出雲と大和――古代国家の原像をたずねて (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314059

感想・レビュー・書評

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  • ヤマト王権による統治が確立される以前に、出雲勢力による「国作り」がおこなわれていたという著者の仮説が提出されている本です。

    著者は、岡山県の総社宮に祭られているのが、オオナムチとスセリビメであることを知って、古代史においてオオナムチをめぐる数多くの説話が存在しており、多くの人びとの崇拝を受けていたことの理由をさがし求めます。著者は、記紀神話についての独創的な解釈を示したり、じっさいに各地の神社を訪ねて古代の信仰のありかたについて考察をおこなったり、さらには邪馬台国をめぐる論争にも立ち入ったりしつつ、上で述べた仮説の証拠とみなすことのできる事実を明らかにしています。

    著者自身も「あとがき」で、「むろん、本書の取り組みが不完全であることは十二分に自覚しているが、これを捨て石としてさまざまな議論が起こるならば、これに勝る幸せはない」と述べているように、かなり大胆な仮説というべき内容だと感じました。その土地につたわる伝承を教えられて新たな視点に目を開かれる体験を語り、そのことをきっかけにして自説の形成に取り組む経緯が語られているところなどは、梅原猛の古代史関連の著作を思わせるような議論の進めかたで、眉に唾をつけながらも、わたくし自身はこういうスタイルの議論はけっしてきらいではありません。大胆な仮説にもとづいて古代史の大きな見取り図を示すことのロマンに浸ることができたということだけでも、読書のたのしみをじゅうぶんにあじわえたと感じています。

  • 村井康彦 出雲と大和 

    古代出雲論。邪馬台国畿内説と神武東征を通して、出雲王朝から大和王朝への変遷を論じた本


    著者のことは知らないが、かなり面白かった


    出雲王朝から大和王朝への変遷
    *邪馬台国=大和にいる出雲系氏族の連合王朝
    *神武東征により、神武勢力が大和に侵攻し、神武が大和朝廷が成立


    「伊勢神宮=天照大神=大和=天皇勢力=記紀」と「出雲大社=大国主神=出雲氏族=出雲国風土記」の対照的な関係は興味深く、出雲視点で見る「国譲り」は記紀と微妙に異なる面白さ。饒速日命の帰順を国譲りとし、葦原中国(地上世界)は 天孫に譲るが 出雲国は守ることを主題としている


    大国主神(大国様)に異称が六つあることは知らなかった
    *大国主神〜大きな国の主。葦原中国の主。大己貴神によって形成された国土の主。
    *大物主神〜大和の三輪山に祭られた大神神社の祭神。万物の主、森羅万象を司る神。大国主神が自然神的存在に変身した姿
    *大己貴神〜国作り、天下作り、葦原中国を形成した神


    出雲国造が朝廷に奏上した神賀詞のなかで貢置を申し出た「皇孫の命の近き守神」
    *大国主神の口を通して語られる四つの神を「皇孫の命の近き守神」として貢置した
    *大和の神々として、出雲系の神々を選定し貢置した=守神の押し売り





  • 2019年12月24日 夫からのプレゼント。

  • まもなく開催される国立博物館での本書と同名の展覧会の前に偶然手に取り読み進めた。読み進めるうちに、著者ではないが、自身がこれまで歩んできた道のりを振り返り誤り、無駄ではなかったと安堵し喜びすら感じている。偶然とはいえ、神仏習合の系譜を追いかけるうちに色濃く見えてきた出雲民が、この国の国造に大きな足跡を残している

  • ☆面白い本である。神社などのフィールドワーク、ヒアリングをも踏まえている。
    大和には出雲系の神社がある。出雲系の神社は磐座信仰で、鉄の鉱脈と関係がある。
    「国譲り」を考えても、大和の地には、邪馬台国の時代から王宮があった。やがて、出雲系の王朝が、神武東征により制服されたが、徹底抗戦ではなく、降伏、すなわち、国譲りしたのではないか?

  • 「古事記」や「日本書紀」などの資料や、出雲と大和の地にある神社を訪ねることで、古代の日本の姿に近づこうという試みが書かれています。神話を、神話として片付けるのではなく、それが現実にあった何かを表しているということを紐解いていかれています。中には想像力で行くしかない部分もあるのですが、その想像力であっても何かしらの答えを出そうとされています。検証は後世にというものもあると思います。邪馬台国と大和朝廷の関係など。出雲国譲りとの関係など。想像力からロマンを掻き立てられるところまで。学ぶということの楽しさを感じられる内容です。

  • 出雲と鉄生産から推測される出雲文化圏の考察が面白かった。
    しばらくこの辺りの歴史を探検してみたい。

  • 出雲界隈の紀行文と、記紀の解釈が織り交ぜて、出雲という神話の国と大和朝廷成立の関係についての自説を述べている本である。西日本の地名や位置関係の勘が鈍い東日本人には、イメージを膨らませながら読み進めるのは辛かったが、どうぜ誰も見たこともない時代の事なので、勝手に色々想像しながら読んでも、誰も困らないだろう。

  • 20160229読了
    2013年出版。邪馬台国は奈良。福岡・伊都が中国との中継地点で、伊都から出雲を経て海路で関西北部に上陸、その後陸路で奈良というルート。出雲と邪馬台国のつながり、その後の大和朝廷との関係を考察した本。●昔の神々の名前は目が滑る。世界史の横文字の名前でくらくらするのと同じくらいの滑りっぷりで困った。●国司(くにし)神社は大国主命を祀る。もとは国主(くにしゅ)神社。出雲系神社の指標としては、おしりを持ち上げた狛犬と、社日さま(五角形の石柱)。

  •  卑弥呼は天皇家とは無縁 村井康彦著『出雲と大和 古代国家の原像をたずねてー』.
     本書を理解するためには、「あとがき」から読みはじめると、よい.本書の意図が提示されている.

     1)大和の三輪山は山体自体が、出雲系の大国主神でること.
     2)8世紀はじめの国造が「賀詞」を通じて、<貢置>を申し出ている.
     それは大和朝廷が成立する以前から、出雲系の神が大和に存在して(大和の)<守り神>となっていた.
     3)卑弥呼は大和朝廷とは無縁の存在であり、大王=皇統譜の系譜に載せられるべき人物ではなかった.

     文献史学者は悩む.記紀に語られる「神話伝承の世界とは何であろうぁ」、と(「はじめに」 Xp).
     そのうえで、「古今東西これを=神話をもたない民族も地域もない.だとすれば神話伝承をさけて通る古代史というものはありえないだろう」と、考える.

     記紀を緻密に読み解く.そこで見えてきたこと.
     大和のさきに、出雲、吉備、丹後の神々の国がさきにあり、そこに神武東征後、大和の覇権が後世に記録されたと、読む.

     神話を、「枝葉末節が剥ぎおとされて、根幹部分が残ったものとみることができる」と、読み解いた.
     「作業仮説」.そうした論があるかも知れない.ただ、文献史学者で著明な著者が、ライフワークの国分寺調査で積み上げた聞き取りに、考古学上の知見、神話の新しい機能を確認したうえでの立論には、尊重すべき点も豊富に、書き込まれている.

     

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著者プロフィール

村井康彦(むらい・やすひこ):1930年山口県生まれ。京都大学文学部大学院博士課程修了。専攻は日本古代史・中世史。国際日本文化研究センター名誉教授・滋賀県立大学名誉教授。著書『出雲と大和』『藤原定家「明月記」の世界』『茶の文化史』(以上、岩波新書)、『武家文化と同朋衆』(ちくま学芸文庫)、『王朝風土記』(角川選書)など多数。

「2023年 『古代日本の宮都を歩く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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