タックス・ヘイブン――逃げていく税金 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314172

感想・レビュー・書評

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  • 日本の所得税制は、負担率が所得額1億を分水嶺として減少に転ずる「逆進性」を有している――。著者はこの税制のアンバランスの原因をタックスヘイブンに求め、これをプラットフォームの一部に組み込んだヘッジ・ファンドの暗躍は、破綻時の世界全体に与える影響が過大であるため規制すべきとする。著者の義憤は確かに良く理解できる。

    だが、本書で提示されるようなタックス・ヘイブンの国際取引からの締め出しや金融機関への規制(プルデンシャル・レギュレーション)等の「対症療法」で本当に効果があるのかと疑問が湧く。これらの規制を強化してもまた別のtrickyな手口が考案されるだけではないか。こうしたヘッジファンドに資金を提供しているのは元を辿れば大規模QEを続ける日米欧の中央銀行であり、その背後にはこれに過度に依存する政府がいる。だとすれば課税当局の怒りの矛先は巡り巡って自分に向く、ということになりはしないか。著者にはこの辺の矛盾をもっと突っ込んで記述して欲しかった。しかしタックス・ヘイブンの維持を目論む一部の金融立国に対する舌鋒は鋭く、共感が持てた。

    著者の稀有な経歴(とても一言で表せない)によるエピソードがリアルで面白い。

  • タックスヘイブンにおいてどのような仕組みで租税回避ができるのか知りたくて本書を手
    にした。

    ただ技術的な手法の公開を期待していた場合、本書はその期待に答えることができない。そ
    れを教示することは、新書の読書層には想定していないのだろうし、安易な情報公開を控え
    ることで模倣するものを事前に阻止することになるのも理由なのだろう。

    本書を読んで良かったことは、租税回避地の定義を知ることができたことだ。

    私は、タックスヘイブンとは低率な税負担を課している地域であるとしか考えなかったが、
    むしろそれよりも情報の秘匿性の方が租税回避地において重要であるという。

    確かに考えてみれば当たり前の話で、汚いお金の出先がどこにあるか簡単に追跡できれば、
    租税回避地にお金を流すことの動機は無くなるだろう。情報秘匿性の重要性を改めて知る
    ことができて良かった。

    後、タックスヘイブンは欧米、特に米英、並びにその支配権に点在していることが、そのこ
    とが示唆していることは大きいと感じた。

    本書は十年ほど前に書かれた本である。バイデン政権がタックスヘイブンに対して対策を打
    つと以前聞いたので現在の状況とは異なるだろうが、タックスヘイブンの制度を採用しよ
    うと思ったら、税吏の権力との関係上アメリカ、イギリスのような覇権国家側の方が実現し
    やすいのかなと思った。実際にアメリカの税務当局は国家を跨ぎ強権を発している。

    金融市場を牛耳り、繁栄を謳歌しているこのような国家が、タックスヘイブンの制度を利用
    したテロ組織との間での無益な争いに終始している状況を当該政府はどのように考えてい
    るのだろうか。現在のウクライナ戦争における、中露と欧米諸国の覇権争いを巡って生じて
    いる第三国との関係性の変化に何か重なる印象を受けた。

    余談であるが著者は官僚出身で例に漏れず、各地での武勇伝が随所に散りばめられている。
    これも愛嬌の一つであり啓蒙書の本領発揮というところか。

  • タックス・ヘイブンの害悪を知ることの出来る一冊です。一般人では到底体験できない様な筆者の体験談も交えられており、非常に面白いです。一方、専門用語が多く、経済や金融を全く知らない素人の私には理解できない部分も多かったので、不完全燃焼でした。
    タックス・ヘイブンの特徴は、①まともな税制がない、②固い秘密保持法制がある、③金融規制やその他の法規制が欠如しているの3つがあるそうです。そのタックス・ヘイブンが世界に多くて驚きました。イギリスのロンドン(シティ)やらアメリカのデラウェア州など、「そんなとこまで?!」と驚きを隠せませんでした。その他、国単位としてスイス、ルクセンブルク、ベルギー、オーストリア、勉強になる事が多かったです。
    個人的には、スイスのUBSとアメリカのIRSの戦いが面白かったです。何だか、話が壮大で現実とは思えませんが、著者のストーリーとしての伝え方は上手いですね。
    タックス・ヘイブン対策として、それ自体の対策税制と移転価格税制が重要な様です。過少資本税制はあまりインパクトがないと、著者の直接体験から述べられていました。
    新しい税のあり方は、各国が様々な試行錯誤を繰り返してるのだなあと思わされました。アメリカのシティズンシップ課税、フランスや韓国の航空券連帯税(国際連帯税の一種)、フランスの金融取引税、アメリカの出国税などなど。私は、所得税を基幹税とすべきと考えていましたが、タックス・ヘイブンに徴収するはずの税が逃げてしまう日本の現状では非常に厳しいのですね。是非、シティズンシップ課税制度は導入してほしいものです。改めて、日本の重大問題を明らかにされた気分です。
    最後に、本書を読むと新自由主義がいかに強者の強欲を満たす思想であるか分かります。労働者にツケが回ってくるこのシステムはいち早く止めるべきだと思いました。

  • 富裕層の租税回避で一番負担が重いのは中間層である。
    脱税、租税回避対策が今後重要な施策とすべきなのだろう。でも、選挙の争点にはあまりなっていないようだ。

  • 2016/5/16

  • タックス・ヘイブンについて、数々の国際間の実務経験に基づく内容が、歯切れの良い文章で、分かりやすく説明されている。

  • 筆者は大蔵省出の徴収する側のスペシャリスト以下に脱税行為に編みをはるかの話は面白い。しかしながら所得を税として取られる側から見ればたまったもんじゃないですが、、まさしくグローバル世界の問題なんでしょうね。

  • タックスヘイブンについて制度概説。
    ところどころスパイ小説のような味付け

  • 年収1億円から所得税の負担率は下がる。国際会議で活躍した著者による租税回避地の現実。

    131119_追加
    p86に、所得税や法人税のような直接税より、消費税のような間接税の方が痛税感が少ない主旨の文面があるが、これは何かの間違いか?消費税増税を話題にするだけでも政権が傾いて、「消費税は政権の鬼門」と言われているのに。

    131127_追加
    読了。面白かった。

    トービン税・シティズンシップ課税・JITSIC(Joint International Tax Shelter Information Centre)など、横文字アルファベットや専門用語が多いので細かいところは忘れてしまう。スイスだけなんとなく知っていたが、ケイマン諸島や先進国にもタックスヘイブンがあり、イギリスのシティやアメリカのデラウェア州がそうらしい。イギリスはMI6もタックスヘイブンを利用していて、シティの税収タックスヘイブン退治は難しいとのことで、著者も個人的にイギリスに不信感と怒りを持っているように感じた。

    タックスヘイブンは銃と同じく害悪らしい。

  • 2度読めば、より理解が深まる。
    ①まともな税制がない
    ②固い秘密保持法制がある
    ③金融規制やその他の法規制が欠如している

    「1998年4月OECD「有害な税の競争」報告書の概要」
    https://www.nta.go.jp/kohyo/katsudou/shingi-kenkyu/shingikai/010409/shiryo/p23.htm

    「国際的に合意された租税の基準の実施状況についての進捗報告書」
    http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2010pdf/20100901016.pdf

    ①椰子の茂るタックスヘイブン
    ②群小のオフショア金融センター
    オーストリア、ベルギー、ルクセンブルク、スイス
    ③ロンドンとニューヨーク

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