日本の年金 (岩波新書)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004315018

感想・レビュー・書評

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  • 日本の年金

    社会保障制度の中で年金の理解度が低いと感じたので、本書を手に取った。本書では年金制度の過去から現在までの経緯や他国の制度との比較など、日本の年金制度を多面的に解説しており、非常にわかりやすいと感じた。また、個人的に年金制度の理解度が低かったのは日本の年金が年金「保険」と呼ばれていたことに起因していることもよく分かった。保険会社出身の私としては、保険は応リスク負担の保険料の拠出により、トリガー要件に合致すれば、予め設定した保険金を受け取ることができる仕組みという理解であり、保険の原義としてはこちらが正しいだろう。しかし、日本の年金制度において年金保険と言う場合、そもそも応能負担と言う形で保険料はリスク量ではなく所得に応じて設定されており、年金に関しても予め約定したものではなく、年金の受給時期の財政状況によって検証された金額であるなど、いわゆる保険の原義からすれば別物であったことが明確に理解でき、年金制度への理解が深まった。
    また、日本が採用している賦課方式の意義として、実際に年金を受給する際の物価や賃金の水準に合わせるために、定額ではなく、所得代替率と言う形で表していることもさらに理解できた。実際、老後2000万問題と言われているが、単なる貯蓄の場合、老後になって物価上昇した時点では、日本円の価値も異なる。いわゆる現在価値という金融の初歩的な概念だが、自助で老後資金をためるためには、少なくとも物価上昇と同レベルの資産運用が必要であるとも感じた。複利計算によって資産運用も年月を重ねれば大きな変化になる。少なくとも流動性の限界の範囲内で、老後資金をためるうえでは運用を強化しなければならないとも感じたし、その点、日本の年金制度は少なくとも今は所得代替率を指標としているため、よくできた仕組みであると感じた。マクロ経済スライドにより、年金制度自体はなくなることはないが、年金額は大きく少なくなると予想される分、やはり自助での老後資金の確保と、老後になったときのインフレに対応できるような資産運用の必要性を改めて感じた。また、年金の障害給付の要件に関しても海外では就業不能をトリガーにしている国もあるという記述があり、日本もこうした形で変化させた方が良いと感じた。実際に障害給付が必要となるのは就業不能状態に陥った場合であり、日本の障害給付の1~3級の認定の場合、少しずれが生じるようにも感じた。
    なお、被用者には厚生年金という2階建ての年金制度があることは、自営業のように持ち家や土地などの資産が少ないことに起因しているという記述があったが、被用者が急増している日本では、改めて資産を持ち、資産を運用しているいわゆる資産家と、資産を持たず被用者として生活している労働者という構図の格差は拡大しているのではないかと感じた。昨今では、ほとんどのモノがサービス化している傾向があるが、少なくとも家などという生活の基盤になるものに関しては資産として持つことがベターであると改めて感じた。年金制度の前提にあるフローとストックの考えが明確に理解できたとともに、以前、広井先生の本に記載があったストックの社会保障の強化と言う観点も改めて重要であると感じた。
    また、1980年代ごろから非正規雇用が拡大していき、厚生年金に入っていない人やジョブホッパー的な人で国民年金の受給要件を満たしていない人など、いわゆる下流老人と呼ばれる層は潜在的に存在しているという事実にはかなり危機感を持った。今後も厚生年金の被用者拡大等、年金にとっての延命措置を積極的に続けなければならないと感じた。

  • きっぱり、すっきり、アジテーションのない、まんまのタイトルで勝負するだけあって、大変に分かりやすく、読み応えのある内容だった。あまりに複雑な年金制度の成り立ち、国内並びに海外の現況と課題、向かうべき姿に関してはその選択肢をしっかりと示している。少子高齢化は問題というより既に抑えられぬ現実と受け止めた上で、非正規労働者への厚生年金適用や自営業者等の所得捕捉が制度維持に欠かせぬという基本を理論的に学んだ。莫大なコストを必要とするマイナンバー制度への疑問も、いくぶん晴らすことができた。

  • 本書は現在の日本の年金について、現状・問題点・改善点などについてまとめられた本である。本書をじっくりと読むことで、年金について確たる理解が出来る内容となっている。

著者プロフィール

慶應義塾大学経済学部教授、同大学経済研究所ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター長。日本金融ジェロントロジー協会学術顧問。
1964年生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。国立社会保障・人口問題研究所、東洋大学教授などを経て2005年より慶應義塾大学経済学部教授。厚生労働省顧問、社会保障審議会委員、社会保障制度改革国民会議委員、金融庁金融審議会市場ワーキング・グループ委員、介護経営学会理事、全国社会福祉協議会理事などを歴任。

「2023年 『エッセンシャル金融ジェロントロジー 第2版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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