民族とネイション: ナショナリズムという難問 (岩波新書 新赤版 1156)

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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004311560

作品紹介・あらすじ

地域紛争の頻発や排外主義の高まりの中で、「民族」「エスニシティ」「ネイション」「ナショナリズム」などの言葉が飛び交っている。だが、これらの意味や相互の関係は必ずしかも明確ではなく、しばしば混乱を招いている。国民国家の登場から冷戦後までの歴史をたどりながら、複雑な問題群を整理し、ナショナリズムにどう向き合うかを考える。

感想・レビュー・書評

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  •  国民国家の出現から冷戦後までの期間を題材に、エスニシティ、民族、ネイション、ナショナリズムといった問題(そもそもこれらの語すら定義が一定していないことを筆者自身指摘している)を一般化して論じる本。筆者は極めて価値相対的であり、ナショナリズムの肯定・否定論、良い・悪いナショナリズムの区別のいずれも批判している。
     巻末で筆者は、紛争の歯止めのために、「(ナショナリスティックな感情が)他者への攻撃の形をとろうとする時には、その悪循環的拡大を防ぐための初期対応が何よりも必要だと思われる」と述べている。これ自体は否定できないとしても、ではその「初期対応」は誰が担うのか。国家間での応酬にせよ、一国内での応酬にせよ、当事国政府が自国民のナショナリズムを助長しないまでも、抑えることが果たしてできるのか。民主主義国なら尚更だ。また、第三国の仲裁と言っても、「感情」に対してできることは限られる(例:日韓関係に対しての米国)。もっとも、筆者を批判するつもりはなく、それだけ甘っちょろいことは言えない問題だということなのだろう。
     また筆者は、ナショナリズムは外からは「人為的に作られたもの」、中からは「自然なもの」と見えると指摘し、最近の日本と中韓の間の歴史論争を例に挙げている。自国が現在進行形で当事者となっていると見えにくい相手からの視点、心に留めておきたい。

  • 「民族」「エスニシティ」「ネイション」「ナショナリズム」等について、歴史を踏まえつつ、広く明快な理解を与えてくれる良書。
    グローバル化する現代にあって何故ナショナリズムが台頭するのか?人間というのは、とかく複雑である。

  • 正直、理解できたとは思っていない。
    どこかに侵略されたこともなく、宗教をカルトを混同する日本人にはわかりにくい話。
    そして、世界がどのように変遷されていったかがわからないとこの手の話を理解することが難しいことがわかった。
    正直、エスニシティなんて言葉恥ずかしながらしなかったし。

    わからないでやめるのでなく、もっと勉強したい。

  • 地域紛争の頻発や排外主義の高まりの中で、「民族」「エスニシティ」「ネイション」「ナショナリズム」などの言葉が飛び交っている。だが、これらの意味や相互の関係は必ずしかも明確ではなく、しばしば混乱を招いている。国民国家の登場から冷戦後までの歴史をたどりながら、複雑な問題群を整理し、ナショナリズムにどう向き合うかを考える。
    第1章 概念と用語法―一つの整理の試み(エスニシティ・民族・国民;さまざまな「ネイション」観―「民族」と「国民」;ナショナリズム;「民族問題」の捉え方)
    第2章 「国民国家」の登場(ヨーロッパ―原型の誕生;帝国の再編と諸民族;新大陸―新しいネイションの形;東アジア―西洋の衝撃の中で)
    第3章 民族自決論とその帰結―世界戦争の衝撃の中で(ナショナリズムの世界的広がり;戦間期の中東欧;実験国家ソ連;植民地の独立―第二次世界大戦後(1)
    「自立型」社会主義の模索―第二次世界大戦後(2))
    第4章 冷戦後の世界(新たな問題状況―グローバル化・ボーダレス化の中で;再度の民族自決;歴史問題の再燃)
    第5章 難問としてのナショナリズム(評価の微妙さ;シヴィック・ナショナリズム?;ナショナリズムを飼いならせるか)

  • 人類は長い歴史の中で自覚的かどうかに関わらず、多種多様な方法で人間を集団化してきた。現存する国家もその集団を入れておく一時的な入れ物でしかない。すべてはその時々の支配的思想や権力によって規定され、それへの反発が紛争へと繋がる。私たちはナショナリズムの持つ普遍性と特殊性のバランスを常に注視しなければならない。

  • 「民族」というものが何か必ずしも絶対的な形を持っているものではなく、時代や政治的背景によって変わりうる相対的なものなんだなと言うことが、概念の整理や個々の歴史的事例から分かってくる。

    そしてそれは「民族」の概念に関わらずさまさな人間集団の「区切りかた」にいえる。その様々な区切り方はどれも平等ではなく優劣があるという考え方もまた面白い。

    ここからは完全に個人的な考えだが、今までは、一定の地理領域のなかでの複数種類の人間集団の混在や、同一とされる人間集団の点在はあれど、地理的な要因は人間集団を形成する上でかなり大きな要因になっていた様に思う。しかしオンライン技術が進みコロナかで全世界・老若男女・公私ともにその活用が広まった今、この人間集団の形成に対する地理的要因の影響力は劣位となって来るのではないかと考えた。

  • 高校時代に読書会で読んだ。記録。

  • 所々わかりやすく書かれているものの、私の脳は完全に理解できなかった。各国に焦点を当てながら具体的な例を挙げているのは理解しやすいが、抽象的な話である〇〇主義などの理論の構図がやはり理解しがたい。また、地続きであるヨーロッパの民族の区切り方は島国である日本人にとっては理解し難いことであった。
    帝国主義からの第一次世界大戦を経て、「民族自決」により比較的少数の国家にとどめて独立が承認される。20世紀末〜現代においては冷戦やグローバル化を経て、ありとあらゆる「民族」に「自決」を認めることは果てしない紛争の連続を導きかねないと「民族自決」を時代遅れのものとするという全体的・世界的な流れをつかむことができた。

  • 少々固いがバランスの良い好著。基本的な論点と歴史がかなり網羅されている。

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著者プロフィール

東京大学名誉教授

「2020年 『歴史の中のロシア革命とソ連』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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