津波災害――減災社会を築く (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004312864

作品紹介・あらすじ

いまだ記憶に新しいスマトラ沖地震津波。巨大地震発生帯に位置する日本列島も、同様の津波に襲われる可能性が十分にある。来たるべき大津波に、どう備えるか。重要なのは、被害をいかに最小限におさえるかという「減災」の視点だ。災害研究の第一人者である著者が、津波減災社会の構築へ向けた具体的施策を示す。

感想・レビュー・書評

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  • 既に読了したものの登録です.数少ない津波に関する入門書と言えましょう.サブタイトルは,「―減災社会を築く―」とありますが,私もどうやって「減災」を実現するのか,自分の専門分野の中で考えたりしています.

  • (2013.03.15読了)(2012.10.26購入)
    【3月のテーマ・[地震・津波を読む]その②】
    【東日本大震災関連・その115】
    津波の避難訓練への参加率が非常に低い、また、津波警報が出ても実際に避難する人が少ない、ということに、危機感を抱いた著者が、津波の怖さを伝えるために書いた本です。
    東日本大震災の3か月前に出版されたのですが、著者の危機感の通り、大勢の人が避難せずに死亡・行方不明になってしまいました。その記憶がまだ消えないので、東日本の太平洋岸の地域では、次の津波の際にどうするかが検討されています。
    東海・東南海の人たちは、どう備えているのでしょうか? 東日本大震災をわがこととしてとらえているでしょうか。
    50センチの津波でも、水深50センチのところでは、合計1メートルになるので流されてしまう。
    津波は波でなく、流れである。(大雨のときの河を考えるといいかもしれない)
    逃げれば、助かる。(逃げなければ、死ぬ)

    【目次】
    まえがき
    序章 〝安全な津波〟はない
    第1章 津波は恐ろしい
     1 津波をめぐる誤解
     2 津波の恐ろしさを知る
     3 教訓が忘れられたとき
    第2章 津波災害はくり返す
     1 津波のメカニズム
     2 変形する津波
     3 くり返す津波災害
     4 日本の津波常襲地帯
    第3章 津波情報に注意せよ
     1 「この地震による津波の恐れはありません」
     2 情報だけでは助からない
     3 情報を避難に結びつける
    第4章 津波が来たらどうする?
     1 もしも東京に大津波が来たら
     2 避難しないと何人犠牲になる?
     3 過去の教えを検証する
    終章 津波災害に備える
     1 日本の津波対策と課題
     2 生存非難を実行する
    あとがき

    ●危機感(ⅰ頁)
    沿岸の住民がすぐに避難しなければ、近い将来確実に起こると予想されている、東海・東南海・南海地震津波や三陸津波の来襲に際して、万を超える犠牲者が発生しかねない、という心配である。
    (心配が現実になってしまった。)
    ●避難すれば助かる(ⅲ頁)
    私が読者にとくに伝えたいことは、「避難すれば助かる」という事実である。そのためには、まず津波に関する知識の絶対量を増やすことが先決である。
    ●津波は「速い流れ」(16頁)
    津波は「高い波」という表現より、「速い流れ」と考えた方が正しい。沖から津波がやって来るということは、「見渡す限りの海面が盛り上がり、早い流れで岸に向ってくる」という表現の方が打倒である。
    ●四メートルの津波は五メートルの防波堤を超える(17頁)
    高さ四メートルの津波とは、「四メートルの水面の高さをもつ速い流れ」であるから、護岸や防波堤に衝突すると、前進できなくなって盛り上がるのである。正確に言えば、津波が護岸や堤防にぶつかった瞬間、津波の運動エネルギーがゼロになり、これが瞬時に位置エネルギーに変換され、海面が盛り上がるのである。理論的には衝突前の1.5倍くらいに高くなる。つまり六メートル近くなるのである。
    ●市街地(42頁)
    1960年チリ津波による犠牲者数がインド洋大津波の100分の1程度と少なかった理由は、20メートル以上の津波を記録したチリをはじめ、大津波が襲った太平洋沿岸各地の海岸低地に大規模な密集市街地がなかったからである。
    (三陸沿岸でも、過去の津波に学んで、低地に住宅を作っていなかった地区は、東日本大震災での被災をまぬがれました。)
    ●家が流される(56頁)
    家に働く力を理論的に求め、これと現地調査結果を突き合わせると、たとえば、浸水深が二メートルになり、そのときの流速がおよそ四メートルを超えると、住宅は浮上し、流され始めることが見いだされた。
    ●車での避難(105頁)
    車で避難する場合には、津波が地震後どれくらいしたら来襲するかという情報を事前に持っていなければ危険である。
    ●避難場所(106頁)
    避難は徒歩が原則である。まず、津波の恐れがあるときに、どこに避難すればよいかを事前に調べておく。近津波の場合は、市町村からの避難勧告が間に合わない恐れがある。大津波が来襲するところは、地震の震度も六弱から六強であるから、素人判断しても間違うことはない。一分以上、三分程度揺れたら間違いなく津波がやってくる。
    ●水は昔を(136頁)
    私はかねてより「水は昔を覚えている」と主張してきた。昔、海だったところや湿地帯だったところに市街地などが発達しても、いったん、洪水や高潮、津波氾濫が起こると、昔に戻って、また海や湿地帯に戻るということである。
    ●起る問題(144頁)
    自動車による避難が先行し、交通大渋滞が発生する。
    マンションの階上の住民は、自分たちは安全と考えて避難しない。しかし、そこに救援物資が届くような仕組みがない。

    ☆関連図書(既読)
    「三陸海岸大津波」吉村昭著、中公文庫、1984.08.10
    「哀史 三陸大津波」山下文男著、青磁社、1990.11.15
    「関東大震災」吉村昭著、文春文庫、1977.08.25
    「地震・プレート・陸と海」深尾良夫著、岩波ジュニア新書、1985.04.19
    「警告!東京大地震」竹内均著、PHP研究所、1995.04.10
    「平成関東大震災」福井晴敏著、講談社文庫、2010.09.15
    「超巨大地震に迫る」大木聖子・纐纈一起著、NHK出版新書、2011.06.10
    「東日本大震災を解き明かす」NHK「サイエンスZERO」取材班、NHK出版、2011.06.25
    「日本列島の巨大地震」尾池和夫著、岩波書店、2011.10.26
    「巨大地震・巨大津波 ─東日本大震災の検証─」平田直・佐竹健治・目黒公郎・畑村洋太郎著、朝倉書店、2011.11.20
    (2013年4月2日・記)
    (「BOOK」データベースより)
    いまだ記憶に新しいスマトラ沖地震津波。巨大地震発生帯に位置する日本列島も、同様の津波に襲われる可能性が十分にある。来たるべき大津波に、どう備えるか。重要なのは、被害をいかに最小限におさえるかという「減災」の視点だ。災害研究の第一人者である著者が、津波減災社会の構築へ向けた具体的施策を示す。

  • もっと早くに手に取りたかった一冊。

    • ビブロスさん
      まだこの本を手に取ったことで、遅くはなかったと思いましょう。災害は繰り返します。
      まだこの本を手に取ったことで、遅くはなかったと思いましょう。災害は繰り返します。
      2011/05/05
  • なんというタイミングだろう。3月11日の東北・関東大地震、そしてそれにつづく大津波が起こる、数ヶ月前の12月にこの本は出ている。まるで、今度の大津波を予測したかのようだ。本書は、きわめて実践的で、これから起こるべき東海、南海地震で引き起こされる津波対策マニュアル本としても読める。それは、著者が防災・減災(こんなことばができていた)の第一線で、長い間働いてきたからである。著者は本書で、津波の恐ろしさを具体的に例をあげ、それに対する人々の備えに警鐘を鳴らす。津波は単に高い波ではなく、いわばビルがおしよせてくるようなものだ。しかも、それは、一度だけでなく何度でもやってくる。引いた津波に安心し、海岸を見に行って津波にあうことも少なくないという。また、4メートルの津波に5メートルの堤防があっても役に立たない。それは、津波は堤防にぶつかると上にむかってせりあがるからだ。著者がさらに強調するのは、津波災害での人々の避難率がきわめて低いことだ。情報社会は人々の自己判断を見失わせる。地震がおこったとき、どうすべきか、津波情報を待つのではなく、ふだんの訓練と自己判断がカギになる。今度の災害では、8割以上の人々が津波でなくなった。わたしたちが今なにをするべきか。この本から教えられることは多い。

    • ビブロスさん
      私も、このタイミングで、阪神大震災の地で防災センター長されている著者の津波の本が出版されていた事実に、めぐりあわせを感じました。
      私も、このタイミングで、阪神大震災の地で防災センター長されている著者の津波の本が出版されていた事実に、めぐりあわせを感じました。
      2011/05/05
  •  津波災害を正しく理解させ、そのことから防災につなげようという趣旨の本。数メートルの津波がいかに恐ろしいかは2011年3月11日の大地震で起こった津波映像で理解した人が多いと思うが、冒頭にある説明でが50cm級の津波でも恐るべきものだという感覚が正しいのだと気づかされた。
     過去にも津波被害が何度も起きているのにも関わらず、東日本大震災ではさらにすさまじい被害を生んだが、過去に襲われていないという地域もまたこれを機に津波に対する理解と対策を進めるべきだろう。「ここには津波は来ない」という根拠のない迷信のために避難ができず、被害者を増やさないためにも。そのために読む本としては非常によい啓蒙書である。

    • ビブロスさん
      「ここには津波は来ない」。別の本には「人は信じたくないことは絶対信じない」と書いてありました。人の一生を超える周期の災害に対する啓蒙はどうす...
      「ここには津波は来ない」。別の本には「人は信じたくないことは絶対信じない」と書いてありました。人の一生を超える周期の災害に対する啓蒙はどうすればいいか、考えさせられました。
      2011/05/05
  • 地球では、昔から周期的に地震や津波や火山活動が起こっていて、たまたまそこに人間がいると災害になる。誰もいなかったら災害にはならない…。
    は―、人間てちっぽけだ…。という思いに駆られる。しかし人間としての物理的な限界はもうどうしようもないので、ちっぽけはちっぽけなりに、今日いちにちを精一杯生きていくしかない、みんなで。 それしかない。

  • 2010年12月に出版された書籍で、津波の被災をどうすれば減らせるかを書かれた書籍で、被災人口の0.1%程度の死者がでることが過去のいくつもの事例でわかっているようです。

    津波は、レンズ効果があって浅瀬で屈折することから被害が大きいところ、小さいところがでてくると書かれている。

    また津波は波ではなくて、海面が高くなる現象で、運動エネルギーが位置エネルギーに変換されることから、5mの津波は6mの堤防では防げないことが書かれている。

    東京で起きたらどうなるのか?という部分は興味深く、地下鉄へ水が流れこんで、地下鉄が冠水するのと、140万人が住むゼロメートル地帯が数週間に渡って冠水するという予測。
    コンビナート地帯での有毒ガスの発生による被害などについても言及されてます。地下鉄に水門があることも知った。

    この震災を機会に一度読んでみるといいかも。

  • マグニチュードが6・0以下あるいは震源の深さが100kmより深ければ、被害をもたらすような津波は発生しない。

  • 半日で一気に読んでしまいました。津波の恐ろしさを教えてくれます。高潮、高波と何が違うのか。「5mの津波」は5mの防波堤を越えてしまうことを教えてくれます。過去の津波被害の事例を多く挙げてその恐ろしさを教えてくれます。

    少しでも人的被害を防ぐ為には、「素早く逃げるしかない、それも徒歩で」と著者は訴えています。減災のための都市計画を訴えていますがそれが間に合わず、人々の意識の中に根付く前に東日本大震災が発生してしまいました。慚愧に堪えません。津波の恐ろしさをこれだけ教えてくれた本書ですが、それでも本書では「釜石・大船渡」の防波堤には津波を防ぐ効果を認めていましたので、それを越えてしまった今回の津波の「想定外」が伺われます。

    とてつもない大被害を招いた今回の津波についても加筆した新版が出ることを期待しています。勿論現状の版でも十分にためになります。今でも興奮が冷めません。

    何故かAmazonでは品切なのか「出品者からお求め下さい。」状態ですが。

  •  本書で指摘されていた問題点全てが、今回の大震災で起きてしまったことは誠に残念としか言いようがない。本書が出るのが遅かったのか、それとも地震の発生が早かったのか…。さらに現実世界では、本書では全く触れられていない原発災害まで発生しているだけに、余計深刻な状況である。
     今回の悲惨な出来事は、日本中で子子孫孫、語り伝えていかないといけないことだし、この教訓を生かした防災・減災対策をとっていかないといけないだろう。
     将来、今回の大震災のことを反映させた第二版が出版されることを切に望む。

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著者プロフィール

2022年2月現在
京都大学名誉教授、関西大学名誉教授
関西大学社会安全研究センター長・特別任命教授
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長

「2022年 『災害文化を育てよ、そして大災害に打ち克て』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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