構造災――科学技術社会に潜む危機 (岩波新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004313861

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  • 構造災の要素
    ①先例が間違っているときに先例を踏襲して問題を温存させてしまう。
    ②系の複雑性と相互作用性が問題を増幅する。
    ③小集団の非公式の規範が公式の規範を長期にわたって空洞化する。
    ④問題への対応においてその場限りの想定による対症治療法が増殖する。
    ⑤責任の所在を不明瞭にする秘密主義がセクターを問わず連鎖する。

    ファシリテータ、インタープリターなどの「つなぎ目」の提案


    構造災はこのような対症治療法の対症治療法の対症治療法・・・といった、つぎつぎに対症治療法が増殖し、本来解決すべき問題が帰って視界から遠のいてしまう状態を含む。
    そして対症治療法はそのように増殖する傾向を元来もちやすい。なぜなら、問題の対策を考える際に頻用されている費用ー便益分析の流儀に従うと、便益が一定の場合、対症治療の費用のほうが構造差異の解決に必要な構造改革の費用よりつねに桁違いに安いことは想像にかたくないないからである。

    秘密主義も連鎖


    うーん。たしかにそうなんだけど、どれも変えるのがとても難しい問題ばかりなのと批判の仕方がちょっと神話めいたものもはいっていてあんまり好きじゃない。
    費用便益の評価の偏りについて要調査。
    先日テレビで片山さつきがB/Cの問題点について討論していたが、今はB/C以外の評価軸の開発と多元的な評価を目指しているらしい。またライフサイクルコストや住民意向の観点なども徐々に取り入れてはきている。対症治療法の無限循環、手段の目的化の無限循環的なところ、生物学的に行けば順機能なのでそれをいかに大前提の目標達成のルートにのせられるかというデザインが必要なのかも知れない。
    そもそもその大目的みたいなものも他のなにかの手段であったりするわけで、何が目的かっていうところは決定不能なんだよな。。。それが一見自明そうな人間の命を守る、幸福にするということであってさえもその自明性は揺らいでいる。その目標さえも複雑化縮減のためのモデルであったりするわけだし。
    どこまでの内部観測地点で全体を「俯瞰している」といえるか、ということを考えだすと人工知能の難問フレーム問題にも通じる途方もなさを感じる。

  • 筆者が「構造災」と呼ぶのは、福島第一原発の事故や放射性廃棄物の処理の問題など、科学、技術、社会の間で起こる災害のことである。

    過去の歴史的経緯、専門的で複雑な技術体系、助成や補償といった社会制度などが、それぞれに絡み合い、責任の所在があいまいなまま、先例の踏襲を続けていくうちに後戻りできないところまで事象が進んでいくことが多いという。

    筆者の論点のうち重要であると感じたのが、責任の所在があいまいというのが、単に当事者意識の欠如といったレベルで片づけられる問題ではないということだ。

    構造災に伴う責任は、時間、因果関係の面などで無限責任となる場合が多く、どこかのセクターに責任を取らせれば片が付くというものではない。このことを、放射性廃棄物の処理の問題で、説明している。

    筆者は、構造災が起こることを避けるためには、「無限責任を有限化するしくみづくり」が大切だという。わたし自身も、「放射性廃棄物の地層処理が果たして責任ある対応なのだろうか?超将来のことが不確実なのであれば、地上で厳重に管理しながら次世代に継いでいくことも選択肢の一つなのでは?」とふと思ったこともあり、筆者の論点に共鳴できるところがあった。

    ただ、そのような社会制度を設計するために必要な社会的意思決定の在り方は、非常に難しいものになるだろう。不確実性に伴う責任の有限化は、先送りと紙一重であり、現時点の判断だけではなく将来の進め方につてもある程度制度的に担保していく必要があると思われる。

    そのようなことができるようになるまで社会的な議論が成熟するには、非常に時間がかかると感じた。

    もちろん、時間がかかるからといって取り組まなくてよいということではなく、筆者がその一端を提言している、構造災を防いでいく社会の在り方について、議論を深めていく必要があると思う。

  • 新しい概念というのは、書くほうも試行錯誤するのでしょう。その試行錯誤に多少とも付き合うことになるので、なかなか理解が遠い。それでも・・・・、何か変だ・・・と思っていることへの解答として魅力ある概念だという感じはした。
    構造災としての原発事故だとすれば、なぜ現在もなお廃炉を惜しむ声があるのだろうか。
    当事者こそ、しっかり構造災を学んでほしいものだ。

著者プロフィール

東京大学名誉教授/事業構想大学院大学教授

「2021年 『科学社会学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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