ポストコロニアリズム (岩波新書 新赤版 928)

著者 :
  • 岩波書店
3.34
  • (11)
  • (26)
  • (67)
  • (8)
  • (1)
本棚登録 : 334
感想 : 34
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004309284

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「ポストコロニアリズム」本橋哲也著、岩波新書、2005.01.20
    232p ¥777 C0220 (2021.07.07読了)(2021.06.28借入)
    ◆誤植
    57頁 後ろから5行目、3行目
    58頁 3行目
    誤 ヤマノミ → 正 ヤノマミ
    南米に住むヤノマミ族がガリンペイロ(白人の金採掘者)に虐殺された記事が引用されています。元の記事の訳者は、南米についてよく知っている方のようなので間違えているとは思えないのですが、…。この本の著者は、イギリス文学が専門のようなので、やむを得ないとしても、岩波書店の校正担当が、見逃すというのは、はなはだ残念です。

    Eテレの「100分で名著」でフランツ・ファノンの『黒い皮膚・白い仮面』が取り上げられ興味を持ちました。図書館の蔵書検索で「フランツ・ファノン」をキーにして検索してみたところ、フランツ・ファノンの著作はなく、この「ポストコロニアリズム」がヒットしてきたので、読んでみることにしました。

    【目次】
    序 いま、なぜポストコロニアリズムか
    第一章 一四九二年、コロニアルな夜明け
    第二章 「食人種」とは誰のことか―カニバリズムの系譜
    第三章 植民地主義からの脱却―フランツ・ファノンとアルジェリア
    第四章 「西洋」と「東洋」―エドワード・サイードとパレスチナ
    第五章 階級・女性・サバルタン―ガヤトリ・スピヴァクとベンガル
    第六章 「日本」にとってポストコロニアリズムとは何か
    あとがきにかえて ―日本人のポストコロニアルな<責任>
    ブックガイド・映像ガイド

    ☆関連書籍(既読)
    「フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い仮面』」小野正嗣著、NHK出版、2021.02.01
    「花岡事件 異境の虹」池川包男著、現代教養文庫、1995.09.30
    「新版 悪魔の飽食」森村誠一著、角川文庫、1983.06.10
    「新版 続・悪魔の飽食」森村誠一著、角川文庫、1983.08.10
    「悪魔の飽食 第三部」森村誠一著、角川文庫、1985.08.10
    「731部隊」常石敬一著、講談社現代新書、1995.07.20
    「731」青木冨貴子著、新潮社、2005.08.05
    「従軍慰安婦にされた少女たち」石川逸子著、岩波ジュニア新書、1993.06.21
    「スペイン女王イサベルの栄光と悲劇」小西章子著、鎌倉書房、1980.12.01
    「離散するユダヤ人」小岸昭著、岩波新書、1997.02.20
    「1492年のマリア」西垣通著、講談社、2002.07.05
    「コロンブス航海誌」コロンブス著・林屋永吉訳、岩波文庫、1977.09.16
    「コロンブス」増田義郎著、岩波新書、1979.08.20
    「略奪の海 カリブ」増田義郎著、岩波新書、1989.06.20
    「コロンブス」青木康征著、中公新書、1989.08.25
    「インディアスの破壊についての簡潔な報告」ラス・カサス著・染田秀藤訳、岩波文庫、1976.06.25
    「新世界のユートピア」増田義郎著、研究社、1971.09.30
    「アリストテレスとアメリカ・インディアン」L.ハンケ著、佐々木昭夫訳、岩波新書、1974.03.28
    「エセー(一)」モンテーニュ著・原二郎訳、岩波文庫、1965.05.16
    「エセー(二)」モンテーニュ著・原二郎訳、岩波文庫、1965.11.16
    「エセー(三)」モンテーニュ著・原二郎訳、岩波文庫、1966.01.16
    「エセー(四)」モンテーニュ著・原二郎訳、岩波文庫、1966.10.16
    「エセー(五)」モンテーニュ著・原二郎訳、岩波文庫、1967.09.16
    「エセー(六)」モンテーニュ著・原二郎訳、岩波文庫、1967.10.16
    「ガリヴァ旅行記」スウィフト著・中野好夫訳、新潮文庫、1951.07.30
    「ロビンソン漂流記」デフォー著・吉田健一訳、新潮文庫、1951.05.31
    「アルジェリア戦争」ジュール・ロワ著・鈴木道彦訳、岩波新書、1961.06.24
    「まんがパレスチナ問題」山井教雄著、講談社現代新書、2005.01.20
    「ハイファに戻って・太陽の男たち」ガッサーン・カナファーニー著・黒田寿郎訳、河出書房新社、1978.05.20
    「不可触民」山際素男著、知恵の森文庫、2000.10.15
    「アラハバード憤戦記」牧野由紀子著、アイオーエム、2001.05.10
    「ひめゆりの塔をめぐる人々の手記」仲宗根政善著、角川文庫、1982.04.10
    「ひめゆりの沖縄戦」伊波園子著、岩波ジュニア新書、1992.06.19
    (「BOOK」データベースより)amazon
    植民地主義のすさまじい暴力にさらされてきた人々の視点から西欧近代の歴史をとらえかえし、現在に及ぶその影響について批判的に考察する思想、ポストコロニアリズム。ファノン、サイード、スピヴァクの議論を丹念に紹介しながら、“日本”という場で「植民地主義以後」の課題に向き合うことの意味を考える、最良の入門書。

  •  ポストコロニアリズムとは何か。

     そもそもコロニアリズムとは何かということでコロンブスの話から始まり、ポストコロニアリズムとしてファノン(アルジェリア)、サイード(パレスチナ)、スピヴァク(インド)が、最後にアイヌや沖縄を軸に日本について語られる。
     コロニアリズムとは征服者によっ規定されることがその最初の重要な要素なのだと思った。ただ独立するだけではその呪縛からは逃れられない。ポストコロニアリズムとはその他者から規定された自己を意識し、その他者とただ対立するだけでなく新たな関係を築いていくことなのではないかと感じた。
     確かに世界は精神的にも物質的にも植民地主義を脱していないと思う。
     
     新書とは思えぬ読み応え。巻末のブックガイドもありがたい。

  • たまたま古書店で見つけて購入。最近、私は写真家田沼武能のアンデスとカタルニアに関する写真集の分析をした論文を書いている。この2つを結びつける何かを考えていたところ、コロンブスの大西洋横断を発端とする、その後のスペインによる南米支配だというところに行き着いた。田沼が撮影のためにおもむいたアンデスの遺跡たちはスペインの入植者たちによって滅ぼされた帝国の残骸である。一方で、カタルニアはスペインの一地方。しかし、実はこの同じ時期にスペインでは国家統一がなされようとしていて、コロンブスがカリブ海の島に辿り着いた1492年に、カスティリア語の文法書が発行され、これによって、スペインはカスティリア語を標準語とする。そのことによって、一地方だったカタルニアでは、カタルニア語やその民衆文化を抑圧される。つまり、田沼が追い求めるのは、グローバル化の波によって破壊された土着の文化であり、風景であるといえる。私もコロンブスまでは気がついたのだが、この1492年の重要性については、ちょうど先日読んでいた、本橋氏の『映画で入門カルチュラル・スタディーズ』で知ったのだった。本書はこの議論をもっと推し進めたものだといえる。もちろん、岩波新書の一冊だから学術研究者に向けられたものではないが、それでも基本的な歴史的知識に疎い私のような者にとっては十分刺激的な本である。目次はこんな感じ。

    第1章 1492年、コロニアルな夜明け
    第2章 「食人種」とは誰のことか――カニバリズムの系譜
    第3章 植民地主義からの脱却――フランツ・ファノンとアルジェリア
    第4章 「西洋」と「東洋」――エドワード・サイードとパレスチナ
    第5章 階級・女性・サバルタン――ガヤトリ・スピヴァクとベンガル
    第6章 「日本」にとってポストコロニアリズムとは何か

    第1章はそんな感じで、ヨーロッパでも当時の先進国、スペインにおいて同時期にさまざまな分野で近代への移行がなされるという事実は本当に興味深い。そして、第2章についてはトドロフ『他者の記号論』、ヒューム『制服の修辞学』、グリーンブラット『驚異と占有』などで学んだはずだったが、「カニバル」という語自体、コロンブスの発明品だったとか読み落としていたこともあるし、中南米植民地化の話だけではなく、その後の帝国主義の時代に「食人」というのがさまざまな言説で利用されたという点なども勉強になった。やはりモンテーニュの文章は読まなくてはならない。
    そして、第3章以降は、1章に1人ずつ、ポストコロニアルの重要な論者が紹介されていく。まずはファノンだが、私も『地に呪われたる者』は一応読んだのだが、はっきりいってほとんど理解することができなかった。本書を読んで,それもそのはずというところがあった。やはりファノンの場合には彼がどんな人物で,なぜあのような書物を書かなければならなかったのかということを知らなければならないようだ。機会があれば,もう一度,今度は『黒い皮膚・白い仮面』から読んでみたいと思う。
    続いてはサイード。サイードの本は研究書を中心に日本語で随分読んだ。残っているのは,『文化と帝国主義』下巻(上巻が出版されてから下巻まではかなり間隔があいている)と『パレスチナ問題』だけ。しかし,ここではあくまでも思想家のアクチュアリティについて問題とするために,この3人の思想家を選んでいるので,やはり『パレスチナ問題』を読まなくてはいけないと痛感させられる。
    一番読んでいて勉強だったのがスピヴァクに関する第5章。スピヴァクは『文化としての他者』をかなり以前に読み始めたものの,あまりにも難しくて途中で挫折したきりなのだ。まずは,「戦略的本質主義」という立場について,著者の簡単な説明で妙に納得してしまった。常日頃から自分自身も含めて,社会構築主義的な,相対主義的な立場に立つと,自分の思想家としてのアイデンティティや立ち位置をどう置けばいいのかという矛盾に直面する。それはサイードのパレスチナ関係の文章を読んでいてよく感じたことだった。学問的には自分が日本人であるとか男性であるとかということは克服できる問題であるのに,グローバル化する学問世界のなかで,日本という社会で生活するという自分の立場を活かした発言をしようと思うと,その辺がひっかかってしまう。でも,そういう本質主義的な立場を戦略的に用いることは十分に可能だと思うし,多くの思想家がそうしているということを簡単に納得できたのだ。これは大きな収穫。そして,スピヴァクがいくつかの社会的活動もしているということを知って,しかもその内容に妙に納得したり。やはりすぐれた思想家はやることもすごい。
    そして,なんといっても本書の読みどころは最終章。本橋氏も元は英文学者として研究者アイデンティティをもちながらも,戦略的に自らの日本人という立場を活かして,英国の文学研究やカルチュラル・スタディーズを吸収しようとしている。かつて,植民地支配も経験した日本でこの21世紀に暮らす私たちが考えるべきことは,このポストコロニアリズムという思想の延長線上にいくらでもあるということを考えさせられる。
    ともかく,多くの大学生にも読んでもらいたい本。

  • ファノン、サイード、スピヴァクなど名前は知っていてもあまり馴染みのない思想家たちの思想を手際よく紹介し、植民する側でもされる側でもある日本人がどうその立場を把握し克服するかの手がかりとしている。

著者プロフィール

1955年、東京生まれ。東京大学文学部英文科卒業後、ヨーク大学で博士号取得。現在、東京経済大学コミュニケーション学部教授。専門はイギリス文学、カルチュラル・スタディーズ。著書に『ポストコロニアリズム』(岩波新書、2005年)、『ディズニー・プリンセスのゆくえ』(ナカニシヤ出版、2016年)、『深読みミュージカル』(青土社、新装版2019年)など、訳書にヒューム『征服の修辞学』(共訳、法政大学出版局、1995年)、バーバ『文化の場所』(共訳、法政大学出版局、新装版2012年)などがある。

「2020年 『帝国の島々 漂着者、食人種、征服幻想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

本橋哲也の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×