タイ 中進国の模索 (岩波新書)

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著者 : 末廣昭
  • 岩波書店 (2009年8月20日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004312017

タイ 中進国の模索 (岩波新書)の感想・レビュー・書評

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  • 経済発展と政治的不安定さが同居するタイ。80年代以降のタイの現代の状況を、政治史・経済史・政治機構史等に分別しながら解説する。確かに、タイそのものが世界全体への影響を及ぼすというには小さい。が、現代において中進国から先進国への仲間入りを果たさんとする急速発展国家の問題点や長所を知る上で、あるいは類似国の先行事例・参考事例を把握する上では、丁寧な叙述とも相俟って、有益な一書。なお、本書の参考文献は幾つか読んでみたいものもあった。2009年刊行。

  • 政治・経済・社会の3つのアプローチから、現代タイ社会の本質に鋭く迫る労作。この本を読むと、今に続くタイ社会の混乱の原因は、ずばり統治構造―すなわち、国王・首相・内閣・軍・枢密院と、権限の系統が整理されず分散・乱立していることーにあるということがわかる。このため一たび混乱が起こると、絶対的正当性を持つ国王を味方に付けた軍が事態を収拾するしかなくなる。それがこの国で軍によるクーデタが続く理由である。タクシンは首相への権力集中を図ることで国家の安定を目指したが、改革を急ぎすぎて失脚した。

    タイは戦後、長らく軍政が続いていたが、民主化運動の高まりにより、総選挙は実施するものの首相は軍のトップから選ぶという「半分の民主主義」を採用した。これは「開発独裁」のフェーズにあたる。1988年には本格的な政党内閣であるチャートチャーイ政権が成立するものの、これは利権争いや汚職が横行する不安定な連立政権であったため、91年の国軍によるクーデタを招いた。このころタイは「中進国化」が進み、都市中間層の拡大による都市/農村格差の顕在化と不動産・金融バブルが起こる。このとき経済は海外からの短期資金に大きく依存しており、行き過ぎた投機を抑えるためには通貨バーツの切り下げが不可避であったが、これをやるとドル建て債務が増大するため、中央銀行は為替介入を断続的に行って「バーツの防衛」を図った。しかし遂には外貨準備が枯渇し、通貨危機を招いたのである。

    通貨危機後、タイはIMFから融資と引き換えに厳しいコンディショナリティ(交換条件)を課された。経済の自由化を求めるアングロ・アメリカ流の政策が怒涛のごとく押し寄せた結果、タイは構造不況に突入した。このときに登場したのがタクシンで、農村へのバラマキ政策によって得た圧倒的な国民支持を背景に、強いリーダーシップのもと、行財政改革の断行によるグローバル化への対応と首相への権限集中を目指した。彼は日本でいえば、郵政・道路の民営化により国際競争力の強化を図り、郵政法案が参院で否決されると衆院を解散し、自民党内に支持基盤がなくてもマーケティングによって国民を味方につけ選挙に圧勝した小泉純一郎的政治家だったのだ。

    しかしタクシンも、強引な政治手法と露骨な個人蓄財が国民の反感を買うことになり、王政擁護を掲げたクーデタを招いた。その結果、「国王を元首とする政治」と国王の提唱する仏教をベースとした「足るを知る経済」への揺り戻しが起こったが、道徳と倫理だけでは経済の建て直し、とりわけ雇用の問題が解決できないため、タイ社会の安定化は道半ばの状態となっている。

    政治の問題は冒頭で述べたが、タイ経済が現在直面している問題は本質的にはグローバル化や経済自由化への対応であり、行政改革や予算制度改革は避けられない。この点においては「状況は日本もタイもそれほど変わらない」(226頁)「黄色いシャツ」(反タクシン派)と「赤色のシャツ」(タクシン派)の対立は実は表層問題に過ぎず、政治体制と経済のグローバル化が真の問題と喝破する著者の慧眼には唸った。

  • 政治と王室。赤と黄色。気が向けば違う色のシャツも着るなんともなバランス

  • 中進国化したタイの選択は二つ。伝統的な社会制度・組織(王制や仏教)を強化し、タイの価値意識を尊重する「社会的公正」の道。伝統的な社会制度・組織を改革し、価値意識も変えていく「現代化への道」。

  • ○この本を一言で表すと?
     タイの政治経済を1988年を起点にして詳しく説明している本


    ○この本を読んで面白かった点
    ・1973年以降、2008年までにクーデター4回、憲法制定6回、総選挙14回、政権交代27回というのはすごいなと思いました。(第1章 タイ社会を見る目)

    ・民族・宗教・国王という三つの柱が国家を支えていて、三つの柱の内の一つが国王(王室ではなく国王個人)が柱になっていて、国王の署名がないと法律や人事が発行されず、国王が国軍を統括していて軍がクーデターを起こしても国王が裁可しなければ反乱に転じ、枢密顧問官という政治に関わるものを任命する権限を持っているというのはすごい権力だなと思いました。(第1章 タイ社会を見る目)

    ・統治構造を「国民の父」「仏法と倫理にもとづく統治」「選挙にもとづく政治」の三層で考え、この三層の関係で1988~1995年を「政党政治家の政治」、1995~2000年を「市民を主役とする政治」、2001~2006年を「強い首相の政治」、2006年以降を「国王を元首とする政治」と区分しているのは分かりやすいなと思いました。(第1章 タイ社会を見る目)

    ・タイの中進国化と経済社会の変化で1958~1987年を「発展途上国の時代」、1988~1996年を「中進国化の時代」、1997年以降を「選択の時代(現代化への道と社会的公正の道の選択)」という時代区分で分けているのも分かりやすいなと思いました。(第1章 タイ社会を見る目)

    ・1988年以降のタイは経済ブームを経験して別の国になった、という表現は面白いなと思いました。高層ビルの建設ラッシュ、百貨店、コンビニエンスストア、総合量販店の開店ラッシュ、少子高齢化の進行という流れは日本に似ているなと思いました。(第2章 経済拡大、バブル、そして通貨危機)

    ・不動産投機と株式ブームによる経済のバブル化、通貨危機・バブル崩壊と中央銀行の対応ミスなど、経済の流れも日本を追うような流れだなと思いました。(第2章 経済拡大、バブル、そして通貨危機)

    ・1988年以降の経済ブームと連立政権による利権漁りの政治、クーデター、都市と農村でのそれぞれの運動などは、ある意味では経済的な成長や国民の政治に対する理解が進んだことによる動きで、国家として成熟したから起こり得ることかなと思いました。(第3章 「五月流血事件」から「人民の憲法へ」)

    ・クリーンな民主主義が求められる「都市の政治」と利益誘導が求められる「農村の政治」の二種類の政治の存在、高潔な上流人士のプゥーディー型政治家と家父長的に利益を誘導する親分肌のナックレン型政治家の違いは歴代タイの政治や政治家をうまく分類しているなと思いました。(第3章 「五月流血事件」から「人民の憲法へ」)

    ・経済危機が憲法改正を容易にし、その流れで強い首相であるタックシン首相が出現したというのは、いろんな要素が絡み合っていて面白いなと思いました。(第3章 「五月流血事件」から「人民の憲法へ」)

    ・ビールの生産量増大とコンビニの進出(セブンイレブン開店数は世界4位)、大型百貨店の開店など、都市部はもちろんのこと、全国的な発展がみられること、携帯電話の普及、少子高齢化、病気構造の変化(伝染病から生活習慣病へ)、精神的ストレスと自殺者数の増加、大学数の増大と高等教育の大衆化、教育と労働のミスマッチなど、急激な社会変化が感じられる事象だなと思いました。(第4章 タイ中進国化と社会の変化)

    ・国王が提唱する「足るを知る経済」が国家経済社会開発庁(NESDB)により真剣に進められているというのは何となくタイらしい解決策の模索だなと思いました。(第4章 タイ中進国化と社会の変化)

    ・タックシン首相のリーダーシップ、やろうとしたことはそれほど間違ったことではなかったのかなと思いました。ただ、政策の導入が急過ぎたこと、自身の蓄財や親族や友人を優遇するネポティズムが過ぎたことが原因で失脚したのは残念だなと思いました。(第5章 タックシン首相の「国の改造」)

    ・国や地方自治体を企業に見立てて首相は国のCEO、県知事は県のCEO、省庁の大臣は各分野のCEO、各国の大使は外交のCEOとして権限委譲し、結果を求めるという点で優れていたのではないかと思いました。(第5章 タックシン首相の「国の改造」)

    ・政府機関に「ビジョン・ミッション・ゴール」を要求し、公務員制度の改革と意識改革を進めようとした点も、日本でもやろうとして失敗したことでこの点では日本よりもうまく進められそうだったのではないかと思いました。(第5章 タックシン首相の「国の改造」)

    ・有名なマイケル・ポーター教授を招聘して国家戦略をポーター教授の「ダイヤモンド・モデル」に基づいて国家としての競争力向上を目指し、食品加工・自動車組立・ファッション産業・観光産業・ソフトウェア開発の5分野をターゲットとしたというのはかなり意欲的な試みだったと思いました。(第5章 タックシン首相の「国の改造」)

    ・農村に対しても村落基金・負債返済の猶予・医療サービスの提供などを進めたのは場当たり的だとは思いますが、次に繋げることができれば農村地域の振興に繋がったのかなと思いました。5ヶ年で1兆8,000億バーツを投入する「メガプロジェクト」のスケールはすごいなと思いました。(第5章 タックシン首相の「国の改造」)

    ・メディア・出版王ソンティから始まった反タックシン運動が大きくなってタックシン政権を倒すまでになったのは、この国のジャーナリズムの自由さも表しているのかなと思いました。この本だけでなく他の本でも、軍事政権の時期であっても政権を批判した内容の雑誌が紹介されていて、ジャーナリストの強い国だなという印象を受けました。(第6章 政権の不安定、政治の不安定)

    ・タックシン首相のタイ・ラック・タイ党以外の政党の選挙ボイコットによる騒動や民衆に歓迎されたクーデターなど、大きな動きが割とすんなり起こって通っていることが印象的でした。(第6章 政権の不安定、政治の不安定)

    ・憲法裁判所という国王が任命する機関が政党を解散させる権限を持ち、「憲法裁判所の裁決は絶対的であり、国会、内閣、裁判所およびその他の国の機関を拘束する効力をもつ(1997年憲法第268条)」と定められているのはとてつもなく強力ですし、実際に最大政党だったタイ・ラック・タイ党を解散してタックシンの財産を凍結したところもコントロールが過ぎるなと思いました。(第6章 政権の不安定、政治の不安定)

    ・黄色のシャツのPADと赤色のシャツのUDDの占拠合戦など、いろいろ不安定な要因を抱えて大変な状況だなと思いました。(第6章 政権の不安定、政治の不安定)

  • ここ20年におけるタイの政情を描く一冊。
    読み物としての面白さにはやや欠けた印象だが、
    タックシン政府が目指したものと、
    それがクーデターにより頓挫するまでの流れが興味深く読めた。
    タックシンの生き方は個人伝記などでさらに知りたく思う。

  • タイ人にとって住居とは土地つき一戸建てか長屋だった。それがコンドミニアムで生活するようになった。
    タイで経済ブームが起きたのは1988年。日本のバブルと同じだ。
    タイは特定の政党が特定の地域に根付いて活動するということはない。
    小売業もかなりの勢いで伸びている。セブンイレブンも世界4位。

  • 末廣昭著「タイ 中進国の模索」岩波新書(2009)
    * タイの第一に切り口は政治の民主化である。アジア諸国では、1980年代に冷戦体制が崩壊し、それを契機に国内の民主化運動が大きな流れになった。
    * 第二の切り口として、中進国という視点である。タイはもはや農業国ではなく工業国である。こういう中進国化は、消費社会や情報社会の到来、少子化高齢化の進展、精神的ストレス、教育の大衆化などの問題を引き起こす。
    * タイにおいてすべての時期に共通する枠組みは、憲法が規定する『国王を元首とする民主主義』という政治理念である。そしてそのもとに①国民の父、②仏教と倫理に基づく統制、③選挙に基づく政治、というのがある。
    * 『国民の父』は一貫して国王であった。政権が変わっても、この位置づけに変わりはない。問題はだれが『真の統治者』なのかという点である。
    * タイの国王が単なる憲法の規定ではなく、実質的な元首として登場するのは1990年代からである。言い換えれば、三層構造の真ん中の統治者の活動領域に国王が確固たる地位をしめるようになった。タクシン首相の登場は、民主化をすすめタイの政治に安定をもたらしてきた構造への挑戦を意味した。
    * 国王の即位は、『国王を元首とする政治』にただちにつながったわけではない。時代の流れと国王自身の行動が、彼の存在を国民の父、統治者、そして国王を元首とする政治へと発展させていった。プミポン国王はジャズ、カメラ、ヨットレースをこよなく愛し、国民にもひたしまれていた。国王の威信が国王のパーソナリティとは不可分の関係にある。このことは2つの課題がある。1つに国王に対抗する強烈なパーソナリティを持った指導者や強い首相が現れた場合。実際タクシン首相がそれであった。彼は旺盛より世界資本主義がタイ社会の将来を規定すると考え市場原理を柱とした。2つ目に、王位継承の課題である。国王が理念的な存在ではなく、高徳で行動的な元首であればあるほど、新しい国王はこれを上回る人徳と行動を国民に示す必要がでてくるのだ。
    * タイにおける投資の第一次ブームは、1985年のプラザ合意を天気とする直接投資ブームであった。急激な円高が進み、日本企業に先進国向け投資を促した。日本から輸出していた工業品を現地生産に切り替えた。第二次ブームは1995年から生じた。政府が産業投資の自由措置による理由である。その結果、新規参入を制限されていた各国企業がタイへの進出を行った。
    * 通貨危機の発生として、1997年、タイ政府はそれまで続けていたタイバーツのドルへの実質的リンク(ドルペッグ)を放棄した。その結果、ほぼ1ドル25バーツを維持していたタイの為替は短期間のうちに50%以上の落ち込み(1ドル50バーツへ)となった。タイから始まった通貨下落は国際的な資本取引の連鎖を通じて、ほぼアジア諸国に波及してアジア通貨危機が勃発した。

  • タイの政治的・経済的な歴史を知ることが出来ました。

  • [ 内容 ]
    一九九〇年代以降、経済の飛躍的拡大、消費社会の到来、少子高齢化の進展など激変を遂げたタイ。
    「中進国」となったこの国は、どこへ向かおうとしているのか。
    タックシン体制をリセットする二〇〇六年クーデタ後つづく政治の動揺の着地点は?
    民主主義と王制との調和、グローバル化への対応に揺れる社会の実像を鮮やかに描く。

    [ 目次 ]
    第1章 タイ社会を見る目-民主化と中進国化
    第2章 経済拡大、バブル、そして通貨危機
    第3章 「五月流血事件」から「人民の憲法」へ
    第4章 タイの中進国化と社会の変化
    第5章 タックシン首相の「国の改造」
    第6章 政権の不安定、政治の不安定
    終章 タイ社会と王制の未来

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一九九〇年代以降、経済の飛躍的拡大、消費社会の到来、少子高齢化の進展など激変を遂げたタイ。「中進国」となったこの国は、どこへ向かおうとしているのか。タックシン体制をリセットする二〇〇六年クーデタ後つづく政治の動揺の着地点は?民主主義と王制との調和、グローバル化への対応に揺れる社会の実像を鮮やかに描く。

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