本は、これから (岩波新書)

制作 : 池澤 夏樹 
  • 岩波書店
3.47
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本棚登録 : 947
感想 : 155
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004312802

感想・レビュー・書評

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  • 電子書籍元年である2010年出版。紙の本の今後を憂い始めたことは文中からもわかるが、今出したら話題になるかもという出版社側の思惑を感じないこともない。
    電子書籍が台頭してきた中での「本は、これから」について、37名がエッセイを寄せているが、まず、読むと自分の文の好き嫌いの傾向が如実にわかる。そして、本好きは少々面倒になりやすいのかもしれないな......と感じた。本が好きだとそんな自分も好きになり、本を偏愛すると、自分を偏愛してしまうのかも。
    似た主張が多い中、池上彰や土屋峻は他とは違う視点で目を引き、最後の松岡正剛、宮下志朗のエッセイで締まった感があるのがよかった。

  • 351

    池上彰
    でも、もし客室乗務員が、派手な表紙のミステリーのハードカバーでも持ち込んでいたら、客は、「仕事中だろう。本なんか持って来るな」と突っ込みを入れたくなってしまうのではないでしょうか。 Kindleでの読書には、こんな利点もあったのだと合点しました。 どんな形をとろうとも、読書は読書。映像や図ではなく、活字だけを読み進むことで、頭の中に豊穣なイメージを紡ぎ出す。これぞ読書の醍醐味です。活字からイメージを想像するという作業をすることによって、人は精神的に成長するのだと私は思うのです。 読書という作業をするための道具は変化するかも知れません。読書そのものは永遠に不滅なのです。

    では、開発途上国の書店はどうか。いまから十年ほど前、ベトナム戦争の取材でべトナムを訪れたときのことです。目抜き通りに大型書店があったので、立ち寄りました。そこで、万引きをした若者が店員に捕まる瞬間を目撃しました。若者が万引きしようとしたのは、 英語の教材でした。きっと高価なものだったのでしょう。でも、漫画や猥褻な本を万引きしようとする、どこかの国の若者とは大きな違い。万引きはいけないにしろ、知識欲の旺盛さには圧倒されました。 その印象は、書店を出て街を散策しても変わりませんでした。昼の暑い最中、みやげ物店で 店番をしている若い女性たちは、日陰に座っています。何をしているのかと見ると、みんな読書の最中でした。昼寝などしていないのです。店番をする間も、本を手放せない。この読書欲に満ちあふれた若者たちがいる国は、きっと発展するだろう。そんな確信を持ちました。その後、ベトナムが、どれだけ発展したかは、ご存知の通りです。 ベトナムから西へ。カンボジアを通った先は、ラオスです。首都ビエンチャンは、まるで眠ったような街でした。中心部のロータリーを、牛車がゆっくり通ります。 ここでも書店めぐりを思い立ったのですが、書店というものが存在しないではありませんか。教科書だけは、市場の雑貨用品売り場に置いてありましたが、私たちがイメージする書店はないのです。書店はないのかと聞いて回った結果、ようやく突き止めた一軒の店。そこは、欧米からのバックパッカーたちが、読み終えたペーパーバックを売り払う古書店でした。すっかり 古くなったペーパーバックに値段がつけられて並べられていましたが、ラオス語の書籍は見当たりませんでした。当然のことながら、街のどこに行っても、読書する人の姿はありません。 ラオスの独裁政党は、私が見るところ、国民に対して、いわば”愚民政策"をしているよう 。由らしむべし知らしむべからずという方策をとっているのです。なまじ国民が多様な情報を得ると、政府の方針に反対する動きが出かねない。本を読む習慣が身につかず、古今東西の思想に触れることがなければ、統治は容易になる、というわけです。ラオスが経済発展を遂げているというニュースを、その後も耳にしない理由が、これでわかるような気がします。かくして、私流の、「これから発展する国の見分け方」を編み出しました。書店が多数あり、 国民が読書にふける国は発展する、というものです。

    「人生を決めた一冊の本」というのは、本当に存在したのです。 さらに、本好きな私が、時間を忘れて読みふけり、その後の人生に大きな影響を与えてくれ 本。そのひとつが、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』 でした。

    本が大好きだった父は、死の床にあった晩年、『広辞苑』の新版が出たことを知り、私に買って来てくれと頼みました。寝たきりになっているのに、大部な辞書を、開いては、読みふけっていました。この読書欲。知識欲。明日世界がなくなるとしても、万巻の書を読みたいと思ってしまう自分に、かつての父の姿がダブります。 本は不滅なのです。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/705887

  • ↓貸出状況確認はこちら↓
    https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/BB00173235

  • 池澤さんの前書きの部分は良い。
    出版社勤務の人や、書店を持つ人の話はとても面白い。
    本の本質の部分まできちんと考えてあるからだ。
    本の姿形、役割、変遷…。
    複数の人が日本における本の流通のあり方に苦言を呈しているのは興味深い。それって最近尖った本屋が増えている理由に通じる。

    それ以外の人のはあまり面白くない。
    紙の本に残って欲しいって結論ありきで書くから、とんちんかんな擁護になったり、電子書籍の重箱の隅をつついてみたり。
    いや、それとも10年前ってみんなこんなに電子書籍に戦々恐々してたのか。
    そういう記録としては面白がる人もいるかもしれない。

    でもちょっと、うーん。
    読むにつれてだんだん疲れてしまった。

  • 私は紙の本が好きかな〜
    この世界にはどれだけの本があるんだろう。
    そして、その中の何冊を私は読んだんだろうな〜

  • 2010年の著作
    当時は電子書籍元年と呼ばれていた
    本著は池澤夏樹氏の呼びかけで業界関係者から紙の書籍と電子書籍について寄稿したもの

  •  本書が刊行された2010年は「電子書籍元年」と言われていた。それを「電子書籍12年」の2021年に読んでみると、当時の懸念されたことはどうなったか、果たして”予言”は当たっていたのか、などを現在の電子書籍の展開と比較してみるととても面白い。
     当時の予測には無かった2021年の大きな変化は、”サブスク”ではないだろうか。サブスクリプション、定額で期間内利用し放題。この点においては先行していた音楽に、映画や漫画ともども、書籍も追いつきつつあるといったところだ。
     反対に、「電子書籍」という言葉自体を聞かなくなってしまった。キンドルなどはあっという間にスマホやタブレットにとって代わってしまった。iPadは多用途のおかげで今に至っている。
     ところで、読んでいて意外だったのは、出版業界が書籍の電子化が遅々として進まないことに懸念する論評が多く書かれていたことだ。『本は、これから』というタイトルからしていかにも「電子書籍化反対です」みたいな雰囲気を醸している。しかし当時の書店に並べるためには致し方のないカモフラージュだったのかもしれない。

    • 蚊焼さん
      ※補足
      「(サブスクで)書籍も追いつきつつある」
      →特に雑誌や辞典類において。
       単行本に至っては、これから
      といったところでしょう...
      ※補足
      「(サブスクで)書籍も追いつきつつある」
      →特に雑誌や辞典類において。
       単行本に至っては、これから
      といったところでしょうか。
      2021/05/17
  • f.2021/12/19(2)
    f.2011/1/7
    p.2010/11/22

  • 電子書籍時代を懸念する10年前の37人のエッセイ集。現在、電子書籍の割合は出版市場の25%程度のようだが、その殆どは漫画なので所謂活字媒体は電子書籍の影響は殆ど受けていないと言えるし、たぶん今後も変わらないだろう。よって、当時の懸念は杞憂に終わったと言えるのかもしれない。実際、自分は漫画は殆ど読まないし、電子書籍も利用しない。ただし、10年以上前から古書店を除いて本屋は全く利用しないので今後消え行く運命にあるのかなとは思う。尚、学校で使う教科書の類はすべて電子化してもいいのではと考えている。

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