満州事変から日中戦争へ: シリーズ 日本近現代史 5 (岩波新書 新赤版 1046 シリーズ日本近現代史 5)
- 岩波書店 (2007年6月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004310464
作品紹介・あらすじ
「満蒙の沃野を頂戴しようではないか」-煽動の背景に何があったのか。満蒙とは元来いかなる地域を指していたのか。一九三一年の鉄道爆破作戦は、やがて政党内閣制の崩壊、国際連盟脱退、二・二六事件などへと連なってゆく。危機の三〇年代の始まりから長期持久戦への移行まで。日中双方の「戦争の論理」を精緻にたどる。
感想・レビュー・書評
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複数の切り口からの情報、考察を以って、当時の状況をうまく分析、評価している。
その意味で、分かり易いか?というと、そのような感想はなく、その理由は、日本が満州事変、日中戦争へと進むことについて極めて中途半端な、なし崩し的な判断で進んでいることがよく理解できるからだ。
誤算は、
・中国に対しての英米の思惑。国際金融、市場として日本に独占されることを良しとしていなかった。
・満州国設立に典型的に言えることだが、中国人のナショナリズムを過小に評価していた。(五族協和は、結局は絵に描いた餅でしかなかった)
日本はワシントン体制下、大国の一員になっていたものの、結局、反ワシントン体制側につくことになった。
そのコストもあるのだろう。
因みに、反ワシントン体制にあったのは、ソ連であり、ドイツであり、中国。(軍事的に中国とドイツが協力関係にあったのも興味深い)
2.26事件が起こされた理由をゾルゲは、日本の農民と都市小市民の社会的窮境に求めていた。兵士の重要な供給源である農民は、政治組織を持たず、農民に対する二大政党の関心が形式的にすぎない以上、まず第一に陸軍が農村と都市のこれらの層の強まる緊張の代弁者と機関たらざるを得ない。
日本は、ドイツが着手したような、農民を支援する政策を全くしなかった。
陸軍が、この問題の重要性を見ているだけでなく、農業問題を実践的にそれに取り掛かる必要があることを、少なくともそれが理論的に可能なことを知っているほとんど唯一の集団であった。
議会に代弁者をもたない農民や都市商工業者の社会変革要求を、陸軍が代弁している特殊日本的な構造に、ゾルゲは着目していた。
・「東亜新秩序」とは、第一次世界大戦後に公然と正当性を主張できなくなった帝国主義・植民地主義にかわる説明形式の必要性と、ワシントン体制的協調主義の否定というモチーフのはざまに、知識人によって考え出された自己説得の論理であるといえた。
・石原莞爾が望んだのは、①ソ連がいまだ弱体の時、②中国とソ連の関係が悪化している時、③日本とソ連が将来的に対峙する防衛ラインを、中ソ国境の天然の要害まで北に西に押し上げておくことであった。将来的な対米戦の補給基地としても満州は必要とされていた。しかし、それは国民の前には伏せられ、条約を守らない中国、日本品をボイコットする中国という構図で、国民の激しい排外感情に火が点ぜられた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本書は、満州事変から日中戦争へ傾斜する1930年代の日本の歴史についての本だが、満州についての詳細な考察は他にない緻密さと真摯さを持っている良書であると思った。
本書で、1930年代の軍人が窮乏のどん底にある農村の解決策として、思い切った手段が必要として「左翼の組合は土地の平等分配を要求しており、これは確かにもっともな主張だが、仮に日本の全耕地を全農家に平等に分配しても、その額は五反歩にしかならないではないか・・・諸君は五反歩の土地を持って、息子を中学にやれるか、娘を女学校に通わせるか。ダメだろう。日本は土地が狭くて人口が過剰である。このことを左翼は忘れている。」との言を紹介している。当時の日本が大陸に進出していった時代の雰囲気をよくあらわしていると感じた。
本書での満州における特殊権益や国際関係、国際連盟脱退の経過や関係者の動き等々は、単なる歴史的事実の羅列に終わらずに、詳細に展開されており、実に興味深く読めた。
本書のような深い考察が、もし現在の日本で一般に共有されていたらば、感情的なナショナリズムによる一時的な高揚などの感情で国際関係が乱れることなどないのにと思わせられた。こういう本があるのだから、歴史は面白い。本書を高く評価したい。 -
国際連盟脱退で松岡洋右が会議場を後にするシーンは印象的だが、1932年のジュネーブでの連盟特別総会から帰朝したときには、松岡は脱退は日本のためにならないと齊藤実内閣の外相内田康哉を懸命に説得していたのである。そして、政党も内田外相も連盟脱退を実のところ考えていなかった。 脱退論は専門外交官や国際法学者から出て来たのであった。 歴史は一般に知られている以上に複雑怪奇であることを再認識した。
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本書は、簡単に批評できないほど内容の濃い本であり、熟読玩味するだけの価値がある。
日本はなぜ中国に攻め入り、泥沼に陥るような戦争を行ったのか。それを行った論理はなんだったのか。本書はそれを国内、中国、そしてイギリス、ドイツ、ソ連、アメリカといった勢力とのかかわりから明らかにする。
満州での治安の悪さ、日貨排斥は国際法違反に映った。なぜ排斥がおこるかを考えないのは滑稽だが。そして、その利権を守るため、つまり「自衛」と称して軍隊を発動し、頑迷な中国を懲らしめようとしたのである。だらしない中国にかわって東洋の盟主として新たな秩序を打ち立てようとしたのである。
日中戦争を「侵略」と言ってしまうのは簡単だ。たしかに、人の国のことであるのは間違いない。しかし、日清、日露の戦争に勝って南満州の利権を得た当時の日本人たちは、国内での経済矛盾を解決するためにこうした行動を自ら正当化したのである。本書でもその正当化理論がいくつか紹介されている。しかも、当時の人々は中国は簡単に落とせると思っていた。持久戦というのは毛沢東独自のものかと思っていたら、上海、南京、武漢が落ちた後蒋介石が重慶の遷都したのも持久戦だ。その結果日本は勝利の見えない戦いをよぎなくされたのである。
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読み終わり
戦後目線では対米戦、大東亜戦争の内の太平洋方面が強調されるが
こちらは日中戦争、それが始まるまでに焦点を当てている
改めて見てみると我々は日中戦争に対してあまりにも関心が薄かったのではないか、本書にて大東亜戦争のもう一つの側面の一部にでも触れることができて非常に良かった -
20230609読了。近現代史のこの頃って、何となくのイメージでしかわかっていないかも。一月以上かかってしまった。。文章と解説もよくまとまっていると思うが、経済制作とかはともかく、中国大陸での日本軍の動向とかは難しかった。しかし、日本が満州事変から日中戦争に至る状況は今のウクライナ侵攻を進めているどこぞのロシアのようだと痛感した。ひょっとしたら日本本土でも軍によるクーデタは成功していたかもしれないのだろうか、と思わせられた。国際連盟脱退も、なんだか成り行きのようで、皆根拠のない楽観論と諦観に満ちていたのだろうか。
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まさに良書。満州事変、日中戦争へと至る過程が冷静かつ客観的に書かれている。日本の動きとその背景、中国の動きとその背景、世界情勢がバランスよく記述され、なぜそうなったのかがわかりやすい。文章も読みやすく、とっかかりの一冊として最適。ちくま新書の昭和史講義シリーズあたりと一緒に読むと良さそう。
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信用のおける硬派さ
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