居住の貧困 (岩波新書 新赤版 1217)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004312178

作品紹介・あらすじ

職を失い、住まいを奪われる人たち、団地で進む高齢化と孤独死、規制緩和がもたらしたいびつな住環境…。人権としての居住権が軽視され、住まいの安心・安全が脅かされている日本社会の現状を詳細に報告。社会政策から経済対策へと変容した、戦後の住宅政策の軌跡を検証し、諸外国の実態をもとに、具体的な打開策を提言する。

感想・レビュー・書評

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  •  少々専門用語に慣れず、読みづらい点はあったが、良書だと思った。
     住む場を追われてホームレス、団地の高齢化と孤独死等・・・こうした社会問題の背景にあった日本の住宅政策上の問題点を、丁寧に解説してくれている。
     日本の住宅政策は、戦後間もなくは厚生省の管轄で戦災で住居を失った国民に最低限の住居を提供するというものであった。その後建設省の管轄に移り、高度経済成長を促進する成長産業として発展を遂げる。
     更に小泉構造改革で、地方自治体が低所得者を対象に建設する公営住宅に対して行う補助金を廃止し、公営住宅の整備にもストップをかけてしまった。
     国民誰もの権利として住む場を保障されるためには、「住まいは人権」と位置づけ、社会保障制度や雇用制度と合わせ、社会政策として展開する必要があると筆者は述べている。
     人権としての住まいが、日本でなぜ発達してこなかったか? 社会政策が如何に重要かについて理解が深まった一冊だった。

  • 山県有朋へ贈られた「本末論」。
    戸数主義からの脱却。

  •  本書を読むまで、日本の居住問題がここまで恐ろしい事態になっているとは、夢にも思わなかった。
     本書の内容を端的にまとめてしまうと、かつての日本は、十分ではないにしろ全ての国民に住む場所を確保するような法制度を整えていた。だが、戦後の復興に向けて、経済の回復に過度に注力したがために(建設業界からのロビイングがあったのでは思ってしまった)、本来守られるべきの弱者(若者を含む低所得者や高齢者)のための住居を蔑ろにしてしまい、その一方で富める者の住む場所は充実していき、地域のコミュニティをも壊している。2008年にメディアが取り上げた「年越し派遣村」は起こるべくして起きた日本の問題だ。と記されている。

     公共賃貸住宅で高齢化が進むのは、住宅そのものが狭くて二世代以上の家族が住めない上に、世帯員数によって住宅が割り当てられるために、高齢者は初めから狭い部屋にしか住めないというのも理由である。結果、高齢化・単身者世帯・低所得者(年金ぐらし)の入居者が増えていき、家族世帯が増えていかないという悪循環に陥っている。これらが積み重なり、孤独死の数が増えていくという、悲惨な状況に進んでいるのだという。
     メディアを悪い意味で賑わせた耐震偽装問題の発端は、アメリカからの外圧が原因であり、それを「民間活力を導入して市場を活性化するため」と、「偽装」したことであると、本書では述べられている。加えて、以前は建築指導課の職員が違法建築のチェックを行っていたが、今日では民間検査となっており、単体規定だけでなく集団規定の審査までおろそかになっているのだという。横浜市港北日吉本町に建った、盛土をしてまで高さを確保して作られた集合住宅の例はこれを如実に顕している。
     
     非常に濃い内容となっているため、読むのに疲れるかもしれないが、日本という国の建設事情は今どうなっているのかを知るのには役立つのではないだろうか。
     
    自分用キーワード
    一章
    年越し派遣村 国連人間居住会議(ハビタットⅡ) イスタンブール宣言 三位一体改革(自治体への国の補助金を削減し、税源移譲に伴って交付金制度を設けた) 公的賃貸住宅特措法 都市基盤整備公団(現在は無い) 都市再生機構(UR) 住宅セーフネット法 ホームレス自立支援法 ハウジングプア 2008年10月.大阪の個室ビデオ店の放火 ゼロゼロ物件(業者の中には、借地借家法を無視した「施設付鍵利用契約」で入居させるケースがあり、滞納すると勝手に鍵を交換される) 日本賃貸住宅管理協会 雇用促進住宅(厚生労働省が所管する賃貸住宅) 近傍民間同種家賃(公営住宅の家賃が民間賃貸住宅並に値上げする原因となった) 定期借家権(現在この法律は、住んでいる人の居住権よりも家主の財産権を強く優先するものとなっている) PFI(民間の資金と経営ノウハウを活用して公共事業を行うこと) 区分所有法(2002年の改正後、老朽化などの建替えに必要な客観性を考えずに、賛成者が多ければ団地の建て替えが出来るようになった。つまり、市場が拡大した) 

    二章
    ゲーテッド・コミュニティ(団地とは違い周囲を壁で囲んでいるため、地域コミュニティが分断されている) 限界集落(65歳以上の高齢者が50%以上を占める集落) まつど孤独死予防センター 集団規定(建蔽率や容積率、各法の遵守が出来ているかの審査) 単体規定(構造などの適合性を機械的に計算出来る審査) 地下室集合住宅(本来第一種低層住居専用地域では三階までしか建てられないのに、傾斜地を利用して地下室を作り、実質的に四階以上の建物となっている) 公営住宅(イギリスとは異なり、今日では相続が不可能となっている。)   
    三章
    レッチワース(エベネザー・ハワードの提唱による、イギリスの田園都市) IUT(国際借家人連合) 最低居住水準(住宅建設計画法に基づき、第三期住宅建設五カ年計画によって掲げられた目標。未だに達成されていない) 中曽根アーバンルネッサンス(財政赤字を拡大すること無しに内需を広げる方策として、民間資本に活用による都市再開発を打ち出した。結果、地価高騰が起きてバブル形勢の一因となった)  階段社会(ハシゴ社会) 木造住宅密集地域(大地震に火災や建物倒壊などの危険性が高い地域を指す) 『国土交通白書 2008年度版』(災害時における密集市街地への対策について触れているが、各地域の進渉率は半分に満たない) 

    四章
    三本柱(公営住宅、公団住宅、公庫融資住宅) 住宅金融公庫(1950年に発足。国の手では戦後住宅の復興を行えないので、国民自身に任せた) 団地(日本住宅公団により1952年度から建設。入居資格が厳しく、いわゆるエリート層が入居者の9割を占めた) 住宅建設計画法(1966年に制定。住宅政策が戸数と持ち家に傾斜し始めた) 住宅関連三法(国・自治体の公的住宅政策からの撤退、国民の自助努力で居住改善をすることを意味する) 住生活基本法(経団連の思惑が伺える法となっており、筆者はこの法を基本法の名を借りた「住宅市場拡大法」と断じている) プレハブ住宅(1950年から60年にかけて登場した建設物) 割賦住宅会社 

    五章
    土地公概念(韓国における見解) ビニールハウス村(ソウルから地下鉄で40分のところにある。約600世帯が暮らしている) グリーンペーパー(イギリス・ブラウン政権が発表した政策) ドンキホーテの子どもたち(フランスのホームレス支援団体) 住宅人権法(DALO法。フランスが2007年に制定) HLM機関(フランスにある、非営利住宅供給組織の機関)  キイヨ法 ベッソン法  

  • 【読書その104】住居は生活の基本的な基盤。それが崩れ、その問題を社会的にあぶり出したのが2008年の暮れから翌新年にかけて東京・日比谷公園に設けられた「年越し派遣村」である。本著は、戦後の住宅政策の軌跡を検証し、諸外国の動向を検証しつつ、現在の問題点について論じた本。戦後の焼け野原の日本を復興させるため、まず行われたのが住宅不足の解消のための社会政策であった。自分も知らなかったが、当初は、住宅行政は内務省、そして同省から分割して発足した厚生省の所管であったという。その後、経済政策の一環として建設行政として進められるようになったという。私が上越市の生活保護のケースワーカーとして見た現実は、職がなくなるとともに住まいも失い、一気に貧困にあえぐ姿であった。仕事をして自立をするにしても、そのベースとなるの住居である。本著は、住居をセーフティーネットの一つとして再度捉え直すことを論じた良著であった。

  • 戦後の住宅政策の軌跡。居住空間が投資の対象となり、住む場所がなくなっていっていることへの危機感とその対策提案。
    対策自体の決定は国が行うしかないので、私はこの本で、「賃貸か持家か」といった判断をするのに役立てたいと思って読んだ。
    結論としては、人口減少により増えて行く空き家が、金持ちの家(億ション)といった投資対象ではなく、一般人にも使いやすいように門戸が開かれたときまで、購入は差し控えるのが良いと思った。
    戦後は仮住まいが当たり前で、年収程度で家が買えたらしい。雇用も収入も不安定な今の若年層では、世帯年収600〜800万円程度では持家を持つのは難しいという。戦後紙幣が紙切れとなったときに、安定して住める不動産を持つのがブームになったらしいが、地震が頻繁に起きている現在、持家での安心も得られるか疑わしい。空き家の活用を政府が善意で積極的に行うことが、今後必要。

  • [ 内容 ]
    職を失い、住まいを奪われる人たち、団地で進む高齢化と孤独死、規制緩和がもたらしたいびつな住環境…。
    人権としての居住権が軽視され、住まいの安心・安全が脅かされている日本社会の現状を詳細に報告。
    社会政策から経済対策へと変容した、戦後の住宅政策の軌跡を検証し、諸外国の実態をもとに、具体的な打開策を提言する。

    [ 目次 ]
    第1章 住む場がなくなる
    第2章 いびつな居住と住環境
    第3章 居住実態の変容、そして固定化へ
    第4章 「公」から市場へ―住宅政策の変容
    第5章 諸外国に見る住宅政策
    第6章 「居住の貧困」を克服できるか

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 図書館から借用。

  • 住宅政策は知らずに損をすることの代表例かもしれない。政府による転換期的政策が住環境に関しては悉く裏目に出ていることがよくわかる本。
    とはいえ政府も始めから住環境悪化を望んでいたわけではないだろうから、その政策が目指した「理想のビジョン」をもう少し紹介しないとあらぬ誤解を招きそうな感じではある。

  • 住宅政策、は今までまったく興味がなかったのですが、
    これは知っていて損しないというか、

    街づくりへの新しい視点をもらった気がします。

    これから社会に出る立場としても、
    「衣食住」の問題は重大なのだけれど、

    「都市部の地価・家賃はどうして高いのか?」
    「公営の住宅は誰のものか?」
    「再開発の本当の意図」

    くらいは絶対知っておくべき。


    事例ベースでとても読み易いです。

  • まんべんなく、都心部の住まいは貧困なんだけど、その中でも特に、下層の人の貧困にスポットを当てている。そして、その貧困さの問題点を国家政策の不備だとして、住宅政策を住居権を保証するための政策としてではなく、景気を刺激する即物的な政策として利用してきたとする。
     ネオリベラリズムの風に吹かれて小さな政府を目指し、丁度いいから、そこで切り捨てることなるパブリックサービスを民間に投げて、景気を良くしてもらう。公共施設とかは目に見えてわかりやすいから、切りやすくそして売りやすい。
     そんなこんなで、今まで国や地方公共団体が下支えしてきたプアな人が路頭に迷うこととなる。
     政権が民主党に変わったから、また国債を発行して手を打ってくれることでしょう。

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