言葉と歩く日記 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
4.06
  • (37)
  • (47)
  • (23)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 836
感想 : 71
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314653

作品紹介・あらすじ

熊の前足と人の手、ドイツ語では表わす単語が違う。では人の言葉で語る熊は、自分の手を何と表すのだろう-。日独二カ国語で書くエクソフォニー作家が「自分の観察日記」をつけた。各地を旅する日常は、まさに言葉と歩く日々。言葉と出逢い遊び、言葉を考え生みだす、そこにふと見える世界とは?作家の思考を「体感」させる一冊。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 大学の頃、言語に強い関心のある人が周りにちらほらいたが、私自身はそういった話に関心をそれほど持てなかった。なので、この本を読んで面白いと思えるとは最初そこまで期待していなかった。
    ただ、実際読んでみたら、ことばとは思考であり、それを考えることは広い世界に繋がっているのだと気づくことができれとてもよかった。

    特に共感したのは、よくある表現、悪く言えば手垢のついた表現から脱したいと思うこと。私はもともと人に説明するのも得意ではないし、自分の頭にある考えや感覚をことばにする不自由さを感じることが多い。でもそれを不器用ながら自分にできるだけ腑に落ちる表現を作り出すことは大切にしたい。

    ことばにすることは思考することであり、私もこれから文章を書く時やことばを口にする時、焦らずに時間をかけてことばを発したい

    それにしても多和田さん忙しすぎない??!?ほぼ毎日何かしら予定が入ってびっくり。フリーランスで成功して生活するとはこういうことなのか...?

  • 多和田さんが好きなのは、独特の感性と鋭い批評眼があって、なおかつ明るさがあるから。小説でもエッセイでも。
    この本は書店で平積みになってて、新しい本かと思って買ったら10年前の再版だった。けど読んでなかったのでノープロブレム。
    2013年1月から4月15日までの日記で、1日分は短いので隙間時間にちょっとずつ読もうと思ったのに、面白くて一気に読んでしまった。

    こむらがえりを起こすとドイツ人に言ったら、皆口々にそれはマグネシウムが足りないせいだと答えた、という話のあとに、

    「「こむらがえり」はとても古い単語なので「マグネシウム」という単語と出逢って、かなり驚いたみたいだった。」(P69)

    (「こむら」はふくらはぎの古語。)

    トルコ語と日本語は同じウラル・アルタイ語族だと言われていた時期があった。しかしそれはインド・ヨーロッパ語族を中心とした見方である、といった内容のあとに、

    「これは、鍋が自分中心に世界を見て、「ミシンとコウモリ傘は似ている」と主張するようなものではないか。鍋から見れば、ミシンとコウモリ傘にはいろいろ共通点がある。まず蓋がないこと、そして仕事中熱くならないこと、更には調理の役に立たないこと」(P159)

    (「ミシンとコウモリ傘」のワードの選択もいい。)

    「リアリティ」「クリエイティヴ」といった言葉について、伊藤比呂美の詩について、ワーグナーの文体についてなど面白いだけでなく刺激的で、読んでいる間、本当に幸せな時間を過ごすことができた。
    立て続けに二回読んだ。

  • 2013年、日本語で書いた自著『雪の練習生』を自らドイツ語に訳している最中、多和田葉子が言語について考えたさまざまな疑問や気づきを書き留めた日記。


    めちゃくちゃに面白い。日独だけでなく、多和田さんが講演などで旅した先で出会う言葉がどんどん思索を豊かにしていく。逆に翻訳作業の話は「手」の訳語にまつわるエピソードくらいだけど、多和田葉子という作家が日常的に言葉や文字とどう触れ合っているか知れるのが面白い。
    レガステニーという学習障がいをめぐって「言語を文字で記すことが根本的に人間には困難」だと笑って見せたり、移民由来の乱れた言葉とされてきたキーツ・ドイツ語に惹かれてラップを書いてみたいと言ったり、これまでの西洋基準な言語学に物足りなさを感じたり、多和田さんは常に勉強熱心だ。「言語はべったりもたれるための壁ではなく、壁だと思ったものが霧であることを発見するためにある」。学べば学ぶほど深くなるのかもしれないその霧のなかを、悩みすら楽しみながら歩いていくように見える。
    そして楽しむと同時に、常に言葉と自分との距離を冷静に測る目を大切にしているのだと思う。嬉しい言葉も悲しい言葉も鵜呑みにしないで、付き合い方を自分の頭で考えること。多和田さんの歩みを見せてもらうことで、私も歩き方を一度じっくり考えてみようと思った。

  • 日本語とドイツ語で小説を書き、英語やロシア語も出来る多和田葉子さんが、
    日本語で書いた小説をドイツ語に翻訳する期間、言葉について考え書かれた日記。
    世界中を旅して朗読活動をされているので、
    様々な国の色々な言語を使う作家や詩人や学者の方々との交流も興味深く、
    知的だと思うけど難解な感じはなく読みやすかったです。
    ヨーロッパでは多言語を話される方も多いけど、
    上海の喫茶店で周りの人たちがそれぞれ
    中国語、日本語、韓国語、英語で話していて、
    ある若い学生の集団は次々と言語を変えて話していたことを思うと、
    アジアもアジアで多言語が交錯する場所ですよね。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/687673

  • ずっと気になっていた作家さん、多和田葉子さんの著書を初読み。日記という形式だからなのか、言葉にまつわる率直な思いや、常識にとらわれない自由で斬新な発想を覗くことができて楽しい。言葉と出会い、言葉と遊ぶことはなんて面白いんだろう。

  • 言葉の丁寧なこだわりが伝わる。
    ドイツ語と日本語を行き来するからこそ、日常にある落とし物を拾っては磨くような言葉たち。

  • のじくん

  • 私は中国語と日本語の間で著者のように行ったり来たりしている。
    共感し、驚き、感激し、とにかく読み終わるのが嫌だった。

    もっともっと続きが読みたい。
    外国語の語感を通して日本語を深め、それを日本語で思考した後外国語でもう一度表現してみる。
    そういう作業を楽しんだ。

    • chineseplumさん
      この本はまだよんだことがないですが、多和田さんの作品は読み終わりたくないと言う点で共感します
      この本はまだよんだことがないですが、多和田さんの作品は読み終わりたくないと言う点で共感します
      2023/01/11
  • 多和田葉子は自分の書くものが「純文学」、つまり混じりけのない文学であることをどう思うだろう。むろんこんな邪推は失礼というものだが、彼女の思索は日本語とドイツ語の持つ、時に「不純」な要素である俗語でさえも果敢に取り込みひとつの断章的記述として消化する。そんな彼女の日本語は端正で極めて読みやすく、だが軽々と消費することを許さない凄みがあるようにも思う。彼女が様々な言葉を取り込んで、しかもそれを洗練された創作に結びつける作法は案外ヒップホップやR&Bといった音楽の方法論とも共振するようにも思うのだがどうだろうか

全71件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1960年東京都生まれ。小説家、詩人、戯曲家。1982年よりドイツ在住。日本語とドイツ語で作品を発表。91年『かかとを失くして』で「群像新人文学賞」、93年『犬婿入り』で「芥川賞」を受賞する。ドイツでゲーテ・メダルや、日本人初となるクライスト賞を受賞する。主な著書に、『容疑者の夜行列車』『雪の練習生』『献灯使』『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』等がある。

多和田葉子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×