言語の興亡 (岩波新書 新赤版 737)

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  • Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004307372

作品紹介・あらすじ

現在地球上に存在する約五千の言語は、どのように発達してきたのだろう。オーストラリアの言語学者ディクソンは、変化の少ない長い平衡期と、言語が急激に拡張・分裂する短い中断期が繰り返されたとする新しい仮説、断続平衡説を提示する。さらには、異文化接触によって消滅してゆく少数言語に対して、言語学はいま何ができるかを熱く語る。

感想・レビュー・書評

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  • 通勤で持参した本を読み終えてしまい,帰りがけに買った岩波新書の一冊。こういう時に神保町は便利だ。ほんの10分ほどあれば,重い本か軽い本か,どの分野がいいかなど選び放題。
    本書を手にとったのは理由がある。明治学院大学の講義でパレスチナ問題について学び直したが,その過程で「反セム主義」という言葉を知った。これ端的に反ユダヤ人主義なわけだが,ユダヤ人の母語であるヘブライ語は,インド=ヨーロッパ語族ではなく,セム語族という系譜になることが当時の言語学で明らかになり,それがユダヤ人をヨーロッパとは異なるものの根拠として用いられたという話。
    現代言語学はそうした民族の話や地理の話とは無縁な気がするが,現代言語学の古典ソシュールの『一般言語学講義』でも第Ⅳ編が「言語地理学」にあてられている。19世紀初頭のドイツの言語学者ヴェルヘルム・フォン・フンボルトも地理学者である弟のアレクサンダーが南米旅行で記録してきた現地の言葉に関する資料を自らの研究に活かしたなんて話もあるくらいで,19世紀の言語学の中心は世界における言語の多様性をいかに説明するのかという比較研究を中心としていたらしい。

    はじめに
    第Ⅰ章 序説
    第Ⅱ章 ことばの伝播と言語圏
    第Ⅲ章 系統樹モデルはどこまで有効か
    第Ⅳ章 言語はどのように変化するか
    第Ⅴ章 断続平衡モデルとは何か
    第Ⅵ章 再び祖語について
    第Ⅶ章 近代西欧文明と言語
    第Ⅷ章 今,言語学は何を優先すべきか
    第Ⅸ章 まとめと展望
    補論 比較方法の発見手順では見誤ってしまうもの

    言語同士を比較し,似ている似ていないでグループ化し,進化論の影響下ではそれを生物の系統分類と同じように類型化するというところまでは知っていたが,やはり言語学でも系統分類が万能ではないらしいというのが,本書の主張。生物分類に関しても昨年何冊かの本を読んだが,やはり生物種についても言語についても,観察できるのはせいぜい数十年である一方で,それらが変化を遂げていくにはその10倍とか1000倍とかの時間がかかるのだ。
    結局は進化という現象を信じても,それが具体的にどう変化したのかを資料に基づいて根拠づけるのは簡単ではない。言語学においてそうした系統樹のモデルを確立した一つの事例が有名なインド=ヨーロッパ語族であり,著者によれば,その成果に異論はないという。インド=ヨーロッパ語族はそのモデルでよく説明できるものだが,世界中の言語がそのモデルで説明できるかというとそうではないという。
    著者によれば,言語の変化には,変化をあまりせずに長い間経つという「平衡期」と,短い時間に変化していく「中断期」があるという。そこで提案されるのが断続平衡モデルというものだが,やはりこの辺になると説明が複雑で分かりにくい。
    それに加え,著者はヨーロッパによる植民地支配の問題なども議論しており,かなり視野が広い。最終的に著者の主張は言語学における民族誌的研究の必要性だ。現在次々と失われていく言語を記録するために,言語学の博士論文は,そうした言語集団をフィールドワークし,その言語体系を記録していくようなことをすべきだと主張する。

  • 消滅言語研究、少し広げてみよう。

  • 言語系統樹のモデルは万能ではないと主張し、地理的な伝播も考慮に入れた断続平衡モデルを提案する。安易な普遍化、演繹的な理論化を拒む生真面目さがフィールド言語学者らしい。第8章では、エヴィデンシャリティ、従属部標示型vs主要部標示型の対立と形容詞タイプとの相関など、言語類型論の主要なトピックが紹介されている。「基礎言語理論」についての概説もあって参考になった。
    ただ一点、歴史的に一度分岐した言語同士が再接近する例として、沖縄の例が挙げられている箇所が気になった。「沖縄語と日本語は元来二つの異なる言語へと発展を遂げたのだが、その後クレオール語化のような形をたどり、再び日本語の一方言になりつつある」(p86)
    沖縄の言語状況はそのような歴史的変化ではなく、いわゆる「言語シフト」という社会言語学的事象ではなかったか。適切な例示であったか疑問符がつく。

  • 105円購入2012-11-17

  • 今となっては少し内容が古いところや間違った箇所もあるが、比較言語学・言語の起源・系統関係などについて、幅広い事例からエッセンスをまとめた本としては良いのではないか。

  • なんとなく、現在、世界で使われているあらゆる言語は、ある一つの言語から枝分かれしてできたもので、綿密に調査を重ねれば、系統図が描けるんじゃないかと思っていた。そうだよなぁ、そんな単純じゃぁないんだよなぁ。
    これから何世代か後も、世界が多種多様な言語で満ちあふれる複雑な世界であるといいな。

  • 断続平衡モデル、比較による祖語再建や系統樹説の限界など。

  • 世界各地で固有の言語が失われていく状況を示すと共に、言語"分析"の方法に関して「系統樹」的な分類による”言語圏”という考え方の限界を説いている。そして、断続平衡説と著者が呼ぶ、言語の変化(分化・統合)の考え方を示す。
    オーストラリア現地でのフィールドワークや、広範な知識に裏打ちされた話だけに、とても説得力がある。さらにはそれを一般読者にも分かるレベルで解説してくれている。
    グローバル化やそれに伴う英語公用語化の流れの中にいる我々にとって、読むべき一冊だ。

  • かたいけど何とかなる。

  • [ 内容 ]
    現在地球上に存在する約五千の言語は、どのように発達してきたのだろう。
    オーストラリアの言語学者ディクソンは、変化の少ない長い平衡期と、言語が急激に拡張・分裂する短い中断期が繰り返されたとする新しい仮説、断続平衡説を提示する。
    さらには、異文化接触によって消滅してゆく少数言語に対して、言語学はいま何ができるかを熱く語る。

    [ 目次 ]
    第1章 序説
    第2章 ことばの伝播と言語圏
    第3章 系統樹モデルはどこまで有効か
    第4章 言語はどのように変化するか
    第5章 断続平衡モデルとは何か
    第6章 再び祖語について
    第7章 近代西欧文明と言語
    第8章 今、言語学は何を優先すべきか
    第9章 まとめと展望
    補論 比較方法の発見手順では見誤ってしまうもの

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著者プロフィール

1939年イギリス生まれ、ロンドン大学にてPhD.を取得。前オーストラリア国立大学教授、現在、ジェームズ・クック大学教授。専攻はオーストラリア原住民語、言語類型論。主要著書に『The Dyirbal language of North Queensland』『A grammar of Yidin』(Cambridge University Press)、『Basic linguistic theory(Volume 1:Methodology/Volume 2:Grammatical Topics)』(Oxford University Press)ほか多数。

「2018年 『能格性 ERGATIVITY』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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