日本財政 転換の指針 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314035

作品紹介・あらすじ

「破綻」や「国債暴落」という警告の言葉に脅え、財政を「再建」することが、本当に社会に共通の善なのか。尊厳と信頼の社会を構築するための財政の条件とは何か。赤字の原因を日本社会の構造から解き明かし、「ユニバーサリズム」の視点から、受益と負担の望ましいあり方、そして新しい財政のグランドデザインを提言する。

感想・レビュー・書評

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  • 一刻も早い財政再建が望まれる日本。なぜ財政再建ができないのか。本書は、政府債務が対GDP比で200%を超えている日本の財政構造を明らかにする。
    我が国民は痛税感が強い。なぜか。税が債務の返済や低所得者ばかりに費やされているからである。そのため、多くの中間層は、受益なき負担を強いられている。ここに日本が増税をできない理由がある。
    日本は「公共投資偏重型財政システム」であり、ここに減税による中間層への所得配分が加わった、いわゆる土建国家であった。公共投資が雇用を生み出し、一定の生活保障の役割を果たしたほか、中間層への減税によって受益感を与えていた。しかし、この土建国家のフレームワークが今や破たんしていると著者は説く。少子高齢化や不景気に伴い、財政ニーズが公共投資から社会保障へシフトされたからである。
    とは言え、著者は北欧型の高負担・高福祉を目指すスタンスではない。救済すべき人の割合を減少させ、中間層への受益感を増大させることが大事であると説く。そのための手法として、高所得者や企業の課税強化を挙げている。法人税の税率アップなどは企業の海外移転に結び付きそうだが、企業の海外移転の主な理由は人件費や販路拡大にあり、税はあまり影響しないと分析している。
    著者は、生活保護制度に代表される「ターゲッティズム」の領域を最小限にし、広くサービスを行き渡らせる「ユニバーサリズム」の重要性を説いている。しかし、そのためには財政構造の転換や政府の強いリーダシップなど、多くの難題が残されており、相当の歳月を要することは間違いないだろう。喫緊の財政赤字を解消する手法ではない。我が国の目指すべき1つの方向性程度に受け止めておいた方が良いかも知れない。

  • 日本財政の今後のあり方を問う書。日本の財政赤字の原因は支出の増大ではなく、減税に伴う税収の減少だという指摘。財政再建のための増税では租税抵抗を受けるだけなので、財政学の伝統的な考え方である量出制入原則に基づき、国民のニーズを満たすことが必要と説く。これによって増税も受け入れやすくなるという話。ニーズの確定が先だという話もよくわかるが、日本の財政赤字はかなりの額で破綻もあり得るという議論もあるので、破綻の可能性についても触れて欲しかった。

  • 2015.01―読了

  • 〈感想〉
    ○著者のあるべき論が先行しており、裏付けの数字への担保が薄い。
    ・税収の拡大を許す根拠が虚弱であり、弱い。著者の展開する思想とあるべき論とセットで、具体的な財政プランと数字を提示出来ていれば、指針として説得感が増した。
    ・税収の減少や過去の日本財政の分析については興味深い。但し、分析が著者の構築したフレームワークに寄りすぎている感も否めない。

    〈要点〉
    ○財政の理念とは:ユニバーサリズム
    →・所得年齢や性別関係なしに、人間のニーズを果たしていく=○社会や政府からどのように扱われたか、という論点

    ○今までの日本財政は:「増税出来ない政府」
    →◎減税が重要な利益分配
     →・1990年以降の法人税、所得税の減税により、バブル崩壊後、一般会計に占める税収の割合が減少。
     └1989年の消費税導入は所得税及び法人税の減税がセットであり、97年度消費税増税も所得税減税がセット。
     →・減税分により福祉や教育などのサービスを購入。
    →◎土健国家:財政投融資を中心とした公共事業への投資を通じて、雇用を創出
     →・自民党保守政治を中心に、救済ではなく、働く機会を与えるという発想が多かった
    →◎支出上限による締付け=支出構造の改革諦め:個別の資源配分を犠牲。有るべき論の欠如
     →・大蔵省の戦略:禍根の残る個別予算での論争を避け、総枠で管理するため
     ←・予算性質で分けるアメリカとの違い:

    ○今後どういった施策が実施すべきなのか:
    →◎国と地方の役割の定義と、それに沿った財源の割り振り

    〈その他〉
    ・アメリカの予算制度改革
    →・義務的経費と裁量的経費に対するルール適用
     →1、義務的経費増大させる場合は、経費の節減や増税による財源捻出を義務。守られない場合、当該年度の開始年度に義務的経費の一律削減
                └新たな立法措置が起因の場合のみで、高齢化・インフレによる自然増加は対象外
     →2、裁量的経費は、予算に関連する委員会ごとで支出の上限を設定。
    ・鳥取県智頭町の事例
    ・累進課税:基準が恣意的になりがち=納得感が得られにくい

  • 財政健全化のためだけの議論ではなく、どのような国にしたいかという視点。
    信頼に基づく尊厳と平等化のユニバーサリズム、垂直的・水平的公平性と国・地方税の税制改革、土建国家による社会保障を理解した上での新たな公共投資への移行等、骨太な議論が必要。

    ◯語られるのは望ましい社会の姿ではない。何をやってはいけないかということである。私たちの目指す社会は、見栄えの良い財政のある社会だとでもいうのだろうか

    ◯支出が横ばいの中の財政赤字の拡大
    →原因を理解

    ◯痛税感は受益と負担のバランスで決まる

    ◯いわゆる社会的信頼度の比較であるが、先進国においてこの数値がもっとも低い国が日本

    ◯「政府への不服従」と「社会的連帯の欠如」、この二つの事実を結びつけると、日本の財政赤字の原因、そしてその背後にある深刻な問題が浮かび上がってくる

    ◯他者を信頼できない社会ではそもそも再分配の実現可能性が低い

    ◯連帯のパラドックス:低所得層の救済のためにこそ、より豊かな人びとをいっそう豊かにしなければならないという逆説

    他、kindle

  • 大佛次郎論壇賞で名前を知り、NHKスペシャルのマネーワールドの格差の回で顔を知り、いよいよ「経済の時代の終焉」を開く前に井手英策という財政学者を軽く知ろうと思って開いた新書です。でも全然軽くなくて財政という学問の重さに衝撃を受けました。ついついお金の問題としてしか受け止めて来なかった負担と受益の関係ですが著者は一貫して人間の尊厳の問題として捉えています。もはや機能不全となった土建国家、日本の税金の再配分の問題を垂直的公平性と水平的公平性、矯正的正義と配分的正義、国と地方自治体、ターゲッティズムとユニバーサリズム、二項対立でわかりやすく説明しながら、どちらにも与せず論点を提示していく語り口に強さと優しさを感じたのですが、それは財政学を「人間の学」と考える著者ならではのものでした。彼のアンセムである「あとがき」が実は本書のクライマックス?ルソーの『社会契約論』の中で説いた「人間とは新しい力を生み出すことのできない存在であり、だからこそ、すでにある力を結びつけ、方向づけることで、生存を妨げる障害に打ち勝つ力の総和を作り出すことが必要」という最終行に心動きました。

  • バブル崩壊後の長引く不況のなかで日本は,他者を信頼できない社会になり,政治も信頼できない状況になっている。高度経済成長期以降,減税と公共投資で国民の生活を保障してきた土建国家モデルは限界に達している。現在の日本は,「連帯のパラドックス」に陥っており,中間層の受益なしには低所得層への政策をおこなうことが難しくなっている。

     そのなかで,財政再建を声高に叫び歳出削減という国民に受益がなく痛みが伴う対策をするのではなく,中間層および低所得層が受益を受けられるようなユニバーサリズムに基づく政策への転換が必要だと,筆者は主張する。

     筆者の言うように,財政再建が必要だと主張するだけでは,なかなか多数の納得は得られないだろうと思う。目指すべき社会の姿が明示されて,そのために財政において何ができるかを考える必要がある。

     アメリカやスウェーデンの事例であったように,高所得層への増税と低所得層への給付削減・減税をパッケージでおこなうというのは参考になると思う。
     
     あと,ユニバーサリズムの観点からみると,社会保険による国民皆保険・皆年金体制は限界があるということになるのか。ユニバーサリズムの観点から言えば租税を財源とした制度が良いのであるが,変えていくのは相当困難なように思える。国民皆保険・皆年金体制はある程度機能してきたのだから,より多くの人びとがその枠組みに入れるようにしていく方が良いのではないかと思った。

     日本の財政および社会保障制度について色々と考えたいと思わせるような一冊であった。

  • 著者の井手先生をそれと知ったのは本年6月26日から日経新聞で連載された「やさしい経済学」財政を考えるシリーズの第1章「負担と受益」①~⑩を担当されたのを偶々読んだからです。

  • タイトルが財政なので、経済の話が中心かと思って敬遠しそうになったが、どうして財政赤字なのか、何にお金を使っていくべきかが社会構造の変化と一緒に書いてあってわかりやすい。

  • 9784004314035  221p 2013・1・22 1刷

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著者プロフィール

慶應義塾大学教授

「2022年 『財政社会学とは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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