未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告― (岩波新書 新赤版 837)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004308379

作品紹介・あらすじ

「図書館がなかったら今の自分はなかった」。起業や芸術の支援、医療情報などが充実したニューヨーク公共図書館。地域密着の運営、独自のイベントや、ITを活用した情報提供は、どのようにして可能なのか。個人の力を伸ばし、コミュニティを活性化させる活動とその意義を伝え、「市民が主役の情報社会」の方向を探る、示唆に富む報告。

感想・レビュー・書評

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  • 本棚から十数年ぶりの再読。
    本書でのニューヨーク公共図書館のスタイルが、日本の現状とはあまりにも差がありすぎて、「とにかくこの眼で見てみたい」と強烈に思ったものだ。
    今夏映画化によりその望みが叶い(眼からウロコが何百枚も落ち)今一度開いてみる。

    ニューヨーク公共図書館は、NPO組織。その資金も寄付によって賄われている。
    もうこれだけでも驚きなのだが、予算には限りがあるためサービス充実に努めており、そのサービスの充実ぶりに更に驚く。
    「公共(Public)」という認識からしてすでに違うのだ。
    政府や自治体が行うものだから公共なのではない。
    市民に開かれ市民の暮らしを支えていくから公共と言える。
    これが何故日本では出来ないのかを考える時、私たちは「どこかの誰かが全てやってくれる」ことを暗に期待してはいないか。

    情報というものは、それをどう活用していくかにかかっている。
    同時に引き出すスキルさえ持たない人と言うのも存在する。
    この図書館は、この二つのタイプに適宜対応していく。
    様々な市民の暮らしを支援する、専門性の高い司書さんたちの存在。
    誰もが無料でアクセスできる膨大な量のデータベースは、起業や芸術の支援、医療情報の把握に役立ち、時に図書館は博物館のようであり、美術館のようでもあり、職安のようでもある。
    履歴書の書き方までレクチャーしてくれるのだから、もう想像をはるかに超える。
    更に、放課後の子どもたちの居場所であり、「宿題ヘルプ」の担当者もいて教員訓練の場にもなっている。
    市民と地域の活力源として、どれほど重要な役割を担っていることだろう。

    著者後書きによれば、日本は図書館の後進国なのだということが、よく分かる。
    この本が出てから16年。現在は更に遅滞していることだろう。
    那須塩原市に完成したという新しい図書館は、あるいは進化形かもしれないので、こちらも一度見に行ってみたい。
    「知のインフラ」としての図書館が、国民の知力を高める場となり、それが地域を支える底力となっていったら素晴らしいと思うのだがどうだろう。
    本好きさんや学生さんだけの場ではない。
    どうかすべての人のニーズに応えた門戸が開かれますように。

    余談だが、この秋は読みごたえのある良書に恵まれた。
    これもブク友さんたちのおかげと感謝でいっぱいです。いつもありがとう。

    • 夜型さん
      こんばんは。
      5552さんが本にまつわる本が好きって言っていたので、持ち合いからソートをかけてまとめてみたんです。おそらく抜けがあるかもし...
      こんばんは。
      5552さんが本にまつわる本が好きって言っていたので、持ち合いからソートをかけてまとめてみたんです。おそらく抜けがあるかもしれません。

      読書会、いいですね。ブク友メンバーで集まったら楽しそう。参加したことがないから、どんなことをするのか未知なのですが笑

      人間動けるうち、できる時にやりたいことをやって思い残しがないようにしたいですね。

      時機を待つのももちろん悪くないです。
      うさぎが好きなのですが、亀の歩みが合ってます。生まれ変わるならペンギンがいいですけど!

      本の寿命は恐ろしく短いです。
      ヒルルクの言う通りで、いい本を見つけたら良かったよって他の人に伝えていくと生きながらえるそうです^^
      そのパズルのピースを貴殿に託しました。よろしくです。
      2019/12/03
    • nejidonさん
      夜型さん、再訪して下さって、ありがとうございます!
      このリスト、そうだったのですか。
      ソートをかけてもなお抜けがあるとしたら、もっと増え...
      夜型さん、再訪して下さって、ありがとうございます!
      このリスト、そうだったのですか。
      ソートをかけてもなお抜けがあるとしたら、もっと増える可能性がありますね。
      そうだといいなぁ。とても楽しみです。
      夜型さん、私は「知りたいこと・分かりたいこと」が山のようにあるのですが、
      問題はその「知り方・分かり方」なんですよね。
      この「本にまつわるリスト」が、応えてくれそうで、すごくワクワクしています。

      読書会は、学生時代の楽しい思い出のひとつです。
      私のようなゆっくりした子ばかり(笑)10数人集まって、年に3度開いてました。
      色々な見方・感じ方やらが飛び交って面白そうと思われるでしょうが、
      実はそれ以外にも面白くてたまらない時間が最後にあるのです。
      次なる課題の「選書タイム」で、全員が推し本をプレゼンするのです。
      ひとり1分から1分半以内。これはもう、病みつきになる面白さでした。
      生涯で、あんなに頭を使ったことはないかもしれません・笑

      (夜型さんはペンギンさんでしたか?!ふふふ。
      私は空を悠々と飛ぶ大きな鳥になりたいです。棲み処は深山。)

      コメントのラスト4行で涙が滲んできました。
      私に出来ることなんて微々たるものですが、
      たとえひとりでも受け止めてくれるならと
      いつもそう思っています。
      お話会も同じです。
      中学生向けの朗読作品は決まりましたよ。
      せんだっての「みちづれ」から選びました。
      ありがとうございます。パズルのピースは確かに受け取りました。


      2019/12/03
  • ニューヨークの図書館の取り組みを紹介し、図書館の役割を改めて考える。
    初版が2003年なので、インターネット普及状況などはいまとは違っていることもあるだろう。しかし図書館がどういうものなのか、という目指すものや考え方は今でも変わらないだろう。

    まずは著者が滞在したニューヨークの図書館の取り組みが紹介される。
    「公共図書館の役割は、市民が必要とする情報を誰もが得られるように扱うことだ。人間にとっていちばん大切な命や健康に関わる情報は、図書館が提供するものの中でも最も貴重なもの(P110意訳)」としている。
    ●まだインターネットの普及率が低かった頃から図書館のパソコンでの情報提供を行っていた。それは利用者に自由に使ってもらうだけでなく、司書も利用者が必要なものにたどり着くために、様々なアプローチから情報を探し出せるようなルートを用意している。。
    ●ニューヨークには様々な図書館がある。
    ビジネス図書館、映像資料も充実している舞台芸術の図書館など。なお日本にも「専門図書館」は多数あります。
    ●図書館のインターネットで利用者がビジネス展開することも許容している。公共としては、市民が失業したりホームレスになって社会保障のコストを掛けるよりも、自立してもらったほうが良いという考え方だ。
    ●講座が充実している。朗読会のような楽しみのための集まりもあるし、法律相談やカウンセリングの講座もあるし、地元アーティストの展示会も行われる。「図書館は市民のために存在する」というあり方のもと、地元団体と交流したり、人口統計を調べたりして市民の必要を見つけて講座を組んでいる。実際に利用者はとても多い。
    ●知識を広げ教養を高めくらし全般や地域に関しての実践的な情報を提供し、市民が情報を活用して新しいものを作り出す。
    ●利用者に提供する情報は、病気や保険など、利用者自身の知的武装に役立つものもある。
    医療情報を提供することにより、患者本人が医者と話し合って治療方法を探ってゆく。医者にとっても、全く無知で医者の言いなりになるよりも、正しい知識の元話し合える関係が築けるので歓迎なのだ。
    ●テロのときにはすぐにテロ情報サイトを立ち上げたので、より地域の住民に信頼されるようになった。図書館を地域情報や地域交流の場にしている。引っ越ししたらまずは図書館に行くことも根付いている。
    ●NYでは子供の教育を家庭・家庭・地域コミュニティで連携して行っている。地域コミュニティの拠点として公共図書館がある。

    ●情報を公開するということは負の面もある。冷戦時代に旧ソ連スパイに使わrたり、同時多発テロメンバーが図書館のインターネットを使用していたことなどが分かっているんだ層だ。しかし「情報は諸刃の刃」ということを自覚しつつ、情報の自由な流れを優先することを選んでいる。

    ●「公共」というと、日本でのイメージはお役所だが、アメリカでは市民が担うという考え。そのため図書館運営も市民が主体であり、個人や財団による寄付も多い。

    ●インターネットが発達してデジタル社会になった今こそ図書館が必要!図書館は「個人的に読みたい本や資料を借りる」だけでなく、情報発信やコミュニケーションの中心となる。
    ●「平和のためには過去の過ちを詳しく知ることが必要」
    充実したサービス

    ・印刷物、電子情報、チラシ、歴史記録、過去に遡って体系的に蓄積
    ・膨大な情報の中から適切なものを選び、アクセスしやすい検索システムを構築
    ・市民の情報活用能力や情報環境の育成
    ・出会いの場所を作り、新しいビジネスや知的活動の場
    ・著作権やデジタル化の新しい動きに対して民主的な情報環境づくりを行う

  • 2003年刊行の本書に描かれた、ニューヨーク公共図書館の姿に驚かされてばかりでした。
    日本の図書館の在り方との違いにも驚きましたが、ニューヨーク市民の図書館に対する信頼度の高さに衝撃を受けました。
    市民が図書館に受けた恩恵を寄附金という形で図書館に還元する文化も日本にはない形だと思います。
    市民と図書館がお互いを成長させる相乗効果が生まれていることに、大きな刺激を受けました。

    図書館の無料インターネットを利用してビジネスを展開している男性についての、図書館側のコメントが奮っています。
    「彼が失業したりホームレスになって社会保障のコストをかけるより、図書館の資源を活用して得意分野で才能を伸ばし、経済的に自立してもらったほうが、市にとっても彼自身にとってもメリットが大きい。」
    とても広い視野を持ってサービスを提供していることが感じられました。

    刊行から10年以上を経ていますが、本書に描かれたニューヨーク公共図書館に、日本の図書館はまだまだ追いつけていないという現実も突きつけられた感じです。

  • 「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」という映画を見て衝撃を受けた。
    NPOが運営する公共図書館というものでありながら、世界最大級の規模と、サービスの手厚さを目の当たりに見た。
    図書館なので本という蔵書を持っているだけでなく、文化的遺産の保護、舞台芸術や写真、映像、音声資料も持つ。そして、それを貸し出すというだけでなく、分野ごとに精通した司書をおいており、司書は図書館でのF2Fでも、電話等でも利用者の要望を聞き取り、アドバイスする。
    映画の中では冒頭電話対応をする多数の司書たちの様子が映し出されていた。まるで電化製品のサービスサポートセンターのようだ。
    そして、図書館は利用者の自立や文化的生活を助けるために多種多様な講座を主催したり、有名な文化人の公演(映画ではリチャード・ドーキンス、エルビス・コステロなどが講演に来ていた)を行うだけではなく、市民の30%はインターネット接続環境を持っていないという現実に対して、図書館のPCを開放してインターネット接続を許可するだけでなく、映画の中では自宅でも使用できるようにとモバイルワイファイの貸し出しまでやっていた。
    そして、そういう図書館の活動の資金は半分が市などからの助成金(税金)だが、半分は篤志家からの寄付などによっている。しかも、その総額は年間3億ドル近い(300億円以上)になるという。
    だからこれだけの多彩な活動ができるのか!という驚きもあるが、黙っていて助成金や寄付が来るはずがない。そのための実績を積み上げ、寄付を呼びかける宣伝活動もしっかり戦略的にやっている。そして、そういう呼びかけに応える篤志家がいる、、、
    なんだかんだ言ってアメリカという国の底力というか、懐の深さを思い知らされる。

    この本は日本人の女性ジャーナリストであり、ニューヨーク公共図書館の利用者でもある菅谷明子氏が、普段お世話になっている図書館がどういう歴史を持ち、なぜこれほどまでに充実したサービスを提供できるのかを取材したものだ。
    映画を見て、NYPLの凄さに驚嘆して、本で更に詳細な情報を知らいたいと思って購入した。
    なんともNYが羨ましい。

  • アメリカで、図書館を利用したことがあります。
    大学の図書館、公共図書館の両方訪問しました。

    制度がよくわかっていなかったので、本書を読んでいればよかったと思いました。
    ニューヨークへ出かける方は、ぜひ、でかける前に読まれるとよいと思います。

  • 科学的発明や芸術、経済効果など社会に関わる活動の動力源が図書館にある!
    図書館資料の存在が利用者の目指すベクトルの違いによって二転三転し、新たな成果を生み出す。
    ニューヨークにある図書館はそれを代表しています。
    それに倣い、世界中の図書館が同じ役割を持てば素晴らしいと思います。

  • 映画に引き続き、こんな図書館が近所にあったらなあと思わずにはいられない。2003年刊行なのにまだ内容に驚きが溢れているのはそれだけ日本の図書館が立ち遅れているということと、自分も図書館に興味を持ってなかったことの表れ。映画には入らなかった取組みの記載も多数。

    特に羨ましいのは舞台芸術を支援するリンカーン・センターと個室提供付きで1年間研究できる「研究者・作家センター」文献だけじゃなく過去の映像記録や脚本草稿、舞台セットミニチュアが保管され、作家センターは基本個人作業だけど毎日ランチは研究者たちみんなで食べるルールとか、素敵すぎる…

    2003年時点でデジタルサービスやデータベース・アーカイヴの重要性を理解してパソコン教室を開いたり万超えの資料のデジタル化に着手していたりと先見アンド先見の明で脱帽というかおそれいりました(平伏)という感じ NY公共図書館はNPO法人であることもそういう企画の自主性につながっているのかな。

  • ニューヨークの図書館がうらやましい。
    キーワードで司書さんが資料を持ってきてくれるなんて、なんかevernoteみたいだなあ、と思った。

  • ぼくにとって(あるいは多くの日本人にとって)図書館は本を借りる場所であり、静かに勉強する場所であり、どちらかというと情緒的な言葉で語られる場所だが、ニューヨークの図書館はそうではないらしい。
    徹頭徹尾実用的で、ぼくらが調べ物をするときにネットを探しまわるように、ニューヨーカーは図書館を使うようだ。逆に、図書館は有償DBサービスを始めとするネット情報へのアクセス拠点でもあって、情報センターとして機能をしている。情報編成のプロとしての司書の役割も大きい。日本とはずいぶん違う。
    日本流の図書館もそれはそれでいいとぼくは思うが、こういう図書館にも行ってみたいものだ。例えば司書に「食虫植物を上手に育てる方法が知りたい」というと、相談に乗ってくれるのだろうか? これからネットとどう住み分けていくのかな。
    具体的で面白かった。

  • アメリカの図書館事情。10年前なので、今はどうなっているのか気になるところ。でもつい先ごろ雑誌LRGで掲載されてた対談でも同じような話をされてたので、基本変わらないのかも知れない。ここで紹介されているような動きは、日本の図書館でも見られるようになった。ビジネス支援、地域とのつながり、出会いの場…。
    でも圧倒的に違うのは、図書館職員に求められている専門性。あるいは、市民が当たり前に正しい情報を求めていること。もしくは情報の質を求めていること。一般的に、日本で情報がこのように使われているだろうか。日本で、アメリカで展開されているような図書館サービスがはじまったのも、たぶんに図書館側の事情によってる気がしてならない。必要に迫られてサービスを始めた館は問題ないのだろうが、あそこがやってるから、と始めてしまったら、空回りするだろう。使われなくて。大学図書館のラーニングコモンズ導入館の多くが苦労しているように…。
    もちろん、ニーズに合わせてばかりではダメで、新たなニーズを掘り起こし、こんなにも自分にとって便利だったと思えるようなサービスを提供することが絶対に必要だと思う。図書館のためではなくて、人々が豊かに自由に暮らすために。
    そのために、図書館の情報をどう届けてどう使ってもらえるか、うまい仕組みを考え続けたいと思う。

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