子どもの貧困II――解決策を考える (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314677

作品紹介・あらすじ

二〇一三年、「子どもの貧困対策法」が成立した。教育、医療、保育、生活。政策課題が多々あるなかで、プライオリティは何か?現金給付、現物(サービス)給付、それぞれの利点と欠点は?国内外の貧困研究のこれまでの知見と洞察を総動員して、政策の優先順位と子どもの貧困指標の考え方を整理する。社会政策論入門としても最適な一冊。

感想・レビュー・書評

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  •  5年前に刊行された『子どもの貧困』の続編である。

     この5年間で、日本の「子どもの貧困」をめぐる社会の空気は大きく変わった。5年前にはまだ「日本に子どもの貧困問題なんてあるの?」などと言われ、問題自体が可視化されていなかったのだ。
     
     しかし、リーマンショックの影響もあって困窮者が増えると、子どもの貧困もおのずと深刻化した。また、貧困問題自体が大きな社会問題としてクローズアップされるにつれ、子どもの貧困にも社会の目が向けられるようになってきた。

     昨年6月には「子どもの貧困対策法」が成立したが、これは著者によれば「貧困を研究するわれわれの予想を遙かに超えた急展開」であったという。日本は子どもの貧困対策において先進諸外国に大きく立ち後れている国だったのだが、その後れをいま、急ピッチで取り戻そうとしているのだ。

     本書はそうした5年間の変化を受け、前著の内容を一歩進めたもの。
     前著の終章にも著者なりの貧困対策が書かれてはいたのだが、その対策――すなわち「解決策」の部分をメインにもってきた本なのである。
     
     私も、貧困問題の関連書を読むたび、「問題が深刻なことはわかった。じゃあ具体的にどうすればいいのか?」と著者に問いたい気持ちになることが多かった。解決策に的を絞った本が待望されていたのだ。

     ただし、著者は研究者だから、アジテーターとしての資質が勝った一部の評論家のように、「この人にまかせれば貧困問題は解決できる」と思わせるような単純明快な書き方はしていない。むしろ、著者自身が「あとがき」で言うように、「どのような社会問題にも当てはまる社会政策論の色合いが濃い」本である。また、思いのほか学術的で堅い本でもある。
     したがって、魔法の特効薬のような画期的解決策が書かれた本を期待すると、肩透かしを食うだろう。

     それでも、ヘンに感傷的にならず、冷静な社会政策論として子どもの貧困問題が論じられた一冊として、読み応えがあった。

     とくに印象的だったのは、子どもの貧困対策を「未来への投資」と見なす視点。

    《子どもの貧困に対する政策は、短期的には社会への見返りはないかもしれない。しかし、長期的に見れば、これらの政策は、その恩恵を受けた子どもの所得が上がり、税金や社会保険料を支払い、GDPに貢献するようになるので、ペイするのである。すなわち、子どもの貧困対策は「投資」なのである。子どもが成人するまでに、長くは二◯年かかるので、この「投資」は長期的な観点でみなければならない。しかし、「費用」ではなく「投資」と考えることによって、政策の優先順位も変わってくるであろう。たとえば、貧困の子どもに、ただ単に最低限の「衣食住」だけを提供するプログラムと、その子どもに「衣食住プラス教育」を提供するプログラムがあった場合、たとえ後者のほうが費用が高いとしても、投資のリターンとしては前者よりも後者のほうが優れているのは自明である。》

  • 貧困と聞くと、途上国や紛争地での話しのように聞こえます。一億層中流と言われながら育った自分には、貧困問題と日本とを結びつけるのに、少し違和を覚えます。
    この本を読み、統計を見ると、違和が小さくなりました。特に、子どもや母子家庭での貧困の状況は急いで対処しなくてはならないと感じました。
    「日本では貧困対策が取られているでしょ」という指摘があるかもしれませんが、どうやら、効果はあまり上がっていないようです。

    この本を読み、一番驚いたのは「再分配の逆転現象」(前著『子どもの貧困』の中に詳しいらしいのですが、僕はまだ読んでいません)。
    政府は、税や社会保険料などでお金を集め、生活保護などの形で国民に再分配します。裕福な層から貧困層への所得分配が貧困削減策として行われているわけです。が、日本では再分配後の貧困率が再分配前よりも高くなるのです(この「貧困率の逆転現象」はOECD諸国の中ではにほんだけ)。

    経済成長による分配は自然に貧困層に行き渡るとする「トリクルダウン」に対して否定的な検証結果がでているようです。
    政府の所得再分配もトリクルダウンも効果薄となると、どのような策を講じればよいのか。
    その提示がこの本のキモです。

  • 著者は中途半端だと書いているが、本書が提起した問題のありかと解決への道筋は十分にインパクトがあった。日本の財政も見据えながら、まずは何に取りかかれるのかが分かったからだ。

    ・ひとり親世帯の貧困率は日本は最低
    ・貧困層への自然なトリクルダウンはない。経済成長で。
    ・現代は習い事を通さないと豊かな経験が積めない。
    ・社会的地位ホルモンがセロトニン
    ・個別学習指導は学力向上だけでなく、大人社会への信頼感の回復、対話能力の向上、忍耐力の養生がある。
    ・選別主義のパラドックスから、再分配のパイの大きさへの注目
    ・現金給付に有意な効果はある
    ・放課後の子供の孤立は深刻
    ・子どもの学習費調査

  • 前著で子どもの貧困の実態を示した著者が、具体的にこの状況を解決していくにはどのような政策が考えられるか、調査や海外での実際の事例などを参考に挙げていっています。限られた財源の中で、数ある政策候補の中からどの政策を取っていけばよいのか、という視点も随所に現れています。
    「第4章 対象者を選定する」では対象者を絞り込むことの利点・欠点や、対象者選定の考え方の様々が示されており、興味深かったです。ここにも書かれているとおり、日本においては対象者を選定しない給付型の社会政策は「バラマキ」と批判されることが多いと思いますが、安易に対象者を線引きすることで本来サポートが必要な層に給付が届かないのは本末転倒だなと思ってしまいます。社会政策の制度設計の難しさを感じられました。

  • 今を生きる日本人が向き合うべき、そして近い将来向き合わざるを得ない問題。
    男女間格差が問題視されるようになって久しいが、世代間格差ももっと議論されるべき問題だろう。

    ✏所得制限(生活保護制度の生活保護基準額の1.1倍〜1.3倍)を下回る世帯は就学援助費(低所得世帯の子どもの義務教育にかかる費用を国と自治体が支援する制度)を受給できる。
    公立小中学校に通う子どもたちの6人に1人が就学援助費を受給していることは、子どもの貧困が極一般的な世帯においても進行していることを表している。

    ✏貧困問題は「働けない」高齢者や障害者、母子世帯などの「特殊なケース」(と理解されてきた)における問題と理解されてきた。しかし、年齢層別に貧困率をみると、女性の高齢者の貧困率は高いが、男性においては25歳未満の子どもの貧困率が65歳以上の高齢者の貧困率を超えている。
    つまり、人生の中で最も貧困リスクが高い時期が子ども期である、という現象が起きているのだ。

    ✏世界とくらべた日本の貧困率は、先進20カ国ではワースト4番目(1位アイスランド4.7%、17位日本14.9%、20位アメリカ23.1%)である。
    特に、日本のひとり親世帯に育つ子どもの貧困率は58.7%と突出しており、OECD諸国の中で最悪である。これは、ひとり親世帯の大半を占める母子世帯の貧困率が特に高いためである。

    ✏子どもの貧困が「自尊感情が低い」「不安」「自己肯定感が持てない」「精神的不安定」「希望が持てない」などといった心理面への影響を引き起こしている。

    ✏もし国がA君の子ども期に、彼が貧困を脱却する可能性を高めるような支援をしていたら、どうだろう。国は、A君が払ったであろう税金・社会保険料を受け取ることができるうえに、生活保護費や医療費などの追加費用を払う必要がなくなる。つまり、長い目で見れば、子ども期の子貧困対策は「ペイ」する可能性が高い。逆に、貧困を放置することは、「お高く」つくのだ。

    ✏強いストレスを抱えた母親から生まれた子どもは、低出生体重児で生まれるリスク・生まれた後も情緒的な問題を抱えるリスクが高くなる。
    つまり、親のストレスによる子への影響は、生物的な帰結であり、精神論の問題ではないのである。

    ✏経済学において子どもを「将来の人的資本」と見なすことは、貧困に対する政策をただ単に「可愛そうだから」という論理でなく「社会に対する投資」という論理で考えるという点では説得性がある。

    ✏「ビッグブラザー・ビッグシスター」プログラムは、アメリカにおいて100年以上の歴史があるメンター・プログラムで、比較的低コストで高い収益率をあげている。子どもと1対1の関係を持ち「見守る」大人をつくるというだけで、子どもの学力向上に貢献している。

    ✏どんな綿密に対照者を絞り込む制度をつくっても、結局のところ漏れてしまう子どもがいる。普遍的制度として全ての子どもを対象とすれば、このような漏れは発生しない。貧困の子どものことを考えれば、普遍的制度にするのが一番ということだ。

    ✏制度の対象者が「弱者」であればあるほど、対象が絞られれば絞られるほど、その対象者になることは社会的排除の引き金となる。

    ✏生活保護制度では疎遠にしている家族や親族に、福祉事務所が扶養意思の有無の確認の連絡をとる。それが苦痛となって困窮していても受給しない人々も多い。

    ✏結局のところ、貧困削減に有効であるかどうかに一番効いてくるのは再分配のパイであって、普遍主義か選別主義かという違いではなさそうである。普遍主義であっても選別主義であっても、小さいパイでは貧困削減は進まない。

    ✏「最貧層を選別すること」ではなく「富裕層を除外すること」を目的とすれば、貧困者を「選別」することによる偏見や、本当に必要な人が給付を受けることができないといった漏給の問題が少ない。

    ✏学力や将来の収入などに重要であるのは、学力テストなどで表される認知能力のみならず、対人能力・自己規律・粘り強さなどの非認知能力であり、これらは幼児期から成人に至るまでの家庭環境に培われる。乳幼児期における介入政策が最も効果的であると結論づける。

    ✏保育所は、小中学校やその他の子どもに関わる制度に比べて、ほぼ毎日親との接触があるという点で、親へのアプローチをする絶好の場である。

    ✏子どもの居場所づくりを目的とした放課後プログラ厶は、いかに子どもたちが自発的に継続して通うようなものにするかが最も大きい成功の鍵である。そこにさえ行けば、子どもがなんでも相談できる大人がおり、魅力的な活動があり、友達がいる。「家」「学校」が必ずしも安らぐ場所でない子どもたちにとっての「ほっとできる」場所であることが必要だろう。
    「待つ」という姿勢では恐らく成功は難しい。

    ✏メンター・プログラムの特徴は、子どもとボランティアが「1対1」の関係性を築くところである。そのボランティアにとって、自分の担当する子どもは「特別な子ども」であり、子どもにとってもそのボランティアが「特別な大人」となる。このボランティアはあくまで素人であり、支援をする側に専門性がない中においても効果が得られていることは、日本における子どもの貧困対策を実施するうえで貴重な知見である。

  • 【電子ブックへのリンク先】
    https://kinoden.kinokuniya.co.jp/hokudai/bookdetail/p/KP00048315

    ※学外から利用する場合は、以下のアドレスからご覧ください。
    SSO-ID(教職員)又はELMS-ID(学生)でログインできます。
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  • ・母子世帯は124万世帯、父子世帯は22万世帯、子どものいる世帯数は1180万世帯。貧困の子どものうち、ひとり親世帯に属するのは2割程度と言われている

    ・貧困であることは、「生活に必要なお金が足りない」という物質的な困窮、「来月の家賃が払えるか?」というような生活の不安・不安定さのみではなく、負け組であることも加わった心理的ストレスがダブルパンチ

    ・先進諸国においては、自然に貧困層に「トリクルダウン」するわけではない。日本は、GDP比で見る品高層への社会支出は極めて小さいのである。そもそもが貧弱な貧困対策なので、GDPの増加と同じ比率で増加したとしても、急激にその貧困削減効果が大きくなるわけではない。

    ・日本は、子どもの教育における私的な負担の割合が、OECD諸国の中で最高

    ・習い事でチームプレーの経験や、アートや自然を吸収できる。一昔前であれば、お金がなくても近所の付き合いで身につけられていたが、現在に置いてはお金で買うものになってきている

    ・海外の研究によると、相対的貧困の子どもに対する一番大きな影響は、親や家庭内のストレスがもたらす、身体的・心理的影響だという。
    慢性的になったとき、ゆとりを持った子育てなど、とうていできなくなってしまう。情緒的、非認知能力の成長を止める。

    ・母親の帰宅時間が18時を超える母子家庭は5割、20時以降の母子家庭も1割ある。

    ・どのような子どもを対象とする普遍的制度・普遍主義と、貧困の子どもに対象を絞る選別的制度・選別主義に分かれる。

    ・川上対策と川下対策

    ・乳幼児期に貧困を経験した子どもは、その後世帯の状況が改善して、貧困から抜け出せたとしても、乳幼児期の貧困が悪影響を及ぼす可能性が高い

    ・公的年金の給付を除いたら、子どもの貧困率の逆転現象は起こっているのである。

    ・格差をどこまで解消すべきかという問いには答えがないが、貧困は撲滅すべき目標となる。

  •  あまり面白くない。

  • 日本の貧困の特徴はワーキングプアが多いこと。これは母子世帯の場合子どもを抱えながらの労働が難しく、非正規就労が多いことが実態としてある。
    貧困層の子供は、学力と健康状態が低い傾向にある。
    また、貧困層は、子どもの自己肯定感や将来への希望を持たない傾向にある。家庭内においてもストレスに溢れ、健全な成長を妨げる要因になる。その結果、貧困の親から生まれる子供も、将来貧困の親になる可能性が高い。

    経済が成長すれば貧困層の所得も増える、という理論は先進国には当てはまらない。スゥェーデンやアイルランドといった高福祉国でも、低所得者の勤労所得自体は上がらず、GDPの拡大により国からの給付金の割合が上がっただけだった。

    【家庭環境を介した経路】
    親のストレス、親と過ごす時間、家庭内文化資本、親の孤立

    逆に、遺伝子的経路は、そこまで重要な要素ではなく、むしろ家庭環境により子供の認知能力、身体能力が制限される可能性のほうが高い。

    貧困には家庭環境や遺伝や地域差、親の遺産など、様々な要因があるが、一番相関関係のある経路は、
    「子ども期の貧困→低学歴→非正規労働→現在の低所得→現在の生活困窮」である。
    要因は一本一本が独立しているのではなく、様々に絡み合って影響している。

    財政には限りがあるため、貧困対策は「社会に対する将来への投資」と読み替え、費用対効果の高い政策から実施していく。
    日本はこの計測がまだ進んでいない。
    そのため、長期的な収益性の観点を持ち、その収益性が測定できる制度設計、モデル事業を取り入れ、対象者を吟味して政策を行うべき。

    貧困対策には、選別主義(生活保護のような、貧困の人だけを対象とする政策、小さな政府)と、普遍主義(義務教育のような、全員対象、大きな政府)のものがある。
    選別主義の欠点は、政治的な批判、偏見の対象、選別にかかる費用、労働インセンティブの低下がある。
    普遍主義の欠点は、財政負担の大きさがある。
    結局、研究の結果、選別か普遍のどちらが優れている、というよりも、再分配のパイの大きさによることが分かった。

    そして、日本では、普遍的な現金給付を「バラマキ」と感じる一方で、貧困層への給付も厳しい目にさらされた。しかし、現物の普遍的支給には批判はなかったため、結局、現金を配るといった札束ポリティクスにアレルギー反応を示しているだけに思える。
    日本においては、現金外支給(教育の機会の拡充など)は、より普遍的に、現金支給に関しては、より選別的に行うのが望ましい。
    また、年齢を絞るのが望ましい。特に、就学前(0~6歳)に対して貧困対策を行うのが、特に効果があるとの研究結果が出ている。乳幼児期に貧困を経験した子供は、その後貧困から抜け出せたとしても、乳幼児期の経験が悪影響を及ぼすという結果がある。

    【現金給付vs現物支給】
    現金給付の効果は、「ある」。
    現金給付の利点は、効果が確実であること。現物支給は何をどのように給付するかによって大きく効果が異なるため、効果にばらつきがある。
    現物支給であっても、教育プログラムへの投資といったものであれば、将来はかけた金の何倍ものリターンが得られることがある。一方、無駄になる恐れもある。現金は安全資産、モノは危険資産。
    現金はかゆいところに手が届き、汎用性に富む一方、市場にそぐわないサービス(保育、教育)には効果が表れにくい。

    日本では、富裕層→貧困層への所得再分配前と、所得再分配後の、貧困率の改善が低い。昔は再分配前のほうが所得が多いという逆転現象が起こっていた。
    結論としては、現金給付は、児童手当や児童扶養手当など、特に未就学児、小さい子供のいる家庭への手当てを厚くするべきである。

    【現物支給】
    保育所の拡充は圧倒的に効果あり。子供だけではなく、親に働きかけるソーシャルワーカーの配置が◎。また、小中高学童保育の給食実施により、「バランスのある食」の拡充を。
    また、放課後プログラムの実施により放課後格差を縮小する。「親が働いているから預ける」ではなく、より行きたいと思える「居場所」を提供する学童づくりが大切。
    ビッグブラザー・ビッグシスタープログラムにより、ボランティアの大人と子供が一対一の関係になれる活動が、海外で効果を上げている。
    また、親への現物支給として、貧困層妊婦への支援、親の疾患や障害への支援が上げられる。

    【教育】
    家族が負担する教育費の割合が先進国の中でかなり高い。費用の大部分は学校外教育。義務教育の授業料の無償化はもちろん、教科書代、給食費、クラブ活動費など、就学にかかる全般的な費用も援助していくべき。
    費用のほかに、学力格差の縮小も貧困をなくす上では重要。
    少人数学級に編成し直す、適切なカリキュラムによる落ちこぼれをなくす、など
    学校生活への包摂(ひとりひとりが友達や先生から認められ、自分の居場所が学校にあると思える環境)の取り組みが重要。貧困層の子供は、対人関係の苦手意識、自己意識の欠如など、社会に必要なコミュニケーション能力が劣っていることが多いからだ。

    【子供の貧困指標】
    ①相対的貧困率
    ②剥奪指標(毎日3食食べる、定期的なレジャー活動、行事への参加など、生活の質を具体的に測るもの)

    【優先順位】
    ①実験的な枠組みにより効果が測定されている物
    ②長期的な収益性が確保できるもの
    ③とくに厳しい状況におかれている子供を優先するもの

    また、現金給付は必要。家庭の経済状況は子供の生活状態にモロにでる。
    ①子どもの貧困率の逆転現象を解消する。
    ②乳幼児期の子供の経済状況を改善する。

    現物支給は、所得制限方式ではなく、学区ごとの選別や、地域ごと、定時制高校への予算拡充、メンタープログラム、親へのサービスなど、プログラムごとに効果的に支給するのが良い。

  • 「子どもの貧困対策法」は研究が行われることが前提になっている、ようなのだけど、制定されて数年経ち、今はどうなってるのか。現状を調べてみようかなと思った。
    本書の中で提案されている政策や、アメリカで行われた各種政策の費用対効果まとめ表などは、とても参考になった。と言っても自分はそういう政策等の制定に関わるような立場でもなし、選択肢としてそういうものもあり得るのか、という程度の「参考」なのだけれども。
    日本の現状を考えると、オーストラリア方式の選別主義の方がうまく働きそうな気はする。予算さえあれば。予算の問題は大きい。そして、将来の予算を確保するための現在の投資、という考え方がなかなか受け容れられないことも、問題なのだろうな、と改めて思う。

  • 教育現場の政策介入って、予算ないから敬遠されがちだけど、これはその問題箇所をかなりわかりやく書かれていてとても助かりました。

  • 就学支援金など基本的な制度の知識を欠いていたことを改めて再確認させられた。子どもの貧困に対して有りうる対策を網羅的に挙げた上で、有効な施策を真剣に検討している。ターゲッティングという発想を強調している点も本書の特徴である。

  • 書名:『子どもの貧困II ――解決策を考える』
    著者:阿部彩

    【版元】
    通し番号:新赤版 1467
    刊行日:2014/01/21
    ISBN:9784004314677
    版型:新書 並製 カバー 266ページ

     2013年,「子どもの貧困対策法」が成立した.教育,医療,保育,生活.政策課題が多々ある中で,プライオリティは何か? 現金給付,現物給付,それぞれの利点と欠点は? 国内外の貧困研究のこれまでの知見と洞察を総動員して,政策の優先順位と子どもの貧困指標の考え方を整理する.社会政策論入門としても最適な一冊.
    https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b226254.html

    [※横書きに際し漢数字はアラビア数字にした]
    【目次】
    はじめに [i-vi]
      子どもの貧困の発見から五年
      政策オプションは何か
    目次 [vii-x]

    第1章 子どもの貧困の現状 001
    1 どれほどの子どもが貧困なのか 003
      就学援助費の受給率15.6%
      子どもの貧困率の国際比較
      どのような世帯の貧困率が高いか
    2 貧困が子どもに及ぼす影響 014
      恐ろしい貧困の影響
      学力だけではない
      大人になってからの影響
      貧困の連鎖
      「機会の平等」
    3 貧困の社会的コスト 025
      貧困の社会的コストは1億円?
      貧困の社会的コストに含まれるもの
    4 景気回復は貧困対策となり得るか 030
      先進諸国の30年間
      日本への示唆

    第2章 要因は何か 037
    1 連鎖の経路 040
      (1)金銭的経路
        【教育投資】【家計の逼迫】【資産】
      (2)家庭環境を介した経路
        【親のストレス】【親の病気(精神疾患を含む)】【親との時間】【文化資本説】【育児スキル・しつけスタイル】【親の孤立】
      (3)遺伝子を介した経路 
        【認知能力は遺伝するのか】【そのほかの遺伝的要素(身体的特徴・性格・発達障害)】
      (4)職業を介した経路 
        【職業の伝承】
      (5)健康を介した経路
        【健康という経路】【発達障害・知的障害】
      (6)意識を介した経路
        【意欲・自尊心・自己肯定感】【福祉文化説】
      (7)その他の経路 
        【地域・近隣・学校環境】【ロールモデルの欠如】【早い離家・帰る家の欠如】
    2 どの経路が重要なのか 066
    3 経路研究を政策につなげるために 070

    第3章 政策を選択する 073
    1 政策の選択肢 075
      さまざまな政策オプション
    2 政策の効果を測る 078
      政策効果の検証
      ペリー・スクール実験(アメリカ)
      日本への適用
      比較のベース
      貧困の深刻度と効果の関係
    3 政策の収益性をみる 088
      何をもって「効果」とするか
      将来の収益性
      アメリカにおける収益性の比較
    4 日本への示唆 096

    第4章 対象者を選定する 099
    1 普遍主義と選別主義 101
      ターゲティングが絶望的に下手
      川上対策と川下対策
      選別主義への批判
      普遍主義の欠点
      負担の累進性と逆進性
      どちらが貧困削減に効果があるか
      ターゲティングが上手な国
      日本では
    2 的を絞る 116
      ターゲットの全体像
      ターゲティングの方法
    3 年齢を絞る 122
      乳幼児期の貧困は後々まで響く
      クルーガー・ヘックマン論争
      介入政策の効果は持続するか
    4 ターゲティングの罠 129

    第5章 現金給付を考える 131
    1 「現金給付 対 現物給付」論争 133
      データが示すもの
    2 現金給付の利点/現物給付の利点 136
      100%の効果は望むな
      かゆいところに手が届く
      おカネしか解決できないもの
      おカネでは解決できないもの
    3 現金給付の現状 144
      児童手当
      児童扶養手当
      遺族年金
      生活保護制度
      再分配の逆転現象
    4 現金給付の設計オプション 156
      逆転現象の解消
      乳幼児期の重視

    第6章 現物(サービス)給付を考える 161
    1 子どもへの支援 163
      貧困対策としての保育
      医療のセーフティネットの強化
      栄養プログラム
      発達障害・知的障害への対策強化
      放課後(子どもの「居場所」)プログラム
      放課後格差の解消
      メンター・プログラム
      学習支援
      子どもが相談しやすい環境整備
      貧困の最前線への投資
      「帰れる家」の提供
    2 親への支援 184
      妊婦への支援
      親の疾患(精神疾患・自殺、依存症)・(発達障害・知的障害)

    第7章 教育と就労 187
    1 教育費の問題 189
      どこまでが「必要最低限の教育費」か
      義務教育の完全無償化
      高校
      大学
    2 学力格差の縮小 196
      「落ちこぼれ」の予防
      教育予算の増加
      少人数学級
      教育カリキュラムの改善
    3 学校生活への包摂 202
      不登校と中退への対策
      中退防止
    4 教育のセーフティネットの強化 206
      定時制高校・通信制教育・夜間中学
    5 教育から就労への移行支援 209
      安定した雇用へのスタートライン
      雇用する側への働きかけ
      労働法・社会保障制度の知識
    6 子どもと接する大人たちへの教育・支援 214

    終章 政策目標としての子どもの貧困削減 215
    1 子どもの貧困対策法 216
      うれしいニュース
      子どもの貧困を測る指標
      これからのこと
    2 子どもの貧困を測る 220
      イギリスの子どもの貧困指標
      EUの子どもの貧困指標
      相対的貧困率
      剥奪指標
      複合指標
      モニタリング指標と目標指標
    3 優先順位 229
      現金給付
      現物給付
    4 さいごに 234

    あとがき(二〇一三年一一月 阿部彩) [237-240]
    参考資料 子どもの貧困対策の推進に関する法律 [5-14]
    主要引用・参考文献 [1-4]


    【抜き書き】
    □ v 頁
    “社会問題の多くがそうであるように、一目瞭然の解決法が存在するわけではない。子どもの貧困に対して、具体的にどのような政策を打っていけばよいかという問いに対して、私を含め、「霞ヶ関」も、社会学者、教育学者、経済学者といった「有識者」も、決定打となる答えを示せていないのである。
     しかし、海外においては、子どもの貧困に対する膨大な試行錯誤の蓄積があるし、日本においても、さまざまな取組みが始まっている。”


    □ pp. 107-109
      普遍主義の欠点
     それでは、普遍主義の欠点、逆にいえば、選別主義の利点はなんであろう。
     選別的制度の最大の利点、そして、普遍的制度の最大の欠点は、財政負担が大きいことである。たしかに、ニーズをベースとした制度においては、高所得層へ給付を行う合理的な理由づけは困難である。むしろ、同じ財源規模であるならば、所得制限を課して、より多くの資源ニーズの高い子どもに給付すべきであるという主張がなされるであろう。同じ財源規模であるのであれば、「広く薄く」給付をするのでなく、貧困層に絞って、より「狭く厚く」給付をしたほうが貧困対策として効率的であるという議論は、貧困対策を推進する側からも、貧困対策を最小限の財源支出に抑えようという消極派からもあがる。この説は非常に説得性がある。とくに日本の現状のように、国の財政状況が厳しい場合は、「お金がかかる」というのはいちばん手強いハードルである。二〇一二年に一時的に導入された普遍的な「子ども手当」もまさにこの議論に則って廃止されたといえよう。
     また、選別的制度は、ニーズに基づく給付であるのに対し、普遍的制度は、政治的な票集めにしかすぎないという批判もある。簡単にいえば、「バラマキ」である。とくに、現金給付は「バラマキ」の印象が強い。ニーズとは関係なく給付されるので、給付がなくても十分豊かな暮らしをしている富裕層にまでも国のお金が流れる。税金の無駄遣いではないか。このことに対する批判は非常に根強い。
     しかし、不思議なことに、普遍的制度に対するこの批判は「現金給付」のみに強く主張されるものの、多くの他のタイプの普遍的制度については主張されない。誰も、富裕層の子弟にも国のお金で義務教育を施していることを「税金の無駄遣い」とはいわない。医療サービスも、同じ三割負担(現役層の場合)でサービスを誰でも受けられるが、それを不思議に思わない。
     義務教育や医療サービスなどの現物給付は普遍的制度にし、現金給付は選別的制度にするべきだという意見もある。しかし、近年においては、民間や公的に提供されているサービスを購買する費用の一部を政府が補填する制度などもあり、現物給付と現金給付の線引きは難しくなってきている。たとえば、保育所の保育料は所得によって段階的に決められている。保育サービスは現物給付であるが、お財布への影響という意味では、保育料減免はその差額がだけ現金給付をしたことと変わらない。


    □pp. 168-169
      発達障害・知的障害への対策強化
     前述したとおり、本章で掲げる政策の多くは、筆者がかかわった内閣官房社会的包摂推進室の調査からヒントを得たものである。本調査は、一八歳から三九歳の比較的若い年齢で、薬物依存、ホームレス、若年妊娠、自殺など極度の社会的排除の状況に追い込まれてしまった人々の子ども期からの生活史を丁寧に調べたものである。彼/彼女らの圧倒的多数が子ども期を貧困の中で過ごしており、金銭的困窮以外にも複数のリスクを抱えていた。
     なかでも多く見られたのが、発達障害・知的障害をもつ人たちである。発達障害や知的障害は、重度であれば、保健所や学校の健診で発見され、何らかの支援が提供される。しかし、先の調査であげられたケースの人たちは、みんな、比較的軽度の障害であり、発見されずに成人となっていた。彼/彼女らは就学前や小学生といった小さい時から疎外されており、学校や職場などの周囲からの無理解によって適応問題が生じ、結果として貧困、そして社会的排除の状況に追い込まれている。もし、障害が幼少期に発見されていれば、本人にあった教育や接し方を周囲が行うことができ、彼/彼女らは異なる人生を歩んでいたかもしれない。
     貧困世帯においては、子どもに発達障害・知的障害があっても放置されてしまう可能性が高い。だからこそ、子どもの貧困対策において、発達障害・知的障害に対する政策は欠かせないものなのである。
     具体的には、早期発見、親への働きかけ、適切なプログラムと実施機関の普及が必要であろう。早期発見については、近年、知識の浸透、乳幼児健診などの実施によって、改善されているものの、軽度もしくは疑いがある場合は、未発見・未支援のまま進学してしまうこともある。子どもが大きくなるにつれて、発見の「場」「目」が少なくなるため、小学校までに発見することを徹底する必要がある。
     なお、障害が「発見」されても、親が支援を受容するかどうかは課題として残る。「福祉制度」は親にとって敷居が高いので、「教育制度」からアプローチする必要があろう。教育問題としてアプローチしたほうが、親は支援を受けやすいかもしれない。そして、これはいうまでもないが、発達障害の理解が深まり、診断される子どもも多くなってきた今、障害を抱える子どもへの教え方の開発とその普及、これらに従事する人員の増加が不可欠であろう。

  • 前著に続き子どもの貧困について論じた。本書は、子どもの貧困に関する政策について論じている。現金給付と現物給付のどちらが良いのかなどの議論を行った上で、各種政策の個別論を浅く広く述べている。

  • 子どもの貧困をデータで示した一冊目から一歩踏み出して、具体的な対応策を模索している。難しい問題だけど読みやすい。

  • 前著から5年、的確に問題点は提示されたし、子どもの貧困に対し、社会の視線は着実に向けられた。
    それなのに適切な対応策が十分に取られていないことに、問題の広範さを読み取れます。

  • 前作は子どもの貧困の現状がデータで語られることが中心だったが、今作は子どもの貧困の原因とその解決策を探ることが中心。
    結論として、原因が複合的なので、解決策も多岐に渡り、それら全てを対策するのは時間と人手と、何より予算上難しい。だからこそ、優先度を見極めてやっていかなければならない。
    対策として、政策なのか、対象者の選定方法なのか、現金給与・現物給付なのか、教育なのか就労支援なのか。それぞれにメリットもあれば、不透明な要素もある。またたとえば就労支援といっても色々な方法がある。

    子どもの貧困は、就労の困難さにつながるので、国の税収としてロストが大きく、貧困対策は税収増加に対してコストパフォーマンスが大きいというのが、データとしても実証されており、対策していくことの有効性を語る上でとても分かりやすい。

  • 前作「子どもの貧困―日本の不平等を考える―」に続いて読了。

    社会問題を扱う新書で続き物、というのはあまり多くないですよね。
    問題の所在や構造を明らかにするだけでも新書としては十分な効果だと思いますが、
    著者の阿部さんは解決策についても道筋を示したいという強い思いで、
    ほとんど全編を解決策の考察に費やすこの続編をまとめたそうです。

    1、子どもの貧困の現状
    前作で示した日本における「子どもの貧困」の現状を簡単におさらいしつつ、「貧困を放置することがどれほどの社会的な損失うになるか」という視点で議論を進める。

    その中で特に印象の強い知見。
     ・子ども期における貧困は様々な悪影響を及ぼす
     ・学力面や健康面で、貧困層とそうでない子には統計的に有意な差がある
     ・特に深刻なのは、貧困による家庭内のストレスが身体的・心理的に影響を与えること
     ・そうした影響は大人になっても継続してしまい、貧困の連鎖につながっていく

    こうして発生した貧困に対して、社会は多くの負担をしている。
    つまり、貧困層にいる人たちからの課税収入が少なく、税金も社会保険料も支払えず、場合によっては生活保護を受給する場合もある。また、健康面でのリスクも高く、国や自治体の医療費負担も大きくなる。

    貧困という社会問題に子ども期のうちに手を打つというのは、こうした将来的な社会負担を軽減し、むしろ対象が経済的に自立し税金や社会保険料を支払うことができるようにする、ということである。
    すなわち、「貧困対策は社会的にペイする」のであり、貧困に手を打たないことは「社会的なコストを放置する」ということである。

    これは社会政策論としては、基本的な視点ですが、
    この「社会的コスト」という考え方が理解を得られない場面は非常に多い。

    たぶんそれは「社会的にペイする」ことを明らかに示すのが、難しいから、というか批判しやすい点を含むということが関係しているのでしょう。本書で扱う「子どもの貧困」もそうですが、多くの社会問題は、その問題の構造を完全に解き明かすことがまず難しい。難しいというか社会的な様々な事情が複雑に絡んでおり、厳密には不可能に近い。また、それに加えてペイするまでに時間がかかり、解決策の効果検証が非常に難しいという問題もある。

    問題に関心を持つ人からしてみれば、厳密には分からないにしろ効果が出る可能性があるのであればやってみるべし、ということになるが、
    実際には非常に財政的にも厳しい状態での利益対立に追いやられるとなかなか立場を強く保つことは難しい。

    まぁだからこそ、本書のように海外の事例も含め、使えるデータを集め、
    施策を丁寧に検討する研究者の取り組みには非常に貴重です。


    2、要因は何か
    おそらく本書の中で最も衝撃的な章。

    ここで取り組むのは「なぜ、貧困であることが子どもに悪影響を与えるのか、なぜ「貧困の連鎖」が起こるのか」を考えること。

    これを考えるにあたって、様々な「連鎖の経路」が提示されるのですが、そのあまりの数に茫然とします。
    内容までは紹介できないですが、その数の多さだけでも紹介できればと思うので、経路の切り口だけ取り上げてみよう。
     (1)金銭的経路
      ・教育投資
      ・家計の逼迫
      ・資産
     (2)家庭環境を介した経路
      ・親のストレス
      ・親の病気(精神疾患を含む)
      ・親との時間
      ・文化資本説
      ・育児スキル/しつけスタイル
      ・親の孤立
     (3)遺伝子を介した経路
      ・認知能力は遺伝するのか
      ・その他の遺伝的経路(身体的特徴・性格・発達障害)
     (4)職業を介した経路
      ・職業の伝承
     (5)健康を介した経路
      ・健康
      ・発達障害/知的障害
     (6)意識を介した経路
      ・意欲/自尊心/自己肯定感
      ・福祉文化説
     (7)その他の経路
      ・地域/近隣/学校環境
      ・ロールモデルの欠如
      ・早い離家/帰る家の欠如

    なかには大した効果はなかったり、むしろ偏見の温床になっているようなものあって、この中からどの経路が重要なのかを描き出していくところが本筋なんですが、いやもうこの経路の多さとそこから想像されるストーリーを考えているだけで気が滅入ってくる。なんて世知辛い世の中なんでしょう。

    自分の子どもに対してここをこうしてあげよう、それが子どものためになる、と自分が考えるものもいくつもあるんじゃないかと思う。そうしたものが貧困の解消という意味で子どものためになるものなのか、考えてみるのも良いかもしれないですね。

    また、僕がプロボノとして関わっているのも児童支援のNPOであり、学習支援活動なんかに携わったりもしているんですが、大きな社会問題の改善に向けた力の一つになっているんだなと感じる一方で、氷山の一角すぎるというか問題の複雑さや大きさに無力感を感じたりもして、複雑な気分になります。


    3、政策を選択する&4、対象者を選定する
    3章と4章はセットです。本書のむしろ2章までは前提で、ここからが「解決策を考える」本書の中心的な部分なんですが、思い切ってレビューからははずします笑
    あまり細かく紹介ししすぎてもただの要約になっちゃいますしね。
    ところで、レビューってなんですけね。何をどう書いたらレビュー何だかよく分からずにレビューブログしてます。今度調べてみましょうか。

    さて、一口に政策を選ぶと言ってもその選び方はいろいろです。
    ただ一つこれでばっちり、みたいな政策も、その選び方も存在しないからこそ、私たちが目にする政治はわかりにくく取っ付きにくいのです。

    著者の阿部さんが用いる視点は「政策の効率性」です。
    つまり、どれぐらいの資源の投入に対して、どれくらいの効果が期待できるかという観点。
    この観点は、現実的にも非常に有効で賛同できる部分です。

    対象者の選定については、まず基本的な選別主義と普遍主義の対立の議論から入り、ターゲティングの考え方などを丁寧に紹介します。

    この3、4章の議論の流れは、政治学を学ぶ学生は参考にしたら良いと思うよ。
    非常に丁寧ですっきり頭に入るけど、これを自分で整理してまとめるのは非常に大変です。
    この丁寧な論述に論文執筆の苦しさを思い出す。

    5、現金給付を考える/6、現物(サービス)給付を考える
    5章と6章もセットです。3、4章で紹介した政策オプション選定の考え方をもとに、実際に日本で採るべき具体的な施策について検討していく章となります。

    まず語られるのは「現金給付の大切さと確かな効果」
    日本において現金給付というのは非常に嫌われやすい。生活保護バッシングもまだ根強く残っていたり、いわゆるバラマキであったりととかく現金を給付するということに対しての嫌悪感が強い。
    だが、現金給付は様々な調査で確かに効果が出ているのであり、不必要なバッシングや偏見を取り除いていきたい、という筆者の真摯な姿勢が伺える丁寧な記述でその特徴が説明されます。

    また現物給付については、その選定や効果検証が現金給付よりさらに難しいことに触れつつ、筆者が有望だとするいくつかの政策を紹介しています。

    以下は自分のNPOでの取り組みとも関連して個人的に注目したもの

     ・放課後プログラム…現状の学童保育などはあくまで保育サービスとして設計されており、放課後格差による弊害のうち、「事故や犯罪に巻き込まれる危険」にしか対応できていない。特に学力の低下、体力の低下、音楽等の学校で育まれないスキルの未発達などの問題には対応出来ていない点の考慮が必要。

    ・メンタープログラム…アメリカのビッグブラザー・ビッグシスタープログラムを始め多くのモデル事業で効果があるとされている。注意点としては、長期間の関わりが必要であること。

    ・学習支援…さまざまな取組が存在し効果も報告されているが、効果測定はほとんどなされていない。

    7、教育と就労
    本書で議論の薄かった部分への補足という位置付けですかね。
    本書では子どもの貧困対策として、特に子どもが小さいうちに重点的に支援することを(財政的な問題も踏まえ)打ち出しますが、貧困の連鎖を断ち切るためには当然、教育のルートにしっかりと乗り、就労まで引き継いでいくことが重要ですので、その点で本書の議論を補完するような内容です。

    教育という問題については、ほとんど全員が自分の経験に照らして考えることができ、関心を集めやすく、議論を呼びやすい分野です。
    学校や教育に関わる問題をいくつか挙げてくれと言われれば、たいていの人は苦労せずに何個かは挙げることができるんじゃないかと思います。
    そんな教育という問題について、貧困対策という一つの視点から切り取ってみるとどのように見えるのか。
    こういう風に社会課題を切り取って考えてみるはいろいろ応用が聞くので良い視点になると思います。


    以上。

    日本における貧困問題の現実やその問題点を描き出した前作も非常に貴重な作品でしたが、この続編もすばらしかった。
    ある社会問題に対する施策を検討し、決定、実施するということは実際に考えてみるとものすごく難しい問題であることがよく分かります。前作の問題の捉え方と合わせて、政策論あたりに興味のある政治学を学ぶ学生は手にしてみると良いのではないかと思います。

    子どもの貧困に少しでも興味を持たれた方は、手にとってください。
    その際はぜひ一作目と合わせて読むことをオススメします。

  • 様々なデータを元に子どもの貧困の状況と、それに対する諸施策が述べられており、分かり易い。

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著者プロフィール

首都大学東京教授

「2017年 『20年後、子どもたちの貧困問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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