ヘーゲルとその時代 (岩波新書)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314547

作品紹介・あらすじ

ドイツの哲学者ヘーゲル(一七七〇‐一八三一)は、フランス革命とその後の激動の時代にどのように向き合い、過去の思想をいかに読み替えて、自らの哲学体系を作り上げていったのか。『精神現象学』『法哲学綱要』『歴史哲学講義』を中心とする体系の形成プロセスを歴史的文脈のなかで再構成し、今日に及ぶその思想の影響力について考える。

感想・レビュー・書評

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  • ヘーゲルの生涯と思想の全体像を解説している本です。

    ヘーゲルといえば、ドイツ観念論の完成者であり弁証法にもとづく深遠な哲学体系を築いた思想家というイメージがある一方で、長年にわたって国家主義者とみなされてきました。しかし近年の研究は、そうしたヘーゲル像が訂正されなければならないことを明らかにしています。本書は、そうした新しいヘーゲル像を一般の読者に紹介している入門書です。ただし、著者の専門は哲学ではなく法学であり、ヘーゲルの政治哲学および社会哲学に多くのページが割りあてられているところに本書の特徴があります。

    本書ではまず、若きヘーゲルの思索が説明され、フランス革命を中心とする当時のヨーロッパの政治状況のなかで、ヘーゲルがどのように思想形成をおこなっていったのかということが語られます。つづいて『精神現象学』の解説に移りますが、「実体=主体説」が若きヘーゲルのキリスト教理解に照らしあわせて説明されています。

    そのあとは、『大論理学』や『エンチュクロペディー』ではなく、『法哲学綱要』と『歴史哲学講義』がとりあげられています。最後に、ヘーゲル哲学がその後の思想にどのような影響をあたえたのかということを、歴史主義、マルクス、ニーチェの三者に的を絞って解説がなされています。

    ヘーゲルの思想の全体像を、新書一冊の分量でえがき出すことがたいへん困難だということは理解するのですが、入門書であることをかんがみれば、もうすこしあつかう内容を限定してもよかったのではないかと感じました。

  • ロ-マスゴ-イスバラシ-ドイツスゴ-イ 最後の最後にちょろっとヘーゲル哲学の反省点あげるだけというのは思想を紹介するという目的としては偏りを感じる。

  • 解釈する者が自分の生きる時代に制約されている事を自覚する事を念頭に置き、歴史的文脈から思想の成り立ちを理解するというスタイル。結果的にリベラル・ヘーゲルが浮き彫りになるという体裁。「思想研究」ではなく、「思想家研究」ならこのスタイルの方がよいのかもしれないが、両者の境界も曖昧だし、テクスト研究中心のスタイルがダメという事もないだろうと思うが、この辺の区別は結構難しいな。

  • 著者:権左武志(1959-) 政治思想史。

    【目次】
    序 [i-ix]
      二つの異なるヘーゲル像/時代体験の思想化/過去の思想の再創造/過去の思想の現代への影響/本書の全体構成
    目次 [xi-xiii]
    地図(ナポレオン1世時代の中央ヨーロッパ) [xiv]

    第1章 フランス革命と若きヘーゲル 001
      青年時代のヘーゲル
    1 ルソー共和主義と神学批判 004
      革命の思想家ルソー/古代共和政の再生/既成宗教の批判
    2 ドイツ啓蒙とカント哲学 015
      ドイツ啓蒙の神学批判/カントのコペルニクス的転回/二律背反のカント的解決/道徳法則と人間の尊厳/理性的信仰と神の存在証明
    3 ロマン主義の誕生 026
      ヘルダーリンと古代ギリシアの発見/キリスト教理解のギリシア的変容/合一哲学の相対化/生の思想の誕生

    第2章 帝国の崩壊と『精神現象学』 041
      イェーナ時代のヘーゲル
    1 帝国再建への期待 043
      政治的統一の不在/帝国解体の構造的・歴史的要因/帝国愛国主義とその限界
    2 啓蒙主義批判からロマン主義批判へ 055
      フィヒテとシェリングの論争/二律背反のヘーゲル的解決/イェーナ初期における三位一体説の受容/イェーナ中期における自己意識モデルの受容/実体-主体論の弁証法――『精神現象学』(1)/体系原理としての精神概念――『精神現象学』(2)/ロマン主義との対決――『精神現象学』(3)
    3 古代政治像からの訣別 081
      古代自然法への回帰/近代自然法への定位

    第3章 新秩序ドイツと『法哲学綱要』 089
      イェーナからベルリンへ  
    1 近代化改革とナショナリズムの誕生 092
      ナポレオン占領期とライン同盟改革/ヴュルテンベルク憲法紛争と法典論争/ブルシェンヤフト運動とカールスバート決議
    2 学の体系の概略と抽象的法‐道徳性‐倫理 102
      論理学-自然哲学-精神哲学/自由意志の概念――『法哲学要綱』序論/人格と所有の自由――抽象的法/道徳的主体の批判と倫理的実体との同一化――道徳性・倫理
    3 家族‐市民社会‐国家 121
      近代的家族論/欲求の体系――市民社会(1)/司法活動――市民社会(2)/行政と同業団体――市民社会(3)/国家概念の両義性――国家(1)/国家主義と権力分立の両立――国家(2)/国家と社会の媒介と区別――国家(3)/国際関係論――国家(4)
    4 理性概念の論争的使用 145
      フリース批判――『法哲学要綱』序文(1)/理性の現実態――序文(2)

    第4章 プロイセン国家と『歴史哲学講義』 151
      ベルリン時代のヘーゲル
    1 一八八二年度講義と精神の自由の自覚 154
      歴史の究極目的――精神の自己認識/オリエント世界論――自然宗教の精神化/ギリシア世界論――オリエントの創造的継承/ローマ世界論――キリスト教による精神の自由の表明/発展段階説と文化接触説
    2 一八三〇年度講義と精神の自由の実現 167
      自由の意識の進歩としての世界史/ゲルマン世界論――教権制と十字軍/宗教改革と主権国家の形成/啓蒙思想とフランス革命/近代自然法論から歴史主義へ/ヘーゲル学派とヘーゲルの死

    第5章 ヘーゲルとその後の時代 183
    1 ドイツ観念論の継承者たち 184
      ドイツ観念論の課題の継承者/ヘーゲル学派の分裂と歴史主義の誕生/ビスマルク帝国と「理性の狡知」説/マルクスによる観念史観の再転倒/後期マルクスと共産主義体制の問題点/ニーチェによるロマン主義の継承
    2 ヘーゲルと現代 200
      東西冷戦の終焉とヘーゲル再評価/思考様式の継承者たち/負の遺産の克服

    あとがき(二〇一三年七月末 権左武志) [211-]
    参考文献  [215-223]
    略年譜(1770~1831)  [5-8]
    索引 [1-3]

  • ヘーゲルを反動的な「プロイセンの国家哲学者」とみなしたのはルドルフ・ハイム『ヘーゲルとその時代』(1857)であった。著者は、このハイムと同じ書名を掲げながら、ハイムとは全く異なる「非プロイセン的な市民社会の哲学者」としてのヘーゲル像を提示する。そのヘーゲルは、神聖ローマ帝国の崩壊(1806年)に直面し、その後は近代的なドイツ帝国の創生に大きな役割を果たした。著者はこれにそれぞれ「帝国の崩壊と『精神現象学』」、「新秩序ドイツと『法哲学綱要』」という名の章を当てているが、「新秩序ドイツ」と聞いて先ず思い出すのはやはり「新秩序ドイツの議会と政府」を書いたヴェーバーであろう。確かに、ヘーゲルと新カント派のヴェーバーでは思想的に大きな懸隔はある。しかし、あるいは著者は、ドイツ帝国の崩壊(1918年)に直面しワイマール共和国の成立に大きな役割を果たしたヴェーバーに、政治的意味においてヘーゲルとの近似性を見出しているのかも知れない。ヘーゲルとマルクスとの関係については異論がないではないが、今日におけるヘーゲル論の概要を知る上では貴重な一書である。

  • 権左武志『ヘーゲルとその時代』岩波新書、読了。保守的な国民国家思想家像からロールズのリベラリスト評に至るまで様々な顔をもつヘーゲル。本書は、影響史の視点から俗評をかき分け、ヘーゲルが生きた生活世界と時代との応答まで降り、その思想を公正に解釈し、実像を浮かび上がらせる最新の試み。

    主著(『精神現象学』、『法哲学綱要』、『歴史哲学講義』)を歴史的文脈の中での応答と挑戦として読み直すと「ヨーロッパ近代を規範的に根拠づけた最初の近代の哲学者にして、カントに始まる観念論を最後に完成させた哲学者」ヘーゲルの姿が見えてくる。

    権左武志『ヘーゲルとその時代』岩波新書。我々を規定する近代を規定する「最初の近代の哲学者」であるが故にその思想は現代の課題に関してアクチュアルであり、現実の世界は観念から構成されるが故に「最後に完成させた哲学者」の言説は、近現代史を大きく動かしてきた思想といえよう。

    ドイツ古典哲学から継承すべき遺産とは何か。「ドイツ啓蒙が出発点とした理性の自由な使用への信頼、つまりドグマや『指導者』に依存せず、自分で考えるという知性を行使する勇気こそ、時勢に流されず、将来の歴史を作り出していく原動力」と著者は言う。

    ヘーゲルの思想は最も現実的であるが故に現実的であるものを絶対化する歴史主義「いきおひ(丸山眞男)」柔軟に退け、アプリオリに真実性を設定しないがゆえに、先行する様式が現在を規定することをも退ける。ヘーゲルは現在も生きている「最新の現代の哲学者」。

  • ヘーゲル哲学の成立について、そのバックボーンとなっている時代背景、思想界の状況を考えることができました。
    とかくヘーゲル哲学は体系や完成度を比較されることが多いのですが、ヘーゲルがフランス革命後のヨーロッパに生きた人間として様々な影響を受けながら自らの思想を創り上げたのだと理解できました。

  • ヘーゲル思想の全体像を、『法哲学綱要』『歴史哲学講義』中心に再構成しようとする試み。生活経験の抽象化、思想的伝統との対決という側面から、フランス革命とそれに対するドイツの反応をヘーゲル思想を読み解く上での重要な要素と位置づけている。そのため、絶えず同時代の出来事やカント哲学やキリスト教思想との関連が振り返られ、近代自然法論者にして歴史主義者という、従来統一的に把握されてこなかったヘーゲル像が浮き彫りにされている。

  • とにかく読み終えることできた。
    あとがきに「予備知識のない方でも十分に理解できるように」「初学者にもわかりやすく」と書かれているが、とてもとても・・・。難しい内容です。
    ヘーゲルの負の遺産、正の遺産に言及し、冷戦終結後の現在まで底流する世界の思想に影響を与えていることを知ったのは新鮮でした。

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著者プロフィール

1959年、京都府生まれ。東京大学法学部卒。北海道大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。法学博士(北海道大学)。現在、北海道大学大学院法学研究科教授。専攻は政治思想史・政治学。
著書に『ヘーゲルにおける理性・国家・歴史』、『ヘーゲルとその時代』、編著に『ドイツ連邦主義の崩壊と再建│ヴァイマル共和国から戦後ドイツへ』(いずれも岩波書店)がある。


「2020年 『現代民主主義 思想と歴史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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