原発のコスト――エネルギー転換への視点 (岩波新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004313427

作品紹介・あらすじ

他と比べて安いと言われてきた原発の発電コスト。立地対策費や使用済燃料の処分費用などを含めた本当のコストはいくらになるのか。福島第一原発事故の莫大な損害賠償を考えると、原発が経済的に成り立たないのはもはや明らかではないか。再生可能エネルギーを普及させ、脱原発を進めることの合理性をコスト論の視点から説得的に訴える。

感想・レビュー・書評

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  • 金大生のための読書案内で展示していた図書です。
    ▼先生の推薦文はこちら
    https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=39376

    ▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
    http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BB07725432

  • 原子力関連の本を読み比べているが、数値的な検証は本書が一番緻密な分析がなされていると感じた。主に原発にかかるコスト(金銭としても、リスクとしても)を徹底的に検証しており、なぜ脱原発が必要なのか論理立った考えが示されている。

  • SDGs|目標7 エネルギーををみんなに そしてクリーンに|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/705944

  • 東2法経図・6F指定:B1/4-3/Shoji

  • 資源エネルギー庁は、原子力発電所を再稼働する理由を『命や暮らしを大切に思えばこそ、「安定的に」「安いコストで」「環境に負荷をかけず」「安全に」電力を供給するということが重要になります』と説明する。福島原発のメルトダウンが、安全神話を崩壊させたにもかかわらず、いまだに安全を標榜している。では、原発のコストは、本当にやすいのだろうか?
    この本は、2011年12月に出版されている。福島原発メルトダウン以降の本である。この本の特徴は、実に冷静で、原発コストの問題を客観的に見ようとしていて、清々しい。
    原発コストを考える上で、①発電原価の公表は、政府の「エネルギー白書」によれば、1キロワット発電量に、5〜6円とされている。そのコストは、発電所建設費、燃料費、運転維持費としている。
    原発は40年償却、80%稼働が算出基準。実際はトラブルが多く、30年ほどで老朽化、稼働率は到底80%に届かない。あくまでも、このコストはモデルプラントの理論値として算出される。
    ②福島原発のメルトダウンによるの直接の被害の経費(そこに住む人たちの避難するコスト、原発労働者の被曝保障コスト、農林水産業の被害コスト、福島経済に与えた被害コスト)は、原発コストには入っていない。日本経済センターの試算によれば、福島第1原発事故の処理にかかる費用が最終的に70兆円近くに処理費が膨らむ可能性があると試算している。汚染水の増加によって80兆円を上回る費用になる恐れがある。③事故とは別に、原発を推進するための財政資金、大量の使用済み燃料の処理・処分のコストも、原発発電コストに入らず、国民の税金で賄われている。
    福島原発のメルトダウンは、いつ起きたのか?その時の政府は、いつメルトダウンを発表したのか?
    このことは、もっと検証する必要がある。2011年3月11日14時46分地震発生。原発への津波到着15時36分。その時には、1号機が水素爆発。15時37分。全電源喪失。17時頃に核燃料が露出し、メルトダウンした。つまり、地震が起こってから、3時間以内にメルトダウンしていた。その日以降、政府や東京電力は、「炉心の溶融=メルトダウンは起こっていない」と繰り返してきた。その後メルトダウンしたと発表したのは、5月中旬。アメリカ国務省は、当日メルトダウンしたという情報を把握して、3月16日に在日アメリカ人に日本脱出命令を出していた。全くもって、政府の許せない隠蔽体質。ここでは、多くを言わない。中国の雲南省にいた私も、3月の20日頃には中国報道でメルトダウンしたと聞いた。日本にいる日本人だけが知らされていなかった。(これは、別の本で詳しく)
    原発コストにおいて、この原発メルトダウンによる環境汚染、大気への放射性物質の放出、63京ベクレル(原子力安全委員会発表)それは、広島原爆がセシウム137が89兆ベクレルだったので、セシウム137では、169発分という。大気汚染の上に、土壌汚染。海水汚染が加わる。その被害総額は算出されておらず、人体への健康破壊の影響は、現在も進行中である。約15万人の住民が直接的影響を受けて避難を強いられた。あくまでも、年間被曝量20ミリシーベルトの地域を目安にしている。健康被害を最小限にするには、年間1ミリシーベルトが本来の規制値。さらに拡大する水と食品の放射能汚染。風評被害など。そういう被害総額は、金銭で評価できる被害と金銭で評価できない被害がある。
    人の死や健康被害、住み慣れた土地の喪失などは、本来金銭で評価できない。
    金銭で評価できるのは①損害賠償費用②事故収束費用・廃炉費用。③原状回復費用④行政費用、さらには、⑥今後の地震、津波対策費用。本では、2011年11月時点では、約8兆5000億円。(それが現在2019年では、80兆円と試算されている)
    この保障は、東京電力の賠償ではなく、「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)」によって行われる。国民の税金で支払われて、原発電力コストには反映しない。
    原賠法は、原子力事業の健全な発達に資することを目的として、賠償する。
    なぜ、東京電力は賠償しなくてもいいかは、法律で定められていて、「異常に巨大な天変地変」で免罪されている。また、原発事故は、原子力事業者が損害を賠償する。つまり原発を造ったメーカーは免罪される。つまり、全員免罪で、賠償責任を負うこともなく、国民の税金を使うことにななるわけである。まぁ。この費用は、原発コストに入らないから、安いわけだ。大いなるトリックだね。原発を認めた国民の自己責任という論理のようだ。「安くて、安全」の原子力エネルギーの実態だ。
    「異常に巨大な天変地変」として福島を襲った津波は、日本の歴史上例の見られない津波だったと認定されている。そして、「原子力損害賠償支援機構」によって、賠償されることになる。
    2011年東電の第1、第二四半期決算の損失は、1兆1000億円で、それは支援機構から補填された。東電は赤字ではなく、東電の職員は、年末ボーナスが出ることになった。支援機構の原資は国債で捻出されているので、結果国民の借金から支払われる。
    原発を進めるためのの技術開発コストと高速増殖炉、核燃料サイクル技術などのコストは、文科省、経産省、日本原子力研究開発機構と電事連が参加して、このコストも国民の税金で支払われる。つまり、開発費や使用済み核燃料などの保存と利用は、電力会社が持たなくてもいい。それは、原子力エネルギーの開発のためなのだ。だから、原発コストは安い。国民が負担しているだけなのだ。
    電気料金は、総括原価方式となって、営業費用、事業報酬を公平・公正に決定する。
    つまり、東京電力は、2010年 広告費を116億円使っているが、全て電気料金に含めることができる。そうやって、メディアに原子力エネルギーは安全であるという広告が支配できる。石坂浩二が「原子力は安全です」というテレビコマーシャルも、電気料金に入っているわけだ。
    問題は、政策コストで、原子力は地域社会から受け入れられにくいエネルギーであり、電源三法交付金があり、地元自治体に交付金を出して、自治体を受け入れさせる。その交付金を電源立地地域対策交付金である。それも、国民の税金(電源開発促進税)から支払われる。電力会社が支払うものではない。核燃料再処理の環境影響評価をすることで、その交付金が支払われることになる。原発1基あたり、1240億円が45年間交付される。貧乏な地方自治体は、その交付金に惑わされるわけである。
    著者が、「発電事業直接要するコスト」を計算したら、1キロワット原子力は8.53円、火力9.87円、水力7.09円。別に原子力が安いわけではないとしている。原子力のコストとして、プラス、技術開発コスト1.46円 立地対策コスト0.26円かかるので、10円は超えてしまう。火力や推力は、技術開発コストや立地対策コストは無視できるくらい安い。つまり、それにメルトダウンによる放射能汚染などの事故コストを足せば、原子力コストはもっと跳ね上がるのだ。
    その上で、バックエンドコスト 核燃料を使用した後に残る使用済み燃料の処理・処分コストがかかってくる。政府の資産によるとバックエンドコストは18兆円という。そこには、含まれない膨大なコストが隠されている。それが、永久に近い時間がかかることになる。
    結局、原子力コストは、国民の税金に振り分けられて、見せかけの安さだった。つまり、経済的合理性がないのだ。メルトダウンで環境を破壊し、安くない原発コストを再稼働させる必要はないのだ。

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  • カテゴリ:図書館企画展示
    2016年度第9回図書館企画展示
    「災害を識る」

    展示中の図書は借りることができますので、どうぞお早めにご来館ください。

    開催期間:2017年3月1日(水) ~ 2017年4月15日(金)
    開催場所:図書館第1ゲート入口すぐ、雑誌閲覧室前の展示スペース

  • 感情的になりそうな議論をデータに基づき、淡々の記述している点が好感が持てる。再生可能エネルギーへの転換を示しているが、欲を言えば環境省の提示データを鵜呑みにせず、原発データ同様の突っ込みが欲しかった。原発は政策コスト、バックエンドコストを考えると経済性メリットも低いことがよく理解できた

  • 原発は決して安価な電源でなく、さらにはエネルギー収支もプラスにならない(建設、燃料製造、再処理、廃炉、廃棄物管理に投入するエネルギーの方が生み出すエネルギーより大きい)という内容の本を読んだのはもう30年ほど前であろうか。福島の事故でこういう真実がより多くの市民に知られるようになったのは不幸中の幸いである。
    ただ書名に『原発のコスト』とあるのに、それについて分析したのは3章だけで、あとは反原発の総論的な内容に終始している。原発コストの大半を占めると思われる事故リスクや廃棄物処分のコスト試算も詰めが甘い。また総括原価方式を採用しているが故に、固定資産額の大きな原発の保有は電力会社の経営に有利であったことにも触れられていない。これでは30年前の本(残念ながら書名を失念してしまった)より内容に乏しく、福島の極めて大きな代償が無駄になっている。経済学者としてもっと踏み込んだ分析を期待したい。

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著者プロフィール

龍谷大学政策学部教授

「2021年 『炭素排出ゼロ時代の地域分散型エネルギーシステム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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