は高齢化が高度に進み、人口や資源消費も均衡化するような、ある定常点に向かいつつあるし、そうでなければ持続可能ではない。
    ・経済成長はナショナリズムと関連。
    ・1.共同体からの離陸。2.土地などの自然的制約からの離陸。3.物質からの離陸=情報消費 =>拡大・成長の歴史(200~300年)
    ・生物として生きていくのに必要な量の40倍ものエネルギーを人間は消費。かつてより40倍も時間が早い。
    ・ケアという営みにおいて本質的な意味を持つものは「時間」という要素。遊び、自己実現も。
    ・成長が目標であり限り、都市に求心力が働き、地方分権は進まない。

全27件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

広井 良典(ひろい・よしのり):1961年生まれ。京都大学人と社会の未来研究院教授。専攻は公共政策、科学哲学。環境・福祉・経済が調和した「定常型社会=持続可能な福祉社会」を一貫して提唱。社会保障、医療、環境、都市・地域等に関する政策研究から、ケア、死生観、時間、コミュニティ等の主題をめぐる哲学的考察まで、幅広い活動を行っている。著書『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書、2009年)で大佛次郎論壇賞受賞。『日本の社会保障』(岩波新書、1999年)でエコノミスト賞、『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社、2019年)で不動産協会賞受賞。他に『ケアを問いなおす』(ちくま新書)、『ポスト資本主義』(岩波新書)、『科学と資本主義の未来』(東洋経済新報社)など著書多数。


「2024年 『商店街の復権』 で使われていた紹介文から引用しています。」

広井良典の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×