近代秀歌 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314073

感想・レビュー・書評

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  • 難しい書き方はしていないし奇をてらっていないのに、秀歌が多い作者の作品なら、ちゃんと実作の視点に立って「これ」と選歌して紹介しているのがとてもいい。

    短歌に親しんだことがなくても何となく耳にしている作品について、改めて鑑賞するというのは、何となく欠けていた自分のピースがちゃんとハマった感じがしてすっきりする。

    教科書で習ったきりの文学史・短歌。
    そんな風に感じておられる方も、

    短歌は好きで色々読んでみたけど、一度スタートに返って
    名作というものを気軽に鑑賞しようという方も手に取られると
    いいかなと思う。

    私自身も、短歌は好きだが、この本でもう一度作品に触れた
    ことで、歌集をきちんと読んで鑑賞してみようかなと思ったものがたくさんあった。

    自分の好みだけで作品を鑑賞していると、こういう経験が
    自分に新しい風を入れてくれる気がする。

    例えば

    君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ
    (北原白秋)

    人妻をうばはむほどの強さをば持てる男のあれば奪られむ
    (岡本かの子)

    不来方のお城の空に寝ころびて空に吸はれし十五の心
    (石川啄木 『一握の砂』)

    ひた走るわが道暗ししんしんと怺へかねたるわが道くらし
    (斎藤茂吉)

    かんがへて飲みはじめたる一合の二合の酒の夏のゆふぐれ
    (若山牧水)

    街をゆき子供の傍を通る時蜜柑の香せり冬がまた来る
    (木下利玄)

    呼吸すれば、胸の中にて鳴る音あり。凩よりもさびしきその音
    (石川啄木『悲しき玩具』)

    あなたは勝つものと思ってゐましたかと老いたる妻の
    さびしげにいふ(土岐善麿『夏草』)

    かにかくに祇園はこひし寝るときも枕の下を水のながるる
    (吉井勇『酒ほがひ』)

    葛の花踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり
    (釈迢空『海やまのあひだ』)

    くれなひの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる
    (正岡子規『竹乃里歌』)

    うすべにに葉はいちはやく萌えいでて咲かむとすなり山桜花
    (若山牧水『山桜の歌』)

    牡丹花は咲き定まりて静かなり花の占めたる位置の確かさ
    (木下利玄『一路』)

    火の奥に牡丹崩るるさまを見つ(加藤楸邨『火の記憶』)

    白埴の瓶こそよけれ霧ながら朝はつめたき水くみにけり
    (長塚節『長塚節歌集』)

    左様ならが言葉の最後耳に留めて心しづかに吾を見給へ
    (松村英一『樹氷と氷壁以降』)

    試みに、自分が今まで名を知っていても、じっくりと味わった
    ことがなかった歌人の作品で、殊に気に入ったものだけを
    挙げてみた。

    こうすると、やはり好みが自分なりにあることも見えてくる。
    正岡子規も石川啄木も若山牧水も、理由もないのに
    食わず嫌いをしてきた。

    教科書で習ったものや、有名な句が好きでなくても
    一度くらい有名な句集くらいはパラパラとめくって
    見るのがいいかもしれない。

    この本の著者である永田氏が、別書において

    「作品というのは1首だけで鑑賞してゆく時と、
    句集の中で前後の繋がりの中で味わう
    時とは、また違った感想をもたらすので、
    ぜひ句集全体を手にとって読んでほしい」

    というような意のことを書いていらしたことと
    照らし合わせると

    やはり名の知られた歌人の有名作品に、
    自分の気に入ったものがなくても
    それが収録されている歌集を手にとってみると
    思いがけず他の歌が気に入ったり、新たな気持で名歌を
    鑑賞できるかもしれない。

    あるいはこのような鑑賞書を読むことで、その良さに
    気付くこともあるし。

    短歌や俳句に親しもうと思ったら、好きな句をこうして
    抜き書いて、自分だけのアンソロジーを作るのがいい。
    何しろ自分好みの作品だけがぎっしり並ぶのだもの。

    それにしても、世代を超えた共通の知的な基盤や財産が
    ないのは、この本のあとがきにある通り、残念だと思う。

    岩波新書や文庫、先生の作ってくださったブックリスト。
    それを片っ端から読んでいく。

    難しくても、同じようなことをしている友人と
    競うように読んで、どれが面白かった
    この論考はどうだったと、背伸びして話し合う経験。

    大人であっても学業を終えた後、あえてそのようなことを
    継続して、喧々諤々と、あるいはひとりでゆったりと。

    自分の知らない領域へと、本を繙き旅をする。

    そして、家族や友人・恋人と分け合う。

    そのぞくぞくする楽しさ。
    自分の鼻っ柱を折られ、自分も斬り込んでゆく快感。
    それを知らなかったり、忘れてしまうのは勿体無い。

    短歌もそうだ。わからない、なんて言わずに。

    難しいなら何度も読んだらいい。
    わからなかったら、分かるまで付き合ってみたらいい。
    ちょっとでも自分の中の何かを揺らしてくれたなら。

    そこから新しい世界が広がる。

    私は死んでしまうそのきわまで、
    そんな世界の旅人でいたい

  • 歌人で朝日歌壇の選者(本業は細胞生物学者)永田和宏の選による百首歌。近代の秀歌ベスト100を選んだのではなく「せめてこれくらいの歌は知っておいて欲しい」百首とのこと。したがって、歌人にはかなり偏りが生じ、11首選ばれた斎藤茂吉を筆頭に、以下与謝野晶子、石川啄木が各9首、若山牧水8首、北原白秋6首と続く。こうした基準で選ぶならきわめて妥当な選歌だろう。篇中、楽しいのは牧水の一連の酒の歌。また、今回あらためて感嘆したのは釈超空の「たゝかひに果てにし子ゆゑ、身に沁みてことしの桜あはれ散りゆく」―悲痛な絶唱だ。

  • 話題になっている(?)ということで、読んでみました。

    最近,和歌に興味があって、西行とか、新古今和歌集とか、そういう中世の日本のものを読んでいて、そ
    の繊細さ、洗練に文化としての完成度というか、爛熟度というかに圧倒されているところ。

    というセンスでいるところで、この本を読むと、なんか、すごく重いというか、が〜んと直球で勝負されて、圧倒されたというか。

    ここには、まさに近代人がいて、考えていることが、かなりリアルに想像できるところで、彼らが、人生と正面から戦っている感じですね。

    彼らの感性との連続性が強く感じられる一方、人生の条件というものが今と比べるととてもきびしいのに驚く。100年まえはこんな感じだったのか?病気で早死にする人、子どもをなくす人、戦争で死ぬ人などなど、死がいつも身の回りにある感じ。そういうなかで、自分が生きること、愛することを求めつづける人たち。真摯であるがゆえに、世間と対立し、孤立し、困窮する人、などなど。

    いや〜、本気で生きるのって、こんなことだったんだね。

  • 20150216-0304. 教科書に出ている有名な短歌から、名前は知っている程度だった歌人の歌まで掲載。まえがきとあとがきから、著者の”教養”に対する思いが伝わってくる。

  • 近代秀歌の方は本当に評価が定まっている感じ。読んで、教科書かそれ以外かで見たことのあるうたが並んでいて、でも、まとめて読むことで歌が見えてきてよかった。

  • 明治以降の歌人が生んだ「日本人ならこれだけは知っていて欲しいと思う歌を集めて,解説し」た本.

    久しぶりに短歌を読んだ気がするが,毎日少しずつゆっくり読んで実に楽しい読書だった.もちろん取り上げられている百首もいいのだが,永田和宏さんの歌人の立場からの解説が新鮮でとてもいい.ただ読んでいるだけでは素通りしてしまうようなことにいろいろ気づかされた.

    既に知っていたものは四分の一ほど.高校時代に教科書で習った石川啄木とか斎藤茂吉とかはとても懐かしい.与謝野晶子の歌はあまり知らなかったが,骨太でいい歌が多い.若山牧水ももっと読んでみたいと思わされた.

    これまで名前しか知らなかった人たちの歌にふれられて,ひとつ世界が広がった感じのする読書だった.現代秀歌もぜひ読みたい.

  • 購入。折々にぱらぱらとめくりたい。

  • 明治から大正時代に活躍した歌人たちの作品から「日本人なら、せめてこれくらいは知っておいてほしい一〇〇首」を選び、解説を施している。選ばれた歌人の数は落合直文から土屋文明までの三一人で、多く選ばれているのは、斎藤茂吉で十一首、与謝野晶子と石川啄木で九首で、若山牧水八首、土屋文明七首、北原白秋六首と続く。著者の解説は、岩波新書の「万葉秀歌」、「茂吉秀歌」を意識してか気合いが入っており、日本人の感性の形成に和歌が大きな役割を果たしていることを思い出させる。次に準備されているという「現代秀歌」が楽しみである。

著者プロフィール

永田和宏(ながた・かずひろ)京都大学名誉教授、京都産業大学名誉教授。歌人・細胞生物学。

「2021年 『学問の自由が危ない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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