グローバル経済史入門 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004315124

作品紹介・あらすじ

地域や国によってなぜ所得や生活水準に大きな格差があるのか?また、国際的な通貨問題や金融危機にはどのような背景があるのか?これら従来の国民経済の枠組みでは捉えきれないグローバルな問題が形成されてきた14世紀半ばから現代までの歴史的な過程を、グローバルヒストリーという視角から描きだす。画期的入門書。

感想・レビュー・書評

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  • まさに著書のタイトルになるように、グローバル経済史の著書であった。

    かなり昔の時代から現在に至るまでの各地域の反映の移り変わりが記載されている。

    アジアが始めは、隆盛だったが、そこからヨーロッパ、アメリカに移り、また今現在アジアに戻ってきているとの事だった

    こういったことをまとめてある著書は資料として大切である。

  • 慶應大学経済学部教授による、14世紀以降の世界の経済史についてまとめたとの。歴史的な地域のつながりを詳しく調べ上げており面白い。経済については、昔から欧州中心で繁栄がもたらされていたように感じていたが、産業革命後の一時的な期間を除き、いつの時代でもアジア中心であったことがよくわかった。
    「大航海時代は、ヨーロッパ社会にダイナミズムをあたえ、長期的にはヨーロッパの変容をうながす大きな転機となったが、18世紀末まではアジアのヨーロッパに対する経済的優位はゆらぐことはなかった」p17
    「香辛料をはじめとするアジア産品に対するヨーロッパ諸国の需要が非常に大きかったのとは対照的に、アジア域内ではすでに自己完結的で自立した経済圏が成立しており、アジア地域はヨーロッパ諸国と交易する必要も、また域内交易の境界を越えて財貨を入手する必要もなかったのである」p20
    「16世紀から18世紀のヨーロッパは、宗教、戦争、経済の3つのキーワードで特徴つけられる」p23
    「ヨーロッパにおける市場や契約など商取引に関するルールの規範化は商法として体系化され、ローマ法に起源をもつ成文による大陸法と、判例にもとづくイギリス法にわけられるが、ともに最終的には公権力の裁定にゆだねられる。この市場は、不特定多数の商人が自由に参入できるので競争的にはなるが、不正な参加者は法によって公的に排除され、市場秩序は維持される。それとは対照的に、アジアの場合には、基本的に公権力が民間の経済活動に介入することはなく、市場秩序は地域におうじて伝統的に形成されたルールによって保証される。訴訟は地域内あるいは当事者間で解決される調停の性格が強く、ルールに反する商人は信用を失ってコミュニティーから淘汰されるが、コミュニティーは有力者による談合の場となる傾向も強く、不正の温床となりやすい」p24
    「オランダ東インド会社は、永続企業の形態をとり、株式の譲渡もできたので、まさに世界最初の株式会社であった」p29
    「17世紀はオランダの黄金時代であった。オランダは、インドにマスリパタムやプリカットに商館を設け、1609年にはジャワ島にバタビアを建設し、ここをアジアの拠点とした。モルッカ諸島では香辛料の栽培も行ったが、海運力をもつオランダが目指したのは、政治支配よりも、むしろ東南アジア地域の制海権の掌握による商業権益の確保であった」p29
    「日本は石見大森銀山にみられるように、16世紀以降世界有数の銀産出国で、17世紀前半期には世界の銀生産量の約1/3を産出していた」p32
    「奴隷貿易の最盛期の18世紀には550万人の奴隷が輸出され、1820年までに1000万人に達した。18世紀末にはアフリカからの輸出額の90%は奴隷輸出がしめたが、輸送中の奴隷の死亡率はたかく、12%にのぼったという」p39
    「明への朝貢回数は、琉球が171回でもっとも多く、ついで安南(ベトナム)が89回、朝鮮が30回といわれている。日本の明への朝貢回数は19回にすぎない」p45
    「1609年に薩摩藩は琉球を武力で服従させて実質的に政権を掌握し、琉球は薩摩藩を通じて幕藩体制に組み込まれた。しかし、徳川幕府は、中国と正式の外交関係を確立できなかったので、琉球の中国への朝貢を承認する一方、日本にも服従させる両属体制をみとめ、琉球を通じて中国との間接的関係を維持しようとした。こうして日本は、対馬の宋氏を介した朝鮮交易と薩摩藩による琉球交易を通して、東アジアの朝貢システムに関与することになったのである」p56
    「産業革命はヨーロッパのアジアへのキャッチアップとしておきたもので、それにつづくヨーロッパの経済成長はアジア優位の世界をヨーロッパ優位に逆転させ、市場経済メカニズムの自立化と農業社会から産業社会への移行を促進し、産業組織や人々の社会生活に画期的な変化をもたらした」p89
    「(19世紀)国際通貨としてのポンドの信用は絶大なもので、貿易はポンドで決済され、ロンドン宛手形は世界的に流通した。またイギリスは世界の船舶総トン数の約35%を保有し、海運による世界的規模での輸送ネットワークが形成され、ロイドなど海上保険のほとんどはロンドン保険市場でひきうけられた」p102
    「日露戦争後の日本には「一等国」を維持できるだけの十分な経済力もなく、国家財政の破綻は現実の問題になりつつあった。こうして国際収支の危機に直面していた日本にとって、第一次世界大戦の勃発はまさに「大正新時代ノ天佑」であった」p139
    「主要国における世界恐慌からの回復が、結果的に軍需関連産業の発展による経済の軍事化によってしか達成されなかったことは、第一次世界大戦と世界恐慌のもつ重要性を想起させるに十分である」p182

  • 慶応の学部生向け経済史入門のテキストをベースに書かれたものなので、内容的には平易(少し退屈な部分も)。著者は、経済のグローバル化をヒト・モノ・カネの国境を越えた移動を可能にした市場システムとそれを支える国際レジームが必要であるとする。しかし、究極的にグローバルな課題を解決するには、国民国家を超えた世界政府と世界共通通貨が必要ではないだろうか、というあたりの話はちょっと非現実的な夢物語になっているのではないだろうか、と思う。経済的自由主義とグローバリゼーションの親和性は高いとは思うが、ナショナリズムが必ずしも経済的自由主義の実現を阻むように作用するかと言われればそうでないケースも多いだろう。また金本位制のようなシステムが一時期、グローバル経済の必須要件と考えられていたのは事実だとしても、それのみが国際経済秩序を担保するものではなく、それゆえ、たとえばダーティーフロートだからといってすぐさま「カジノ資本主義」的な帰結に至るとは限らないのではないだろうか。

  • 内容は題名通りグローバル経済史を概観するということでした。また個人的には勉強になる記述が多数あって参考にはなったのですが、「入門」かと言われるとそこは疑問が大きかったです。あまり深く考えずに読めばさーっと読み進めるのかもしれませんが、私はイベントの前後関係などを考えながら読みたかったので、そういう読者からすると極めて難解な書物でした。たとえばこういう戦争があってある条約が結ばれた、という記述の時に、「〜〜条約が何年に締結された」とだけしか書かれていないケースも多く、私としては条約の名称などはどうでもよくて、むしろその条約の中身は要約するとなんなのか、その後の情勢にどんな影響を与えたのか、ということが知りたかったです。浅く広く書けば「入門書」になるというのはこと歴史に関しては、私は誤りだと思っています。高校の世界史の教科書などが退屈だったことを思い出せば分かるように、事実の羅列を淡々と述べている場合にはイベントの前後関係なども不明瞭になりますよね。そのため私は一冊読み終わるのにかなり時間を要しました。個別のトピックで興味深い点は何箇所もあって勉強にはなったのですが、全体的にかなり苦労しながら読み進めたので、「初心者」の方はそのつもりで購入された方が良いかもしれません。

  • 大航海時代から現代までのグローバルな経済の動きをわかりやすく解説している。

  • 慶應経済の講義がベースとなっており、16世紀から現代までをアジア中心の観点から再解釈。新書らしくコンパクトによく整理されて全体的な流れが掴みやすくなっていながら、程よく詳しい説明もありそれなりの読み応えもある。この質量レベルなら大学の教科書としても使われるだろうし、入門書としては最適だろう。
    本書によると19世紀までは世界経済の中心はアジアであり、それが産業革命により19~20世紀には欧米中心になったが、21世紀以降は再度アジアが中心になっているという。経済史のみならず政治史的な記述も結構あって近現代における政治と経済の密接な関連性もわかる内容になっている。
    印象的なのはエピローグの「リベラリズムとナショナリズムの相剋(国境を超える経済と国境を越えられない政治)」について述べられた部分だが、著者はやはり経済学者だからなのかややグローバリズム志向で楽観的な印象を受ける。一旦は冷戦終結にはなったものの、昨今の中露の動向により民主主義的政治と自由主義的経済が必ずしも「普遍的」ではなくなっている点をどのように考えていくべきかが今後の課題であるように思えた。

  • アジア経済の特徴として、垂直的(または水平的)な国際分業によって発展してきた、ということは開発経済学、アジア経済論等の科目で知っていた。しかし、それが第二次大戦後に独立国となってからではなく、宗主国また同植民地地域に対する原料供給としての一次産品の輸出特化という植民地化される以前から存在していた、ということを知り驚く。
    現在のアジア経済は、歴史的なネットワークの上に存在していたのだった。

  • 経済史の平易な文献。西洋に偏らずに、地球規模全体から考えている。アジアから始まり、イギリスを中心としたヨーロッパ、その後アメリカを中心とする冷戦期、さらに南北問題、資源格差問題等が要領よくコンパクトにまとまっている。最後に、ナショナリズムにも触れ、やはり、経済は政治と切り離して、特に政策という点で、語ることができないことを再認識した。

  •  「14世紀以降、『大航海時代』をへて現代にいたるまでの約700年にわたる世界の歴史を、アジアを中心とする歴史的文脈のなかで考察」(p.12)することを目指した経済通史。「西欧中心主義」ではないマルチセンタードな世界経済史叙述を目指したと思われるが、少なくとも19世紀以降については従来の(西欧中心の)帝国主義史とアジア各国別経済史の安易な接合の感がなきにしもあらず、改めて「主語」=中心のない歴史叙述の困難さ、というより不可能性を露呈している。「アジア」といってもインド、中国、東南アジア諸国、日本だけで、韓国・朝鮮や中東諸国や中央アジア諸国は無視されているのも気になる。

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著者プロフィール

慶應義塾大学名誉教授
1972年早稲田大学政治経済学部卒業, 81年ロンドン大学大学院博士課程修了(Ph.D.),同年ロンドン大学政治経済学院(LSE)専任研究員,84年慶應義塾大学経済学部助教授,91年より同教授,2014年名誉教授。
著書に,『グローバル経済史入門』(岩波新書,2014年),『日本経済史 近世-現代』(岩波書店,2012年),『明治維新とイギリス商人』(岩波新書,1993年),Japan's Industrialization in the World Economy, 1859~1899 (Athlone Press, 1988),編著書に『馬場辰猪 日記と遺稿』(慶應義塾大学出版会,2015年),『日本石炭産業の衰退』(慶應義塾大学出版会,2012年),『岩波講座「帝国」日本の学知』第2巻(岩波書店,2006年),『日英交流史』第4巻(経済)(東京大学出版会,2001年),『近代アジアの流通ネットワーク』(創文社,1999年)などがある。

「2017年 『日英経済関係史研究 1860~1940』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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